第142話 リヴァイアサン討伐

リヴァイアサンの攻撃方法は、先程見た大量の水槍。

潜行してからの体当たり。あの巨体だから直撃すればひとたまりも無いし、完全に躱すのも難しい。何とか避けようとしても回避が間に合わなければ掠っただけでも背中にびっしりと生えた硬質の鱗が船体を一気に削り取るので、大抵は一撃で船底に穴があく。あの背中の鱗は何とアダマンタイト製だ。しかも、飛び出した時は500mの巨体が半ば迄水上に持ち上がるので、それが着水した時の余波も凄まじかった。


そして最強の攻撃は、水のブレス。大きく吸い込んだ大量の水を一気に吐き出す。


リヴァイアサンの速度は時速で50km位。潜行中はもう少し速度が上昇する。

つまり最低でもそれだけの速度が無ければ、有利な位置を取る事が難しい。


現在の技術レベル60までにクラフトが可能な艦船は、魔導船以外にも駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦が用意されている。


ただし、搭載出来る装備が限定されていて、駆逐艦は船速が早く小回りが利くが、小さい分波に弱いし火力が足りない。戦艦なら十分な火力があるが、どうしても旋回半径が大きく小回りが利かない。上位等級のレシピがある今ならどうにでもなる気がするが、初めてリヴァイアサンに挑んだ時は、どれ程の船を海の藻屑にしたのか数えきれない程だ。巡洋艦ならその間なので、どっち付かず。いずれにしても決定打に欠ける。


そんな中、魔導船を選択した理由は大きく3つある。


1つ目は、搭載出来る艦載装備がかなり自由で融通が利く事。現在装備しているのは技術レベル61~の上位装備である対艦ミサイルと対潜ミサイルだ。技術レベルが足りないので基本レシピはアンロックされていないが、アンコモン以上のレシピは獲得さえしていればアンロックの必要が無い。素材自体はアダマンタイトやオリハルコンと言った最上位素材が要らないので、今ある手持ちで足りる。時間さえ掛ければクラフトが可能だ。


リアル兵器の場合は、ある程度装備枠が限定されている。戦艦に搭載出来る装備は、大型艦載砲、対空機銃、機関砲。リヴァイアサンが潜行した際の攻撃手段が無く、最大火力を誇る大型艦載砲は火力こそ申し分は無い物の射角が限られるので立ち回りが難しくなる。その点、ミサイルは最初に200m程上昇してからホーミングするので、近すぎると命中率が下がるが一定の距離さえ取れば射角を気にしなくても良い。


2つ目は消波性能が高い事。動力は魔導ユニットで、船体後部のスクリューがメインの推進装置だが、補助として船体周囲の水流を操作して推進する事が可能になっている。船を水の膜が覆っている状態なので、波をある程度打ち消してくれるのだ。因みに少し時間は掛かるが、船首部分と船尾部分の水流を逆にする事でその場で動かずに旋回する事も可能なので、旋回性能も非常に高い。


3つめは、船首に装備された捕鯨銛だ。戦闘中にリヴァイアサンに打ち込んでしまうと、簡単に海中に引き摺り込まれてしまう。だが、討伐後に打ち込んで牽引すれば、安全な場所で採取が可能になる。


リヴァイアサンは、最上級エリアに進出する際に必ず遭遇する強制イベントだが、何も討伐する必要は無い。30分の制限時間が定められていて30分以内に一定数ダメージを与えれば撃退する事が出来る。採取は出来ない物の、撃退さえ成功すれば最上級エリアに進出する事が出来る。因みにダメージが足りなければ、竜巻に呑み込まれて海の藻屑となる。


リヴァイアサンは素材の宝庫だ。鱗はアダマンタイトの塊だし、本体部分からはオリハルコンや魔石(特大)を採取する事も可能だ。だが、この強制イベント以外で討伐をしようと思えば、陸地よりも更に広い海洋から捜し出さなければならないから、遭遇する為の難易度が一気に跳ね上がる。だから、確定で遭遇出来るこのタイミングで何としても討伐をしたかった。討伐に成功すれば採取を行う必要が有るから、そうなれば安全な場所まで牽引できる捕鯨銛が必要と言う訳だ。


因みに、牽引用の捕鯨銛が何故船首部分にあるのかは良く解らない。同じ疑問を感じた人は多い様で、何処かのデザイナーズノートで、男のロマンと言っていた記憶がある。まぁ牽引自体に支障は無いので、問題は無いのだろう。


30分と言う制限時間で体力を削り切るのは中々に難しいが、今なら十分な火力がある。他のボスモンスターに比べれば試行回数は少ないが、それでも撃退に成功する迄に幾度と無く海の藻屑となった経験があるから、その時に叩き込んだ立ち回りは今でも覚えているから問題は無かった。


レーダーから消失したリヴァイアサンが、少しの間を置いて直下に表示される。ここから浮上する迄の間に、迅速に距離を取らなければならない。ここから浮上に掛かる時間は2分。1km位は距離を取らないと波に煽られて転覆する事もある。コモン等級の船だと、結構ぎりぎりのタイミングだ。


