第123話 魔導アーマーの活用方法、授与式

アマテラスの開発は急ピッチで進められていた。ギルド支部、テオドール商会、冒険者向けの宿屋と言った主要な施設が次々と建造されている。住民向けの居住地も拡大しつつあった。その目覚ましい発展を後押ししたのは、卓也が導入をした魔導アーマーの存在だ。


当初想定をしていた重機としての役割は勿論大きい。だが、最も大きな要因は魔導アーマー自体のいわゆる身体的な能力では無く、搭乗者の魔法を強化する能力だった。


恐らくは内蔵する魔導ユニットが搭乗者の魔術を補助するのだろう。消費魔力の軽減、魔力制御の補助等。その結果として、魔導アーマーに搭乗して使用する魔術は数分の1の負担で行使でき、魔力の制御も容易になった。その結果、魔術の効果や規模が上昇をしたのである。


例えば、土を掘って堀とし、掘った土を盛り上げて土塁を築く事は昔から実施されている。だが、単に土を盛り上げるだけではどうしても傾斜が出来る。強靭な肉体を持つ魔獣は、どれ程土塁を築き上げても易々と乗り越えてくるのだ。


それを防ぐ為には石やレンガを積んで壁面を補強し、容易に登れないように垂直に近い壁を築く必要があった。単に土塁を築くのと比較すると、それは何十倍の労力と資材が必要になる。その為、魔物の脅威から身を守りつつ、城壁と呼ばれるそれを築くのは居住区を囲む位が精々だ。それでも、新しく町を建造しようと思えば多大な犠牲を強いられる。より広範の、それこそ穀倉地を丸ごと囲う案は昔から色んな国で試みられてきたが、魔物が現れるようになってから実現した例は殆ど無かった。


土属性の魔術には、普通の土を硬質化する魔法がある。表面を滑らかに均す事も出来る。ただし効率が良いとは言えず、精々が美しい器を作る位の物だ。上位の魔術になれば、金属質に変化させる事も出来る。それはそれで需要はあるのだが。


その魔術が、魔導アーマーを活用するとより大規模に、より硬質に変化をさせる事が出来る様になった。つまり、騎士団が手ずから構築した土塁が、鈍色の金属質の光沢を放つ滑らかな城壁に早変わりしたのだ。


大半の魔物はこれまでも土塁を迂回して町を襲っていたが、稀に土塁を超えてくる魔物も居た。それも城壁に手を加えて文字通り鉄壁となってから、そうした被害は皆無になっている。ただ誤算だったのはエターナルワールドのシステムに城壁と判定された為、城壁自身が魔物の攻撃対象になってしまった事だろう。その結果、騎士団が建造した城壁に沿って、卓也が迎撃装置を設置する羽目になったのは些細な問題だろう。


こうした魔導アーマーの活用が進んだのはマリーズの働きが大きい。


マリーズが魔導アーマーに搭乗する様になると、魔導アーマーを介して魔術を行使すると効率が良くなる事に早々に気付く。その後、活用方法を模索し広めたのがマリーズであった。


現在は剣の腕を見込んで騎士として採用した者以外に、魔術の腕を見込んで採用した魔導部隊も新設した。また、噂を聞きつけてトウカを訪れた冒険者がチラホラと居て、その中でも高位の冒険者が正式に移住を申し入れてきたりもした。そうした中から騎士として取り立てた者も居て、現在騎士団は30人に増強をされている。


新たにそれだけの爵位を与えるのは通常は困難だ。本来は爵位に応じて叙爵出来る騎士の数には限りがあるし、そもそも騎士爵とは言え新たに貴族を抱えるのであれば下賜する土地と俸禄が必要になる。新興の貴族に早々に賄える物では無い。


一代貴族とは言え、それだけ大盤振る舞いをすれば通常は財政が傾くのだが、なにせ支払う俸禄にも、宛がう土地にも卓也は困っていなかった。それに、騎士を叙爵するのは仮にも王族であるマリーズだ。マリーズは躊躇する事無く自らの権限を行使して、次々に騎士の叙爵を行った。


