第109話 世界遺産?
俺がクラフトしたこれらの建築物が、俺が元居た別世界の物とは流石に言わないが、俺が知る範囲の由来等を簡単だが皆に説明していく。世界的に有名な大聖堂でと言っても今更俺の素性を訝しむ様な者は此処には居ないから、何処の世界? と詮索される事も無い。因みに説明する時の俺の語彙がイマイチなのは言うまでも無いか。
まずはケルン大聖堂。その豪奢な内装もかなり再現されていて、聖堂に足を踏む入れると皆ため息をつくばかりだった。聖堂に入ると、美しい柱と高い天井、そしてステンドグラスがかなりの精度で再現されていた。聖堂内部はステンドグラス越しの光が差し込んで鮮やかな色彩を放っている。皆しばらくの間足を止めて神に祈りを捧げたのは、まぁ仕方が無いだろう。ここにはそうさせるだけの荘厳な雰囲気があった。
結構部屋数も多くて、使い道は有りそうに思える。2つの尖塔が非常に高く、万が一壊れた時の手入れが大変だなと思うが、そこは心配してもどうしようも無い。ただ、システムの影響下にある限りは壊れないんじゃ無いかなと漠然に思っていた。俺が死んだ後の管理は、後の人々に任せるしか無いだろう。
少々派手過ぎるのでは無いかと思ったが、フランシーヌが神を奉る聖堂としてはこれ以上の物は無いと甚く感激していたので直ぐに採用が決まった。正教会トップの教皇聖下が、その住居が移して、ここが正教会の本山となるのはそう遠い未来の事では無い。
次にモンサンミシェル。城に続く坂道がぐるっと城を囲っていて敵の侵入を阻んでいる。その坂を皆で上って城の中へと入る。入って思ったのは、思った以上に神聖な雰囲気を感じる作りだと言う事。今更ながらにメニューからパッケージの紹介文を読む。DLCのパッケージには簡単な説明が書き添えられている。てっきり城なのだと勝手に思い込んでいたが、元々は修道院として作られた建物なのだそうだ。建物の中には見事な作りの礼拝所、教会があるが、先のケルン大聖堂を見た後だとちょっと感動が薄れてしまった。
採用は一旦見送り。外観は素晴らしいのだが、結構アクセスが悪く普段使いには不便かも知れない。それに城塞として利用された事もあるそうだが元は修道院と言う事もあってケルン大聖堂と被る要素も多かった。
次に案内をしたのは姫路城だ。日本が誇る天下の名城。さすがにモンサンミシェルやケルン大聖堂と並ぶとスケール的に外観は若干見劣りするが、実際に中に足を踏み入れて見ればそんな事は無かった。姫路城は石垣や曲輪まで再現されている。
中に入ると、日本が誇る建築技術の粋を集めた建物だけあってか、職人連中が一気に盛り上がっていた。先程のモンサンミシェルやケルン大聖堂は石の加工技術について目を見張るものが多かったが、日本の建築物は木の加工技術に優れている。細かい部分に迄目を光らせているのが解った。
天守閣からは、トウカを一望出来たので、その眺望も素晴らしかった。思ったよりも評価が高く、ここを俺の居城にしてはとの意見が多かった。ちょっと嬉しい。
最後にベルサイユ宮殿だ。栄華を誇った太陽王ルイ14世が建造しただけあって、贅の限りを尽くしている。クラフト素材に大量の金を要求される事からも解る。
派手なだけでは無く、当時は地方貴族の居住空間も用意されて、中央集権を実現していたそうで、思った以上に利便性も高い。行政府としての利用に丁度良いのでは無いだろうか。皆の反応も良い。ただ、どうしても派手過ぎる。正直、王城よりも華美なのでは? との意見もあった。とは言っても実際に王城に行った事があるのはオデットさんだけだ。コメントを求めて見たが、領主様に相応しい城ですと言われてしまった。それってどっちなんだろう?
直ぐには結論は出ないので、どれを活用するか。実際に建築する際の区分けをどうするかはこれから皆で詰めて貰う。
残念だったのは、ヴェルサイユ宮殿は上物だけで、有名な庭園や噴水は再現されていなかった事。実際に採用するとなれば、建物の格に負けない庭園をクラフトをしようと思う。いや、やっぱり難しいか?
