第95話 出発
さて、皆で顔をあわせて改めて朝議を行う。
娼館で一夜を過ごす事で疲れが癒やされたのか、心なしか皆の表情が明るく感じた。
造成装置によるアマテラスの造成は、1カ月後を目途に完了をする。それまでは、日中は南下して海を目指す。ブルゴーニから直線距離で1500㎞。
なだらかな地形が続くとは言え、平坦な道や手入れをされた道ばかりでは無い。さすがに全くの手付かずな原野を馬車で進むのは難易度が高いので、街道に沿って行く事を予定している。直線距離と比較をすれば、おそらくは倍にはならないにしてもそこそこの距離は移動する事になるだろう。正確な距離は地図からでも読み取るのは難しいが2000㎞か、2500㎞か。
馬車による移動は思った程には速く無い。さすがに徒歩と比較をすれば比べものにはならないだろうが、余程しっかりと整備をされた街道ならばまだしも、この世界の道は往来の頻度が少ないので獣道よりかはましな程度だろう。
とは言え、それはリアルならの話。クラフトモードなら馬は疲れ知らずで走り続ける事が出来るし、道に生えた雑草で脚を取られる何て事も無い。でもなぁ、フランシーヌと一緒に旅をするのに、隣に居るフランシーヌがピクセル表示だなんて耐えられると思うか? まぁクラフトモードじゃ無いと馬車を上手く操る事は出来ないので仕方が無いんだけどね。
朝議を終えると、拠点から馬車を引くための馬を連れてモンペリエに移動してテオドール商会へ行く。
事前に今日受け取りに行く事は伝えているので、馬車が店の前に用意をされていた。
馬車は特注品だ。まず足回りの耐久性を最優先に作られている。耐久性に優れる高級木材を惜しげも無く使用している。素材提供は俺!
ほぼ御者台で過ごすので普通よりもゆったりとした作りになっていて、逆に荷台は最小限のスペース。荷物を運搬する必要が無いので極端な話荷台が無くても良いのだが、馬車の形状から大きく逸脱するとシステムが馬車と許容するかの判断が付かなかったので、最低限は馬車に見える形にしている。
足回りはサスペンションを採用している。技術としては元々あるが、何せ鉄が貴重品なので高い。でも俺なら問題なし。強度と快適性を追求して貰っている。
そして一番重要なポイントはゲートをくぐれる大きさだと言う事。交換用の車輪も作ってあるし、車体自体を修理する時に備えて、全く同じ物をもう1台追加で作って貰っている。備えは万全だ。
モンペリエを出発すると、後は街道に沿ってひたすらに南下する。
この世界は、かつては魔物が居ない時代があったそうだ。人は神の手で創造をされ、神により祝福を与えられた。それなのに、今は魔物の脅威に晒されている。
何故かと言えば、かつての人は祝福の力により魔力の操作に長けていて、魔力を礎とした文明を築いていたのだそうだ。その文明は魔導文明と呼ばれている。だが、行き過ぎた文明が世界に満ちた魔力の均衡を乱した事で、その弊害として魔物が生まれた。その時生まれた最も強大な魔物に滅ぼされたらしい。
かつて栄えた文明を一夜にして滅ぼしたのは、厄災の竜。エターナルクラフトのエンドコンテンツである最終ボスと同名の魔物だ。
この大陸は、世界的に見れば魔力の少ない土地で、星の北側に位置している。南に下るほどに魔力が増加して南極点が最も魔力が多い。
強大な魔物は魔力が濃い地域を好むので、南に下るほどに魔物は強くなる。成る程、エターナルクラフトが最初の大陸から徐々にエリアの難易度が上がるのもそうした理由が有るからなのかも知れない。
魔物により人類の生存圏が奪われ、かつて発展した技術の多くは失われている。何と言うか、技術や知識がチグハグな感じがするのはその為だろう。中世と近世が入り混じった感じなのだ。
魔物から逃れてこの地へ移った人も居るが、大半は元からこの大陸に住んでいた人々だ。魔導文明の時代には、魔力の操作が苦手で下民と蔑まれた人々がこの大陸で比較的原始的な生活をしていた。だが、魔導文明が滅び、それ以外の地も次々と魔物に飲み込まれた為、人が生存出来るのはこの大陸に限られている。
原始的と言っても魔導文明に頼らない生活をしていたと言うだけで、その当時の名残は随所で見る事が出来る。今も当時の姿を残す、舗装された街道もその1つだ。
魔物の居ない時代は今の様に資源の確保が困難では無かったので、大きな町を結ぶ街道はちゃんとした舗装がされていて、こうして移動をして見るとすっかり荒れては居るが道として機能する所は意外に多い。
