第110話 アパッチ
翌朝も、夜が明ける前には目を覚ましてフランシーヌの寝顔を見て癒される。
うん、今日も頑張ろう。
その後はいつも通り夜が明けるのを待って起き出す。
朝食の席での事。
「タクヤ様、先日お伝えをした王国からの使者が間もなく到着をされるそうです」
「ああ、もうそんな時期だっけか。後どれ位で着くの?」
「先触れがあり、本日領都に到着をされるそうです。明日迄領都で足を止められてから出発をされるので、予定通りでしたら4日後ですね」
「4日後か、気が重いなぁ。とは言え、確か王族が来られるんだよね」
「はい。王位継承権第2位のセザール第2王子様ですね」
「まぁ次期国王が辺境に来る事は流石に無いから、考え得る限りで一番の大物なんだよね」
「はい。正直それ程の方を寄こされるとは思いませんでした。王国がタクヤ様をどれ程丁重に扱われているかは想像に難く無いかと」
第1王子と第2王子は共に正妃の息子。良くある王位継承争いとか、派閥争いみたいなものは無いそうで、兄弟仲も良好。順当に第1王子が国王を継いだ後は宰相として兄の治政を支えるのだそうだ。
王子と言っても既に30を超えていて、兄は絵に書いた様な武闘派で軍閥のトップ、弟の第2王子は政治畑で事務方の次席。俺が招聘を受けるのを先延ばししていた事もあるが、だからと言って外に出せる人員では事実上のトップに当たる第2王子を寄こす事は異例中の異例なんだそうだ。
「まぁそこまで重く見ているって事だろうから、ちゃんとお出迎えをしないとだよね。ブルゴーニ迄はお迎えに上がるから、其の辺りの段取りは宜しくね。4日後は空けて置くから」
「かしこまりました」
「ところでオデットさん、明々後日なんだけどさ。午後は空けて置いてくれない?」
「明々後日、3日後ですか?」
「そそ。ちょっと空の旅にご招待をしたいなと思って」
空の旅? と首を傾げるオデットさんに悪い笑みを返す俺。そんなこんなで3日後。宣言をした通りオデットさんを招待して、俺は火山群島へと転移門で移動をした。
拠点の外は、結構な範囲を整地してアスファルトで舗装をしてある。そこに鎮座しているのは、AH-64 アパッチだ!
エターナルクラフトでクラフト出来る兵器群だが、メインは第二次世界大戦までを想定している。その当時の戦略と言えば制海権を巡る戦いで船が花形だった。そして次第に制空権を巡る戦いへとシフトしていく。
制空権を取る為に戦闘機には機銃が装備されていて、お互いに撃墜数を競い合う戦いだった。だが、エターナルクラフトでは空を飛ぶ魔物の方が少ない。それに海で戦う魔物も数える程しかいない。メインは陸であり、拠点に襲い掛かって来る魔物に如何に対処するかが肝要であった。
そこで、1980年迄の兵器群が一部採用されている。戦車や戦闘機と言った兵器群だ。また対空では無く対地を想定している為、ロケット弾やミサイル弾、ナパーム弾等が実装されている。
そうした兵器は基本のレシピでは単に戦闘機や攻撃ヘリと言った名称で表記されているが、DLCでは実在した兵器をモデルにした様々なレシピが実装されていた。
第二次世界大戦で活躍をした零戦やドイツのメッサーシュミット、アメリカのマスタング等。艦船も結構な種類が揃っている。
DLCレシピは、能力的には同等レシピのレア等級程度なのは変わらないので、さすがにレジェンド等級のレシピと比較すると格が落ちる。
ただ、その中でも異彩を放つのが攻撃ヘリだ。なにせアパッチについては初飛行はぎりぎり1975年だが、今なお現役なので現代戦でも十分に通用する兵器だ。
それに航空機は滑走路が必要になる。離陸する分には自分で滑走路をクラフトすれば良いので問題は無いが、着陸をしようとすると場所を選ぶ。その点、ヘリはある程度開けた場所なら着陸出来るので、移動手段としても非常に優秀だ。しかも航空機はむしろ速すぎる位で運用が難しい。その点ヘリは最高速度はそれ程でも無いが、低速飛行も出来るし、それこそホバリングも出来る。
と言う訳で、俺は移動手段の1つとして採用をするべく、火山群島で試験的に攻撃ヘリを導入する事にした。
ついでに、折角初フライトをするのとヘリの定員が3名迄なので、オデットさんを誘う事にした訳だ。因みに今日を選んだのはもう1つ理由がある。
「はい、それじゃ先程言った様に、ちゃんとシートベルトをして下さいね。絶対に外したらダメですよ!」
アパッチの操縦席は後部に有り、前に座らせたオデットさんと、隣に座ったフランシーヌのシートベルトを再度確認する。扉を閉め、離陸準備完了。さぁ、初フライトの開始だ!
