第165話 ギルドとの連携、ギルドの役割

「報告のあった帝国の間者を、ブルゴーニの近郊で全て討伐致しました」


「ありがとう、オーギュストさん。確実に仕留める為とは言え、わざわざ出向いて貰って申し訳ない」


「いえ、タクヤ様に仇為さんとする者達ですから、どうぞお気軽にお任せください」


最初の頃は指南役として皆の指導をお願いしていたのだが、俺とフランシーヌにすっかりと忠誠を誓ったものだから、現在はオーギュストさんにクラフター騎士団の団長をお願いしている。


皆からの人望も厚く、騎士達からは諸手を挙げて歓迎をされた。


さて、ギルドとの会合を間近に控えていたが、実の所ギルドとの連携自体は結構前から行っていた。内容としては主に王国やギルドと連携をしての情報操作だ。年が変わる前からアマテラスへ侵入を試みる帝国の間者が増えていて、まぁ実際にはその手前のブルゴーニやモンペリエで、迎撃クロスボウに撃ち抜かれる者が増えていたのだ。


アマテラスの噂が広まるにつれて、アマテラスに士官を求めて来訪する冒険者が増えている。基本的にギルドは冒険者の移動を管理している。等級はピラミッド型の人口比になっているから、さすがに人数比の多い低い等級の冒険者を全て把握する事は困難だが、4等級以上ともなればある程度把握をしている。冒険者も目的地が明確であれば予め目的地を告げて移動をするので、予定と違う行動をすれば直ぐにギルドに動向を把握されてしまう。


そうしたアマテラスを目的地とした冒険者だったが、大型クロスボウの犠牲者が増えると、今度は途中で立ち往生をしたり、行方をくらましたりする者が現れ始めた。単に怖気付いた者も居ない訳では無いが、仮にも魔物を狩る冒険者だ。噂に怯んで足を止める様な臆病者が早々居るとは考えにくい。だからそうした冒険者の大半は帝国の間者であると目されている。当然そんな冒険者が居れば秘密裏に調査をする事になる。


今回はアマテラスを目指した冒険者の内、モンペリエで到着が確認出来ない者が10人前後居るとギルドから報告があった。流石にその人数だと、街道を利用する者に危害が及ぶ可能性もある。その為、予測される潜伏地点を洗い出した結果、潜伏場所の発見に成功して一網打尽にしたと言う訳だ。


間者の動きが活発になった事で、国内に潜伏していた者達の炙り出しにも成功をしており、王国とギルドの協力の甲斐もあって粗方排除が出来たとも聞いている。

前の近衛兵の例からも解る通り、帝国の手の者は何代もかけて地域に溶け込んでいるそうだ。


数十年もの長い間、帝国の意を受けて活動をしていればバレそうなものだが、意外とそうでもないらしい。何でも、定住する者は情報収集や繋ぎ役が主で、表立った活動はしない。実行部隊は定住をしておらず、主に冒険者に紛れている。その為、なかなか尻尾が掴めなかったらしい。しかし、それだけの長い間、しかも何代にも渡って帝国への忠誠を維持し続けるのは大変では無いのだろうか。


その辺りの感覚は、なかなか日本人には理解がしづらいかも、と思う卓也であった。


さて、ギルド内部には冒険者の素行の管理、調査、粛清を役割とする暗部が存在する。暗部所属の冒険者がかなりの数シャトー王国へ動員されていて、そうした暗部の活躍もあって冒険者の中から帝国に関係する人物をかなりの数洗い出す事が出来た。

クロスボウの餌食になった者、アマテラスを目標としながら途中で足を止めた者、そうした冒険者の動線を調査する事で、ギルドに関係しない帝国の間者も発見する事が出来たので、ギルドと王国が協力をして排除を試みたと言う訳だ。


さながら俺は誘蛾灯の様に思えた。まるで吸い寄せられるかの様に、相当な数の間者が集まってきたからだ。その結果、シャトー王国周辺の間者は激減しており、定住している間者に至っては、恐らく壊滅したのではと予測されている。


これまで何十年もかけて地域に溶け込んで潜伏してきた帝国の間者だから、そう簡単に元の状態に回復する事は難しいと予測されている。今後の帝国戦略にも大きな影響がある事は明白だった。


