第118話 ギルドの話

この3日間、バスティアン殿下と交渉をしている裏でギルドの設置を進めていた。

王都から、シャトー王国のギルド代表が一緒にトウカを訪れていたからだ。


さて、そもそもギルドとは如何なるものだろうか。

ギルドを語ろうと思うなら、まずこの世界の成り立ちから語らなければならない。


この世界がまだなにものでも無かった頃、この世界に創世神が降り立ち、世界を形創った。そして最後に創造した人に祝福を与えた事は、1週間のそれぞれの日に準えられているから周知の通りだ。


ならばその祝福とは何であったか。それは、人がその身に宿した魔力の事だ。魔力は世界にも満ちていたが、魔物の居ない時代、魔力をその身に宿して活用できるのは人だけだった。


人はその魔力を活用して文明を築き上げた。隆盛を誇ったその文明を魔導文明と呼ぶ。因みにその頃から、この星では北に行くほど魔力が薄くなり、南に行くほど濃くなるのは変わらなかった。その為、魔導文明は南の地域に栄えた。


この大陸に住んでいたのは、最も階級が下の劣等種と呼ばれた人々だ。何故なら、人は生まれた地域で、ある程度生まれ持った魔力の量が決まっていたからだ。この大陸で生まれたものは明らかにその身に宿した魔力が少なかった。


魔導文明は、この星の魔力を完全に我が物にしようと試みた。その時何をしようとしたのか、何があったのかは伝えられていない。だが、エターナルクラフトでも実は似た様な設定があったので、それと同じならこうだろう。


南極点に巨大な魔導炉を設置し、星に循環する魔力を完全に支配下に置こうとしたのだ。だがその試みは失敗し、世界の境界をこじ開けてしまい、異界から魔物と呼ばれる異形のものたちを呼び込んでしまった。そして、その影響で魔力から生じた最も力強き存在が災厄の竜だ。


災厄の竜は、一晩で魔導文明を滅ぼした。その後も、世界各地で魔物が発生し、人類はその生存権を大幅に縮小せざるを得なくなる。記録では魔物の誕生から僅か10年程で、この大陸以外の生存権は壊滅、または放棄された。


その当時から、この大陸には魔力に依存しない文明が築かれていた。そこに住むのは魔導文明からは劣等民、原住民と蔑まれてきた人々だ。魔導文明はこの大陸を厳しく管理しており、そこに住まう人達は奴隷として使役をしてきた。ただ、それでも魔力に依存しない技術がそれなりに発展しており、その当時に整備された交易路は今なお機能しているし、その当時に建造された城塞が今も活用されている例もある。技術的には今よりも優れている面も多かった様だ。


幸いな事に北の大陸は魔力が薄かったから、出現する魔物も比較的弱いものが大半だった。この大陸から見て南の大陸は、ついには人の生存圏が潰えたが、この大陸だけは辛うじて生存圏を死守する事に成功した。


魔導文明が滅亡して後、この大陸には多くの国家が乱立し、栄え、そして滅亡してきた。


魔物の脅威に対抗する為、必然的に人々は肩を寄せ合い生きる必要が生じる。一方で都市間、国家間の結びつきはあいまいなものになり、現在では帝国を除いて大国と呼べる程の規模の国家は存在していない。


シャトー王国でも王族と貴族と身分制度はあるが、俺の想像以上に領主の権限が強い。王族の権威を担保しているのは国軍と、交易に関する権利だろう。


さて、大陸に満ちる魔力は数百年単位で増減をしている。魔力の増大期には大陸に生じる魔物も増える為、生存権は縮小を余儀なくされ、その時期に滅んだ国も多い。


そしてそれは、最初の英雄である剣の英雄が居た時代もそうであった。

剣の英雄は、確かに竜を討伐し大陸を滅びから救ったが、大陸に無数に生じる魔物の脅威から全ての国を守り通せた訳では無い。その為、剣の英雄主導により組織されたのがギルドである。


当時の国家の8割が集った諸王国会議でギルドは提唱され、3年の月日を経て正式に発足した。


それ迄、この大陸はアバンドネ大陸と呼称されていた。捨てられた大陸という意味だ。だが、剣の英雄は諸国会議で諸国の王にこう訴えた。


「我々は隷属し蔑まれた民では無い。魔物がこの世界に蔓延った暗黒の時代、自らの手で生存圏を勝ち取った誇りある民だ。この輝きに満ちた地で、互いに手を取り合って繁栄を勝ち取ろうでは無いか」と。


その演説を機に、この大陸はブリアント大陸、輝く大陸へと名を改めた。

そして、国の垣根を越えて魔物の脅威に対抗するべく、超法規的な組織として結成されたのが、ブリアント大陸に住む人々が結束して魔物に対抗する為の組織。通称魔物狩りギルドである。


