第102話 これからの事

造船所の建造が終わったので船のクラフトを開始した。クラフト完了まで2日掛かる。


ところで、当初アマテラスの造成は1ヶ月程度と見込んでいたが、実際には20日も待たずに完了をした。どうやら計算を間違っていた様だ。現在アマテラスには5㎞四方の真っ新な土地が広がっている。トウカを出てアマテラスの中央まで移動するだけでも6㎞弱ある。そこそこの距離なので転移門を設置しておいた。今後開発を進めて行く際には必要不可欠になる事は間違いが無い。


外堀には今のところ水は引いていない。今後の用水をどうするかも計画を立てる必要があるので、水を入れるのは其れからだ。噴水を設置すれば自動で水が供給され続ける。本来水源の確保は都市計画における最重要課題だと思うが、何と言うお手軽さだろう。


トウカにはこの一か月でかなり建物が増え、すっかり手狭になってきた。

なにせ巨大ツリーが5日置きに10本前後供給が可能なのだ。実際には伐採と加工が全く追いついていないので、1日当たりの伐採本数は1本になる。それでも、大量の木材を切り出せるので今後木材が足りないと言う事は無いだろう。


素材よりも、むしろ人手が足りない。人口に対して力仕事に割り当てられる人数はそれ程多くは無い。子供達も余り負担にならない程度には仕事をしてくれている。主な仕事内容は畑仕事や綿花の加工だ。種蒔きや収穫作業、綿花を紡いで糸を作るのは力が無い子供でも出来る事が多い。向き不向きはあるが、皆自分が出来る事を手伝ってくれている。


一例を挙げると子どもたちの1日はこんな感じだ。朝は朝食を作る手伝い、昼までは何某かの作業を行って昼からは遊んだり、希望者は剣術の稽古をしたり、読み書きを習ったり。夕方は夕食を作る手伝い。夕食後風呂に入った後は皆で糸を紡ぐ。週に1回の安息日なら、教会で祈りを捧げる。孤児であった子供達も、いずれかの大人が家族として迎え入れて新たな家族関係を構築している。


今の所、特に大きな問題は起こって居ない。小さなトラブルは絶えないが、俺が出張る程の事は殆ど発生していない。

要因としては、安定して食糧が供給出来る事が最たる理由だろう。働かなくても最低限の生活が保障されるならサボる人が居てもおかしくは無いが、皆真面目に働いてくれている。

そう言えば海へと辿り着いたので製塩所も建造しておいた。これで、唯一問題だった塩の供給も可能になる。


因みに旅の途中で大豆を採取出来たので、トウカでは醤油と味噌が出回っている。勿論供給源は俺だが。クラフトすると一抱えある樽単位で出来上がるので、非常にコスパが良かった。この場合のコスパは、アイテムボックスから取り出して皆に渡す為の労力が少ないと言う意味でだが。

所謂スタックアイテム表示。アイテム表示では味噌樽1個表示だが、レシピに味噌5とある料理をクラフトすると表示個数は59/64と表示をされる様になる。樽単位で製造をする酒類に多い形式だ。全部のアイテムがこんな感じなら受け渡しはもっと簡単なのだけれど。残念ながらそうは問屋が卸さない。


味噌と醤油のクラフトに必要な素材は、味噌は大豆だけ、醤油は大豆と小麦で出来るのだが、クラフトに頼らず実際に作ろうと思えば大量の塩が必要になる。だが、何故かクラフトのレシピには塩が含まれていない。でも出来上がった味噌や塩には塩分が含まれている。そこで足りない塩分を補う為に味噌と醤油の販売を行ったのだが、思った以上に好評で売れ行きが良い。今では一定数を販売用に供給する事が毎日の日課に加わっている。支給品ではなく販売になるのだが、売れ行きはかなり良かった。


とは言えクラフトで作るのは簡単でも、2万人に行き渡るだけの数を提供する手間はどうしても掛かる。海へアクセス出来るようになった事、塩の供給が出来る様になった事もあり、将来的には段階的に塩の製造、及び味噌や醤油の製造も町の皆に任せて行く予定だ。

最も、その為には新たに建造した拠点とトウカとを転移門で繋ぐ必要があるのだが、今もブルゴーニとトウカを結ぶ転移門は常時開放したままなので今更だろう。


今はまだこれ位の規模なので俺が提供をすれば何とかなる。だが、将来的に人口が増え、需要が増えた時に俺が全てを賄う事は現実的では無い。今は緊急措置として足りない物を提供する労力は厭わないが、徐々に俺の負担を減らす事を目的として皆も色々と案を練ってくれている。


