第104話 中央部を目指して

さて、今日も今日とて、フランシーヌと一緒に島の中央部を目指す。


多分俺だけでも問題は無いのだが、個人の戦闘能力に限定をすると、どう考えてもフランシーヌの方が戦闘能力が高い。それも格段に。

リスポーンが出来るかどうかを検証する手段が無い以上は失敗は許されないのだから、安全策を取る為にはフランシーヌに同行して貰う事が一番だろう。


フランシーヌが怪我をするリスクが有るから不安はある。だから、出来る事なら俺が一人でと思う事もしばしばあるが、最近ではフランシーヌへの信頼が勝る事が多くなってきた。


それに、ゲームの感覚が未だに抜けていない部分もあるが、この世界にはゲームの仕様とは異なる事も少なくは無く、予期せぬ事も多い。不測の事態に対処する為にはフランシーヌに居て貰う方が色々と助かる事が多かった。

何せ、俺は今まで自覚が無かったが、咄嗟の時の対応力が低い。その点フランシーヌは状況判断が速く、不測の事態が発生しても適正に対処をしてくれる。


クラフトモードの時の強制力? と言うものは絶大で、クラフトモード中はゲームの仕様を逸脱する事は今の所無かった。ただ、ゲーム中なら注意不足や不慮の事故で死亡する事がまぁまぁあり、そう言う時は拠点でリスポーンをすれば良いだけなのだが、この世界ではそれを甘受する事は出来ない。

それにずっとクラフトモードで生活をする訳では無いのだ。フランシーヌやトウカの町の人々と交流をすれば、必然的にリアルモードとの擦り合わせが必要になって来る。誰とも関わり合いを持たずに一人で生活をするなら、一生クラフトモードでも良いのかも知れないが、当然今の俺には無理な相談だった。


そう言う訳で、フランシーヌと一緒に鬱蒼と茂ったジャングルの内部へと歩を進める。


まぁジャングルとは言っても、精々がたまに木々が道を阻んだり、上を見れば木々が日光を遮っているので何時も薄暗くて視界が悪かったり、空が見えないので方向を見失い易い位なものだ。


左手にランタンを装備すれば一定範囲を照らしてくれるので光源の確保は容易だ。俺の手が片方塞がろうとも、次々と襲ってくる魔物はフランシーヌが全て一刀の元に切り伏せてくれる。俺はその死体にそそくさとつるはしを振るうだけの簡単なお仕事だから左手にはランタン、右手にはつるはしが俺の基本スタイルになっている。


それに方向についても、俺の目には常に地図が表示されているので見失う可能性が無い。


「卓也さん、何だか変な臭いがしませんか?」


「臭い?」


ジャングルを進んで居ると、不意にフランシーヌが今までに嗅いだ事の無い臭いがすると教えてくれた。


クラフトモードだと、どうしても臭いには鈍感になってしまう。フランシーヌがわざわざ気に掛ける事なので、原因は特定しておいた方が良いだろう。これ迄にも新たな果実やスパイスを発見した実績があるからだ。


「うーん、確認してみようか。どっちの方向か解る?」


「こっちですね」


結構しっかりとした臭いが漂ってくるので方向は解るそうで、直ぐに案内をしてくれた。歩く事5分、少し開けた場所に出ると、そこには真っ黒な汚泥が溜まっていた。


「でかした、フランシーヌ!」


俺は、思わず笑みが零れてしまう。これは間違いなく原油だ。早速上級エリアの恩恵を得る事が出来そうで笑いが止まらない。


「これは何ですか?」


「これか? これは原油と言って、様々な用途が有るんだ」


「原油ですか。それはどう言った使い道があるんですか?」


「このままでは使えないんだけど、精製をする事で色んな素材に加工が出来るんだ。まずは軽油とガソリン。この2つは、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの燃料になる。他にも灯油が獲得出来る。灯油は二次加工してジェット燃料にすると、ジェットエンジンの燃料にも使える」


「どれも燃料なんですね」


「そそ。原料が同じ原油でも、精製する事で性質の違う幾つかの燃料に分ける事が出来て、それぞれ用途が異なるんだ」


「良く解りませんが、色んな使い道があるんだと言う事は解ります」


フランシーヌなりに納得をしている様だ。実際に作れる様になったら色々とクラフトをして、実物を交えて改めて説明をする事にしよう。


「次にアスファルト。主な用途は道の舗装だね。アスファルトで舗装した道は凸凹が無く強度もあるから、重量のある馬車や車でも容易に移動をする事が出来る様になる。時間が有ったらモンペリエとトウカの間を舗装してしまうのも有りだな。それにナフサもだね」


