第153話 ドラゴン戦

ドーーーン!


巨大な砲弾を打ち出す為の大量の火薬が炸裂し、凄まじい轟音を放つ。放たれた砲弾は音速を軽く超え、大気を切り裂きながらドラゴンに着弾をすると凄まじい衝撃音を響かせた。


有名なドイツの80cm列車砲なら、7mのコンクリートを貫通するのだそうだ。その貫通力の凄まじさが解る。


クラフトモードなら、実際に当たった砲弾がどの様な影響を齎したのか迄は確認する事が出来ない。当たった砲弾は何処かに消え失せ、体力バーの減少でのみその結果を見て取る事が出来る。そして、ゲームと同じ様に目算でドラゴンの体力バーを3割減らす事に成功した。


通常ダメージは振り幅がある。だがジャガーノートはドラゴン相手にはほぼ固定ダメージなので、やはり武器や兵器と言うよりもイベントアイテムとしての側面の方が強い。


ドラゴンはすっくと上体を起こすと、怒りの咆哮を響かせる。その機を逃さずフランシーヌとオーギュストさんが一気に斬り込んだ。


2人の連撃により僅かずつではあるが体力バーが減少する。だが、流石に3割を削ったジャガーノートを敵と定めた様だ。四肢を踏ん張ると軽く持ち上げた口腔に光が満ちるのが見て取れた。ブレス攻撃だ!


一応耐え得るとは言え、万全を期す為にマリーズが控えている。マリーズはブレス攻撃に合わせる様にジャガーノートの眼前に氷の障壁を生み出した。太陽光を受けてきらきらと光る分厚い氷の壁。そして障壁を展開すると、ジャガーノートの後方に隠れる。時を待たずして放たれるドラゴンのブレス。


ドラゴンのブレスは火炎放射タイプでは無く、熱線が放たれる。扇状に左から右へと薙ぎ払われ、射線上の対象を一瞬で焼き尽くし、着弾地点は一瞬遅れて凄まじい爆発が起こる。吹き上がる爆炎は20~30mの高さに達し、広範囲を一気に焼き払うのだ。


だが、マリーズが展開した障壁は見事にドラゴンのブレスを防いで見せる。氷の障壁の前で凄まじい爆炎が吹き上がるが、ジャガーノートへのダメージは皆無。氷の障壁が防ぎきれなかった範囲は、爆炎が吹き上がり、少し遅れて巻き上げられた土砂が一斉にジャガーノートに降り掛かった。


その間に次弾の装填が完了する。事前に決めた作戦通りにドラゴンに切り掛かっていたフランシーヌとオーギュストさんが飛び退って距離を取る。


ジャガーノートの眼前に展開されていた氷の障壁が砕け散り崩れ去る。その細かい破片が太陽光を乱反射してきらきらと輝いていた。一瞬目を取られそうになるが、意識をドラゴンへ向ける。皆の息が有った千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。次弾をドラゴンの喉元へ向けて放った。


再び響き渡る轟音。着弾に掛かる時間は凡そ3秒程。水平射撃と言っても若干は重力に引かれるので非常に緩やかな弧を描いてドラゴンの喉元に吸い込まれて、再び凄まじい衝撃音が響く。その衝撃でドラゴンの首が大きくのけぞった。


それだけの質量兵器を撃ち出すのだから、反動も凄まじい。その反動を、2000tの車体重量で抑えるのだが、それでも1mは後ずさる。衝撃を地面に逃がしたり、吸収したりする機構も備わっているそうだが、リアルでも同じ様な挙動をするのかはちょっと疑わしかった。


因みに、ジャガーノートの性能自体とんでもない代物だが、一番リアルでは有り得ない設定は、これが1人で操作が出来ると言う1点に尽きる。第二次世界大戦においてドイツ軍が実用化した80cm列車砲は、列車砲用の徹甲弾はそれだけで約7tの重量が有り、その砲弾を装填しようと思えば凄まじい労力が必要となる。狙いを定めるのだって一苦労だ。砲の操作には1000人以上の人員が必要だし、装填に掛かる時間だって30から40分は必要だった。


それがジャガーノートなら全自動で僅か1分で完了するのだ。しかも狙いを定めれば砲塔の向きの微調整も勝手に行ってくれる。相手が動かなければ命中率は100%。反動で砲塔がぶれるので本来は多少狙いからずれるものだが、其れすらも無い。ゲームの中で無ければ到底実現不可能なとんでも仕様だと解る。


次弾を撃った後は、俺自身は着弾を確認する間もなく降車をして、魔導アーマーに搭乗をする。砲弾を二発放った砲塔は、その巨大な砲弾を撃ち出す為の火薬が、爆発する際に砲塔内に圧縮されたエネルギーですっかり膨張していて、3発目を撃ち出す事は出来ない。修理をするには兵器工廠へ戻る必要が有るから、後は無用の長物だ。


もう1台ジャガーノートを用意して、乗り換えると言う選択肢もあったが、次弾をフランシーヌやオーギュストさんに当てずにドラゴンに直撃されるのは難しいし、何より移動を開始した後のドラゴンに照準を合わせる事自体が至難の業だ。


だから、後は魔導アーマーに乗り換えて戦線に加わり、4人でドラゴンに対する事にする。諸々を鑑みて聖騎士級は俺以外の3人に任せて、俺は重騎士級のレジェンド等級を駆る。これだって、本来なら一騎でドラゴン討伐が可能なだけの性能を秘めているので戦力としては申し分は無い。


