第174話 会談終了

「駆け足でしたが皆さまお疲れ様でした。アマテラスが供給出来る戦力やゴーレム馬車についてはご確認が頂けたかと存じます。転移門を基本とした交通網を構築し、逐次傭兵として派遣する事を想定致しております。また迅速な情報交換が必要不可欠ですので、通信用魔道具の作成に必要な魔石の供給も行う事が可能です」


「ご協力ありがとう御座います。お陰で、お話にあった食糧の供給や戦力の逐次派遣が現実的なものだと理解が出来ました」


マルセル伯の言葉にそう返したのは、ソニアさんだった。残りの二人が少々お疲れなのは、流石に誰の目から見ても明らかだった。まぁそのうち復活すると思うが。


「では次の話に移りたいと思います。災厄の討伐についてです。既に準備を進めており、討伐が可能な施設や戦力の構築は早ければ夏前には可能になる見通しです。十分安全マージンを取っていますので、問題は無いかと思います。その上で検討すべきは2点、災厄討伐後の超大型魔導炉の破壊と、災厄討伐の際に世界的に発生する大規模な魔物の襲撃についてです」


その点についても、ざっと資料をまとめているので回覧をする。少しずつ気力を回復しつつある二人も何とか資料を手に取って目を通す。


「さすがに、今更ですのでここに書いてある事についての疑義は省きましょう。恐らくは出来ると言うのなら出来るのでしょうね」


アマテラスの人々がすんなりと受け入れたのは、積み重ねた実績があったからだ。卓也の力を立て続けに目の当たりにした3人には、少々衝撃が大きすぎた。ただ、卓也が出来ると言うのなら出来るのだろう、その程度の信頼を勝ち取る事には成功をしていた。


「災厄の討伐、ひいては超大型魔導炉の破壊は、大陸に住まう人々にとっての悲願でありましょう。それを果たしたとして魔物が根絶出来るかの確証は有りません。ただ、我々の世界に魔物が蔓延るのは超大型魔導炉と災厄の竜の影響だと伝えられておりますから、何某かの影響はある物と予想されます」


「確かにな。さすがに災厄の討伐に関しては、タクヤ様やアマテラスの方々にお任せすると言う訳にはゆきますまい」


「それに、災厄と戦う時に世界規模で魔力が変調する事も、災厄が魔力や魔物の出現に何某かの影響がある証左かと存じます」


「そうなると一番の問題は、どうやってそれを皆に信じさせるか、だな」


「左様で御座います」


疑問を呈したのはブリアン。災厄を討伐する、そこまではまだ百歩譲って理解出来ない事も無い。だが、災厄に挑む時、世界規模で魔物の襲撃が発生する。何故それを事前に予測できるのか、それを説明しろと言われても難しい。卓也がゲームで経験したからとはさすがに言えなかった。


「まぁ事情があるのでしょうから、あえては伺いません。むしろ神託の聖女が預言した通り、地上に顕現した神なのだからとしか言えぬのかも知れませぬ。そうだとしても正教会の信徒であればそれで納得も出来るでしょうが、それだけでは難しいでしょうな」


アルマンさんの言う通り、大々的に俺が神様だと喧伝するのも難しい。


「その点については、何かうまい言い訳を考えるとしましょうか。例えば、紅の月について調査を進めた所、災厄の影響である可能性が高まったとか。正教会からも過去の文献についての引用と言った形式で言及を頂ければ信憑性も増すでしょう」


「その点については、改めてご相談を致したく存じます。さて、最後に諸国会議の開催についての提言です。幾つかの目的が御座いますが、そもそも皆さんも本日ご覧になって頂いたタクヤ様がもたらした技術の数々について懸念があるかと存じます」


「禁忌に抵触するのでは無いか、と言う点ですね」


「その通りで御座います。これまで魔導文明こそが魔物をこの世界に呼び寄せた諸悪の根源、神に背きし者達として、過去の過度に発達した技術を禁忌とて戒めて参りました。しかしこれだけ逸脱した技術を肯定してしまえば、正教会、ひいてはギルドの正当性が疑われる事になりましょう。ですから、大々的に災厄へ挑む事を表明し、ギルドの正当性を示すのです」


「懸念は当然有りますな。ただ、かつての魔導文明は魔物の軍勢に為す術も無く滅亡をしたのですから、その魔物を討伐出来るだけの力を示すタクヤ様の技術は、魔導文明と比較しても隔絶した力を持っています。少なくとも魔導文明に由来する力では無いと判断は可能ですな。ただ、過度に発達した文明や技術を禁忌と定めたギルドの方針に照らし合わせて見れば、魔導文明すら凌駕するその力は禁忌に抵触する可能性は高いと言わざるを得ません」


アルマンさんの指摘はその通り。この点については、早くから最大の懸念点として挙げられていた。


「その通りです。ギルドの正当性をどの様にして示すのか、一番の問題はその点になるでしょう」


「時間は限られているとは言え、根回しは必要ですな。なるほど、だから転移門の設置やゴーレム馬車の運用、そして傭兵として魔導アーマーの派遣をするのですな」


そう、広く技術を開示するのは、賛同を得やすくする為だ。転移門にゴーレム馬車による流通の改革、また合わせて食糧を供給する事で生活環境を劇的に改善する事が出来る。シャトー王国は大陸でも有数の穀倉地帯だから豊だが、日々の食事さえままならない国も少なくは無いのだ。


それに魔導アーマーも戦場においてなら脅威にしかならないが、日々の魔物との戦いに於いてその有用性を示せば理解を得られ易いだろう。日々の生活が便利になったり快適になったりすると、人々は中々否定はしずらい筈だ。


「その通りです。先にご覧頂いた技術は、生活環境を劇的に改善するでしょう。勿論禁忌に抵触する可能性を否定出来る訳では有りませんが、実際に身近な環境が改善すればそれを否定する事は難しいでしょう。そうして賛同者を増やせば、理解は得られ易いかと存じます」


「そこに来て諸国会議を開催して災厄討伐を掲げれば、それに否と返すのは確かに至難でしょうな。それでも反対意見は必ず有りますから有れるでしょうが、そこは我々の仕事と言う事ですな」


「その通りです。是非ギルドの協力をお願いしたい」


災厄討伐が皆の悲願と言うなら、それを掲げる事でギルドはこれ以上に無い大義を得る事が出来る。


「諸国会議には当然帝国も招待を致しましょう。共に手を取るならそれも良し。断ってギルドと対決する道を選ぶのなら、帝国は大義を失う事になります」


それはそうだろう。相手は魔導文明を滅ぼした災厄だ。魔導文明の後継者を自認するのなら、仇とも言える災厄を無視する事等出来る筈が無いのだ。


「帝国にとっては難しい選択となりますな」


魔導文明の後継なら、宿敵とも言える災厄を野放しには出来ない。信じられないからと袂を分かつのは仕方が無いし、恐らくは可能性としては一番高い。だが、少なくとも帝国は大義は失ってしまう。帝国が折り合いを付けて手を取り合う未来を選ぶなら、それはそれで構わない。紛争の火種は残ってしまうが、実際に災厄を討伐すれば、恐らくこの世界は新たなステージに立つ事になる。その時に皆がどの様な選択を行うかは、それから考えれば良い事だ。


概ね方向性についての確認が出来た。災厄討伐に関する細かい点の擦り合わせや、帝国を牽制する為の腹案を出して意見を貰ったりと、結局予定時間を過ぎて日が暮れても話し合いは続いた。


今後は諸国会議の開催に向けて、正教会とギルドと連携を取って行く事になった。非常に実りのある会談だったと言えるだろう。

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