「車にナフサですか?」


「そそ。車は何て表現したら良いかな。馬で引かなくても自分で走れる馬車みたいなものかな。ナフサは、さっき採取した油椰子の実からクラフト出来るパーム油とあわせてクラフトすると、強力な兵器の原料になるんだ。それにナフサを加工する事で様々な製品をクラフトする事が出来る様になる」


勿論、リアルならそんなに簡単に作れるものでは無いだろう。でもナフサを原料にクラフト出来るナパームが有れば、ナパーム弾のクラフトが可能だ。火薬を原料とするロケット弾も強力だが、ナパーム弾は継続ダメージを与える事が出来るのでこちらもかなり強力だ。特に拠点へ攻撃する際は、絶大な効果を発揮する。


本来石油加工品は色んな素材が必要になったり、加工が必要だったりする様だが、ゲーム的にはそこまで細かくは規定されていない。原油から直接アスファルトが出来る点からも解る。まぁゲームをプレイする側からすると、その方が面倒が少なくて助かるんだけど。


ドレイクを討伐すれば、原油採掘装置がクラフト出来る。原油から精製出来る素材の使い道は多方面に亘るので、無くてはならない素材だ。

原油の様な素材は手ずから採取をするのでは無く、専用施設による採取を行う必要が有る。こうした採取スポットは埋蔵量が予め決まっていて、埋蔵量を上限に採取が出来る。量の多少はあるが、採取スポット1つから採取出来る量は決して少なくは無い。


今は転移門を設置する資材が足りないので、今後の事を考えて簡易拠点を設置。ついでに伐採装置と造成装置をセットしておいた。地図にはマーカーも入れたので場所を見失う事も無い。次にここに来た時は直ぐにでも有効活用が可能になるだろう。ドレイクを討伐したら、直ぐにでも駆け付ける事にした。


素材は大量にあるから、今も手が空いた時はダマスカスのピッケルをクラフトしている。キャップ解放前の経験値ストックも無限に出来る訳では無く+10レベルが上限ではあるが、逆に言えばキャップの解放をすれば直ぐにでもその上限まではレベルが上がる見通しだ。つまりドレイク討伐後、俺の技術レベルは50になる。


原油採掘施設は必要技術レベルが48なので、直ぐにでも設置が可能だ。いよいよ楽しくなってきた!

まぁその後もダマスカスのピッケルを大量に仕込めばあっと言う間に技術レベルは上がるのだが。何にせよ、直ぐにでもクラフトしたいレシピがあれこれと浮かんで来た。


その後も、特に大きなトラブルは無かった。勿論、木々の間から狂暴な顔を覗かせて威嚇の声を上げるティラノサウルスに遭遇もしたが、大した問題では無い。


ティラノサウルスは頭のてっぺん迄5mはある巨大な二足歩行の獰猛な恐竜だ。まぁ接近して来る時はドシンドシンと足音を立てるので直ぐに解るし、木々の間から顔を覗かせて俺達を発見すると、グゥワオォーと威嚇をしてくれる。迫力満点だが、俺はゲームで何度も見た光景だし、フランシーヌはその隙を逃すような事もしない。


フランシーヌは一気に駆けて距離を詰めると、ティラノサウルスの近くに有る木を足場に三角飛びの要領で一気に肉薄する。近寄るフランシーヌをその顎で捕らえようと頭を付き出すが、空中で軽やかに身体を一回転させる紙一重で躱すと、抜き放った剣を一閃。その只の一太刀でティラノサウルスの首を一刀の元に両断をする。某有名漫画の立体軌道を彷彿とさせる鮮やかな身のこなしだ。


それにしてもフランシーヌが手に持つ武器が幾らレジェンド等級とは言え、仮にも上級エリアの大型種を一撃で倒せる程の攻撃力は無かった筈なんだけどな。最近フランシーヌの火力が更に上がっていて、ゲームの仕様を凌駕しつつある様に感じる事がしばしばあった。