この魔導船なら、浮上中もレーダーに敵影さえ映っていれば対潜ミサイルで攻撃をする事が出来るから、距離を取りつつも次々にミサイルを放つ。


リヴァイアサンが浮上をするとその上体がこちら側に倒れる事で、凄まじい波が押し寄せてくる。この時、浮上地点に対して垂直であれば影響は最小限になるから、旋回して避けると言う選択肢は無い。この時、リヴァイアサンは確定でこちら側に向いた状態になる。そして、波が収まる頃に放たれる最強の攻撃である水のブレス。


旋回軌道を取るのが早すぎると波で転覆し、遅すぎると追撃のブレスで木っ端微塵になる。このタイミングが結構シビアで、何度となく失敗した記憶がある。

でも、この魔導船なら消波性能も船足も旋回速度も十分な性能が有るから、余裕をもって回避行動を取りつつ攻撃が行なえる。


ブレスが納まる頃にはリヴァイアサンの側面まで移動をしているので、後はまた回り込むように旋回しつつ、ひたすら対艦ミサイルを撃ち込んでいく。


背面に回り込むのは、潜行を促す為でもある。対艦ミサイルの攻撃では、一番防御力の高い背中の鱗に阻まれるため、思ったよりもダメージを稼ぐ事が出来ない。潜行中なら、追い越さないように気を付ければ、高い確率で柔らかい腹の部分に対潜ミサイルが命中してダメージを稼げる。潜行に移行した時に速やかに腹めがけて対潜ミサイルを撃ち込む為にも、このポジションがベストだ。


リヴァイアサンは一定時間攻撃が出来ない状態を継続するか、一定値のダメージを蓄積すると潜行する為、バランスを考慮して対艦ミサイルと対潜ミサイルの搭載数を決めている。レジェンド等級の対艦ミサイル2門で、5分程で潜行に移行させる事が出来て、その後は4門の対潜ミサイルで一気にダメージを稼ぐ。


全部を対潜ミサイルにしてしまうと、海洋で大型種の魔物に遭遇すると対処出来ない場合がある。対空機銃を2門装備しているのも同じ理由で念の為だ。


そしてその後4度の潜行を経て、制限時間を5分残してリヴァイアサンの討伐に成功した。討伐に成功すると、先ほどまで吹き荒れていた雨風が急速に弱まり、雲が薄くなっていく。そして雲の晴れると、雲の隙間から日が差し込んできて、海面に浮かぶリヴァイアサンの巨体を照らし出してくれる。


5分残しは随分とギリギリな様に思えるが、そもそも強制イベント以外では制限時間は存在しないから、討伐に1時間以上掛かる事もざらだ。それに撃退ラインが30分で体力を2割削る事なので、それと比較をすれば25分討伐は要した時間としてはかなり短い事が解る。


リヴァイアサンの攻撃は、どれも当たればレジェンド等級の魔導船でも木っ端微塵とは言え、当たらなければどうと言う事は無い。3界の獣は、この後に挑戦するドラゴンよりも上位の魔物なので、ドラゴン戦には全く不安は無い。


リヴァイアサン討伐も一見すれば淡々と避けて攻撃するだけなので端から見れば単純な作業で随分と簡単に見えるだろうが、その為には2か月掛かって素材を集め、今までに何度となく失敗した経験の積み重ねがあって初めて成し遂げる事が出来るものだ。

そもそもレジェンド等級の魔導船レシピを獲得するのも、相当手間が掛かっている。何せドロップ対象が最上級エリアのフィールドボス。そこには今倒したリヴァイアサンも含まれている。


でも、隣で見守っていた二人にとっては、そんなに簡単なものでは無かったらしい。

その巨体にそぐわぬ表現だが、ぷかっと浮かんだリヴァイアサンの死体に日が差し込んだのを見て、ようやく実感が湧いたのだろう。歓喜の声を上げると左右から俺を抱き締めてくれる。


リヴァイアサンは、この世界では伝承に語られるだけの伝説上の生き物だ。当然誰も目にした事が無い。超大型種と呼ばれる魔物を遥かに凌駕する巨体。それを初めて見たフランシーヌとマリーズにとっては、それは神にも等しき存在だった。


当然魔導文明の滅亡以降に上級エリアを攻略して、最上級エリアに進出を試みた者は居ないので目撃情報は無い。魔導文明が滅亡する際に残された極僅かな資料にのみ記録が残されており、その滅亡を戒めとして後世に伝える伝承の内にて語り継がれるのみだ。


それ程の魔物と対峙して、僅か30分足らずの時間で圧倒して見せた。結果については余り心配をしていなかったとは言え、初めてリヴァイアサンの姿を見た時に圧倒されたのも事実だ。


最初に夥しい数の魔法陣が展開した時、そこに込められた魔力に戦慄した。リヴァイアサンがその内に秘めた魔力の膨大さを感じると、怖ろしさを感じた。それを圧倒して見せた卓也の力に、神々しさを感じた。彼の力は、まだまだ先があるのだと言う。ならばその先にある彼の力とはどれ程のものなのだろう。クラフターとして物を生みだす力。それは、この世界さえも作り変えてしまう様な、そんな予感さえ感じるものであった。

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