まぁあれこれと試行する為の素材は十分にあるから、時間さえ掛ければ形になるだろう。


さて、喫緊の問題が幾つかある。海洋進出の準備とアマテラスの整備は一段落したので、船が完成する迄の2日は、ゆっくりと時間を取って今後の方針の打ち合わせをした。


問題としては、まずはアマテラスの都市計画。皆で出来る事、俺にしか出来ない事、俺がすれば大幅に工数が削減出来る事。何を皆が行い、何を俺が行うのか。どの様に町を建造していくかに方向性、区画割をどうするか、用水をどうするか。日頃から皆で検討をして大まかな図面を作成してくれているので、今後の方針について細部の打ち合わせを行う。


既にある程度の構想は出来上がっているので、皆に任せて問題が無い部分は徐々に進めて行く事になった。因みに主要施設については俺に腹案が有る。上級エリアに進出すれば、高い確率で大理石と石灰石が採取出来る様になる。そうなれば活用出来るレシピが沢山あるのだ。その名も、世界の観光地シリーズ。有名どころの建築物がパッケージ化されていて、素材さえあれば簡単にクラフトする事が出来る。


タージマハル、ノイスヴァンシュタイン城、ヴェルサイユ宮殿等。大量の大理石やセメントの材料として石灰岩が必要になるが、それらの素材が揃えば世界的な建築物をクラフトする事が出来る。いずれかを町の中心部に据えて活用は出来ないかと考えている。


クラフトゲームは色んな建築物を自分の手で作る事が楽しみではあるが、だからと言って誰でも大規模な建築物を作れる訳ではない。それこそ世界的にメジャーなブロックを繋ぎ合わせて遊ぶおもちゃも色んなパッケージが販売されている訳で、エターナルクラフトでもパッケージ化された建築物が多数販売されていた。


こうしたパッケージ製品はそのままクラフトしても楽しいのだが、専用のパーツが多数用意されていて、自作する際の選択肢が増えたり、自分なりにアレンジしたりするだけでも楽しい。


俺はコンプリートする事自体が目的だった事もあり、販売されているレシピは全て網羅している。ゲーム中は、それらの建築物をテーマパークの様にずらりと並べた事もあった。その際に必要になった整地面積は、アマテラスの比では無いのだが。

今後、造成装置のアッパーバージョンも作れる様になるので、そうなればもっと簡単に整地が可能になる。そうなれば、もっと大規模な拠点も容易に建造する事が可能だろう。


因みに日本の建築物も色々とあるが、特徴として畳の材料になるイグサが必要になる。漆喰も必要だが石灰石があればクラフト出来るので問題は無い。

イグサも上級エリアで比較的容易に採取が出来るので、採取が出来たらクラフトしてみようと考えている。ラインナップは、姫路城、熊本城、金閣寺、平等院鳳凰堂等。


勿論レシピはコンプリート済みなので、クラフトしようと思えば色んな建築物が選択肢にある。材料が確保出来たら一通りクラフトして皆に使用感を試して貰おうと考えている。ただ、どれもこれも基本的には大きいので、皆の住居として普段使いをするには多分向かない。精々が箔を付ける為に領主の住居として利用するか、行政機能を集約する為の施設になるかのどちらかに考えている。


次の問題が、王都からの招聘についてだ。正式に8等級の認可をしたいのと、トウカの今後の扱いについて協議をしたいとの事で、王家とギルドの両方から一度王都に来て欲しいと要望を貰っている。

来いと命令をされていないのは好感が持てるが、流石に余り放置をしていると相手も焦れて強制の呼び出しが掛かる可能性は否定が出来ない。今は上級エリアの開拓が最優先なのでわざわざ王都へ出向く手間を掛けたくは無い。オデットさんに上手く取りなしては貰っているが限界があるので、何処かのタイミングで行く必要が有った。正直面倒臭い。


次の問題が移民の受け入れについてだ。

これはオデットさんの兄であるアデマール伯爵からの要請だが、トウカに移民を受け入れられないかと打診を受けている。

トウカ、もといブルゴーニは本来は援助を受ける側の立場であると思うのだが、トウカでは食料が潤沢である事が既に知られている。


要請を受けたのは、ブルゴーニで技術を持った人の多くが先の魔物の襲撃で亡くなっている事も関係している。単純に人手が足りないだけでは無く、技術自体が失われている分野も少なくは無いのだ。そこで、技術者を支援として送って欲しいと伯爵に要望を出した所、ならばある程度の人数を受け入れて貰えないかと言う話になったらしい。