まぁそこは気にしても仕方が無いので、すっかりと割り切っている。フランシーヌさんは強い。それだけは間違いが無い。


そんな新たな発見や遭遇も有りつつ、昼前にはジャングルを抜けて中央部へと辿り着く。これまで緑一色だった景色は、ある一線を境にすっかり様変わりした。

ごつごつとした岩肌が露わになった一帯には、そこかしこに溶岩が川の様に流れている。その溶岩が何処かに流れ込んでいると言う事も無く、冷えて固まる様な事も無い。


「ここが火山ですか。火山には始めて来ましたが、魔力が満ちていますね」


「やっぱり、他とは違う感じ?」


「アメリーなら兎も角、私は専門外ですから詳しくは解りませんが、火の魔力が色濃く満ちている事は解ります」


フランシーヌの考察によると、こうして溶岩が固まらずに地肌に露出しているのは、火の属性を帯びた魔力が満ちている影響ではとの事らしい。

ゲーム内ならそう言う仕様だと納得する事も、フランシーヌ目線だと違った発見が出来るのはちょっと面白い。もしかすると俺が知らないだけで、ゲームにも色んな設定とかが用意されているのかも知れない。


岩場には様々な色をした鉱物が混じっている。一番多いのは黒曜石。次いで硫黄。上級エリアだと希少鉱石も混じるのでミスリルやアダマンタイトの採取も出来た。


時々襲ってくるファイアーサラマンダーやファイアーエレメントはフランシーヌが適当に対処してくれる。


どちらも溶岩の流れに潜んでいて、ファイアーサラマンダーなら遠くから火の球を吐き出して攻撃をしてくる。着弾すると弾けて広範囲に影響を及ぼすから、本来は侮る事は出来ない相手だ。でも顔を覗かせた瞬間にフランシーヌが属性を帯びた矢を放つと、その一撃で溶岩流に絶命して沈み込んで行く。


ファイアーエレメントは、溶岩で出来た巨大な人型の魔物だ。大きさならティラノサウルスよりも更に1回り大きい。溶岩流から溶岩の塊を掴み取って投げつけて来る。その塊はファイアーサラマンダーの火球の比では無い火力が有る。


動きそのものは鈍重だが、その身体は溶岩の塊だから近付いて攻撃をしようとするとその熱でダメージを受けるので中々の脅威だ。


ファイアーサラマンダーの素材は無くても困らないが、ファイアーエレメントなら希少鉱石をドロップするので、フランシーヌには溶岩流から出て来るのを待って倒す様にお願いをした。近付いて来る迄の間は、投げて来る溶岩の塊を右に左に除け続ける。


溶岩流やファイアーゴーレムの高熱によるダメージも、火属性を帯びたその攻撃も、直撃さえしなければ装備の耐熱性能で遮断出来るので、今の俺達には全く問題にはならなかった。そして溶岩の中から出て来たタイミングで、フランシーヌが射抜いて止めを刺す。


そうして様々な素材を採取しつつ、火山の中腹を目指す。しばらく探索をすると、中腹にぽっかりと空いた洞窟の入り口を発見した。見つけた! この先が中ボスのファイアドレイクが住むエリアだ。


洞窟の直ぐ傍を整地して、拠点の建造を行う。拠点は転移門を設置するだけなので50m四方のスペースがあれば良い。鉱石が採取出来るオブジェクトは造成装置で取り除く事は出来ないが、30分も有ればあっと言う間に周辺の採取を行い転移拠点の建造が完了した。


黒曜石のストックも魔石も十分な数が確保出来たから、今後は気軽に転移門の設置が可能だ。大蜘蛛の森の拠点に戻ると、行き先をモンペリエに直して、新たに転移門を設置する。


そこまで作業を終えても時間は十分にあるし、準備も万端だ。さぁ、張り切ってファイアドレイクの討伐に挑むとしよう。



◆Memo


強襲魔導船について


必要レベル55の魔導船をベースに、装甲の強化と速度の強化が測られている。

とは言っても、特別な補正が掛かっている訳では無く魔導船のレア相当のスペック。


希少素材の必要数が大幅に緩和されているが、標準装備搭載済みの為、迎撃装置の強化が出来ない。


魔導船のレシピ

魔導ユニット×10、高級木材×2000、鋼鉄のインゴット×1000、水の魔法石×10

最大船速 20ノット(時速37㎞)


魔導ユニットのレシピ

鋼鉄のインゴット×50、ミスリルのインゴット×10、魔石(中)×1


ミスリルのインゴットのレシピ

ミスリルの鉱石×5 ※魔導炉が必要


強襲魔導船のレシピ

高級木材×40000、鋼鉄のインゴット×20000、魔石(中)×5、ミスリル鉱石×100、水の魔法石×10


スペック(コモン等級の魔導船を基準とした場合の数値):耐久力4倍、速度・攻撃力・射程・射撃間隔 1.4倍

最大船速 28ノット(時速51.8㎞)

標準装備 対空 魔導迎撃装置(火炎) 4基

     対空・水 魔導迎撃装置(氷槍) 4基

     捕鯨砲 前方左右2門

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