第166話 冒険者ギルドとの会合

予定時刻に約束の場所へと辿り着くと、遠目からでも解る鮮やかな赤色に染められた天幕が施設されており、近くにアパッチを着陸させて向かえば既に件の相手が待ち構えていた。


アパッチは3人乗りの為、同乗者はフランシーヌとオーギュストさん。


相手方の人数は5人。内、中央に立つのはピシッと身なりを整えた年齢は40〜50位の落ち着いた雰囲気の人物が2人。その両脇に控える様に鎧兜に武器と装備一式を身に纏った重武装の人が2人。この2人は歳は30前後で歴戦の風格を漂わせている。そしてその更に右手後方、背中に剣を吊り下げただけのラフな格好の人物が1人。歳は一番若く20代といったところか。最後の人物がこの場の雰囲気に一番そぐわない様に見える。だが、得てしてこう言う人物こそが大人物だったりするものだ。


その人物は片方の口角が少し上がっていて、こちらを値踏みする様な不躾な視線を送って来る。やはり、この中で一番眼を引くのはこの若い青年だな。何せ、背負っている武器が他と格が違う。


【オリハルコンの剣】


この大陸においてオリハルコン製の武器は記憶にある限りでは一振りしか存在しない筈だ。


「遠路はるばるお越しくださり誠にありがとう御座います。冒険者ギルドを束ねております筆頭職員のアルマンと申します」


相手方で一番年配と思われる人物が一歩進み出て、優雅に一礼をする。


「こちらこそお待たせをしました。タクヤです。本日はお時間をくださりありがとう御座います。では、早速場所を移しましょうか」


アパッチは既に収納済み。コテージから少し離れた場所へ手早く転移門を設置する。この辺りの段取りについては事前に打ち合わせ済みだ。


手作業で整地を行い、鋼鉄製の床を施設。目隠しになる様に壁で囲い込んで、四隅に迎撃装置を設置する。迎撃装置に関してはどうしたって問題が生じる可能性があるが、万が一帝国の手勢による襲撃が発生した場合、迎撃能力が無い方が問題になる。この点についてはギルドからも十分な迎撃能力を設置して欲しいと要望を貰っている。


そして中に転移門を設置。扉も接地しているが鍵は掛けていない。転移門の転送先は移動後に向こうの転移門を収納すれば一旦リセット出来るから、誰かが間違って転移して来る可能性は排除出来るので問題は無いだろう。


10分程で転移門の設置まで完了する。その後は皆を案内して転移門を潜る。

重武装の2人は残り、転移門の警護を行う。


転移先は上級エリアに設置している拠点の一画だ。四方を完全に壁で囲っているので、内側からではそこが何処かを判断する事は出来ないだろう。嫌、外が見えても判断は付かないか。とは言え、事前に先方には伝えている。万が一を想定して外部からの干渉を極限まで排除する為に選択した場所だ。


移動をすると、会議用に設けた部屋には既に正教会から教皇聖下とニコラ猊下、シャトー王国からは国王と宰相、そしてマリーズが既に待っていた。


来訪を待っていた面々はギルドの人達とは面識が無いので、それぞれ簡単に挨拶を済ませると全員着席をする。一番気になる人物は素っ気なくブリアンとだけ名乗った。


さて、今回顔を合わせた目的だが、大きくは2つ。1つは顔合わせ自体が目的、もう1つはギルドと正教会、そして俺の方向性の確認と擦り合わせ。細々とした調整はここでは行わず、大まかな方向性を決めるのが目的だ。後はこれ迄通り、実務レベルでの擦り合わせが行われる事になる。


トリスタン陛下は俺を8等級に認可した事もあり冒険者としての俺の後見と、大陸でも有数の大国の元首だから、オブザーバー的な役割をお願いしている。


今回の席を取り仕切ってくれるのは、マルセル伯だ。


「では早速、会議を進めさせて頂きます。議題は、ギルド、正教会、そしてタクヤ様の対帝国戦線における連携についてです」


「その前にちょっと良い?」


「はい、なんでしょう、ブリアン殿」


「あのさ、そちらのタクヤと手合わせをしたいんだけど。正教会は解るとして、そちらのタクヤが本当に手を組むに値するのかどうかが疑問何だよね。仮にも聖女が選んだのなら、あんたが当代の英雄って事だろ?」