先の紅の月による被害は広範に及んでいて、王国では特にアデマール伯爵が領有する地域に被害が集中している。人的被害もさる事ながら魔物に畑が踏み荒らされた事による作物へのダメージが大きく、今年の冬は食糧に困窮する事が予想されている。

方々から輸入する事も進められてはいるが財政への負担が大きいし、それでも必要数に足りるかが難しい状況。そこで、食料に余裕があるトウカが移民を受け入れらえないかと相談を貰っているのだそうだ。


移民の候補にはどうしても子供が多くなる。短期では労働力となりにくいからだ。長期で見ればトウカでも慢性的に不足している人的資源を確保出来るので、決して悪い話では無い。ある程度は受け入れる方向で調整をしているが、どの程度の規模をどの様な基準で受け入れるかを協議している最中だ。勿論労働力や技術者を優先して要望を出している。


それに受け入れた後の待遇についても、どうするかを決めておく必要がある。こう言っては何だが、実のところトウカでは住環境を除けばそれ以外の待遇は他の町と比べて格段に良い。不自由さを補って余りある程、清潔で飢えない環境と言うのは他には替えが利かないものだ。


恐らくだが、一度移民を受け入れるとその流れが一気に加速する可能性が有る。領民が減れば税収が減るので、普通に考えれば領民を外に出すのはメリットが無い様に思える。だが、食料を自給できる量には限りがあるので、人が増えすぎたり、何らかの要因で収穫量が減ると下支え出来る人数を超過してしまう。そうした場合には、移民に出さざるを得ないのだ。いわゆる口減しと言う奴だ。

移民は領主の許可が必要なので、勝手に移民を希望する人達が押し掛けてくる事が無いのは幸いだった。


そして最後が、冒険者と交易商人の受け入れをどうするかだ。


ギルドの誘致も進んでいて、もうじきギルドの支部が開設される見通しになっている。

そうなれば、改めてギルドに登録をして冒険者になる者も出てくるだろう。

冒険者は町から町への移動に制限が無いから、この街を拠点にする為にやってくる者も少なくは無い筈だ。現に、テオドール商会の護衛仕事は大人気なのだそうだ。人気の理由は半日程度の旅程で安全性も高いにも関わらず報酬が悪く無い事。それ以上にここでしか味わえない食事と酒目当てなのだから、今後ギルドが開設されればトウカを活動拠点にする冒険者が一気に増える可能性もある。その受け入れをどうするかも問題だった。


そして、トウカで産出される製品を取引したいと打診してくる商人も多い。

領内の流通に関しては最終的にこの一帯を治めるアデマール伯爵の許可が必要になるが、現時点ではテオドール商会以外にはトウカへの立ち入りを許可していない。

必要な物資の調達はテオドール商会だけで間に合っているし、大っぴらに外に出すと色々と影響がある物も少なきは無いので、せめて町が落ち着くまではと受け入れを制限している状況だ。


王家に献上された酒が評判になっているらしく、それ目当てに交易を希望する者が後を立たないそうだが、今はアデマール伯爵に断って貰っている。

ただ、いよいよアデマール伯爵よりも爵位が更に上の侯爵からの口利きでお願いをされているそうで、どうにかならないかと泣きつかれている状況だ。

酒類は、味噌や醤油以上に俺の手から離れるのは難しい為、いったん受け入れてしまうと俺の負担が嫌が応にでも増してしまう。王都へ行く機会があれば、王家を通じて制限を掛けて貰えないかを相談するつもりだ。まぁまだ先の話だと思うが。


ただ、他にも上質な砂糖や、穀物。日持ちのする野菜。野菜も品種からして違うのか、普段皆が口にする物よりも数段味が良く、加工した製品を交易したいとの要望も多い。そこに今後は塩も加わる可能性があるのだ。

交易に乗せてしまえば外貨の獲得が容易になるが、かと言って今のところは使い道が無い。なにせ、一番費用が掛かる筈の建築資材が自前で賄えているからだ。とは言え足りない物はまだまだあるから、どうしたって輸入は必要になる。でもテオドール商会で間に合っているから積極的には考えていないのが現状だ。先々どんな品目を求めて、何を出すのかも慎重に議論をしている。


そんなこんなで、これまで余り時間を取って話せなかった事を、この2日間でしっかりと腰を据えて話をする事が出来たと思う。











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