第154話 ドラゴン討伐
ドラゴンの急降下攻撃に合わせて、皆で仕掛けた猛攻は大きなダメージを与えていて、体力ゲージを目算で更に3割は削っていた。正直、とんでもない攻撃力だ。
初回のドラゴン戦は十分に装備を整えても本来なら2〜3時間は平気で掛かる。幾ら難易度の低い避けゲーと言っても、それだけ時間が掛かればどうしたって疲れはたまるしミスも出る。そのミスが死に直結するのだ。
最上級エリアの大型モンスターからレベル60までのレア等級レシピはドロップするが、それだって結構難易度が高い。時間を掛けてレア等級を一通り揃えて、ようやくドラゴンに挑んでそれでも2〜3時間なのだから、難易度はなかなかのものだ。
だから実の所エターナルクラフトの初ドラゴン討伐は、俺もやった様に廃都の近くに対ドラゴン特化の迎撃拠点を構築して、真紅の月を待つ方が早い。それでもかなりの難易度だった。何せブレスや魔法攻撃で、簡単に迎撃装置が瓦解するのだ。だから、対ドラゴン戦では縦深陣を敷く。200m四方の拠点を俯瞰的に見れば十字の形に配置する。こうする事でどの方向から襲撃があっても対処できる。拠点は次から次にドラゴンの攻撃で瓦解するが、その次の拠点が攻撃を行う。これをひたすら繰り返す。俺の時は横幅1km、縦長10kmの50層の縦深で拠点を構築した。
ドラゴンを迎撃で迎え撃つには、長射程の迎撃装置が必要になる。射程に秀でるのは火器系統の設置型大型ライフル等なので、何せ弾の補充に結構な資源が必要となる。せっせと硫黄や硝石を用意して弾薬を大量に確保して、いざドラゴンと戦う時は遠距離からチクチクと迎撃装置で攻撃。降下したら近寄って攻撃するを繰り返すのだ。
それでも襲撃イベントなら時間制限がある。夜明け迄に削り切れずに、ドラゴンが退却をすると目も当てられなかった。とにかく資源の消耗が激しいのだ。費やした弾薬、ドラゴンに破壊された拠点。再構築に必要な資源を確保するだけでも相当な時間が掛かる。それだけの準備をしても討伐出来なければ、ましてや一度ならず二度、三度とそれを繰り返せば心折れる事も有るだろう。
それがジャガーノートなら、2分の1の確率で初手ブレスを撃ってさえくれれば5割体力を削れるのだ。その破壊力の凄まじさが解ると言うものだろう。拠点に頼らないから再チャレンジがし易いのも利点だ。ジャガーノート本体に鋼鉄のインゴットが20万、弾薬と火薬の製造に同じく大量の素材が必要とは言え、拠点を構築して湯水の様に消費する資源に比べれば、実の所そこまで負担でも無かった。
まぁ俺の場合は後発組で事前情報があったから、十分な備えをしてドラゴンを迎え撃つ事が出来た。最上級エリアに進出してから2ヶ月は準備に費やしたが、その甲斐もあって初手で討伐に成功した。あの時に倒し切れていなかったら、次はジャガーノート頼みになっていたのは間違いない。
因みに最上級エリアでは、真紅の月に出現するボスは初回撃破まではドラゴン1体。初回撃破以降はドラゴンと最上級エリアのフィールドボスからの抽選になる。最上級エリアのフィールドボスはエンドコンテンツで、リヴァイアサンクラスがゴロゴロ居るので、ぶっちゃけドラゴンよりも遥かに難易度が高かったりする。
さて、ドラゴン戦はいよいよ大詰めだ。先程の一斉攻撃の後に空中へと逃れたドラゴンだったが、既に降下体制に入っている。体力も残り1割強。だが、次の降下攻撃を凌いでしまえば止めを刺す事が出来るだろうし、先程の皆の動きを思い出せば全く問題にならない事が解る。
俺は安全マージンを取った距離から、ちまちまと矢を射るだけ。火力は3人に劣るから、事故らない様に立ち位置に注意をしながら、牽制程度に留めた。
キィーーーーーン、ドーーーーーン!
