第172話 説明パート其の四

「ええ、次に一応動力について説明をします。兵士級と騎士級は、こちらの中サイズの魔石が動力源となります。次に重騎士級の動力は、こちらの大サイズの魔石が動力源となります。そして聖騎士級ですが、こちらの特大サイズの魔石が動力源となります」


そう説明をしながら比較用に魔石(小)から順に地面に置いていく。魔石(小)は少し大きな石ころサイズ。握り込める程度の大きさだ。次いで魔石(中)、握り拳程度の大きさになる。そして次が魔石(大)。このサイズになると一抱え程の大きさになる。某国民的ゲームのオープニングでくるくる回っているクリスタルの様な造形で、幅で20cm程、高さで50cm程になる。


中サイズの魔石位までは3人共まだ意識は魔導アーマーに集中していて、誰もこちらを見ようともしなかった。だが、大サイズがと言ったあたりで、ようやく気が付いたのか殆ど同時に振り返って、俺が取り出して置いた魔石に目を向ける。


彼らの認識で大サイズと思っていた魔石も、卓也に取っては中サイズに過ぎない。なら、彼が言う大サイズとは如何なる物か?


それを見た瞬間の3人の表情は実に見ものだった。目が飛び出さんばかりの勢いで凝視するのだ。実際に見た事は無いが、さながら鳩が豆鉄砲を食らった様な顔と言う感じか。

その表情に思わず吹き出しそうになりながらも、堪えて説明を続けながらその隣に魔石(特大)を取り出して設置する。


魔石(特大)ともなると、持ち運ぶのは簡単では無い。魔石(大)は不規則に乱雑なカットがされていて、それはそれで光を乱反射して美しい輝きを放つのだが、魔石(特大)は、高さが優に1m弱。縦長の卵型で何面体かは解らないが表面は規則的にカットされた結晶体の姿をしている。重さは、人一人ではでは容易には持ち上げられない程の重さがある。


サイズもさる事ながらそのカットも見事な物で、これに関しては俺でも初めて実物を見た時は感動をした。これだけの大きさながら、表面には傷が見当たらず、半透明な結晶には曇りが無い。宝石の品質は、傷の有無と透明度、そしてカットで評価をされるそうだが、果たしてこの結晶ならどれ程の評価になるだろうか。単純に宝石として見ても、これ程の物は存在しない筈だ。


「大サイズの魔石は主にドレイクから、特大サイズの魔石は主にドラゴンから採取します。その為、流石に大量に用意出来るものでは無いので、アマテラスの正騎士には大サイズの魔石を使用した重騎士級を。准騎士には中サイズの魔石を使用した騎士級を支給しています」


「それでは、まるでドレイクもドラゴンも討伐をされている様に聞こえますが。しかも配下の騎士に配備できる数ともなると、かなりの数を。さすがに聞き間違いですよね?」


さすがはギルドを束ねるアルマンさん。俺の言葉の意味を、ほぼ正確に読み取ってくれる。


「その通りです。実は、ドレイクもドラゴンも、魔力の影響で一定期間毎に復活をするので、その度に討伐をして素材の採取を行っています。折角ですから、実際にドレイクの討伐を見学なさいますか?」


実はその事も想定している。ここはファイアドレイクが出現する火口付近に設置した拠点だ。アパッチで飛べば5分と掛からずに火口に辿り着く事が出来る。


「それは、本当であれば見て見たい気もしますが。大丈夫なのですか?」


「まぁ安全性と言う意味なら問題は有りませんよ。興味がお有りでしたら後ほどご案内しますので、まずは魔導アーマーの性能を確認頂きましょう。アルマンさんには最下級の兵士級に搭乗して頂ければと思います。


契約を行って特殊兵装枠に装備をすれば専用装備になるので、他者が勝手に使用する事は出来ない。だが、誰も装備をしていない状態なら乗り込む事は出来る。

流石に、戦車は装備をしないと操作方法は解らないが、魔導アーマーは搭乗口から乗り込んでしまえば、後は勝手に動いてくれるから一応は誰でも利用する事が可能だ。


簡単に搭乗の仕方を説明して、アルマンさんに乗り込んで貰う。

最初はどうしても慣れずに上手く動く事が出来ない。身体のバランスが異なるから違和感を覚えるのだそうだ。VRゲームを始めて体験した時も同じ様な感じになる事がある。アバターと実際の肉体に差異があると、どうしても違和感を感ぞてしまうのだ。その為、VR内で使用するアバターと実際の肉体には、余り乖離が無い事が推奨されている。


