第170話 説明パートその2
「詳細については、改めて検討の場を設けさせて頂きますので、まずは最大でどの程度の供給が可能なのかをご理解頂きまして、判断を頂ければと思います。食糧の供給可能な数量は、記載されている数字は問題無いとご認識頂いて構いません」
畑の設置は簡単に出来る。種も十分に蓄えがある。なにせ、種1つから作物が実れば作物によっては数百の種が採取出来るからだ。しかも種の品質を問わないのだから何回か種蒔きから収穫までのサイクルを回せば十分な数を確保出来る。
トウカの畑では今でも作物の収穫に合わせて種の収穫も行っているので、規模を拡大しても問題は無い。
大規模な耕作地を作るのなら、当然の事ながら人手が必要になる。問題と言えば、その人手をどれだけ確保出来るか位のものだろう。今の所正教会の信徒を労働力として見込んでいる。正教会内部の掌握をジョエルさんが進めているが、そもそも教皇は正教会のトップだからそのハードルはそこ迄高くは無い。
まぁ最悪は普通に雇えば良い。資金ならどうにでもなる。なにせ金のインゴットがそれこそ腐る程あるからだ。勿論、正教会の信徒を労働力として動員する場合も、給金はちゃんと払う予定にしている。
「食糧の供給を時期限定で実施するのか、帝国との戦争終結後も継続して大陸全土へ供給するのかは、また別の問題かと存じます。さて、次に輸送面ですが、転移門は先程お試し頂いた通りです。制約としてはサイズが固定な事位で、距離、設置できる数に制限は有りません。卓也様が現地へ赴いて施設する必要があるので、物理的な工数が制約になる程度でしょうか。その為、なるべく早い時期に国主会議の開催を行って頂き、調整の上で設置場所を決めたいと考えています。問題点としては、まず利用自体に制限が無く、対策を講じなければ誰にでも利用が可能な事。転移門に歩哨を立てる、厳しく制限を行う場合には壁でぐるりと囲ってしまい、転移門の利用そのものへ制限をかける等の対策が必要になります。転移先はタクヤ様のみ指定を行う事が出来、一方通行です。お互いの転移門の行き先を相互に設定すれば往復は可能ですが、別々の行き先を指定する事も可能です」
皆には転移門の仕様と問題点等を明記した資料も配布している。
「ぱっと見でっかい魔石がはまっていたが、あれを幾らでも用意出来るって事か?」
ブリアンの疑問を受け、皆の視線が俺に集まる。それに黙って首肯した。
転移門には魔石(小)と魔石(中)が必要になる。これは最上級エリアの通常種の魔物を解体すれば結構な頻度で採取できるので、数はそれ程問題にはならない。
設置も手間だが、むしろ何処に設置をするのか、どういうルールで運用をするのか、そちらを決める方が余程工数が掛かりそうだ。
「まぁさすがに転移門を1000ヶ所に設置するとなれば大変でしょうが、出来無い訳では無いですし、魔石の数も大した問題にはなりませんよ」
魔石(小)はそこそこの数量を求められるが、最上級エリアなら1匹から2〜3個は採取できるのだから問題にはならない。今のストック分でも、転移門1000個なら実は問題が無い。だがさすがに1000ヶ所ともなれば設置作業は非常に面倒だから、設置箇所は是非吟味して絞って欲しい。その為、多少は割り引いて説明をする。
だが卓也は魔物から採取出来るので余りピンと来なかったが、大陸において魔石は非常に貴重な資源だ。この大陸で魔石が普通の魔物から採取出来た例は無い。ダンジョンに出現する魔物からのみ、採取が出来る。しかも確率はそれ程高くは無い。
しかも小サイズの魔石ならまだしも、中サイズの魔石ともなれば大型種を上回る程の強さを持つ魔物からしか採取する事が出来ないから、一気にハードルが上がる。その為、卓也にとっての中サイズは大陸の人々にとっては大サイズと認識をされていた。
