第171話 説明パート其の3
視察の内容は先程言った通りだ。食糧生産拠点に畑の収穫サイクル、及び作付出来る作物について。ゴーレム馬車の実物を見て貰い、最後に実際に魔導アーマーを試して貰った。
まずは正教会の近郊に建造中の穀倉地帯、食糧生産拠点を案内。人手の確保が完了していないので、まだ基本的な作りだけだ。それでも既に整地、区画割り、畑の設置までは完了をしている。
下手に俺が建造物を建てると、万が一破損をさせた時に敵対判定を受ける事がある。大量の人手を確保するのに、その全てと契約を行うのも大変な作業だ。その為、トウカと同じ様な資源供給も同時に行い、人力で建造出来る物は人力で行って貰う予定にしている。
まぁ迎撃装置は設置しないとしても、畑を自動化する為には最低限城壁で囲う必要があるから、ざっと5km四方を鋼鉄製の重厚な壁で覆っている。水源も確保済み。
簡単な説明を受けて転移した先にギルド本部の面々が見た光景は、一面手入れをされた畑だった。碁盤状に水路も引かれていて、清らかな水が流れている。転移門のすぐ側には、既に卓也に忠誠を誓った聖堂騎士が歩哨で立っていた。そして遠目には、明らかに土や石とは異なる金属質の光沢を放つ城壁がぐるりと囲んでいる。
転移門の側の畑には説明用に作物が何種類か植えられていて、卓也により説明が行われる。
「こちらが食糧生産拠点となります。1月以内には設備を揃えて本格的に稼働をさせる予定です。この畑は種を蒔いて5日で収穫を行う事が出来ます。こちらをご覧下さい。左から順に、本日種を蒔いた畑、順に2日目、3日目と並んで5日目でこの様に収穫が可能な状態になります。季節、種類は問いません。あちらに何種類か植えていますが、見て頂ければ解る様に様々な野菜や穀物が、旬の季節を問わずに一番食べ頃な状態で実っています」
どれだけ優秀な者でも、これだけの種類の作物を同時に実らせる事は不可能だ。ましてや今の季節は冬。正教会近郊なら大陸の中央より南に位置するので、流石に2月になろうかと言うこの時期に雪は降らないが。だからと言ってこれだけ色とりどりの作物が実る事はあり得ない。
呆然を見る事しか出来ないブリアン達の目の前で、卓也の合図を受けてフランシーヌが幾つかの作物を収穫すると、手早くカットして皿に盛り付ける。直ぐ側には最初から想定をしていたのか、試食をする為のテーブルと椅子が用意されていた。
促されるままに席について、出されたサラダに手を伸ばす。
「う、美味い。何だ、これは?」
カットしたトマトにスライスしたキュウリとニンジンにタマネギ。そして千切っただけのレタス。それらが更に盛り付けられて、軽く塩と胡椒が振られただけの代物だ。そのどれもが今までに味わった事のない芳醇な味わいをしていて、香りと甘さが口いっぱいに広がってくる。
「青臭さも、えぐみも全く感じない。それに、このトマトやニンジンの甘さはどう言う事だ? キュウリの瑞々しさも素晴らしいし、タマネギの辛みが絶妙なアクセントになっている。このレタスもそうだ。筋張った食感は全く無く、むしろ噛んだ時のこのサクッとした心地よい歯触り。こんな野菜は食べた事が無い!」
そう全力で食レポをしてくれるのは、今まで全く存在感が無かった筆頭職員の第二席、名前は何だっけか。頭の上に表示されているので確認をする。そうそう、ソニアさんだ。
皆がサラダを食べている間に、フランシーヌは同じ様に植えて実が生っている果実を収穫して用意をしてくれている。リンゴに梨にブドウ。
「サラダの次にこちらをお試しください。あちらに実っている果物です。こちらも一度実を付ければ、後は5日毎に収穫が可能になります」
サラダをあっと言う間に完食した皆が、出された果物に手を伸ばす。さすがに今度はソニアさんも言葉は出ない様だ。
一通り食べ終わって一息吐いたのか、アルマンさんが話を切り出す。
