第143話 最上級エリア到達
どれ程の巨体であろうとも、重たい部分が下に沈むのは自然の摂理だ。それはリヴァイアサンであっても変わりは無い。背中には鉄よりも遥かに重たい比重のアダマンタイト製の鱗が生えているので、討伐が完了して暫らくするとお腹を上にして浮かぶ事になる。
この時の為に用意している捕鯨銛を頭部側から腹部に向かって、人で言うなら腹と言うよりは顎の下辺りだろうか。そこに捕鯨銛を撃つ。射出装置から放たれた巨大な銛が突き刺ささる。
後はその巨体を牽引して、最上級エリアを目指す。
リヴァイアサンの討伐が完了すると、ゆっくりと嵐は去り、暫らくすると雲1つ無い晴天になる。嵐で雨が吹き荒れる最中は全く見えなかったが、こうして空が晴れ渡って空気が澄むと、南には最上級エリアの大陸が視界に入る。
微かに大陸が見えると言っても、実際にはまだまだ距離がある。凡そ100㎞程。リヴァイアサンの巨体を牽引してだと、さすがに最初は殆ど動かないが、ゆっくりと動き出せば次第に加速していく。それでも出せる速度は最高速度の半分に満たない位だから、3時間弱の時間を掛けてようやく昼過ぎには大陸の海岸がはっきりと見える距離迄近付く事が出来た。
幸いな事に、真っ直ぐ進むと接岸が容易な砂浜が点在して見える。その中から手頃な砂浜を目指して、若干方向を修正しつつ更に進んでいく。そして距離が5㎞を切った辺りで最大まで船速を上げて、リヴァイアサンと魔導船を繋ぐ捕鯨銛に結わえられたワイヤーを切り離した。
後は一気に速度を上げて、リヴァイアサンの進行ルートを回避する。さすがにここまで来て自分が引っ張って来たリヴァイアサンの死体に轢かれる様な事は避けたい。速度は簡単には落ちないから、それでも少しずつ減速はしつつ、リヴァイアサンの死体はその勢いに乗せて一気に砂浜に乗り上げる。一旦陸に乗せてしまえば、後は簡単に採取する事が可能だ。
これだけの巨体だから、採取ツールを突き立てても一気に採取が出来る訳では無い。頭部、左右のヒレ、腹、尾びれと、それぞれの部位で採取が出来るし、鱗に至っては1つ1つが採掘ポイントとして採取が可能になっている。
鱗だけでも数百枚あるから、採取しようと思えばそこそこに手間だ。例えば採取をこうして牽引せずに海上で行おうと思えば、海上に浮き出ている腹側からしか出来ないので、結果鱗の大部分は海中に沈んで行く事になる。しかも当然の事ながら海上でも魔物が襲ってくる。
現在魔導船に装備している艦載兵器はいずれも自動の迎撃機能を有していないので、採取中に魔物に襲われても勝手に攻撃してくれる訳では無い。海上で採取を行っている時に魔物が襲ってくれば、艦載装備を頼らずに魔物に対処しなければならないから面倒だ。まかり間違って海に落っこちてしまうと魔物の対処は一気に難易度が上がるから、タイミングが悪ければ最悪やられてしまう可能性も否定が出来なかった。
まぁ今ならフランシーヌとマリーズの援護があるからどうにかなる気もするが、だからと言ってわざわざ危険を冒す必要も無い。
と言う訳で、こうして時間を掛けてでも牽引をして来た訳だ。リヴァイアサンが浜辺に打ちあがった後、直ぐ傍に魔導船を停泊させて、一気に拠点化を進めて行く。
最上級エリアだから、出現する魔物の強さも一気に跳ね上がる。対処する為の火力は十分とは言えある程度はちゃんとした迎撃装置を設置した拠点をクラフトする必要がある。何時も通り造成装置を使って整地、城壁の設置、迎撃装置の設置と手早く進めて行った。
俺が拠点を建造中、フランシーヌは何時も通り付かず離れずで魔物の対処を行ってくれたが、マリーズはと言えばずっとリヴァイアサンに張り付いて隅々まで調べていた。まぁ調べて何が解ると言うものでも無いだろうが、興味は尽きない様だ。
さて、拠点設営が終わると、いよいよリヴァイアサンの解体だ。
「マリーズ、それじゃあそろそろ解体をするよ?」
「そうですね、ありがとう御座います。興味は尽きませんが仕方無いですね。どうぞひと思いにお願いします」
まるで自分が介錯をされるかの様に、膝を付いて両手を目の前で組む。きっと目を瞑っているんだろうが、流石に魔導アーマー越しではそこまでは解らない。興味は尽きないから、いっそ一思いにと言う意思表示か。マリーズの気持ちは解るが出来れば早々に解体を済ませてしまいたかったから、そんなマリーズを横目にリヴァイアサンの解体を始める。
何せこれだけの巨体だから邪魔になるし、採取をすれば様々な有益な素材が採取出来る。それに、魔物の死体にはそれぞれ消失時間が設定されているから、何時までもそのままにすれば素材が無駄になってしまう。
