第130話 クラフター

「思ったよりも多いですね」


「そうだね、こうして見ると、なかなかの威容だと思う」


偵察の為にアパッチで高高度から眼下を見下ろす。そこには北進を続けるセザール大公の軍列が長く伸びているのが見て取れた。


敵の進行状況を確認する為、フランシーヌとオデットさんをアパッチに乗せてグルっと一回りするとアマテラスへ帰投する。


王国では、セザール大公とアマテラスの戦いは静観する事に決まった。そもそも今から王都を出ても、到着する頃には既に勝敗は決している。


王国上層部では戦いの結果など火を見るよりも明らかでは有ったが、戦後処理が必要になる。軍を編成し、一路セザール大公領へと兵を進めた。国軍を指揮するのは、王太子であるアラン将軍である。


一方アマテラスでは、旧ピッチで戦車隊の新設と習熟訓練が行われていた。

魔導アーマーは正騎士の乗騎とし、准騎士に戦車が配備された。とは言え、准騎士の多くは物資の輸送と移民の護送の為にアマテラスを離れている。それ程の数は配備出来なかった。


アマテラスの軍容は、


重騎士型魔導アーマー3騎

フランシーヌ、オデット、マリーズがそれぞれ専用機を駆る

騎士型魔導アーマーが20騎

騎士型魔導アーマー(魔術兵装)の魔導隊が10騎

戦車隊が60両

第二次世界大戦時、最強と呼ばれたティーガーIIを配備した。勿論、安定の課金レシピだ!


戦車配備後、習熟訓練で小高い丘に向かって60両の戦車砲が一斉に火を吹いたが、その轟音は凄まじかった。20㎞近く離れたモンペリエでも聞こえたそうだ。射程も長く、3㎞迄なら殆ど誤差無く着弾が可能だった。


「これって、多分私達の出番が無いんじゃない?」


その光景を見てそう零したのは魔導隊を指揮する予定のマリーズだ。魔法使いは戦場の華だ。遠距離から戦術級の魔法で、敵陣に痛撃を与える事が出来る。


魔導アーマーに搭乗した魔法使いは、通常よりも遥かに強力で大規模な魔術を展開出来るが、3㎞離れた丘を荒地に変えてしまったその威力を目にすると、自分達の存在意義を疑うのも無理からぬ事だった。


因みに戦車の操縦も、各戦車にNPCをアサインをする事で可能になった。操縦席に座れば、自ずと操作方法が解るのだそうだ。プレイヤーが戦車を駆る時はアパッチと同じ様に第三者視点になるが、同じ扱いだったから習熟も簡単だった。


高射程モードに変更すれば、見下ろし視点で着弾点予測のマーカーも出るのだから、早々外す筈も無い。


こうなると一番の問題は軍団の移送だ。なにせティーガーIIの幅は4m程もある。転移門をくぐれる大きさでは無い。魔導アーマーなら尚更の事だ。

一度設置済みの兵装をアイテムボックスに仕舞うには登録スロットを占有する必要が有る。かと言って一からクラフトするには専用設備が必要だし時間も掛かるから、戦場付近で用意する事も出来ない。普通に軍団を移動させようと思えば、アマテラスからの行軍が必要になる。


だが、最近とんでもない事実が判明した。


エターナルクラフトでは大型アプデ以降、大規模な戦闘がメインコンテンツになった。戦争と呼べる規模で兵器同士が争う事もある。その際、自動制御による兵器群の操作はどうしても動きが単調になる為、取れる戦術が限られてしまう。その解決策として、NPCをアサインする事で柔軟に運用が出来る様になったのだ。NPCの管理AIは非常に優秀で、自身の判断で臨機応変に兵器を運用する事が可能になった。


さて、兵器をアサインする事で、NPCは兵器をする訳だが、同一の装備欄にある装備を変更する場合はプレイヤー自身での操作が必要になる。しかも装備品を上書きするしか無い。


だが、異なる装備欄であれば、任意での付け替えが可能になるのだ。最初に気付いたのは装備表示のオンオフ機能だ。最初は都度卓也が行っていたが、ある時フランシーヌ自身がオンオフの切り替えが出来る事に気が付いた。それからは必要に応じて、フランシーヌが自分で装備を一瞬で付け替える事が可能になった。


次に剣と射撃武器だ。こちらも装備欄が異なるので武器の出し入れ、装備の切り替えが自由に出来る様になった。どうもメニュー表示が無くともNPC用のアイテムボックスみたいな物が備わっているらしい。出し入れ出来るのはあくまで装備品に限るのだが。


そして問題の兵器だ。NPCには特殊兵装の装備枠が設けられていて、魔導アーマーや戦車はこの装備枠に納まる。つまり、戦車や魔導アーマーは、NPCが自由に出し入れが可能なのだ。流石に搭乗は自身で行う必要が有る。だが、何処にでも、何時でも、任意で出し入れをする事が出来た。