そんなこんなで対帝国戦線における協力関係を深めつつ、2月を目前に控えたある日、冒険者ギルドのトップとの会談の席を設ける事が出来た。


場所は予定通り、冒険者ギルドの本部がある場所から南に20㎞程離れた場所。丘陵地帯の狭間の開けた場所だ。遠目に解る様に、真っ赤に染色された生地で張られた天蓋が目印になっている。


ギルド本部も、正教会の聖教都と同じ様に巨大な都市そのものが本部機能を有している。大陸各所に存在する冒険者ギルドを束ねるだけあって、本部で働く人員だけでも数万人規模だ。それだけの規模のギルド本部で何を行っているのかと言えば、一言では説明は難しい。その業務は非常に多岐に渡っている。


そもそもギルドは何を行う場所なのか。ギルドの所属する冒険者と呼ばれる人々は、基本的には魔物を狩る事をその生業としている。他にも隊商の護衛だったり、町の周辺の巡回だったり、素材を採取する為の一団を護衛したり。突き詰めれば、結局のところ魔物を相手にする仕事と言って良い。


ならばギルドはと言えば、冒険者を支援、教育、管理、運営をする為の組織だ。

冒険者の役割が明確な事と反対にギルド職員の業務は非常に多岐に渡っている。


冒険者の直接的な支援としては、様々な技能訓練を行っている。基本的な武器の扱い方に始まり、魔力の運用方法、スキルの習得、魔法に関する知識や技術の継承、魔物に関する知識や、冒険者が一番初めに習う魔物の剥ぎ取りと解体を始めとするサバイバル技術。


銀行業務も行っている。冒険者への貸し付けは行っていないが、国との間では契約に基づいた報酬が発生する。大規模な魔物の襲撃ともなれば支払額は大きくなる為、実質ギルドから国への貸付金が生じる。

報酬を円滑に支払う為の調書の作成や国への報告、貸付金の回収も行う。また運営資金の一部は魔物素材を流通させる事で賄っている。各地の商会と連携を取って交易も行っている。


冒険者の素行調査や管理も重要な仕事だ。冒険者向けの思想教育も行っており、素行についても厳しくチェックをしている。強大な力を持つ冒険者が好き勝手にその力を奮えば、人の生存圏に災いを齎す。コントロール出来ない力は毒にしかならない。

その為、冒険者が頭角を顕す迄に、厳しくチェックを行う。場合によって暗部と呼ばれる粛清部隊により強制的に排除される事もある。


どれだけ才能が有ろうとも、いきなり頭角を顕す訳では無い。ギルドの訓練施設は広く門戸を開いており、冒険者を目指す子供も利用する事が出来る。才能があれば目を掛けられるが、裏を返せば厳しくチェックをされると言う訳だ。


もっとも、末端まで厳しく管理をされているのかと言えば、卓也が初めてブルゴーニを訪れた際に対峙した冒険者の一件もある。多少の漏れはどうしても生じてしまう。それでも長い目で見ればギルド支部の動向も定期的に監査をされているので、遅かれ早かれあの冒険者もその台頭を許したギルド支部も、何らかの処罰を受けていた可能性が高い。だからこそ暗部は普通の冒険者に紛れて眼を光らせるのだ。


そうした多岐に渡る業務を行うギルド職員であったから、習得を必要とされる知識や技術は膨大な物になる。ギルド本部にはギルド職員を育成する為の専門の学校が有り、日夜大陸の未来を担う為にギルド職員を目指す者達が勉学や訓練に明け暮れている。


またギルド本部は学術都市としての側面を有しており、町には様々な研究機関が存在している。そこで研究されている、例えば魔物の生態だとか、スキルの効率的な訓練と習得方法だとか、ギルド職員はそうした様々な事柄に対する知識も要求される。


余り一般には知られていないが、ギルド職員には冒険者と同じく等級が有る。

本部で教育を受けていない現地採用のギルド職員も相当数居るが、役職付きともなれば本部の学院に通い、試験をパスする必要がある。それこそギルドの支部長を務める程の人物となると、幾度と無く厳しい試験を潜り抜けてその地位へと就く。


ならば、そうしたギルド職員の頂点に立つ人物はどんな人物だろうか。

卓也はその人物像をあれこれと想像してみるが、結局答えは解らず仕舞いだ。ギルドマスターは、非常に謎に包まれた人物だったからだ。











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