その態度を見ればフランシーヌが怒りそうなものだが、実は予め予想された事でもある。いくら実務レベルでの協力は進めているとは言え、相手は仮にも大陸最大の組織だ。そう簡単に肩を並べる事が出来るとは思えなかった。だから、何某かのアクションがある可能性を事前に考慮していた。流石にここまでストレートに言われるとは思わなかったのだが。


「それは構いませんが、どの様にして実力を試すのですか? 先程も見て貰った通り私は物を作る事が専門でして、余り荒事は得意では無いのですが」


「なら協力するって話は無しだ。仮にもギルドは実力主義を謳っている。それが、びびって剣も取れない相手とじゃぁ話になんねぇ」


挑発する様な、嘲る様な言葉と態度。でも何て言うか、露悪的何だよな。ギルドの筆頭を名乗る人物が同席しているにも関わらず、その態度を諫め様とはしない。ましてやギルドの総意とも取れる様な発言をしているのだから、尚更不自然だ。多分、予想通りなのだろう。


「相手をするのは吝かでは有りませんが、俺は手加減が出来ませんよ?」


「はっ、この俺相手に手加減だと! よく言った! ならお前の力を見せて見ろ。俺よりお前の方が実力が上だって言うのなら、ギルドはお前の下についてやる。何だって言う事を聞いてやろうじゃ無いか!」


アルマンさんが、あぁーと頭を抱えている。きっと、さすがにそれは言い過ぎなのだろう。それでも諫めないのは、何と言うか少し哀愁を感じる。


「解りました。ただ、先程申し上げた通り私は手加減が出来ません。ですから一定時間、貴方の攻撃を凌いだら私の勝ちで如何でしょうか。一応死ななければ腕の1本や2本位ならどうにでもなります」


と口では言ったものの、勿論不安はある。オーギュストさんが皆に課す実戦を想定した訓練では、実際に腕の1本や2本位は飛んで行く事がある。それだけ無茶な訓練が可能なのは回復薬の存在があるからだ。死にはしなければ直ぐに回復薬で治せるし、何だったらフランシーヌも居る。痛い思いをするのは嫌だが。

まぁ俺に限った話ならクラフトモードならば多少の痛みはあるが実際に腕が飛ぶ訳では無い。俺に対する攻撃は、結局HPバーの減少と言う形でしか表現されないからだ。


「舐められたもんだな。解った、それでやろう。1太刀あれば十分だ。俺の本気の攻撃をお前が凌いだら、認めてやるよ」


「まぁお互い納得できる形でなければ話し合いも出来ませんからね。それで良いでしょう。皆さんもそれで宜しいですか?」


「異論は御座いません。ブリアンの一太刀を卓也様が耐えられましたら、ギルドは全面的に貴方様方の意向に従わせて頂きます」


そう、筆頭職員のアルマンさんが恭しく頭を下げる。教皇聖下もトリスタン陛下も頷く。


「宜しかったのですか?」


そうとなれば流石に場所を変えようと、会議室から外に出る。その際に、フランシーヌがそっと声を掛けて来た。ある程度予測の範囲内だったとは言え、ブリアンが並みの実力では無い事は容易に想像が出来る。


「まぁ大丈夫だと思うよ。見た感じじゃ、あの剣は特に何か特別な効果がある訳じゃないみたいだし。装備の新調も間に合ったしね」


年が明けてからと言うもの、色々と忙しかったが、その合間に時間を見つけては採掘に精を出していた。その甲斐もあって、装備一式を揃える程度の鉱石は確保する事が出来た。それにダマスカスピッケルの大量生産により、もうじき技術レベルも100に到達しようとしている。つまり、これがクラフト出来る様になったと言う訳だ。


因みに余談だが、同一製品の大量生産による急激なレベル上げを運営は好ましく思っては居なかった用で、流石に一度にクラフトして獲得出来る経験値には上限が存在している。それに、元々必要素材が少ないピッケルだ。上位のレシピとは言え、技術レベルが80を超えたあたりからレベルの上昇が鈍化していて、まだ100には到達していない。まぁそれでも採取が容易な素材からクラフト出来る製品だけでレベル上げが出来るのだから、やっぱりバランスブレイカーだなと思う。


外に出ると、俺は装備を変更する。大型アプデ前の、最強装備、ヒヒイロカネの装備一式だ。

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