「大変美味しい野菜と果物でした。これを、定期的に収穫が可能と言う事ですね。しかし、これ程の作物を果たして振る舞っても良い物か」
「心配は解りますとも。私もアマテラスの食事を経験してからは、どうにも普段の食事が我慢ならない事が有りましてな。最近では無理を言って食材を融通して貰っている位です」
アルマンさんの疑問に返事したのはトリスタン陛下だ。その言葉に他の皆も頷く。
「まぁそこは我慢をして貰うしか無いですね。品質を落とす事は難しいので」
「普通なら品質を維持する事こそが至難なのですが。解りました。この穀倉地が一面実る日を楽しみに待っています」
続いて、ゴーレム馬車を紹介する。転移門を挟んで反対側に実物を置いているので、皆の目には入っている。簡単な説明の後に、実際に御者台に座って貰い馬車を動かして貰う。
何せ、手綱を引かない限りは馬車を牽くゴーレム馬は、まるで置物の様に身動ぎ1つしないのだ。事前にゴーレム馬車を提供すると聞いていたからこれがそうなのだろうと頭では解っていても、実際に乗ってみる迄は確信が持てない程だった。
ゴーレム馬車はクラフトで作成すると当然造形は決まっている。形は箱馬車で荷運びには適していないから、本来人が乗る箱の部分を適度に解体して、荷馬車に改装を施している。なので、見本として置いているゴーレム馬車は手を加えて居ない箱馬車と、荷馬車の2種類だ。
「乗って頂くと解る様に利点は幾つか有ります。まずゴーレム馬ですので、暴れる事が有りません。疲れを知らず1日中でも走り続ける事が出来ます。次に御者経験の無い素人でも、手綱を握れば誰にでも操作が可能です。転移門を潜れるサイズですので、ここからギルド本部迄の食糧の移送は転移門を利用しますが、各地の人員や物資の輸送にも活用が可能かと思います。あと、タイヤ部分の耐久性も非常に高いです。衝撃を吸収するので殆ど揺れも無いので、荷台に載せた荷物へのダメージも殆ど有りません」
特にコメントは無い。ブリアン、アルマン、ソニアの三人が三人共、何か思案している様子が窺える。きっと、利用方法を色々と考えているのだろう。
「さて時間も限りが有りますし、最後に魔導アーマーの実演を致しましょう。アルマンさんは剣も使えるんですよね?」
「嗜み程度では御座いますが、勿論で御座います」
「ブリアンさんは、アルマンさんの力量はご存じですよね。もしかしてアルマンさんの方が腕が立つと言う事は?」
「さすがにそれは無いな」
少しむすっとした表情でブリアンさんがそう答える。
「それは良かったです。ではアルマンさんに魔導アーマーに搭乗して頂き、ブリアンさんと腕試しをすると言うのは如何でしょう。そこでアルマンさんがブリアンさんを圧倒すれば、先程のオーギュストさんの言葉が真実であったとご理解を頂けるかと思います」
改めて皆を引率して場所を移す。今度は上級大陸にある拠点の1つだ。転移門を抜けると、少し広めに城壁で囲った拠点へと出る。そこには魔導アーマーを用意している。
「左から順に兵士級、騎士級、重騎士級、聖騎士級となっています。特徴は、等身の差がそのまま身体能力の差になる点です。兵士級と騎士級が体高5mで、凡そ2.5倍。重騎士級が体高6mで凡そ3倍、聖騎士級は体高8mで凡そ4倍になります。戦力差は単純な倍数にはなりません。尚、スキルも同じ様に使用が出来ますし、魔法使いであれば魔法もそのまま使用が可能です。スキルや魔法に関しては魔力操作が容易になる為、むしろ通常よりも数段上の威力を発揮する事も可能です」
一旦言葉を区切って反応を見る。だが、特に質問などは出てこない。皆真剣な表情で並んでいる魔導アーマーを見ている。
次いで動力となる魔石についての説明だ。
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