第100話 海
途中フランシーヌが将軍様と決闘をするなんてトラブルもあったが、その後は特に問題も無く海を目指す旅程は概ね順調に終わった。
拠点を無許可で建造する事による多少のトラブルは想定していたが、まさか拠点を建造した翌朝に軍隊に囲まれるだなんて思いもしなかった。
街道からは直ぐには発見出来ない場所を選んでいるから早々見つかる筈は無い。ましてやあの規模の軍が、たまたま通り掛かった何て事も無い筈だ。それに軍を率いていたのは国軍の最高権力者なので、いよいよ偶然とは考えにくい。
つまりは、何処かのタイミングで不審人物としてマークされていて、即応で軍を動かした結果がアレなのだと思う。普通に考えて、あれ程の早さで軍を動かせるのはかなり優秀なんじゃ無いだろうか。
機動力の高い騎兵とかならまだしも、攻城兵器まで持ち出してきたのだから尚更だ。そもそも出せと言われたからと直ぐに出せる代物じゃないだろ、あれ。
仮に俺達が関所を通って直ぐに用意したとしても、あのタイミングで拠点を包囲出来るのはタイミング的にはちょっとおかしいと思う。
壊滅的な被害を受けたブルゴーニが、10日以上経っても全く救援が無かった事を考えると、比べて見ればどちらが優秀だったかは言うまでも無い。
むしろ、ブルゴーニやモンペリエを支配するシャトー王国が、ダメな可能性も否定が出来ないな。大陸でも有数の大国らしいのだが、実際の所はどうだろう。
ただシャトー王国は、ブルゴーニへの救援が遅かった事以外ではそれ程印象は悪く無い。冒険者としての等級が早々に上がったのは王国の認可が早かったからだし、トウカへの余計な横やりも今の所は無い。酒や砂糖の取り扱いに関する認可も早かった。それだけ迅速な判断が出来るにも拘わらず、救援が遅かったのは如何なものかと思う。
ただその点については、被害が広範に及んだ事。ブルゴーニの領主やそれに準じる権限を持つものが皆戦死し、かつ領主屋敷の崩壊に通信用魔道具が巻き込まれて連絡手段が途絶した事が要因としては大きい。
シャトー王国においては町を領有する領主の権限が非常に強い。
ブルゴーニやモンペリエを含む周辺一帯はアデマール伯爵が領有しているが、それぞれの町は領主の自治に任せている部分が大きく、それに付随する権限も大きくなっている。
魔導具による連絡手段が整備されているとは言え、上級貴族や王族の支配が直接的には及ばない事が理由の1つだろう。また、それぞれの都市が、その都市だけで1つの経済圏を確立している事も理由に挙げられる。そう言った事情もあって、通信が途絶した状況では支援が後手に回るのも致し方が無かった。
あれだけ迅速に軍を動かせる人物なので、話をして見れば色々と得る物があったかも知れない。シェリー王国からはさっさと出てしまったが、もう少し友誼を結んでも良かったかも知れない。
因みにシェリー王国での拠点を巡るトラブルは、その経験が後に生かされたかと言うとそうでも無かった。相変わらず町への立ち寄りは最小限に済ませたし、多少のいざこざは力押しで解決した。金と戦力の両方があれば、ましてや彼我の差が圧倒的なら、大抵のトラブルはどうにでもなったからだ。
なにせフランシーヌをどうにか出来る人物は今の所は出遭った事が無いし、俺のアイテムボックスには金のインゴットが唸る程ある。手持ちの貨幣でもある程度の融通は効くが、いざとなれば金を使う事に躊躇いは無い。まぁ、そこまで大きなトラブルは実際には無かったので、それ程力押しで通した訳でも無かったのだが。
そもそも卓也達が拠点の建造に選ぶ場所は魔物の領域で、余程の事情が無ければわざわざ夜に活動をする者は居ない。卓也達の預かり知らぬ所で、たまたま夜に活動をしている冒険者が拠点を発見した事もあったの。しかし眼前に異常性を訴える建造物があれば、遠巻きに様子を見るのが普通の反応だ。その後冒険者がギルドへ報告に戻り現地へ駆けつけても、既にそこには拠点は無いのだから卓也達にとっての問題にはなりようが無かった。
因みにギルドでは支部を通じて本部へと報告が挙げられており、本部で同様の報告を何度も受け取っている。明らかに異常事態であったが、ある程度の時間を経るとモンペリエでの報告と関連付けがされ、卓也の仕業であるとの認識が広まる様になった。その為、卓也達の旅はそれ程問題にならなかった経緯があった。