リヴァイアサンの固有素材を使った専用装備をアンロックする為には技術レベルが80は必要だから、クラフト出来るのはまだ先の話だ。だが、アダマンタイトに魔石(特大)があれば、課金レシピの聖騎士型魔導アーマーがクラフト出来る。
魔導アーマーは兵士・騎士から重騎士、重騎士から聖騎士と階級が上がるにつれて、ちょっとずつサイズが大きくなる。聖騎士ともなれば体高が8mなので、身長だけで人と比較すると実に4倍強。装備出来る武器も同様にサイズが大きくなり、比例して攻撃力が増加する。防御力や体力(耐久力)も増加するので、相手が初期エリアのフィールドボスなら魔導アーマーを装備して相対すれば、仮に攻撃が直撃をしても殆どダメージを受ける事なく封殺する事が出来る。魔導アーマーと装備品の等級が上がればドレイク迄なら全く問題にならない。
当初の考えでは、リヴァイアサンは撃退で済ませるつもりだったので素材が揃う予定は無かったが、結局準備に十分な時間を掛ける事にしたので、素材が揃う見通しが立った。だから、クラフト出来る装備品は、どんどん更新をしようと思う。
2カ月近い時間を掛けてリヴァイアサンを討伐する事にしたのは、素材が欲しかった訳じゃ無くてリスクを少しでも減らす為だ。撃退だけなら魔導船をレジェンド等級迄上げる必要は無かった。だが慣れているとは言え、広い海洋から捜し出さなければならないリヴァイアサンは、討伐の試行回数が他のボスに比べて格段に少ない。倒した回数なら最終ボスのハザードドラゴンの方が遥かに多い。
最初の頃に嫌と言う程失敗をしたので、立ち回りについては十分な経験がある。とは言え試行錯誤をしたのは10年は前の事だし、もしかすると気が付かないだけで忘れている事もあるかも知れない。魔導船の等級を下げれば応じて回避の難易度は上がるので、回避を失敗して死亡する可能性だって無い訳じゃない。それだけは避けたかった。
結局十分な安全マージンを取ろうと思えば、結果として討伐が可能なだけの戦力が揃ったと言うだけに過ぎない。討伐する事を選択したのは、さすがにレジェンド等級の魔導船なら、万が一にも失敗はしない自信はあったからが。
リヴァイアサンが討伐出来れば、DLCの聖騎士型魔導アーマーがクラフト出来る。魔導ユニットは、魔石の大きさで出来上がる魔導ユニットの出力が変わるが、レシピ自体は共通で、要求される技術レベルに変わりは無い。特大魔導ユニットは、魔石(特大)さえ入手出来ればクラフトが可能になる。
聖騎士型魔導アーマーのクラフトは、通常ならアダマンタイトのインゴットが必要になるし、インゴットに出来る改良型大型魔導炉をクラフトする為にはドラゴン討伐の実績が必要になる。だが課金レシピならアダマンタイト鉱石から直接クラフトが可能だ。課金レシピ様様だな。因みにリヴァイアサンを討伐しなかった場合は、最初に特大サイズの魔石をドロップする可能性があるのはドラゴンだったりする。
今迄にクラフト出来る最高戦力だったレジェンド等級の重騎士型魔導アーマーよりも、課金レシピのレア相当の聖騎士型魔導アーマーの方が性能では上回るので、ドラゴン討伐のリスクも極限まで減らす事が出来る。と言うかブレスを正面から浴びなければ死ぬ可能性は無いに等しいので、全く問題にならないだろう。それに採掘速度が倍以上に向上する事も恩恵としては大きい。
今は重騎士型で、2×2ブロックの採掘が可能だ。普通にピッケルを振るよりも4倍速い。それが聖騎士型になれば、3×3、9ブロックを一気に採掘出来る様になる。ドラゴンを討伐すれば、程無くしてオリハルコンやヒヒイロカネを使ったレシピも解放されるので、そうなればひたすら穴掘りだから、どちらにしても聖騎士型魔導アーマーが必要になる。いやぁー、本当にリヴァイアサンが討伐出来て良かった。
と言う訳でリヴァイアサンの解体に取り掛かる。
フランシーヌも俺も、最近こうした作業を行う際は魔導アーマーを使用している。細かい作業は慣れが必要だが、俺はゲームで慣れ親しんでいるので特に不便は感じない。それに魔導アーマーを装備していれば襲ってくる魔物の対処も容易だから、装備しないと言う選択肢は無かった。とは言え、既に拠点を構築して十分な数の迎撃装置を設置したので、余程の事が無い限りは問題は無いだろう。
リヴァイアサンの解体が完了したのは、そこから3時間後。日が暮れて少し経ってからの事だった。
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