かくして、現在のトウカとアマテラスでは、大通りを馬車の代わりに魔導アーマーが闊歩する光景が日常になっている。多くの子供達にとって、将来騎士になる事が憧れとなった。だが行き交う騎士を羨望の眼差しで見るのは何も子供だけに限らない。準騎士や衛士隊は言うに及ばず、冒険者も等しく騎士の駆る魔導アーマーを羨望の眼差しで見つめる。腕を認められれば騎士爵として叙爵され魔導アーマーを下賜される可能性がある。誰もがそれを夢見た。結果、彼らの練度が飛躍的に上がる事になった。


それ以上に、魔導アーマーを作り出す卓也は正に神の如く敬われる様になる。


さて、アマテラスの開発を推し進める一方で、卓也はと言えば上級エリアの開拓に余念が無かった。上級エリアには複数のバイオームが存在し、それぞれに対応するドレイクが生息している。強襲魔導船以上に足の速いアパッチを利用して次々に新規エリアを開拓し、ついには5属性全て、数にすると10体のドレイクを周回できる環境が整っていた。


5日毎にリポップするドレイクを討伐し、探査装置を使用してミスリルの採掘を進める。ドレイクから採取できる希少素材は結構な量が集まったが、一方でミスリルの採取は余り進んでいなかった。当初はレジェンド等級の魔導船をクラフトする為に必要なミスリルは1ヶ月ほどで集まる見通しだったが、予定よりも大幅に時間を要していた。


その原因は、第一にドレイク周回の為に新規エリアの開拓を優先した事、そして第二に領民との契約が想像以上に大変だったからである。


NPCとの契約は、卓也からすればNPCメニューを開いて契約をするだけの簡単な作業だ。だが、領民の忠誠心を確固たる物にする為に、皆から儀式めいた場を設ける事をお願いされた。


卓也の感想としては、完全に卒業式の証書授与式である。


アマテラスの格式高い鏡の間がその場所として用いられた。一番奥に、あの玉座と見紛うばかりの豪奢な椅子を置いて卓也が座り、その左右にフランシーヌとオデットさんが控える。フィリップにより名簿順に名前を読み上げられると、卓也の前に進み出る。そして卓也が仰々しくも右手を挙げると同時に契約を完了する。


そこに卓也の言葉は無くても、契約を結べば大なり小なり自身に起きる変化は感じる事が出来る。契約が完了すると、皆晴れ晴れとした表情を浮かべていた。こうして一見儀式めいた市民権の授与式を経て、契約を進めていくのだ。


結局、契約による差別化はアマテラスの居住権を与える事に落ち着いた。アマテラスは今後も発展する事が確実視されている。住みたいと望む者は後を立たないだろう。だが、そもそもこの地を開拓して住める環境に整えたのは、ほぼほぼ卓也の力による物だ。それに王国から正式に領有権を認められている。つまり、アマテラスは余す所なく卓也の領地であった。だから宿に泊まるなら兎も角として、居を構えようと思えば領主である卓也の正式な許可が必要となる。その居住権を与える儀式を通して契約を行う事としたのだ。


ただ、ブルゴーニからトウカに移り住んだ領民は2万人に及ぶ。1日に500人をこなしたとしても40日。しかも今尚移民を受け入れる事で人数は増えつつあった。その為昼までの時間は、朝議と授与式にほぼほぼ費やされる事になった。その為、ミスリル集めは大幅に遅延する事になったのだ。


授与式に先駆けて、行政に関わる人々や特に功績の大きな者は優先的に契約を済ませておいた。後は住民台帳に記載された名前順に読み上げ居住権を授与する。なにせ対象となる人数が多いし、順番で優劣を付ける事でいらぬ軋轢が生じる可能性もあるから、授与の順番は単純に住民台帳の記載の順番とした。


さて、居住権の授与式は、何処まで行っても卓也とNPCとの契約を交わす事が目的だが、その為には大前提として親密な関係である必要がある。だが、一定の割合で親密では無い者達が居た。そうした者達が授与式を迎えた場合、卓也は手を挙げる事をせず、ただ静かに首を振る。