その魔石を、それこそ湯水の様に使用するのだから、とんでもない話だ。食糧以上に魔石の話はブリアンを呆れさせるには十分だった。
「はは、とんでもない話だな。でもまぁ、それが出来るって言うのなら悪い話じゃないな。取れる選択肢は多いに越した事は無い」
「ええ、その通りです。どの様に活用するかは、我々の力の見せ所ですから、ギルドの協力に期待をしております。さて、最後に不足する防衛戦力についてです。アマテラスは、原則として対帝国戦線においては中立の立場を表明します。その代わりでは無いですが、アマテラスからは各地へ戦力を派遣する用意が有ります」
「それは、どれだけ当てになる?」
「後で実際にお試し頂きますが、相手が超大型種でも問題は有りません」
魔石の話が出た時点で、その途方も無さに驚きを通りこしてすっかり呆れていたブリアンだが、ここに来てアマテラスから供給される戦力が超大型種に対処出来ると聞くと、ちょっと雰囲気が変わる。なにせ、魔物を狩るのはギルドの領分だ。超大型種の対処はそんなに簡単な事では無い。本来なら、実質最高等級の8等級でなければ対処出来ないのが超大型種なのだ。
現在ギルドにおいて現役で8等級に至った冒険者は、大陸全土でも100人に満たない。しかも、その全てが単独で超大型種を圧倒出来る訳では無いのだ。
シャトー王国において8等級は、王都に住まう賢者しか居ない。大規模魔術の使い手で魔物討伐において多大な功績が有り8等級を認可されているが、単独で圧倒出来るかと言えば疑問だ。
それに8等級と言っても明確では無いが序列が有る。なにせ認可は国王の承認が有れば良いので、早い話が箔付けで国内の最高戦力に8等級が与えられる事もあるのだ。実力が伴えば不問に付されるが、中には8等級と呼べるか疑問符の浮かぶ様な冒険者も含まれている。
8等級冒険者は、英雄に等しい名声を得る。冒険者にとっては、それこそ冒険者を志す人々にとっても8等級冒険者は憧れの対象だから、新たな8等級冒険者が現れればその知らせは大陸全土のギルドに通知されて人々の知る所となる。どの8等級が一番強いのかは、酒の席で良く話題になる鉄板のネタだ。
「さすがにそれは簡単に信じられる話じゃねぇな。ギルドの体面にも拘わる話だ。先程までの話とは訳が違うぞ?」
「その点はお試し頂く他有りません。まぁ卓也様から貸与頂く魔導アーマーのお陰では有りますが、うちの騎士でも魔導アーマーに搭乗をすれば私を圧倒する事も可能です」
オーギュストさんがそう補足する。さすがにオーギュストさんが自分の戦力を上回ると言えば、ブリアンも押し黙る。誰が最強の8等級か? と問われれば、冒険者稼業からは実質引退しているにも拘わらず、未だに剣鬼の名前が挙がる事は多い。
オーギュストさんが若い頃に単独で超大型種を討伐した話は有名で、そのオーギュストさんを上回るのならば、確かに対処は可能だろう。それを信じられるかどうかは別の話だ。
「解った。とは言っても見てみない事には、こればっかりは何とも言え無いな」
「ですよね。なので、この後の話をする為にも、まずは確認出来るものから見て貰いましょうか」
時間は有限だ。彼らも忙しい身だろうから、何時迄も時間が取れる訳では無い。
早速視察や試しを足早に行って貰い、2時間後、会議室にはすっかりと項垂れたギルド本部の面々が居た。実際に聞くと見るとでは、受ける衝撃の度合いが全く違ったのだろう。
アマテラスに関する報告は事前にアマテラス支部を通じて上がっていたとは言え、その報告を全て真実として受け取ったとしても、その想像を遥かに超える物ばかりだった。
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