そのお陰で道に迷う事もなくひたすらに進む。途中町があれば面倒事を避ける為に迂回する。
日が暮れる前に街道から少し離れた適当な場所を整地して拠点を建造。拠点はゲートを設置する事と、夜間にゲートを防衛する事が目的になるので最低限の防衛能力を持たせた拠点を想定している。
最低限とは言え、何処にどんな魔物が出現するかは解らない。流石にデミリッチがフィールドに出現する事は無いだろうから、せめて他のフィールドボスが出現した際に防衛が出来る事を想定した拠点を構築する。
拠点は朝移動をする際に撤去をするから、万が一にでも拠点が破壊されて転移門が使えなくなれば、1から移動をしなければならなくなる。
素材に余裕があれば拠点を残して移動をしても良いのだが、黒曜石のストックは心許ないし、拠点の設置箇所は街道からそれ程離れては居ないから、1日ならともかくしばらく放置をすれば人目にも着くだろう。そうなれば面倒事の予感しか無い。そう言う訳で夜間の防衛さえ確実に出来れば良いので、迎撃能力に全振りした拠点を建造した。
採掘施設のお陰で、現在は鉄資源が潤沢にある。燃料も石炭と高級木材が山の様にあるから、せっせと鋼鉄をクラフトしている。そのお陰で、移動中の拠点は鋼鉄製の防壁を3重にして、タレットにはレジェンド等級の強化型迎撃クロスボウ、矢は鋼鉄製の大型クロスボウボルト。壁で射線の通らない部分には鋼鉄製のバリケードを敷き詰めてある。
フィールドボスが射程内に入ってくれれば瞬殺出来るだけの火力が有るから、むしろ来るなら来いだ。これだけの火力が有れば、上級エリアに入っても中ボスのドレイク以外ならどうにでもなる。射程内に向こうから近付いてくれるなら、もしかすると削り切る事も可能かも知れない。属性武器で攻撃する方が早いから試した事は無いけど。
レジェンド等級の迎撃装置は、火力と射程と射撃間隔が150%アップ。単純なDPSだけでもコモン等級の6倍強だ。それに、攻撃力と与えるダメージは単純には比例しない。防御力と攻撃力による相対的なダメージ減衰と防御力による固定のダメージ減少が有り、攻撃力とダメージの相関図は緩やかではあるが弧を描いて上昇をする。
単純にコモン等級を6倍の密度で設置すれば、レジェンド等級と同程度の火力が得られる訳では無いのだ。
それに本来であればこのレべル帯は大規模アプデ前なので、スタック数の上限は99個。採取装置を自動化出来るとは言え、資源を回収してクラフトする手間も今の何倍も掛かった。
採取装置を一定時間放置すれば、スタック数は上限に達する。スタックされた素材を回収して運ぶにしても、運べるアイテム数も限りがあるから何度も往復をする必要が有る。
例えば鋼鉄製の矢を作るとして、まずは溶鉱炉でコークスをクラフトして、高炉で鋼鉄をクラフト。そこから矢をクラフトして拠点の収納箱に納める必要が有る。大量の矢を用意しようと思えばクラフトの合間に何往復もする必要が有る。
レジェンド等級なら、単純にこの矢を補充する工数が6分の1になるので、そのタイパは測り知れない。
長いプレイ経験により各種レジェンド等級のレシピが揃っていて、なおかつ大型アプデが適用済みだからこそ、この程度の手間で圧倒的な弾幕により敵を制圧する事が出来るのだ。さすがに何と言うかずるをしている気分になる。
だが、リアルでは何が起こるかは予想が付かない。少なくとも何が起こっても問題が無いだけの準備をするべきだから、手加減は無しだ。
余談だが、レベル40迄のレシピのレジェンド等級は中ボスのドレイクを倒す事で低確率で入手する事が出来る。上級バイオームには各1体ドレイクが居て、出現エリアが固定されるドレイクが多いので、リポップする度に転移門で梯子をするドレイク狩りツアーを長い事やった記憶がある。それでも主だったレシピのレジェンド等級が揃う迄には1年位は掛かった筈だ。
因みに、40以降のレシピのレジェンド等級は更に入手確率が下がるので、流石に入手出来ていないレシピも少なくは無い。
エターナルクラフトが親切設計なのは、レシピのドロップは被りが無い事だろう。そうで無ければレシピ集めの難易度はもっと上がった筈だ。だからだろうか。大型魔獣等から低確率でドロップする筈のレシピも、今の所見た記憶が無い。レベル40以下のレシピは全等級コンプリート済みなので、知らない間に追加されていない限りはレシピを見かける事は無い筈だ。
逆に知らないレシピがない事の証左でもあった。
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