第103話 上級エリア

船のクラフトが完了したので、いよいよ外洋に向けて出発をする事にした。


クラフトをしたのは課金レシピの強襲魔導船。

技術レベル40までに通常レシピで作れる船で帆船と鉄甲船がある。一応レジェンド等級のレシピがあるが、今回クラフトしたのは中ボスを討伐する事でアンロックされる、更に上級レシピの魔導船をベースにした強襲魔導船だ。

強襲と付いてるから船足が速いイメージがあるが、ベースになる魔導船のレア等級相当で等級ボーナス以上の性能は無い。


メリットは例によって、必要なレア素材や中間素材が軽減されており、原材料からダイレクトにクラフトが出来る事。魔導船なら現時点ではクラフト出来ない魔導ユニットが必要だが、課金素材ならダイレクトにクラフトが出来るので素材さえ揃っていれば今の時点でもクラフトが可能だ。それに標準で艦載装備も備えている。デメリットは、フリーの艦載装備枠が無い事位だろう。


海では遭遇頻度がそこまで高くは無いが、水棲の魔物に襲われる事がある。コモン等級の帆船程度なら、運が悪ければ魔物に襲われて沈没する事も少なくは無い。

防御力と耐久力に優れる鉄甲船なら通常の魔物程度なら耐えられるが、大型種に攻撃をされると同じく沈没をする事がある。


嵐に逢う事もある。どれだけ備えても、新しい上級エリアを探索しようとすれば、それなりの頻度で海の藻屑となってしまうのだ。それでもゲーム内であればリスポーンをして新しい船を作れば良い。でもここでは恐らくリスポーンは出来ないから、最大限安全に配慮をした結果、クラフトをするのは強襲魔導船を選択した。まぁ考慮するも何も今クラフト出来る最強の船を選択しただけとも言える。これ迄にストックした希少鉱石が足りていて良かった。


艦載装備の自由度が無いとは言え、標準装備で対空用の魔導迎撃装置(火球)が4門、水中に放つ事も出来る魔導迎撃装置(氷槍)が4門。船首の左右に捕鯨銛が2基装備されている。しかも、いずれもレア等級の火力を誇る。

相手が大型種なら、まずは鎖の繋がった捕鯨銛を打ち込んで動きを制限し、鎖を巻き上げつつ迎撃装置で仕留める事が出来る。

これだけの火力があるから、低確率で遭遇するフィールドボスのクラーケンやモビーディックでも問題無く討伐する事が可能だ。上級エリアから最上級エリアへと向かう海域に出没するフィールドボスのリヴァイアサンでも、確実では無いが倒せない事は無い。


魔導ユニットにより船体は特殊な水の膜に覆われていて、消波性能が非常に高い。実際にこうして船に乗っても、殆ど揺れを感じない程だ。


船形は流線形で近未来的なシルエットをしている。艦橋は海を一望できるガラス張りで、船を操作する為の舵輪がぽつんとある。ただ、彫刻が施された高級木材でガラス窓の土台は装飾されているので殺風景には見えず、むしろ高級感を感じるデザインになっている。船内には結構上等な誂えの客室に、倉庫区画がある。ただ船室を使う事は殆ど無い。


クラフトモードで舵輪に手を掛けると、俯瞰視点になって船を一望する事が出来、船を操作する事が出来る。VR特有の思考制御になっていて、実際に舵輪を回す必要は無い。

ところで、魔物の襲撃は十分に対処が出来るとは言え、海ではどんなイベントが発生するかは解らないから俺だけで上級エリアを目指そうと思ったが、断られたのは当然と言えば当然か。まずはゆっくりとした船足で沖へと船を進める。殆ど揺れが無いから、初めて船に乗るフランシーヌも問題は無い様だ。


徐々に船速を上げて行く。1時間もすると、大陸はすっかり見えなくなる。途中、何度か魔物がすれ違ったが、通常種の魔物だとそもそも船の速度に追いつく事が出来なかった。大型種は結構な速度がある為、船に並走する様に追いかけてくる魔物も居たが、魔導迎撃装置から放たれた氷槍に貫かれる運命だった。折角仕留めた魔物の素材を獲得できないのは残念だが、海上で採取できるのは捕鯨銛を打ち込んだ大型種以上の魔物に限られている。フィールドボスならまだしも、今入手出来る素材は特に必要性を感じないので先に進む事が最優先だ。


フランシーヌは初めての船旅をとても楽しんでいる様で、甲板に出て風を感じたり、海を覗き込んだり。余り身を乗り出しすぎて海に落ちてしまわないか心配だったが、フランシーヌの身体能力を考えれば心配するだけ無駄だろう。


しかし、予想はしていたとは言え、中々新しいフィールドに辿り着く事が出来なかった。ゲーム中なら船足の速い魔導船なら1時間も待たずに新しいエリアに到達する事が出来る。がが、


「卓也さん、前方に煙が立ち上っているの見えます」


「煙?何だろう」


フランシーヌが遠くに何かを見つけたのは、大分日が傾いた頃だった。

煙とは何だろうか?上級エリアには人が住んでいなかった筈だけど。ただ、亜人種が集落を作っている事はある。でも大陸や島の月も見えないのに煙だけ先に見えるなんて事があるのだろうか。