ローターがゆっくりと回転を始めると、風を切る音が唸る様に聞こえて来る。そしてゆっくりと持ち上がる機体。離陸をすると一瞬浮遊感が襲ってきて、きゃっとか細い悲鳴が二つ聞こえて来る。そして無事離陸。
複雑な計器の操作は必要はない。エターナルクラフトのアクション性は非常に難易度が低い為、こうした航空機の操作も俯瞰視点の思考操作で、比較的簡単に行う事が出来る。でも、一応手に握る操縦桿の感触も伝えてくれるので、臨場感もあって面白い。
そのまま徐々に速度を上げつつ、島を一望出来る高さまで一気に上昇する。
そして、空からの景色を2人に見せる様に、ゆっくりと島の上空を旋回する。かなりの音を響かせているが、今の所は特に敵影は見当たらない。
「どう、空から見た景色は?」
ローター音に負けない様に、声を張り上げて2人に尋ねる。
「何がなんだか解りません!」
「とても素敵です。卓也さん!」
先のセリフはオデットさんで、後のセリフはフランシーヌだ。フランシーヌには前から空を飛ぶ飛行機の話をしていて、何時か空に連れて行ってあげると約束をしていた。その当時は普通にプロペラ機を想定していたが、まぁヘリでも大差は無い筈だ。
オデットさんにはヘリに乗せる前に軽く説明をしたが、サプライズ的な意味も有りそこまで詳しい説明はしなかった。まさか空の旅と言いつつも本当に空に連れて来られるとは思ってもみなかった様で、今は軽いパニック状態。だが、騎士を努めるだけあって肝が据わっていて、暫らくすると軽く身を乗り出して窓の外の景色を眺める程度には余裕が出て来た。
「それじゃ、今日のメインイベントに行くね!」
2人が外の景色をある程度楽しんだ頃合いを見計らうと、そう言って火口部へと一気に進路を取る。
今日を選んだのは、今日がファイアドレイクのリスポーン日だから。
火口部は直径1㎞程で開けている。流石にヘリで侵入するにはやや狭く感じるが、出来ない程では無い。当然、近付く俺達の姿を認めて、寝そべっていたドレイクは臨戦態勢を取るとはっきりと聞こえる程の大音声で吠えた。
俺はファイアドレイクの姿を照準の正面に見据え、トリガーを引く。
ダダダダダダダダダダダッっと、アパッチに装備された30㎜チェーンガンが、けたたましい音を立てて銃弾をばら撒く。流石に物理耐性に優れるファイアドレイクだから、それ程体力は減少しない。
遠目にファイアドレイクが四肢を踏ん張るのが見て取れる。この距離なので、恐らくはブレスだろう。正面の射線から逃れる為に、機体を横に滑らせる。するとゴォーっと唸りを上げて、機体の横をファイアドレイクのブレスが掠めて行った。
そのまま横なぎに追って来るブレスを宙を滑る様に躱す。5秒程でブレスが途絶えると攻撃チャンスだ。操縦桿のミサイル発射装置のキャップを指で跳ね上げる。レーダーサイトが伸びて、ファイアドレイクを捉える。狙いを定めて発射。
ヒューンっと、対戦車ミサイルのヘルファイアが飛翔し、ファイアドレイクに着弾をすると、凄まじい轟音と共にファイアドレイクが爆炎に包まれた。
流石にファイアドレイクと言えども、この攻撃なら!