その日の夜、俺の中ではお披露目も終わった事でようやくアマテラス建造の目処が立って一段落した気になった。資材の見通しも立ったので、後は自分達に住みやすい様に、徐々に街の形を整えて行く事だろう。と言う訳で、今日も祝杯をあげる。
理由は何だって良い。流石に毎日飲む訳には行かないから、美味しいお酒を飲む為の口実が欲しかっただけだ。
今も、フランシーヌが今日見た建物がどれ程素晴らしかったかを熱弁している。ケルン大聖堂は、最初に建築されたのは1000年以上も前なのだそうだ。金と権力があればかくも素晴らしい建物が建造出来る訳で、それはこの世界とて変わる物では無い。ただ、世界に魔物が溢れてからは資材の調達もままならない為、近年の建築物であれ程の荘厳な建築物は記憶には無いそうだ。
シャトー王国は、大陸では比較的歴史が古く、また大きな国だ。肥沃な穀倉地帯を抱えていて裕福な国でも有る。王城はその権勢を誇る為に300年ほど前に建造されたそうで、それは素晴らしい造りなのだ。それでもケルン大聖堂やヴェルサイユ宮殿には劣ってしまうとの事。
まぁ資材の確保もさる事ながら、定期的に大規模な魔物の襲撃があるこの世界では人的資源の確保も難しいから、大規模な建築は難しいのだろう。実際にこのトウカでも資材はあってもそれを有効に扱う為の人手が慢性的に不足している。
因みにフランシーヌもオデットさんも見た事がある訳では無いが、大陸最大の版図を誇る西の帝国には、恐ろしく巨大な城が有るらしい。
何でも、魔石を動力源とした魔導機なるものがあって、重機の様な運用をされているとの事。大規模な魔力の運用は、かつて魔物をこの世界に呼び込むキッカケとなったとされていて、正教会やギルドを始め多くの国で禁忌とされている。
にも拘わらず、帝国が魔石の利用について研究を推し進めているのは、自分達がかつて滅亡した魔導文明の末裔で有ることを謳っているからとの事。当然、正教会やギルドとは敵対関係にある。
近年、帝国は周辺国家の侵略を精力的に進めており、大陸の緊張が高まっているらしい。俺は、それを何だか他人事の様に聞き流していた。
「タクヤ様は、王を目指されないのですか?」
お酒が美味しすぎて、楽しげに語るフランシーヌを肴にかなり酔いが回った頃、オデットさんがふと俺に尋ねた。
「いや、目指さないよ? こう言っちゃなんだけど、領主も柄じゃ無いと思ってるし、ましてや王様なんて」
「タクヤさまのおかげで、トウカの民は不自由なく暮らす事が出来ます。それにあれだけの威容を誇る城に、無尽蔵に湧き出る資源。どれ1つ取って見ても到底人の為せる業では御座いません」
「まぁね。自分でも過ぎたる力だと思うよ。でも、この力は会った事の無い神様が俺にくれたものだから、俺自身の力だ、功績だと誇る気にはなれないよ」
「ですが、皆がタクヤ様こそが真の主と既に定めております。お立ちにはなられませんか?」
「うーん、そこは皆に飲んで貰うしか無いかな。別に王国に不満がある訳じゃ無いでしょ? 昔のブルゴーニはどうだったかは解らないけど、モンペリエを見る限りは不自由がある様には思えないかな。他の国を見た感じだと、ちょっと決断や行動が遅いのかもって思ったりもしたけど、まぁ難しい部分もあるだろうから一概にだめな国とも言えないしね」
「不満が無いと言えば嘘になりますが、今となっては亡くなった主人が良き領主であったかも疑問ですので、為政者とは完璧足り得ない事は理解はしております」
「そそ。満点じゃ無いかもだけども、決して悪い国じゃ無いと思うんだよね。だから、直ぐに独立してってのは考えては居ないかな。将来は解らないけどね」
「畏まりました。では皆とはその様に意識をすり合わせる様に致します」
「うん。今の皆が満足してくれている事は嬉しいけど、だからと言って国に不満を持つのは避けて欲しいから、宜しく頼むよ」
オデットさんが俺に尋ねたのは意思確認の為だろう。オデットさんも俺が王にと求めている事は知っているが、それでも分を弁えている。だが、日増しにトウカの独立を求める声が大きくなっているのも事実だろう。崇拝に似た視線を感じる事も多くなった事からも解る。
だが、俺がそれを望んではいない以上、オデットさんは領民がそれを求める事を良しとしない。だからこそ、俺に代わって施政を担う立場として改めて俺の意思を確認したのだと思う。今後、どの様な方向性で皆と擦り合わせる必要があるかを確認しる為だ。
「ありがとうね。色々と迷惑をかける」
「勿体なきお言葉です。それにこうして役得も有りますからね、期待にお応え出来る様頑張りますよ?」
「うん。頼りにしてます」
「何だか羨ましいです。お二人で理解しあって」
ずっと黙って聞いていたフランシーヌが、ちょっと頬を膨らませて拗ねた感じで俺に身を寄せる。こう言う時のフランシーヌはちょっと幼さを感じる。普段のフランシーヌからは想像が出来ないが、これもフランシーヌなのだと言う事は解る。むしろ、これはミレイユなのかも知れないな。
最近気付いた事だが、恐らくフランシーヌの中には、少女らしさの残るもう1人の人格がいる。明確にわかれている訳では無い様で、たまにこうして普段とは違う顔をのぞかせる程度だが。でも、別に問題は無い。どちらも俺が好きなフランシーヌに変わりは無いからだ。
「ごめんね、ちょっと小難しい話をして。でも、俺はいつだって君の事が大好きだよ」
「私もです。卓也さん」
だから、そんな時は優しく愛を囁く。そんな俺達を、そんな時ばかりは息子か娘を見る様な優しい目でオデットさんは見つめるのだ。
そんな感じで、今日も俺達の夜は更けていくのだった。
◆Memo
各建築物の高さ。トウカの中ほどからだと、アマテラスの土台と城壁で下12m位は見えない。ヴェルサイユ宮殿は殆ど見えないが、それ以外の建物の姿は結構見える。
⚫︎ケルン大聖堂 尖塔の頭頂部までの高さは157.4m
⚫︎モンサンミシェル 高さ93mの山の上に建てられた修道院。山の上を切り取った形なので頭頂部の高さは130m程
⚫︎姫路城 曲輪の石垣も含むので90m程度(石垣が14.85m、建物が31.5m)
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