第120話 領民との契約、魔導アーマー

それはマリーズさんも一緒に朝食を食べる様になったある朝の出来事。


「私も、トウカの領民になりたい!」


突然マリーズさんからトウカの領民になりたいと言われた。

話を聞くと、転移門の先へと行ってみたいのだそうだ。


トウカとブルゴーニ、トウカとアマテラスを繋ぐ転移門は、以前は誰にでも使えた。しかし、ギルドの設置と移民の受け入れと、トウカとアマテラスはかなり見知らぬ人が増えてきた。その為、現在は防犯の為に転移門を壁と扉で囲い、許可なく出入りが出来ないようにしている。


領民の契約も順次進めており契約が完了していれば転移門の利用が可能な為、マリーズさんの中ではトウカの正式な領民=転移門の使用が可能と言う図式が成り立っているのだろう。


それでも、仮にも全権特使として王家から派遣されている立場で、トウカの領民になりたいと言うのは如何な物か。因みにマリーズさんに与えられている全権は、トウカとアマテラスは王家の直轄地と言う扱いなので、この領地に関わる一切を取り仕切る権限を持っている。だが、実際には代官として俺がいるので、あくまで表向きの立場になる。


形式としては、トウカとアマテラス、及び両都市以北の手つかずの土地については俺に領有と自治を認める。王家としては全権特使を駐在させる事で、即時追認をして俺の決定にお墨付きを与える形だ。まぁ追認と言うが、実際には俺が為す事に対して、王家は全権を委譲した特使を駐在させているけど、クレームを付けない時点で特に不満や文句は無いよという事らしい。なので、マリーズさんの仕事は、ここで何もしない事になる。


仮にもそれだけ重要な立場にいる人物が一領民に成り下がる等、到底許される筈も無い。転移門を利用したいと言い出す事は予想していたが、まさかそんな事を言い出すとは。


マリーズさんの駐在を決めた王家の人達は信頼をして任せたのか、それとも体の良い厄介払いだったのか。判断に迷うところだが、前者である事を切に願う。


領民にならなくても契約さえ行えば問題は無いので、断る理由も無いので契約を済ませる事にした。なにせマリーズさんは、晩餐の時には既に友好表示になっていたから、システム的には問題は無い。


因みにバスティアン殿下は旅立つまで中立表示のままだった。表面的には友好的な態度で接してくれていたが、裏では何か含む所があるのか。それとも、あくまで中立たろうとしていたのか。これは恐らく後者かなと思う。


現在、領民が自由に利用出来る転移門にはトウカを起点にブルゴーニとアマテラス、それと海辺の拠点とを繋ぐ3つを設置している。本拠地と繋ぐ転移門については、プライベート設定をして鍵を掛けているので、俺しか使用する事が出来ない。この世界の人々はフランシーヌやオデットさんを含め、メニューコマンドが使用出来ないからだ。


オデットさんはモンペリエと行き来する機会が多かったが、大半は領主屋敷で通信用魔道具を利用させて貰う目的が主だった。今は手元に通信用魔道具があるのでその必要もないし、住まいも宮殿に移しているから移動出来なくても問題は無い。


その後朝議を終えて一息着いた後に、海辺の拠点へと案内をした。

今では海から海水を汲み上げる装置が設置されていて、汲み上げた海水を大きな鍋で煮詰めて塩を作る作業が行われている。


鍋が焦げ付かない様に延々と掻き混ぜる作業は中々に重労働だ。ただ、塩を作る技術に関する資料を取り寄せていて、今後は大規模な塩田を作る計画もされている。そうなれば多少なりとも作業量は減るかも知れない。その辺りは皆任せだ。


トウカからだと、海辺の拠点は南に1500㎞下る。トウカはかなり肌寒くなってきて朝方なら大分冷え込むのだが、この辺りはかなり温かく感じるから、かなり離れた場所だと直ぐに解る。


それに加えてマリーズさんは海を見たのは初めてだそうで、それはそれは喜んだ。来たついでに拠点の拡張の為に造成装置を幾つかセットする。今後塩田を作る為に充分なスペースが必要と思っての作業だ。マリーズさんはと言えば、その間に気が付けば皆の作業に混じって汗を流しながら鍋を掻き混ぜている。あっと言う間に打ち解けてしまった様だ。後は帰ろうと思えば何時でもトウカに帰れるから、一声掛けて俺は上級エリアの開拓へと戻る事にした。



領民を契約状態にする事で、実際に何かが変わる訳では無い。住民台帳に正式な領民として記録をする。それ以外の人々とは行政上は明確に差別化がされる訳だが、具体的な特権がある訳では無い。この点については今後どの様な扱いをするべきか議論を重ねている状況だ。恐らくはアマテラスの開発が進めば領民にはアマテラスの居住権を与えて、それ以外はトウカに滞在をして貰う流れになるのかなとは思う。


