第160話 今後の方向性
「さて、ダンジョンの調査という事ですので、出来る限りの情報は集めておきます。恐らくギルドに依頼をすれば、今わかる範囲の詳細は確認が出来るでしょう」
「マルセル伯、宜しく頼みます」
事前に情報があれば準備も可能だろう。これまでは余り気にしていなかったので大した情報が無いから、この機会に集めてもらう事にする。
「さて、兼ねてより調整をしておりましたギルドとの会合ですが、もう少しで調整が完了出来そうです。詳細が決まりましたら改めて報告を致します」
ギルドとの会合については、皆にセッティングをお願いしている。正教会とシャトー王国の双方から打診をしていて、先方としても断る理由は無いのだが、何せあちらは忙しい。
帝国との情勢が日増しに悪化していて、責任ある立場にある程ギルド本部から離れる事が難しい。だから会合はギルド本部の最寄りの場所で行う事を検討していた。
ギルド相手ならこちらの手札を徒に隠す必要も無いから、予め先方に場を整えて貰って、そこに乗り付ける事を考えている。足はアパッチ、同行するのはいつものメンバー。だがアパッチの定員が限られているから、まずは土地勘のあるオーギュストさんとフランシーヌの3人で移動して、向こうに付いたら転移門を設置する。実際に会合を行う場所は先方と合流した後に転移門で移動した、こちらが準備する場所を想定している。
場所を移すのは、横槍を避ける為だ。ギルド本部と言えども、組織が巨大になればなる程、内に敵が潜む可能性は高くなる。正式なルートで会合の打診をしているので、秘密裏に行う事は難しい。相手がどんな手を打って来るかが解らないから、乗り付ける事が出来るような開けた場所では事前の対処が難しい。
だから、会合は転移門で場所を移す事を想定している。詳細についてはギルドマスターに直接渡る様に手配をして貰っているが、さて、どうなる事やら。
その会合の後にはギルド近辺に拠点を構築する事を考えていて、あわせて相手に許可を貰う手はずになっている。そうなると、余りにも人の往来が多くても面倒だから、ある程度街道から外れて拠点を構築しても良さそうな場所。その選定も行う必要が有る。その点も打診済みだ。
拠点を構築してしまえば今後のやりとりも簡単になるしね。魔道具を使えば会話は可能だが、重要な話は顔を合わせてした方が捗る。それは、俺の営業仕事でも同じだな。メールで済ませてしまうのは簡単だが、結局顔を合わせないと相手の機微は解らないし、こちらの誠意も伝わらない。VRを利用した商談が一般的だったが、電子機器を介する事に忌避感を抱く人が一定数居たのも事実だ。
拠点を構築した後は、迎撃設備は設置せずにギルドに管理を任せる予定だ。今後ギルド本部付近には帝国の侵攻に備える為にかなりの人が集まる。そんな場所に迎撃装置を設置しないのは、そこに不用意に設置すると問題が起こる可能性も高くなるからだ。
転移門は行先指定なしの状態にして、設置箇所は頑丈な壁で囲っておけば、迎撃装置が無くても早々に問題になる事は無い。
「こちらは何時でも時間を合わせる事が出来ますので、宜しくお願いします」
「はい、お任せください。さて、ギルドとの会合以降になりますが、先程の災厄討伐への準備も含めて腹案が御座います」
そう言ってマルセルさんが説明をしてくれる。災厄については、つい今し方話しをしたばかりだが?
