第141話 最上級エリアを目指して

もう直ぐ年も変わろうかと言う頃、ようやくレジェンド等級の魔導船をクラフトする為に必要なミスリルを揃える事が出来た。


アマテラスもすっかり冬だが、上級エリアは赤道に跨っている。最上級エリアを目指そうと思えば赤道を越える事になるので、当然その辺りは12月でも暖かい。


本来冬は余り外を出歩かないのだろうが、アマテラスでは季節が変わっても生活に殆ど変わりが無かった。各種資源、それこそ野菜の収穫ですら真冬でも可能。家畜も本来であれば冬は餌が枯渇するから、冬が来る前に何頭かは締めて保存食にするのだが、餌になる穀物類も十分な備蓄があるからそのまま世話をしている。


アマテラスでは暖を取る為に必要な燃料が十分に行き渡っている。それに毛糸も十分な量が供給されているので、皆毛糸で編んだ服を身に纏って居て寒さを凌いでいた。それに身体が冷えれば風呂で温める事も出来る。因みに、領民が自分達で建てた家であっても、希望があればトイレと風呂は俺が設置する様にしている。衛生環境の向上に直結するし、替えが利かないからだ。


ブルゴーニからの移住組でも移民組でも、大抵は今まで身を寄せ合って冬を乗り越えて来た人が大多数だったから、アマテラスがどれ程快適な場所なのかを日々実感していた。

その影響もあってか、アマテラスの大聖堂で祈りを捧げる人々が日々増えている。聖女のお膝元であり、聖女に祝福された町。赴任して来た教会長は、アマテラスとトウカが聖地だと日々説いていた。


教会長ともなれば、聖女の神託を知らない訳では無い。その聖女が伴侶を定めたのだから、正式な通知が無いとは言えタクヤが神託で予言された神の現身である事は容易に想像出来たが、あえてその点については触れなかった。

正教会本部から正式な通知がない事、聖女こそが正教会の象徴的な存在である事。何より、タクヤが神であるかどうかを一介の司祭が問うのは余りにも不敬だったからだ。


とは言え、教会長として招聘されて辺境へ来てみれば、かくも荘厳な大聖堂。そして宮殿や町の生活ぶりを見てそれを齎したのがタクヤだと知れば、疑う余地など無かった。教会長は、この地に赴任された幸運にただただ感謝をするのだった。


さて、年の瀬も迫る頃、ようやくレジェンド等級の魔導船が完成した。今年一年の締め括りとして、何としても最上級エリアへの進出を果たす、そう心に決めていた。

準備は整ったから、後は実行に移すだけだ。


レジェンド等級の魔導船。通常の魔導船の2.5倍の性能を誇る。強襲魔導船と比較しても凡そ8割の性能アップ。攻撃力が8割上がったからと言って、単純に与ダメージが8割上がる訳では無い。船速や走行等、諸々を考慮すると強襲魔導船を10隻並べるよりも戦力は上回っていた。


しかも、1番の利点は艦載装備が自由に選択できるテンだ。対リヴァイアサン戦に於いては、魔導兵装よりも火薬を素材とした兵器群の方が遥かに相性が良い。

8箇所ある艦載装備の設置箇所には、対空機銃が2門、対艦ミサイルが2門、対潜ミサイルが4門搭載されている。いずれもレジェンド等級だ。


ミスリルを集める際に、火薬の原料は十分な量をストックしているから弾が枯渇する心配は無い。


上級エリア最大規模の大陸の南端に建造した拠点から、最上級エリアを目指して丸1日かけて突き進む。最大船速は50ノット、時速にすると92.6km/h。

どれ位時間が掛かるかが解らないから、昨日は朝議を終えて早々に出航をした。


ブルゴーニからの移民は全て契約を完了しているので、今は週に100人程度のペースで面接を行なって契約可否を判断する方式を取っている。面接時点で友好度が親密になっていない、即ち忠誠を得られていない場合は、どれだけアピールをされたとしてもアマテラスの居住権を与える事が出来ない。とは1発アウトでは無く、最低3ヶ月かの猶予期間が必要だが、改めて面接を受ける事は出来る様にしている。


最初の頃はちらほらと契約が出来ない人が居たが、最近では非常に稀だ。どんな人が市民権を得られないのかはある程度情報の集積がされている。対象になりそうな悪感情を持っている人は自ら改善を試みるようになったから、今だと余程の事が無い限りは弾く事は無い。正直、これ程領民にとって暮らし易い環境が整っていながら、領主である俺に対して忠誠を誓えないのなら、アマテラスには不要とまで言われた。それを言ったのはオデットさんだけでは無く、フィリップを始めとしたアマテラスの中核人物達。果てはトリスタン陛下迄。なので、俺としては多少なりとも心苦しい部分もあるが、余り気にしない様に心掛けている。


まぁそんな訳で午前中一番時間が取られる作業が一段落したから、朝議を終えれば比較的自由に動ける。今日の朝議を手短に済ませると俺はフランシーヌとマリーズを伴って最上級エリアを目指す事にした。