この授与式は民の忠誠を卓也が見定める儀式である事は領民に伝えられている。忠誠が足りないとなれば、卓也はアマテラスの領民として受け入れる事を拒否する。大半の領民は卓也に対して領主としての信任を飛び越えて、既に神の如く敬っていた。そうした領民から、卓也に忠誠を認められない者が迫害される可能性も考慮された。

だが、卓也にしか判別出来ないネームカラー、関係性を説明するのは難しい。それに言い方はあれだが、これだけ生活や住環境の世話をして貰って友好的な関係を築けないのであれば考慮に値しないと、大半の者が意見をした。その為、卓也は思い切って居住を認めない形式を取ったのである。


では、そもそも親密では無い者とはどういった者達であったか。

正確に言えば、友好関係は次の通りに段階を踏んで変化する。


敵対→中立→友好→親密→契約


だが、親密では無い者達は例外なく中立だったのだ。そう、友好的ですら無い。そうした人々は如何なる者であったかと言えば、一言で言うなら逆恨みをしている者達であった、


人は、どうしたって預かり知らぬ所で恨みを買う事がある。今回の例を挙げれば、大切な人を亡くした人が何故大切な人を救ってくれなかったと恨み、財を蓄えた者が全てを失って、その責任は卓也にあると恨んだり、比較的被害が軽微だった者が貧しい生活を余儀無くされたのは卓也のせいだと恨んだり、貴族であった者が爵位を失い、トウカで新たな爵位を得られず卓也を恨んだり。どれもこれも、逆恨みと言って差し支えがあるものではなかった。


どれだけ公正に、平等にと努めても不平不満を抱く者はいるし、恨みを抱く者もいるのだ。


それが顕在化したのは、とある授与式での事。卓也の前に進み出たとある人物が、懐に忍ばせた短剣で卓也に襲い掛かろうとしたのである。勿論、隣に控えていたフランシーヌが目にも止まらぬ早業で一刀の元に斬り伏せてしまった。その後の調査で日頃から領主である卓也に対し不満を口にしていた事が発覚したのである。


それ以外の居住権を与えられ無かった者達も似た様な物だった。人を逆恨みする様な奴らは、日頃から周囲に不平や不満を漏らしている。それを聞く人の大半は卓也を敬っていたから、調査をすれば簡単に裏付けを取る事が出来たのである。


まぁ子供や成熟した大人の殆どはそうした恨み言を抱えておらず、15〜35歳に集中していた。割合としてはその年代の凡そ5%程度。居住権を得られなかったのは全体で見れば400人に満たない程度だったから、卓也にとってはそれ程深刻な問題とは言えなかった。


そうした人達は、為政者から見れば不穏分子である。かなり過激な対処をすべきと言う意見も出たが、卓也としてはそこ迄問題を大きくするつもりは無かったから、余程の事が無い限りは静観をする事にした。

最初はせめて監視をと言う意見が多かったが、先の事件が起きてからは領民の間で、居住権を得られなかった者達は、何らかの問題が有るのではと認識をされる様になった。だからそうした人達が何某かの目立った行動を行えば、自然と周囲から報告がされる様になった。


そうして居住権を得られ無かった者達は、卓也から拒絶された事で自身の抱えている問題に正面から向き合う事になった。


卓也に何らかの恨みを抱えているとは言え、今までも一人で引き籠って生活をしていた訳では無い。やり場のない感情をどうすれば良いのか解らなかった者達が大半だった。そうした人々は周囲の人達から指摘をされたり優しく理を説かれたり支えられたりして、時間は掛かったが蟠りを捨ててアマテラスの居住権を与えられる事になった。


それでも恨みを捨てられなかった者達は、窮屈な思いをしながらトウカで生活をしたり、犯罪を犯して裁かれたり、居づらくなって他の街へ移住を希望して出て行く事になった。トウカでの生活がままならず、冒険者として登録をして、魔物の餌食になった者も居る。


卓也は思う。そうした人達も割合も見ればありふれた人達だったのだと。きっと人とは得てしてそう言うものなのだろう、と。


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