多様の差異でもずっと違和感を感じる人もいれば、全く違う体型、それこそ大人と子供でも殆ど違和感を感じない人もいて個人差が大きい。


この世界では、目安として冒険者としての等級が高い程、馴染むのは早い様に思える。単純な身体能力や適応能力の高さもあるが、スキルや魔術による補助で、普段とは異なる身体能力をコントロールする機会が多いからと予想している。


アルマンさんも10分程で、ある程度自由に動く事が出来る様になった。本来なら半日くらいは時間を掛けて馴染ませた方が良いのだが、今回は魔導アーマーのデモンストレーションなので、あえて余り慣れていない状態で、どれ程戦力に差が生じるのかを試して貰う事にする。


俺達と離れた場所で魔導アーマーに搭乗したアルマンさんと、相対するブリアンさん。アルマンさんもかなり鍛えていて冒険者なら6等級に相当する実力を持っている。だが、ブリアンさんの実力はオーギュストさんに匹敵する程との事。因みに剣の腕に限ればブリアンさんに軍配が上がるが、何でもありならフランシーヌの勝ちは揺るがないそうだ。


何にしてもアルマンさんとブリアンさんの両者の間には明確な実力差がある。だが、結果はと言えばアルマンさんの圧勝だった。


魔導アーマーに乗った時に、どの程度実力が向上するかは説明が難しい。ロボットアニメ等を見ていれば解るが、身体が大きくなればその動きは酷く鈍重に見えるからだ。


だが、実際には自分の身体を動かすのと同じ感覚で魔導アーマーを動かす事が出来る。これが何を意味するのか。


一例だが、身長2mの人間が体高5mの魔導アーマーに乗り込めば、スケール感は単純に2.5倍になる。

さて、唐突だがポピュラーな野球に例えて見る。野球でスローボールと言えば100㎞/h未満。素人から見ればそれでも格段に速いが、流石にプロから見れば随分と遅く見えるスピードだ。逆に速球なら時速160㎞を超える事もある。


では身長2mの人が投げた時速160㎞/hの速球が、魔導アーマーから見るとどれ程のスピードで見えるのかと言えば、体高5mの魔導アーマーから見れば、2.5分の1。体感で時速64㎞/h程度でしかない。大きさも2.5分の1だから、ピンポン玉位の大きさか。流石に小さくて捉えにくいが、それでもその道のプロ、達人から見れば止まって見える速さだろう。


逆に、魔導アーマーに乗って体感時速100㎞/hで投げた時に、身長2mの人から見える速度は時速250㎞/hになる。もし投げたボールが時速160km/h相当なら、時速400㎞だ。とてもでは無いが人の目で見極めが出来るスピードでは無い。


大きさも同じサイズ比なので、ぱっと見はスピード感は変わらない様に思える。それこそ、バッターボックスからピッチャーマウンドまでの距離もサイズ比に合わせて距離を調え、投げるボールも同様に同じサイズ比で巨大な物を使用すれば、バッターボックスから見える速さは一見同じ様に見える。だが実際にそのボールを打とうとすれば、その差は歴然だった。


つまり剣を振る速度、体を動かす速度、その何もかもが体感速度が違って見えるのだ。だから、ブリアンがどれ程の達人で有ろうとも、アルマンが魔導アーマーに乗ってその動きを見れば、まるで児戯の様に見える。


ブリアンも、実際に相手にする迄は大きいだけでそれ程差があるとは思っていなかった。だが実際に剣を振って見ると解る。まるで剣先が届かないのだ。何時もなら虚を突いて死角に潜り込む様な動きも何故か簡単に見極められて、相手がすっと身を引くと1m位は距離を離される。


逆に相手が剣を振れば、見切って躱そうとしても、その剣筋を少し修正されるだけで簡単に届いてしまう。慌てて剣を合わせてその剣を受け流そうとするが、余りに重たくてその力を流すのもぎりぎりだった。全身に痺れが残る。とてもでは無いが、そう何度も受け流せるとは思えなかった。


ならばとスキルを使い、全身に魔力を漲らせて必殺の一撃を放つ。悲劇が起こったのは正にその時だった。


一気に距離を詰め、膝下を横薙ぎに切り裂こうとした剣を、アルマンの剣が遮る。幾らサイズが違うとは言え、こちらはオリハルコン製で相手は鋼鉄製だ。鋼鉄製の剣の刀身を半ば迄斬り割く。食い込んだ剣先を無理やりに引き抜こうとしたその時、パキンと乾いた音を立てて、聖剣が中ほどから真っ二つに折れたのだ。


一瞬何が起こったのか理解が出来なかったが、アルマンの持つ剣にめり込んだままの剣先と、手元にある折れた剣。それぞれを交互に3度程視線を巡らせて、ようやく何が起こったのかを理解すると、ブリアンの絶叫が響き渡った。

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