第148話 明けて3日目
年が明けて3日も過ぎると町はすっかり日常を取り戻した。王宮では新年を祝う行事が催されて、贅を凝らした食事が用意されるのだそうだ。
まぁうちでは皆に休みを与えたので、思い思いに過ごした事だろう。俺も何のかんので色々とあった気がする。深酒は2度とするまいと固く誓った。
新年最初の朝議では、皆が礼服で並んで俺に新年の挨拶をする。代表をして挨拶をするのはオデットさんだ。オデットさんは相変わらずレディースのスーツを好んで着ている。そう言えば、あった頃よりも随分と若々しく見える気がする。
この世界の住人は高い魔力を持つ人程に老化が緩やかになる傾向がある。産まれ持った魔力量による優劣だけでは無く、魔物を討伐する事でも緩やかに魔力量が増加する事が知られている。
俺に付き合って、大陸の魔物と比較にならない強さの魔物を次々と討伐しているフランシーヌとマリーズは、顕著に魔力量が増加しているそうだ。
最近解った事だが、それとは別に高い魔力を内包する魔物素材を食しても、魔力が増加するらしい。オデットさんは俺に付き合って魔物素材を良く口にするし、たまに皆で楽しむ等級の高いお酒も魔力を内包している。その影響もあって、最近は身体の調子がすこぶる良いらしい。
そのお陰もあって、オデットさんは最近業務の合間を縫ってオーギュストさんに師事をしている。騎士に混じって剣を振る事もあるそうだ。そう言えばオデットさんだけでは無くオーギュストさんも随分と若々しく見えるな。若い頃に冒険者として数多くの魔物を屠って来た影響だろう。
ただ、老化が緩やかになると言っても極端に寿命が伸びる訳では無い。50を過ぎれば大病にかかる事も増えるし、寿命に関わる病は神聖魔法でも簡単に癒す事は出来ないから、この世界の寿命は概ね60〜65才位になる。とは言え魔力が高い人は病気に罹りにくいから比較的天寿を全うする事が多いので、総じて見れば寿命は長いと言える。
オデットさんもオーギュストさんも50代だから、是非長生きをして貰いたい。
さて今年のアマテラスだが、既に行政機能は完全にトウカからアマテラスに移行をしている。ブルゴーニからの移住組も、一部の例外を除いて契約を完了していて、アマテラスへの移住が完了している。
豊富な資源のお陰で居住区、商業区はほぼ形になっているが、アマテラスの土地はまだまだ手付かずだから、今後は産業の育成を兼ねて町を発展させて行く予定だ。
対外的には雪が溶ける頃に物資の提供と移民の受け入れを再開する。昨年はうちから穀物を大規模に輸出したり、うちで移民を受け入れた事もあって、王国では冬の餓死者が殆ど出ていないらしい。
セザール元侯爵との戦いが昨年中に決着が付かなかった場合、かつうちからの物資提供が無かった場合、万単位で餓死者が出たと予測が出ている。貴族達もその事は十分に理解をしているそうで、ついこの前まで宮中にあった王族と貴族との対立は今では完全に鳴りを潜めているらしい。
王国ではバローロ王国への派兵も検討されている。聖女戦争において、セザールの軍勢に多数のバローロ王国軍が含まれていた事は周知の事実だ。当然これは明確な侵略行為に当たる。独立を宣言したセザールに援軍を寄越した形での派兵だから、直接シャトー王国に宣戦が布告された訳では無い。だが、だからこそ尚更の事、シャトー王国に取っては許し難かった。
バローロ王国でも当然の事ながらシャトー王国の派兵は予測をしているから開戦の準備を進めているが、当初はセザールからの物資支援を当て込んでいた様で、この冬はかなりの餓死者が出ているそうだ。しかも先の戦いで働き手を多数失っている。早晩立ち行かなくなるのは明白で、シャトー王国との戦いで勝利をする事で起死回生の一手とする事を目論んでいるのだろう。
今の所、俺はその戦いに参加をするつもりは無い。