一定時間が経過したからか、俺とマリーズが戦線に加わる前に、ドラゴンが翼を広げてはためかせると空中に浮き上がり、そのまま上空に上昇して行く。


ある程度の高さに達すると、空中で静止して翼を広げる。すると翼の前面に夥しい数の魔法陣が描かれる。一人なら攻撃対象が解るから射線から外れる様に旋回をすれば良いが、今回は4人居るから誰を狙っているのかが解らない。先読みして行動をすると、逆に仲間を狙った射線に割り込んだ時に回避行動が間に合わない可能性があるから、ここは静止したタイミングを狙って追撃を行う。


武器を弓に持ち替えて矢を次々と居る。マリーズは魔法攻撃だ。巨大な氷の槍が次々とドラゴンに向かって放たれる。そして、魔法が解き放たれる。それぞれの魔法陣からさながらビームの様に、一条の光が放たれて向かってくる。その向かう先はバラバラで、どうやら4人をそれぞれに狙っているらしい。まさかのマルチロックオンだ!


瞬時に仲間の位置を確認し、回避ルートが被らない様に一気に駆け出す。背中を微かに掠める気配を感じつつ、何とか躱して行く。


魔法攻撃が納まると、また次の魔法陣が展開されるので、先程と同じ様に矢を番えて撃つ。一人なら魔法との追っかけっこを5分位は繰り返すのだが、4人居るとダメージの蓄積が早い。魔法攻撃を2度繰り返すと、次は翼をはためかせて加速をして、そのまま狙いを定めて一気に下降を始める。急降下攻撃だ。幸い4人の位置はばらけていて、目標は直ぐに察する事が出来た。って俺かよ!


ドラゴンの降下ルートから90度の方向に全力で走って回避行動を取る。直ぐ後ろでキューンと大気を切り裂く音、そしてズドーンと凄まじい衝撃音と振動が伝わって来た。


エターナルクラフトの戦闘は、アクションゲームとしての難易度はかなり低めなので、基本は敵の行動パターンを覚えて避けるだけのゲームだ。極端な話、技術よりもむしろ火力こそが重要で、十分な装備を揃える事が出来れば基本的にやれない事は無い。何より装備の質が向上すると行動速度が上昇する傾向にあり、回避行動自体が取り易くなる。レア等級の聖騎士級や、レジェンド等級の重騎士級なら尚更の事だ。

火力も十分だし、回避も相手の動きを見て全力で回避行動を行えば、早々にダメージを受ける事は無い。


それでも、死んだらリスポーン出来るゲームとは違う。一瞬の気の緩みが死に繋がる可能性があるのだから、どうしたって緊張感は有る。それに俺はゲームで何回とドラゴンと戦ってきたから、どれもこれも見慣れた行動で気持ちに余裕がある。だが、他の3人はどうだろうか。伝説と謳われるドラゴンを眼前にして、十分に戦えているだろうか。


だが、それも杞憂であると直ぐに解った。


急降下攻撃を行ったドラゴンは10秒程は土煙に包まれているが、その間は動かない。その間に距離を詰めたフランシーヌとオーギュストさんが切りかかる。マリーズは魔法陣の構築に時間の掛かる魔法を展開している。


ドラゴンが動き出すと、次に尻尾を大きく振り回す旋回攻撃を行う。軽く尻尾を右に振り、そこから一気に身体を180度入れ替えながら、1周には満たない範囲を尻尾で薙ぎ払うのだ。因みに回転方向は2分の1の確率で逆回転バージョンも有るので、尻尾の届く範囲で有れば安全な場所は存在しない。


なので、タイミングを計って距離を取るのが正攻法なのだが、2人の動きは想像とは全く違っていた。フランシーヌは尻尾の直ぐ傍に陣取って尻尾を攻撃していたが、背面飛びの要領で旋回する尻尾の上を華麗に躱して、そのまま攻撃の手を緩めない。オーギュストさんは、ドラゴンの右手側、回転する尻尾の最後の辺りに位置している。そこで両手で持つ大剣を正眼に構えると、その大剣で尻尾を受け止めてしまった。


恐らくはスキルの効果だろうとは思う。幾ら魔導アーマーに搭乗していても、あんな風に受け止められるなんて俺は知らなかった。エターナルクラフトには無かった、この世界の人々の力で有り技だ。それがこうして、クラフトモードでもちゃんと機能をしている。


オーギュストさんが旋回を無理やり止めた為、ドラゴンは若干体勢を崩して動きが止まる。その隙を逃さず、フランシーヌは一気に攻勢をかける。軽く腰を沈めて力を溜めると、少し位置が下がったドラゴンの顔目掛けてから斬りかかる。最近体得して使える様になった、分身攻撃ミラーだ。魔力によって生み出された鏡写しの様に左右に反転した実体を持つ分身が、本体と合わせて左右から同時に切り付ける。宙を駆ける様に軽やかに上昇すると共に、幾筋も剣閃が煌めいた。


マリーズの魔法構築も完了し、放たれる。一見すると氷の球が、すぅっとドラゴンの腹に吸い込まれると凄まじい爆発をする、氷瀑の魔法だ。爆発による衝撃もさる事ながら、一気に球は膨らみ、球体内にゴォーっと氷雪が吹き荒れ、範囲内の対象を凍て付かせる。

さすがにその攻撃でドラゴンが凍り付く事は無かったが、一連の攻撃でドラゴンの体力は目に見えて減っていた。













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