ギルドの存在意義は唯一、国の垣根を越えて魔物に対抗し、生存圏を切り拓く事である。


因みに魔物が人を襲うのは、魔物は魔力を何よりも好むからだ。人がその身に宿す魔力は、魔物にとっては何よりも極上の餌となる。その為、積極的に人を襲うのだ。


それは、実の所人もそう変わる物ではない。強大な力を持つ魔物の肉は、程度の差こそあれ極上とされている。内包する魔力が味に直結するからだ。それは魔物が人を好む事の証左でもあった。


そう言う訳で、慣例的にギルドでは英雄を何よりも尊ぶ。人類が魔物に対抗する為の最高戦力であるし、創設者の意を汲む者だからだ。


シャトー王国のギルド代表がトウカに訪れた際も、それはそれは下にも置かない対応だった。驚くほど終始腰が低く、むしろこっちが申し訳無く成る程だ。その為、ギルド設置に関するあれやこれやの交渉は、驚く程にスムーズに完了した。


そこ迄丁重に扱ってくれるのなら、もっと早くにギルド支部を設置しても良さそうな物だ。しかし、ここまで時間がかかったのは、単純にタイミングの問題と、駐在出来る人員の確保に時間が掛かったからなのだそうだ。


まぁこちらも受け入れる体制が整っていなかったから問題にはならなかった。そう言う訳でギルドはアマテラスに建造し、正式にアマテラス支部がスタートする運びとなった。トウカにもギルドは建造されるが、こちらはアマテラス支部の出張所になる。


因みにアマテラス周辺では魔物の駆除は必要では無いので、主な仕事はモンペリエとトウカを行き来するテオドール商会の護衛と、今後王国各地へと派遣する移民の護送隊の護衛が主な仕事になる。それでも、トウカの食事と酒が上手い事は既に評判になっているので、今後トウカへ拠点を移す冒険者は増える見通しだ。


実際、噂を聞きつけた王都の高位の冒険者が、パーティー単位で移住をして来る様になる。そうして居を移した冒険者の中には、冒険者を廃業して正式にトウカへ移住を希望する者まで出てくる程だった。そうしてトウカへ拠点を移した冒険者達は護送隊の護衛を喜んで引き受けてくれる為、トウカへの移民は加速して行く事になる。


アマテラスの開発は、急ピッチで進められる事になった。移民の受け入れも始まり、トウカではいよいよ手狭になった為だ。予め計画された区画分けに従って、冒険者を迎え入れる為の宿が建設されたり、商業区が建設されたりした。


また、正式にヴェルサイユ宮殿が領主の屋敷と行政府を兼用する形で採用された。

こちらは決まれば再設置に多少の時間が掛かるとは言え、気が付けば建造が完了する。


宮殿の設置に伴い、タクヤの手で庭園が整備された。各所に噴水を設置して美しい庭園だ。噴水から溢れ出す水は、そのまま町中へ縦横に引かれた水路を水で満たす。そして外堀へ徐々に水を蓄えた。

ついでに外堀の各所に噴水を設置して、絶えず水が循環をする様にした。外堀からはトウカの城壁の外側を通る水路を通って、川へと水が流れ込む。


外堀に水を入れたので、家畜を安全に放牧するスペースが無くなったが、もう少しすれば改めて安全なスペースを確保する予定だ。そこは卓也自身が手を入れるのではなく別の手段を考えていた。


ところで、マリーズさんの住まいはアマテラスに別に建築する予定だったが、宮殿を目敏く見付けると、自分も住みたいと頑迷に主張した。


宮殿は各所に居住スペースが設けてあるので、特に問題は無いかと許可をする事にした。


バスティアン殿下一行が帰路についた後は、上級エリアの開拓を進めている。その為、タクヤとフランシーヌは日中トウカに居ない事が多い。マリーズさんがその間何をしていたかと言えば、何気に町の人々に混じって様々な作業をしていた。マリーズさんは非常に優れた魔法の使い手だから、ちょっとした土木作業の手伝い等お手の物だった。

気が付けば町の人々にすっかり慣れ親しんでいて、アマテラスの建築作業の手伝い何かもしていた。そんな訳で頻繁にアマテラスへ足を運んでいたので宮殿に気が付くのも一瞬の事だった。宮殿を改めて建築した翌日には、自分もそこに住みたいと申し入れて来た。部屋なら沢山あるから、特に断る理由は無かった。


マリーズさんが住む建物も新たに建築予定だったが、今迄はバスティアン殿下が寝泊まりをした部屋をそのまま利用していた。仮にも王女であるにもかかわらず、驚くべき事に供回りはおらず、昔から自分の世話をしてくれている侍女を一人連れて来ただけだった。だから引っ越しは簡単だ。タクヤの許可を取ると、あっと言う間に居を移してしまった。


マリーズさんは、気が付けばタクヤ達と一緒に食事を食べる様になる迄に、そう時間は掛からなかった。

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