戦争ともなれば国力の低下は免れないだろうが、シェリー王国の貴族達は先の戦いでは活躍の場を奪われている。王族からの信頼を回復する為にも新たな活躍の場を求めていたから、バローロ王国を討つべしの気運が高まっているそうだ。そこに俺が参戦をすれば水を差す事になるから、皆言葉にはしないまでも俺の参戦を促す声は皆無だそうだ。
そうは言っても戦争では何が起こるか解らないから、今後の状況次第だし、補給の支援位はと考えてはいる。まぁ雪が溶けてからの話だから、もうしばらくは先の話だ。
目下の所、目先の目標はドラゴンの討伐。その後はレア素材を採取しつつ装備を更新を目指す。装備が整えば災厄の竜を討伐する事も考えているが、実の所どうするかは悩んでいる。災厄の竜を討伐するには大きな問題が有るからだ。まぁ直ぐにどうこう出来る訳では無いから、状況を見つつ準備を整える事にしよう。
準備は既に整っているから、朝議を終えるとフランシーヌとマリーズ、そしてオーギュストさんと連れ立って4人で、一路ドラゴンの居住区を目指す。
エターナルワールドでもワールドマップの構成はランダムだから、この世界の最上級エリアがどういった構成かは解らない。ただ、ドラゴンの居場所はほぼ決まっていて、大陸中央部の旧文明の大都市跡、通称廃都だ。
かつて魔導文明が栄えていた時代、最上級エリアには幾つもの大都市が有った。その1つ、大陸でも最大規模の大都市の廃墟に、ドラゴンは居を構えている。廃墟と言っても、かつての街並みは殆ど残されていない。強大な力を持つ魔物による蹂躙され、ほんの僅かな間に壊滅をしたからだろう。
瓦礫が堆く積もった荒野の真ん中に、ドラゴンは巣を構えている。魔導文明が滅んでから1000年。ドラゴンの領域を脅かした者は居ないから、俺達がその領域に足を踏み入れた所で奴は気にも止めない。それを逆手に取って、奇襲を掛ける事が可能だ。
とは言え、そこ迄はそれなりの距離を走破しなければならない。
最上級エリアは魔力の満ちた土地だ。その為、自生している植物はどれも巨大で、魔導アーマー越しに見てようやく普通のサイズに見えるのだから、その巨大さを伺い知る事が出来る。それこそ、巨木ツリーのバイオームに生える木々よりも巨大なのだ。
生息している魔物も、どれもこれもが強大な力を秘めている。最小クラスでも全長が5m程。巨大種になれば全長が20m~50m程になり、フィールドボスクラスになると全長100mを越える魔物が無数に生息している。
恐らくレア等級相当の聖騎士級魔導アーマー4体編成だから、フィールドボスでも早々に後れを取る事は無い筈だ。ただ、基本的にフィールドボスはドラゴンよりも格上の魔物ばかりだから、現時点だと好き好んで相手をする必要が無い。フィールドボスが生息している場所は、特殊な環境が殆どだし、遠目にでも伺い知る事が出来るので慎重にその領域は避けて、一路大陸中央部を目指して行く。
なにせ魔導アーマーで駆け抜けるので、その速度は段違いに早い。まぁ早いと言っても幾度と無く襲い来る魔物を迎え討ちながらだから、一気に駆け抜けると言う訳にも行かない。それに、その日の行軍を終えるタイミングで拠点を構築する必要が有るが、今までとは違って十分な迎撃能力を備える為にかなりしっかりとした迎撃拠点を構築する必要が有るから、それ也に時間を要する。
午後の3時を過ぎたあたりで拠点の場所を定め、3人に周囲の警戒をお願いしつつ、50m四方の拠点を構築する。出入口となる門以外には、3段構えの迎撃装置を設置して拠点を完全に囲い込む。火力に劣るとは言え、これだけの火力を集中させれば早々拠点にダメージを受ける事は無い。それでも大型種が2〜3匹纏まってくると壁に到達する事もある。強力な遠距離攻撃を持つ魔物も居るので油断は出来なかった。
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