因みにコモン等級の攻撃ヘリ、アパッチ、そしてファイアドレイクの防御力はこんな感じ。
対地ミサイル 基本攻撃力700
ヘルファイア 基本攻撃力1050 (※対地ミサイルの40%Up)
ファイアドレイクの防御力 400(火)
相剋の水属性なら防御力を半分と見做すが、兵器の武装に属性は無いので、この場合はそのままの値を参照する。
ダメージ係数は (1050/2)/400≒1.31
ダメージ幅が525~1575で、最終ダメージは163~1539
思ったよりも少なく感じるだろうが、そもそも相性の良い属性以外でこれだけダメージが抜けるのは中々のものだ。ドレイクを包みこむ爆炎も若干の継続ダメージが有る。だが、爆炎のダメージも、先程のチェーンガンのダメージも、いずれも微々たるものなので、メインはヘルファイアによる攻撃だ。
ドレイクの体力は4万。まぁ40発程撃ち込めば倒せるのだから、それ程の手間でも無い。適当な距離を取りつつ、ゆっくりと旋回をすれば良いのだから。そもそもこちらは空を飛んでいるのだから地形の影響は受けないし、火口の上にだって行ける。
それにヘルファイアの弾数も、例によって自動装填なので気にする必要も無い。
因みに、ファイアドレイクの攻撃で唯一届く可能性があるのはブレスだが、上向きに放てる角度には限界がある。つまり、多少高度を上げてやれば、実の所攻撃を喰らう可能性も無くなる。それでも、低空で旋回しつつこうして相手をしているのは、オデットさんに向けたデモンストレーションの意味合いが大きい。
かくして大して苦戦する事も無く、5分も待たずにファイアドレイクは爆炎の中に沈んだ。
「どうでした?」
その後はファイアドレイクの採取を行い、拠点までかっ飛ばして戻ると2人を降ろす。そして、アパッチをアイテムボックスに収納する。こうして収納してしまえるのは本当に便利だよな。
登録枠を占有するが、一度クラフトしてしまえばクラフトに必要な施設が不要だし、再設置にはそれ程時間が掛からない。今現在俺の登録スロットには、アパッチと強襲魔導船、それと先日の建築物が納まっている。
「タクヤ様にはもう早々に驚かされる事は無いと思っておりましたが、先日の建物と言い今回のドレイク討伐と言い、想像を越える事ばかりです。私の思慮がいかに浅はかであったかを思い知らされました」
「それは申し訳ない。ところで、空からの景色はどうだった?」
「それはもう、素晴らしい物でした! まさか人の身で、鳥と同じ視点で見下ろせる日が来ようとは!」
「でしょ! 2人には是非見せたかったんだ。喜んで貰えて良かった!」
「卓也さん、これってどれ程のスピードが出るんですか?」
「最高速度が時速210kmなので、トウカから海辺の拠点迄なら、朝出れば夕方には着く位だね」
「あの距離を僅か1日ですか。実際に乗って見ても想像が出来ない速さですね」
「本当に早いよね。これで、大陸中行こうと思えば何処にでも行けるかな。移動手段が確保できたから王都へ行くのも簡単になったんだけど、王族が明日来るんだよね。あぁ、憂鬱だなぁ」
「お手数をお掛けして、申し訳ございません。ですが、面倒事を持ち込む様でしたら独立をすれば宜しいのです。正直、国軍が相手でも先程のアパッチには手も足も出ないのでしょう?」
「まぁね。でも独立したらしたで面倒だから、出来れば地方領主位に収まって起きたいんだよね」
俺は個人の証券取引でそこそこ資産があったので、自分で起業をする選択肢もあった。それでも一証券マンに納まっていたのは、何のかんので組織に属して居た方が何かと居心地が良かったからだ。俺には会社を興したいとか、一旗上げたいとか、そんな野心とは無縁だった。
証券マンは色々と制限があるので余り大きな取引が出来ない。業務上知り得た情報を元に稼ごうと思えば、社内規定や証券取引法に抵触する可能性もある。とは言え、証券会社によって規定には差異があるし、そこまで欲をかかなければ老後の資産形成位はどうにかなるものだ。
それにこう言ってはなんだが、会社から貰える報酬もそれ程悪くは無かった。年収で1〜2000万。ベヒモスのレシピ目的に課金した際は、かなり本気で頑張ったので年収で3000万を越える報酬を得た。まぁ手取りの半分位はエターナルクラフトに課金をしていた訳で、かなりの金額だったと思う。
因みにエターナルクラフト運営会社の株を取得する時は,さすがに独立を本気で考えた。それでも独立はしなかったのだから色々とお察しだ。
まぁそんなこんなで、今の所独立をしようとは欠片も考えてはいなかった。
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