だが、その正体は直ぐに判明した。それ程待たずに俺の眼にも水平線の向こうに煙が視認できる様になる。しばらくしてその次に見えて来たのは、煙を噴き上げる巨大な火山だ。


「火山群島だ!」


「火山群島ですか?」


「そそ。煙と言うか、噴煙が上がっているんだからそりゃそうだよな。上級エリアではかなりの当たりだぞ!」


火山群島は、中央に火山を要する大きな島と、その周囲を無数の島が囲っている。このバイオームが当たり枠なのは、貴重な鉱物資源が多数採取出来る事。加えて中ボスのドレイクが火山の中腹にある専用フィールドに出現するので、捜すのも討伐するのも非常に簡単な事。耐性装備を揃えてしまえば、完封が出来る相手だ。


30分もすると、中央の島を囲う無数の島を横目に通過して、中央の島の浜辺に接舷をする。流石に浜辺に乗り上げてしまうと身動きが取れなくなるので、100m程手前に停める。タラップを下して海に飛び込むと浜辺に上がった。


次に船に隣接する様に波止場を造成する。造成自体は造成装置任せであっと言う間だ。

浜辺には数が少ないものの魔物も潜んでいる様だ。恐らくは砂の中に身を潜めている狂暴蟹だろう。船に装備された魔導迎撃タワーがその射程内に敵を捕らえた様で、火球や氷槍が幾つか飛んでいくと直ぐに沈黙をした。


魔導タワーの有効射程は基本で200m。レア等級は射程40%アップなので280m。それだけの範囲がカバー出来れば、とりあえず近付いて来る魔物は対処出来るので問題は無いだろう。


折角の浜辺だが、砂浜を掘り下げて海側を一気に造成して船の侵入が用意になる様に深さを確保する。次に1ブロック分、石ブロックを設置して護岸処理をする。

砂はリアルなら直ぐに崩れ落ちるが、クラフトモードなら横方向に崩れる事は無いのであっと言う間に完了する。ここまで所要時間は10分位。環境破壊ここに極まれりだな。


その後も、砂浜を更に造成して城壁を設置、拠点化する。迎撃装置を設置して迎撃能力を高めると、拠点中央に転移門を設置して壁で囲ってしまう。これで橋頭保は確保出来た。ここまで浜辺に到着して僅か30分。美しい浜辺の風景も小一時間ですっかり様変わりだ。この規模のクラフト作業なら、造成装置半端無いな。


黒曜石の在庫がこれで尽きたので出来れば火山で調達をしたいが、流石に日が暮れる前に島の中央部まで辿り着けるとは思えない。仕方無い、明日は一旦モンペリエ行きの転移門を、火山群島行にして移動をする事にしよう。


基本エリアに出現する魔物は、獣が狂暴化した魔獣が大半を占める。例外なのは地下墳墓のスケルトンやレイス、後は火山のワイバーン位だろうか。これが上級エリアになると、一気にファンタジー色が強くなる。

火山群島は鬱蒼と木々が繁っており、イメージとしては熱帯のジャングル。そこに生息するのはラプトルやアロサウルス、大型種のスピノサウルスやティラノサウルスと言った恐竜達だ。

火山に足を踏み入れると、初級エリアの火山バイオームで見掛けるファイアーサラマンダーに加えてファイアーエレメントが出現する。火耐性装備が揃って無ければ中々の強敵だが、レジェンド等級の上質なスパイダーシルクの礼服を装備している現状だと全く問題にならない。


因みに島の中央部は火山バイオームに準じる為、山には至る所に溶岩が流れている。溶岩流の近郊には、そこかしこに硫黄や黒曜石の採掘ポイントが有る。これで転移門の設置に必要な黒曜石を纏まった数確保出来る筈なので、今後は移動が大幅に簡単になるだろう。


さて、現実のジャングルなら、色々な危険があると聞いた事が有る。毒を持った生物がそこかしこに生息していて、鬱蒼と茂った木々や植物が行く手を阻む。

エターナルクラフトならそんな事は無いのだが、魔物の出現数は多いので危険なのは変わりが無い。

ただ、ジャングルを一旦抜けてしまえば、中央部の火山地帯に転移門を設置すれば良いので、後の移動は問題が無くなるだろう。


今日は諦めてトウカに戻って夕方の報告会を済ませた後は、拠点に戻ってファイアドレイク討伐の為に、装備品を揃える事に時間を費やすのだった。



◆Memo


エリアにはスタート地点となる初級エリア、船をクラフトして進出が出来る上級エリア。その更に外側に最上級エリア。そして禁足地が存在する。


船さえあれば上級エリアから最上級エリアへの移動自体は可能だが、最上級エリア解放前だと確定イベントで嵐+リヴァイアサン襲撃があるので、十分な戦力を確保するか、航空機が無ければ移動は非常に困難。課金レシピがあればショートカットで行けなくは無い。でも当然の事だが、キャップを外していないとそこで採取出来る専用素材の使い道は無いので、基本的にはドレイク討伐後に戦力を調えてから移動をする事になる。


禁足地もボス討伐前に移動をすると、ボスモンスターのドラゴンに襲撃される。空、もしくは海上でのドラゴン討伐は至難、と言うか負けイベントなので、専用フィールドでドラゴン討伐をしてからの移動が基本になる。


航空機があれば高高度への侵入も可能だが、高高度では高確率でジズに襲撃されるので、こちらも余程戦力が整っていないと難しい。ジズ討伐はエンドコンテンツなので難易度はゲーム内でも上から数える方が早い。


禁足地の最奥には、エンドコンテンツのハザードドラゴン、厄災の竜が生息している。この世界においても厄災の竜が旧文明を滅ぼしたと伝えられているがゲームのシナリオとの関連性については不明。





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