フランシーヌとマリーズの2人を乗せても、海上では出来る事は無い。かと言って今更危険だから置いていくと言っても聞き入れてくれる筈も無い。今持てる最大火力を用意したから、リヴァイアサンに遅れを取る事も無いだろうから、結局3人で船旅を楽しむ事にした。


アマテラスなら、寒い日は氷点下の日もある位には寒い。11月半ばにはパラパラと降り始め12月には一面の銀世界。3月の春が訪れる迄、基本的に雪が溶ける事は無い。だが赤道付近のこの辺りなら1月の最低気温でも20度を下回る事は無く暖かい。


だからと言って、1月に嵐が来る事が有るのかと言えばそんな事は無い筈だが、時間も季節も問わず、リヴァイアサンは必ず嵐を伴って現れる。


出航した翌日、日が上ってしばらくすると、南の方角の空に黒雲が俄に立ち込める。さぁ、いよいよリヴァイアサンのお出ましだ。


リヴァイアサン、またの名をレヴィアタン。ベヒモス、ジズと並んで3界の獣として語られる事が多い、海の支配者だ。


一度嵐が発生するとどうやっても必ず追いつかれるので、進路は真っ直ぐ南に向けたまま。嵐に近づけば海は荒れ、大きくうねった波が船に襲い掛かる。船によっては大波で転覆する事もあるが、魔導船は対波性能が非常に高いので、大波が来てもそれ程揺れることがない。


荒波に揉まれながら、動じる事なく前を見据える。見えた!リヴァイアサンだ!

因みに船にはレーダー機能もあるので、レーダーに巨大な影が映れば直ぐに解る。進行方向、レーダー上部に巨大な影が映っていた。


リヴァイアサンは、一見すると巨大な鯨に見える。全長は約500mと凄まじい巨大さだ。地球最大の哺乳類と言われるシロナガスクジラで全長20m前後。原子力空母で400m弱。それを更に上回る大きさだから、遠目にはまるで小さな島が近付いて来る様に見える。


相対距離凡そ5km。風が吹き荒れ激しい雨が横殴りで船体を叩きつけるが、彼我の距離がそれ位になれば波の合間にはっきりと姿が見て取れる。5kmを切るとリヴァイアサンは攻撃体勢に入る。巨大なヒレをまるで翼の様に持ち上げる、背中をびっしりと覆った鱗が、頭の方から順に立ち上がって行く。鱗の1枚1枚が1m四方はあろうかと言う巨大な板の様で、それが並んで逆立って行く。そして鱗が発光を始める。そうする事で己が魔力を高めているのか、広げたヒレの全面に、夥しい数の魔法陣が展開されていく。


この距離からでも敵は撃って来るので、速度を維持したまま旋回軌道を取る。さすがに嵐の中なので多少速度は落としているが、それでも時速で言えば60km/h程。


魔法陣が巨大な水の槍を生み出し、次々と魔導船目掛けて発射される。だが、魔導船の旋回速度の方が早いから水槍は船の後ろに着弾して幾つもの水柱が上がる。手数が多いと言っても予測して撃つ訳では無いので、さすがにこのスピードならまず当たる事は無い。1分程の弾幕が途切れると、左に切った舵を一気に右に向ける。リバイアサンがこちらの動きに同調して右手に旋回をしようとするが、回転半径はこちらの方が小さく船速も早い。レーダーで見ると殆ど掠める様にすれ違った後、こちらがぐるっと回り込む様に360度回転する頃には、前方にリヴァイアサンの背面を捉える。そのまま、少し大回りに回り込み、右手後方、腹が見える位置へと肉薄する。そこ迄時間にして凡そ5分。


旋回行動を取る間、こちらも攻撃を加える。搭載している艦対艦ミサイルが、シュバーン、シュバーン、と発射音を奏でながら次々と吐き出されて行く。

200m位まで上昇すると、そこからリヴァイアサンに向けて飛んでいき次々と着弾して爆音を響かせる。


真後ろに着くとリヴァイアサンは尾びれを持ち上げて水面に叩き付ける行動をする。近くにいると巨大な水飛沫と波が押し寄せて来て転覆する事もあるので、背面からの接敵は危険だ。それに対艦ミサイルはその軌道の関係で、対象が余りに近いと上手く命中しないので、相対距離が1㎞を切らない様に注意する。


リバイアサンから見て4時の方向、1~2㎞程の間隔を取って追走する。旋回半径はこちらの方が小さく、最大速度でも上回る。一度背面を取ればリヴァイアサンの動きを見ながらでも追従する事が可能だから、付かず離れずで5分程は追いかけごっこが続く。


しばらくすると鱗を畳んで速度を若干落として潜行体勢に入る。そのまま沈んで行くリヴァイアサン。こうなると対艦ミサイルではダメージを与える事が出来ず、しばらくするとレーダーからロストしてしまう。だが、魔導船には対潜ミサイルを搭載しているから、レーダーからロストする迄は対潜ミサイルで追撃を行った。

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