つまり現地へ転移門を設置して、直接移動してから戦闘配置に着き、そこから戦車や魔導アーマーを運用する事が可能だったのだ。


そこで3日後、セザール大公軍が野営を行う際に、翌明け直前に布陣を行い一気に殲滅をする案が採用された。


全軍の指揮はオデットが勤める。総大将はフランシーヌ。


俺は予定日の深夜に、敵陣の後ろ5㎞程の場所に転移門を要した拠点を設営する。そして、開戦までに防衛線を構築する。500m置きにタレットを設置するだけの簡単なお仕事だ。それだけで、魔物の侵入を防げるし、戦いの後に逃れる敵兵を漏らす事無く殲滅する事が可能になる。その為、防衛線はかなりかなり余裕をもって10㎞設置する事にした。


万が一敵軍が川を渡れば防衛線を抜けて逃亡する事も可能だが、そこ迄は気にしても仕方が無いだろう。


因みに、敵軍の後方への移動方法は単純明快で、俺が魔導アーマーに乗って大きく迂回をする事にした。敵の偵察網に引っかかる可能性も否定が出来ないが、この世界では夜は魔物の活動が活発化するので、少数による偵察行動は推奨されていない。10㎞位距離を取って迂回をすれば、まず見つかる事は無いと判断された。


戦闘が始まれば、俺はアパッチに乗って高所から戦況を見守る。一応オデットさんと通信可能な魔道具を所持しているので、適時連絡は可能だ。

その際に戦況を実見する為に、トリスタン陛下と第一王妃が同行する事になった。

第一王妃先日契約を済ませて居る。宰相は陛下不在の間、切り盛りをする為に城に残る。まぁアパッチの定員は3名で、第一王妃がトリスタン陛下が実見する事を聞きつけて、自分も同行すると強く望んだ為で、消去法で残る事になったのだが。


第一王妃も聖女を奉じる敬虔な信徒なのだそうだ。聖女の勇士を何としても目に焼き付けたいと熱望したらしく、トリスタン陛下も断り切れなかった様で泣き付かれた結果だ。


ところで、今回セザール大公軍を迎え撃つに当たって1つ問題が生じた。それは、騎士団の呼称を何とするかだ。


今までは仮でアマテラス騎士団と呼称していたが、今回の戦いが騎士団の初陣となる。その為、正式な呼称を決定して欲しいと強く要望された。


神出鬼没の幻影騎士団はどうだろうか? 魔導アーマーを駆る騎士団と言う事で、某作品からあやかって見たが、残念ながら採用には至らなかった。


ならば、どう言った名前が一般的なのか聞いてみた。

一般的には創設者や貴族の家名を冠する名前が多い。他に、騎士団の戦術や装備に特徴がある場合は、その名を冠する場合もある様だ。


「卓也さんが最初に名乗ったクラフターはどう言う意味なのですか?」


話し合いの最中、フランシーヌがふと思い出した様で疑問を口にする。


「そう言えば、最初はそう名乗ったんだったね。俺の物を作る能力をクラフトと呼んで、様々な物を作る人の事をクラフターと呼んだんだよ。まぁ普通はちゃんとした名前を名乗るんだけど、俺はずっとクラフターで通してたな」


オデットさん、マリーズには、フランシーヌ同様に俺がエターナルクラフトと言うゲームの世界からこの世界へやって来た事を伝えている。そして俺が物を作る能力は、そのゲームの仕様に基いている事も説明をしていた。


信頼をしていたから共有したかったし、俺の能力がゲームの仕様に従う物で、俺が気付かない活用方法が皆から意見として出て来る事も多い。一緒に知恵を出し合う時に、新しいレシピやゲームの仕様を説明する際にエターナルクラフトの存在抜きに語るのは難しい事も、情報を共有した理由だ。


「ならば、卓也様の事を異名としてクラフター。騎士団にはその名を冠し、クラフター騎士団と呼称するのは如何でしょうか?」


「そんなに格好良い響きには聞こえないけど、微妙じゃない?」


それに異名って自分から名乗る物だったっけ?


「そんな事は有りませんよ。タクヤさんの能力が神の御業であると皆認識してますし、そのお力により産み出された品々を纏う栄誉を賜っているのですから、むしろ皆喜ぶんじゃないでしょうか?」


とはマリーズさん。思うところは結構正直に言ってくれるからお世辞と言う訳では無いだろう。意外とウケが良いのかも知れない。

翌日騎士団の面々にも意見を聞いてみたが、クラフター騎士団はとても好評だった。


結果、クラフターが産み出す装備を身に纏う騎士団。クラフター騎士団と正式に呼称する事が決まった。


こうして、聖女戦争はクラフターの名が歴史に刻まれる最初の出来事となったのである。



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