今回の目標はフランシーヌだ。ドラゴンは目標を定めると大気を切り裂いて急降下、地面に着弾して衝撃音が響き渡る。その衝撃の割には地面が抉れる様な事はない。普通だったらあの質量が地面に当たれば地面が抉れるだろうし、ドラゴンにもダメージが入りそうだが、まぁそれこそゲーム的な処理なのだろう。エターナルクラフトでは物理演算エンジンも搭載されているから、ある程度はリアルに近い表現がされるが、ところどころゲームの仕様を優先した表現を行っている。それこそ掘った穴が崩落しない事なんかがその代表だろう。そうしたゲーム的な仕様は、リアルモードでも忠実に表現されているから不思議だ。
でもドラゴンの急降下攻撃は、地面は抉られないのに落下地点に建造した拠点があれば洒落にならないダメージが入るのは、ちょっと理不尽だよなと思わなくも無い。
フランシーヌとオーギュストさんは、今回もこの後に続く旋回攻撃を警戒はしているだろうが、全く気にせずに距離を詰めて攻撃をする。今度の旋回攻撃は先程と逆方向だ。フランシーヌは攻撃を華麗に避けるし、オーギュストさんは今回はギリギリの距離を見定めて後ろに飛び退って紙一重で躱すと、剣に魔力を纏わせて水平に構える。そしてそのままの体勢で一気に距離を詰めてドラゴンの横腹に剣を突き立てる。
その攻撃が止めとなったのだろう。ドラゴンは首を持ち上げて断末魔の叫びをあげると、ゆっくりと沈み込む様に崩れ落ちた。
レア等級の聖騎士級3人がかり、しかもそれぞれが超人的な動きを見せるのだからこの結果は当然と言えば当然なのかも知れない。だが、圧倒的では無いか。さすがにこの倍の時間は掛かると思っていたが、戦闘に掛かった時間は想像以上に短かった。
これなら無理してジャガーノートを使わなくても良かったかなと思うが、まぁあれに関しては男の浪漫だから仕方が無い。折角買った対ドラゴン用の決戦兵器だから、使ってみたかったのだ。秘密兵器、何とも男心をくすぐる言葉じゃないか。
メニューから実績を確認すると、ちゃんとドラゴン討伐の実績を獲得している。これでレベルキャップの解放も完了だ。以降は迎撃装置も大幅に攻撃力が上がるので、最上級エリアの探索や防衛も格段に楽になる。5日後のドラゴンのリポップに備えて周囲を拠点化しつつ、最上級エリアの探索と採取を進める事にしよう。
俺がメニューから実績を確認している間に、3人が駆けつけてくる。
「卓也さん、お疲れ様でした!」
通信手段は無くとも、魔導アーマーなら登場した状態で声を出す事は出来るから会話は可能だ。
「フランシーヌもお疲れ様。皆の活躍のお陰で、無事ドラゴンを討伐する事が出来た。マリーズもオーギュストさんもありがとう」
「いえ、それもこれも、タクヤ様から賜ったこの魔導アーマーがあったからこそです。本当に素晴らしいですな、これは!」
いつもは歴戦の戦士の風格を漂わせているオーギュストさんが、この時ばかりは興奮して上気した声音でそう言う。
高魔力持ちとして、50過過ぎた今尚40位にしか見えないオーギュストさんも、寄る年波には勝てず最近は肉体の衰えを感じる事があるのだそうだ。
だが魔導アーマーに搭乗すると、全盛期に近い感覚で身体を動かす様に機体を動かせるのだそうだ。
かと言っても、誰でも超人的な動きが出来る訳では無い。むしろ搭乗する乗り手の身体能力に比例して機体の能力も上がる。その基準となる身体能力が今の自分なのか、全盛期の自分なのかは実際の所は解らない。でも歳を取ると言う事は、感覚が鈍ったり、筋肉が衰えてきたり、関節が硬くなったり。そう言った面は魔導アーマーに反映されないから、全盛期に近い感覚になるのかも知れない。
実の所、これはVRゲーム特有の特徴故だ。VRは思考にリンクする為、脳からの指令をダイレクトに受け取って身体を操作する。それこそ歩けない人でも普通に歩けるし、目が見えなくても見える様になる。先天性の場合は訓練が必要だが、後天性の場合は、大抵はVRの中でなら不都合なく動く事が出来る様になる。この世界では魔導アーマーに搭乗する事で、同じ様な感じになるのだ。身体の動きに連動して動かす訳では無く、思考とリンクして機体を操作する。だから、厳しい修行により全盛期、つまり最適な動きを熟知していれば、最適な動作が可能になるのである。
「そうは言っても、やっぱり皆の実力あってこそだよ。何はともあれ、怪我も無く無事討伐が完了して良かった」
「全ては我が主がお与えくださった数々の神具のご威光あっての事で御座います。我ら一同、改めてドラゴン討伐のお喜びを申し上げます」
ドラゴン討伐の興奮が多少は収まってきたのだろう。オーギュストさんが改めて恭しく膝をついて、喜びの声を述べる。最近では、オーギュストさんは俺がクラフトした魔導アーマーや武器・防具をひっくるめて神具と呼んでいる。フランシーヌもマリーズも続いて喜びの声をあげた。
何にしても、無事ドラゴン討伐の完了だ!
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