海への旅路は当初想像してたよりも街道が整備されていた事もあって快適だった。1日平均100kmは移動が出来た事も有り、アマテラスの造成が完了する前に海岸線に辿り着く事が出来た。流れゆく移り変わる景色や季節を楽しみながらフランシーヌと一緒に馬車に揺られる旅は、卓也にとってはとても居心地の良いものだった。
色々と過酷な状況を目にしてささくれ立った心が、気付かない内にこの旅でかなり癒されたのだった。
誤算だったのは、意外にも途中からは川の流れから大きく外れるルートを通った事だろう。当初は川に沿って下るつもりだったが、川沿いには魔物の領域も有り、そうした場所を避ける様に街道が通っている。正しくはそうした魔物の領域へと延びる街道の跡もあったが、長らく利用されていないからか、すっかりと土や雑草で覆われていて街道としての機能を失っていた。
海に辿り着けたのだから何が問題と言う訳でも無いが、海に辿り着いて造船設備を建築している時にふと思ったのだ。あれ、川を船で下った方が早かったんじゃないの?と。
トウカやモンペリエの横を流れる川は、途中で幾つかの支流と合流して海まで流れ込む。単純にトウカから南下しても海までの直線距離で1500㎞あるのだから、どれだけの大河かは想像が出来るだろう。
ただ、途中は流れの険しい所が有ったり、雨季で無ければ水深が浅く船で移動するには十分な深さが無かったりする所もある。中には、湿地帯が広がっていて沼のバイオームと思しき魔物の領域もあった。
それでも本流であれば船で航行出来る可能性はあったが、街道沿いに移動した事で本流へと流れ込む前に川からは逸れてしまったので、その可能性に気付けなかったのだ。
ゲーム内では海と川は明確に区別されていて、卓也が想定する船では移動が出来なかったので、選択肢に無かったと言う事情もある。
一応イカダで下る方法も有ったが、流石に川沿いに出現する水棲の魔物もいるのでイカダでは心許ないのも有り、思い付かなかったのだ。
まぁ海には無事に辿り着いたので、過ぎた事を気にしても仕方が無い。直ぐに気持ちを切り替えて拠点の建造を進めるのだった。
海に近い部分は、ほぼ手つかずの領域だ。海には陸とは異なる魔物が生息しており、海洋資源の活用が難しい。それに塩害もあって耕作に向かないので、海岸線に程近い場所には目立った町は無い。
海を臨める場所まで移動をすると、海岸線に沿って拠点の設置に適している場所を探す。ある程度の水深が必要になるので、浜辺よりかは人の手が入れ難い浸食された海岸の方が都合が良かった。
候補地としたのは、断崖から海を臨む場所だ。いわゆるリアス海岸。シェリー王国のあった山脈から流れる川が海へと流れ込んでおり、長い時間を掛けて海に浸食をされたのであろう。
断崖から海までの高さは数10mあって、普通に考えればここを開拓して港を建造するのは非常に難易度が高い。だがクラフターである卓也にとっては手間こそ掛かるものの、造作も無い事だった。
この辺りは殆ど人の手は入って居ないので、大規模な拠点を建造しても問題にはならない可能性が高い。そこで、遠慮なく手を加える事にした。今までに遠慮があったかと言われると、疑問では有るのだが。
因みに海や川に面した拠点は、そちら側を城壁で囲わなくても拠点として判定される。早速整地を行い、余裕を持って2㎞四方を囲う様に城壁を設置する。
次に階段上に落とし込みながら整地を行っていく。拠点の基準となる高さは、海水面から20m程度に揃える。余り下げすぎると波をかぶる可能性も有る。それに万が一にも津波が発生した時に耐えらえるであろう安全マージンを取って20mにした。
中央部にはいつも通り転移門を設置。拠点部分の整地が完了すると、造船所を建造する為に、更に掘り下げていく。造船所は海に面する100m×300mの広さを必要とする大型施設だ。すっぽり収まる300×500mの区画を作る為に、更に海水面から5mの高さにまで掘り下げていく。完了すると、造船所の建造開始。
そこから壁面を整地して、船が接舷出来る様に均して行く。断崖絶壁を水面から5~10mの高さで、抉り込む様に掘り出した形になっている。上からは見えないので、ちょっとした秘密基地な気分だ。普通だったら崩落の可能性もあるが、その心配が無いのはエターナルクラフトならではだな。
最後に造成装置を活用して、海方向に水深5mで海底部分の整地も行う。最終的に造船所の建造が完了する迄に3日掛かった。
これで、ようやく外洋進出への足掛かりの完成だ。
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