第121話 騎士団とマリーズさんと専用機

騎士団の最初の仕事は、土木作業だった。アマテラスの外堀は家畜の放牧場として有用だったが、既に水が満ちている。そこで、トウカとアマテラスの北側に、土塁を築いて耕作地と放牧場を確保する事にした。


騎士型魔導アーマーは高さこそ5mと精々人の3倍程度の大きさだが、力の強さなら20倍位になる。シャベルを装備した魔導アーマーが、土を掘り返し、掘り返した土で土塁を造成する。人の手で行うよりも遥かに容易に作業が可能だった。

造成装置を利用すればそれ程手間のかかる作業では無かったが、そこは騎士団に任せる事にした。


2週間もすると高さ5mの立派な土塁と、その外側に堀が完成した。これで、早々に魔物は侵入できないだろう。因みに土塁は建造物として判定されない様で、その内側であっても拠点として判定されなかった。土塁の内側に迎撃装置は設置していないが、逆に土塁は魔物の攻撃対象にならない様で、大半の魔物は土塁を攻撃する事無く土塁沿いに迂回すると、アマテラスもしくはトウカの外壁に辿り着く。そこで迎撃装置の餌食になっていた。今後も土塁は補強を行う予定だ。


正騎士に至らなかった准騎士達には、卓也謹製の装備を一式至急した。この世界で最高級とされる迷宮産と比較しても勝るとも劣らないので、通常種の魔物程度なら対処は余裕であった。大型種が相手でも2〜3人で相対すれば傷一つ負わなかった。そんな彼らの仕事は、各地へと赴く移民の護送団の護衛だ。着実にトウカとアマテラスの人口は増えつつあった。


移民は、当初は労働力にならない子供は老人が多いと目されていたが、予想に反して移民として送られて来る領民は思ったよりも年齢にバラツキがあった。どちらかと言うと高齢者が多いが、成年も少なくは無い。ただし健康状態が思った以上に悪かったり、重篤な病を抱えていたり、重い障害を持つ者が多かった。


良い意味で誤算だったのは、そうした人々がトウカに着いて早々に癒されると、フランシーヌと卓也に固く忠誠を誓った事だ。更にそうした人々の中には技術や知識を持つ者も多かった結果、移民を受け入れる程にアマテラスの開発は活気付く事になった。



さて、マリーズさんが魔道アーマーを初めて見た時、予想通りではあるが卓也は大変な目にあった。先日の領民になりたいの発言からも解る通り、今度は騎士になりたいと駄々を捏ねたのだ。


うちの騎士になるのは勿論あり得ないし、ましてや他所にうちの武器や兵器を流出させるつもりも無い。だからお断りをしたのだが、それはそれは駄々を捏ねた。


今のところマリーズさんにはこれといった仕事がある訳では無い。王国に提出する交易と税金関係の書類をチェックする仕事があるが片手間でも卒無くこなす。むしろ行政関係ではフィリップやオデットさんの相談に乗ってあれこれと助言をする程だ。


空いた時間で何をするかと言えば、暇さえあれば俺の後ろに着いて来る様になった。魔道アーマーが欲しいと直接的にねだるのではなく、俺との親密な関係を築く事を主眼に置いたのだと直ぐに察する事が出来た。


まぁ目的は解っていても、中々断り辛い距離感を上手く計ってくる。邪魔にならない程度にあれこれと着いて来る。危険だからと断ろうとしても、凄腕の魔術士だから自分の身位は自分で守る事が出来る。上級エリアに着いて来た時も、物おじをせずに魔物に立ち向かう。それどころか属性強化の装備を揃えると、さすがに大型種は無理でも通常種なら単独で渡り合える程だった。しかも、魔術士だが身のこなしも機敏だったし、剣の扱いにも秀でていた。


生活の為に働く必要も無いから比較的時間も自由になる。好奇心が旺盛だから、基本的には何処にでもついて来たがった。その合間に自分の仕事もこなしてみせて、なおかつフィリップやオデットさんの相談にも乗る。領民との信頼関係も構築しており、町では結構人気が有る程だ。


危険なエリアの探索やドレイク討伐、新しいエリアの開拓など、マリーズさんを連れて行くには憚られる事も多々あった。だが、新しい事に出会うと全身で喜びを表現してくれる。それが嬉しくて、気が付けば一緒に行動する事が多くなった。勿論フランシーヌも一緒にだ。フランシーヌとの仲も良かった。むしろ俺が採取作業に専念する間は、2人で一緒に行動している事もある位で。


一言で言うならマリーズさんは優秀だった。それでも、俺がマリーズさんを拒絶していたならフランシーヌもきっと許容はしなかったと思う。そうなら無かったのは、最初から相性が良かったのだろう。何と言うか、そう。馬が合ったのだ。