領民には大きな変化は無いが、軍事面に於いては大幅な変化を加えた。


今まで防衛を司るのは衛士隊だけであったが、その中から特に実力に秀でる者を准騎士として、更に選抜して正騎士として取り立てた。

騎士にはマリーズに骨を折って貰い、一代騎士爵として準男爵の地位を与えた。俺としては爵位は不要だと思うのだが、そこは明確に区別をした方が彼らのモチベーションにも繋がるとの事。爵位を持つと一定の領地と俸禄が得られるが、結局どちらも俺が用意する事になる。有能な領民を取り立てて給与を上げる事自体は大賛成だ。


爵位を与えた者には、先々はアマテラスにそこそこの広さの家を用意するが、当面は宮殿内の居住区に部屋を与えた。皆大いに喜んでくれた。中には一生宮殿に住むと言う者も居たが、余裕はあるとは言え部屋数には限りがあるから、何処かのタイミングで家に居を移して貰いたい。まぁその辺りは皆でうまくやってくれるだろう。


次にどうせ爵位まで与えて騎士として取り立てるのならと、俺は魔導アーマーを導入する事にした。


魔導アーマーには幾つか種類がある。魔石(中)を動力ユニットとしてクラフトする兵士型魔導アーマーに騎士型魔導アーマー、魔石(大)を動力ユニットとしてクラフトする重騎士型魔導アーマー、ドラゴン討伐以降なら魔石(特大)を動力ユニットとしてクラフトする聖騎士型魔導アーマーがクラフト出来る。


魔石(大)はドレイクから低確率で採取出来る貴重品なので、比較的採取が容易な素材で作れる騎士型魔導アーマーを何体かクラフトした。別に戦闘に駆り出す必要も無いので等級はコモン等級だ。


魔石(中)を使用してクラフト出来る魔導アーマーは高さ5m程の人型のロボットだ。中に乗り込む事で操作をする事が可能になる。小難しい操作方法を覚える必要は無く、自分の手足を操るのと同じ様に操作をする事が可能だ。つまり乗るだけで自分が身長5mの巨人になる訳だ。


軍事利用も可能だが、どちらかと言うとそっちが主目的では無い。専用装備には剣や槍と言った武器だけでは無く、ピッケルや斧、シャベルと言った採取ツールも装備する事が出来る。


魔導アーマーは、専用装備の大型ピッケルを装備させた時にこそ真価を発揮する。通常なら50㎤のブロック1つの所を、2×2ブロックを同時に採掘する事が出来る様になる。つまり、採掘速度がなんと4倍になるのだ。


因みに重騎士型魔導アーマーなら、体高が6m。聖騎士型魔導アーマーなら体高8mでで、採掘範囲が更に拡大し一度に3×3ブロックの採掘が可能になる。


最初はこの世界の住人に魔導アーマーが使用出来るのか不安だったが、初めて魔導アーマーをクラフトした際にフランシーヌに試して貰った所、アサインした魔導アーマーに問題無く乗り込む事が出来た。イメージとしてはコックピットと言う寄りはパワードスーツ。前面部が人型に開放されて、そこに乗り込むと開いた部分が閉じて感覚が魔導アーマーとリンクする。そうなれば自分の身体を動かすのと同じ様な感覚で動かす事が出来る様になる。


指は5本あって、物を持つ事も出来る。まぁ身体能力だったり身体のバランス、身長と手足のバランスは自分の身体とは違うから、最初は思う様に動かす事が出来ない。慣れる迄は多少の時間が掛かった。それでもフランシーヌは元々身体能力に優れるからか1時間も掛からず、騎士達も1日もあればある程度は自由に動かす事が出来る様になった。


ピッケルを持たせても俺と同じ様に採掘は出来ないが、シャベルを用いれば土を掘り返す事が出来る。力だって比較にならないから、重たい荷物を運ぶ事も簡単に出来る。つまり、俺にとっての魔導アーマーは兵器では無く重機扱いだ。


そう言う訳で正式に騎士として採用したメンバーは、人型重機の作業員として働く事になった。伐採された巨大ツリーの加工や移動を補助したり、アマテラスへ建築資材を運んだり。建築の手伝いをしたり。


因みにゴーレム馬も多数導入している。移民の移送、それに伴う交易品の移送に必要だったので、ついでに町中の労働力としても採用した。荷台を運んだり、農地を耕す際の農耕馬として活用されたりしている。普通の馬よりも力があるから、こちらも非常に好評だ。


ゴーレム馬をどうやって扱うのかと思えば、馬車の場合は契約を完了した人が手綱を握れば誰でも自由に操作が出来た。それ以外の場合は、契約した領民であれば魔導アーマーと同じ様にアサインする事で自由に命令して動かす事が出来る事が解った。


こうしてトウカとアマテラスでは、労働力の面において劇的な改善が図られた。




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