「もう腹案があるのですか?」
「まぁ目的とする所が一緒ですからね。まず前提としてですが、今後のギルドや諸国が抱える問題点についてです」
年内にも帝国とギルドとで、大陸の覇権を賭けた大規模な戦争が起こる事は間違いが無い。その戦いに備える為、ギルドと正教会は帝国打倒の大号令を発し、大陸中から人が集まる事が予想されている。
帝国は魔導文明の末裔を標榜し、大陸の正当な支配者である事を謳っている。現在大陸に住まう人々は魔導文明の支配から脱し、自らの力で生存権を獲得、維持してきた歴史があるので、帝国の在り方は到底容認出来る物では無い。お互いに譲れぬ以上は早晩激突する事は必至だった。避けられぬ戦いなのだろう。
さて、そうなると諸国の防衛力の低下が懸念される。また、人の移動に伴う補給の問題も深刻だった。その点をマルセルさんは確認を兼ねて説明する。
「その2つを、タクヤ様の力で解決出来ないかと考えております」
「出来る事なら構わないけど、目的があるんだよね?」
「完結に申し上げるなら、諸国会議に先駆けた根回しですね。災厄を討伐する、それは決定事項として、被害を減らそうと思うのならば大陸中の意思統一が必要となります。であればギルド主導で諸国会議を開催する事が1番の近道でしょう」
「まぁ諸国の王が一堂に会して方針と対策が決められるのなら、それが一番確実かなと思う」
「左様で御座います。何より、タクヤ様のお力があってこそなのです。先程の問題点も、災厄討伐に際して発生する問題点も詰まる所は同じです。戦力と食糧と移動。まず大陸最大の戦力はタクヤ様である事は明白です。個としてもそうですが、集団としてもそうです。魔導アーマーを下賜されたクラフター騎士団に勝る戦力は大陸には存在しないでしょう。食糧も、タクヤ様が望むのであれば無尽蔵と言えるほど供給が可能であると伺っております。そして移動ですが、極論転移門を設置してしまえば問題にはならないでしょう。いずれも運用をどうするかは問題ですが、その点を考慮せずとも良いのであれば解決方法は既にある。ならば、そのための道筋を作るのは我々に、ひいては諸国の諸王にお任せを頂きたい。その為の根回しを、帝国との戦争を利用して行うのです」
そう説明をするマルセル伯の言葉に段々と熱が籠るのが解った。
「まぁ、確か手段を選ばなければどうにでもなる気はするかな」
災厄の襲撃に対抗するのは現在の大陸の戦力では難しくとも、確かに魔導アーマーの数を揃えれば対象はかなり容易になる筈だ。こちらも極論として、数を揃えるだけならどうにでもなる。
食糧も畑を拡張すればどうにかなるだろう。何せ、収穫に半年は掛かる工程を3日に短縮出来るのだ。ただ畑に作物が実ったからと言って、直ぐに食べられる状態になる訳では無い。その点は検討が必要だ。そして移動、これも転移門を設置してしまえばどうにでもなる。何処かにハブとして行き先を集中させて、大陸の主要部分と繋いでしまえば、劇的に解決する事だろう。俺が住んでた世界でも数十年前と比較をすると流通は劇的に改善をしたが、それでも物流問題は常に発生する。何処とでも繋がるドアがあれば、何だって出来るし、どんな問題だって解決できるのでは?と考えた事は誰しも有るのでは無いだろうか。設置の手間があるとは言え、似た様な事は可能だ。
ただ、転移門を徒に設置すれば、どんな問題が起こるのか。それが心配だった。魔導アーマーの配備についても同じだな。
「確かにそうだな。解決する為の手札は既にある訳だ。なら、それをどう使うかが問われると。いずれも劇的な変化があるでしょうから、新たな問題も発生する筈です。予想される問題の洗い出しと対処方法の検討も含めて、お任せをしても宜しいでしょうか?」
「勿論です。フィリップ殿、オデット殿とも連携を取って、案を詰めさせて頂きます」
アマテラスや王国には俺よりも頭の良い人は幾らでも居るから、案を詰めるのはそうした人に任せた方が絶対に良い。後は出てきた案を精査すれば良いだけだ。とは言え、今からでも出来る事はある。
「なら、今から出来る事はしてしまいましょう。食料の提供ですが、作物を育てる事は簡単です。ですがそれを収穫して加工する為にはどうしても人の手が居る。何処か大規模な食糧生産が可能な場所や人材は居ないでしょうか?」
その点については、正教会と旧侯爵領が候補となった。旧侯爵領は、元々大穀倉地帯なので、人も道具もノウハウもある。現在は王家の直轄領だから、手を入れるのも簡単だ。それに正教会の信徒も良く働く。教皇じきじきに声を発すれば、それこそ身を粉にしても働くのでは無いだろうか。さすがにそこまでは求めないが、労働力を確保する為なら方法としては悪く無い。まぁ今の時点では、まだ正教会内部の掌握が出来ていないから、そちらは今後の課題としてまずは旧侯爵領に手を入れる事が決定した。
その後は、どの様にして生産体制を整えるのかの話し合いになった。
教皇による正教会内部の掌握を進める。現在アマテラスに枢機卿の1人が来訪しているのは教皇の活動の影響なのだそうだ。後日もう1人来訪する予定なので、2人揃った時点で会合の場を設ける。
そして、聖教都の近郊に新しい拠点を建築する案が最有力となった。労働力の確保が容易である事。拠点と穀物は正教会の管理下に置き、正教会の求心力を強める為に利用する案だ。
全てを俺が用意してしまえば、余りにも目立ちすぎて反発も産まれるだろう。だから、矛先を分散する為に正教会を利用しようと言うのだ。それを教皇が主導すれば、正教会内部の求心力を高める事にもなる。
こうして、大まかな方針を決定する事が出来た。詳細について意見を交わしていると、結局会合が終わったのは日がかなり傾いた頃だった。
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