気が付けばマリーズさんを女性として意識する様になっていた。マリーズさんも最初の頃は好奇心が勝っていたが、いつの頃か好奇心を抜きにして俺に好意を向けてくれていたと思う。


そんな訳で信頼関係を構築出来たと思う。それがマリーズさんの目論見通りであったとしてもだ。まぁお互いに立場があるので男女の仲にはなり様が無かったが、そんな訳で、まぁほだされて? マリーズさんに専用機を用意する事にしたのであった。



さて、エターナルクラフトでは、魔導アーマーは人気のコンテンツだ。色んなアニメとコラボを実施しており、アニメの作中に登場する機体がDLCで販売されていた。

価格は安いものでも5000円位から、上は1万を超える物まで。それでも飛ぶ様に売れていた。当然俺はコンプリートをしている。


魔導アーマー関連には機体そのもののレシピが販売された物と、専用スキンとして販売された物がある。文明レベル1でクラフト出来るものは専用レシピが殆どだ。文明レベル2以降の機体は、機体自体が大型化してカスタマイズも可能になった為、自分好みのカスタマイズした機体にコラボスキンを適用できる様になっていた。


今回マリーズ用にチョイスした機体は、3人組の少女が異世界に召喚されて戦うアニメとコラボをしたものだ。赤と青と緑の機体があり、専用装備として赤い機体は火の矢を、青い機体は氷の槍を、緑色の機体は電撃をそれぞれ放てる様になっている。


マリーズは魔術士なので、雰囲気が合っているかと思ってチョイスした。得意分野は氷系統なので、青い機体だ。


クラフトに希少金属と魔石(大)を使用する。ベース機体は魔導アーマー(重騎士)だ。因みに魔石(特大)を利用する魔導アーマー(聖騎士)をベースとしたレシピには、アニメの第二シーズンで登場した後期モデルが用意されている。


上級エリアの新規開拓も進めていて、現在は既に3種類のドレイクを討伐出来る様になっている。最初に討伐したファイアドレイクだけでも既に4度討伐しているので、魔石(大)にはかなり余裕があった。因みにフランシーヌ用には、お揃いで同じシリーズの赤い機体を用意してある。


マリーズに満を持して専用機を用意してお披露目をすると、思いっきり抱き付いて涙を流しながら喜んでくれた。臆面も無く抱きつくマリーズの柔らかさに思わずドキっとしたのは内緒だ。


早速マリーズが立ったままの機体にアサインをする。自然と操作方法が理解出来るそうで、機体に触れると片膝を着く姿勢に移行して前面のハッチが解放される。差し出された格好の手を足場にして素早く機体の内側に滑り込むと、ハッチが閉じて目に光が灯る。後は自由自在に扱う事が可能だ。


それでも最初は立ち上がって、歩く事にも難儀をするのが普通だ。バランスを崩さない様にヨタヨタと両手でバランスを取りながら歩く。1時間もすれば走れる様になり、1日も経つ頃には模擬戦が出来る程だった。


傷が付けば修理が必要だが、修理自体は俺の手が必要とは言え、それ程手間が掛かる事でも無い。模擬戦で傷が付くには大した問題では無かったので、実力を向上させる為に日頃から奨励していた。


マリーズの機体はさすがに上位機体のレア相当なので、騎士団に配備したコモン等級ではまるで歯が立たなかった。


結局フランシーヌと模擬戦をしたのだが、6mに達する巨体でありながら、動きの速さ自体は人のそれを大幅に上回るのだ。時々、それ程の巨体でありながら遠目に姿がぶれたり、剣先が早すぎて見えなくなる程だった。


マリーズは魔術士だから、ある時無意識に魔術の行使を試みた。てっきり使えない物だとばかり思っていたが、驚く事に魔導アーマーに乗ったままでも、問題なく魔法を使う事が出来た。むしろ魔力の操作が容易で、魔導ユニットから流れ出て来る魔力を扱える為、通常よりも遥かに強力な魔法を行使する事が可能だった。


放った攻撃魔法は機体の大きさに比例して大きく、強大になり、身体を強化する魔法なら機体ごと強化が出来た。騎士達が試しにスキルを使用してみた所、スキルもそのまま使える事が解った。ただし動力となる魔導ユニットに使用している魔石のサイズが違うから、騎士団の機体とマリーズとフランシーヌの専用機体では、魔力を用いたスキルや魔法の威力も段違いだった。


1番の驚きは、フランシーヌの奇跡が機体に通じた事だろう。回復魔法で機体の損傷は回復し、破壊された腕は四肢再生の奇跡で再生する事が出来た。ここまでくるとまるで意味が解らない。久々にこの世界の理不尽さと言うか奇跡を垣間見た気がした。


こうして俺の領地には本格的に魔導アーマーが配備された。俺が意図する主な用途は重機としてであったが、俺の意に反して、それは絶大な威力を誇る戦力として、戦場へ駆り出される迄にそう時間は掛からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る