第87話 謁見、綿花畑のクラフト、モーリスさん再訪

騎士団の対応はオデットさんに任せ、報告会を終える。今日の夜は特筆する事は無かったが、子供達の育成支援や、生活の在り方について、どの様に行っていけば良いのかはフランシーヌや帰宅したオデットさんと色々と相談をした。


翌日の朝。


そう言えば今日は騎士団と面会をするんだったな。服装はどうしようか? 聞けばオデットさんは何時も通り。ビジネススーツがお気に入りで、この町に来てからはこれ一択だ。


「本当に、俺の服ってこれで大丈夫?」


俺とフランシーヌは、クイーンジャイアントスパイダー素材の礼服をそのまま着る事にした。フランシーヌも最近はお気に入りで、外に出る時はこれを着ている。

普段使いにするには華美に過ぎないかなと思うけど、戦闘もこれでこなせるし、環境耐性が高いから暑さも気にならず、なにより着心地が良い。


「勿論で御座いますよ。これ程上質なスパイダーシルクを纏った者等、王族でもおりません。見る者が見ればどれ程の逸品かは一目瞭然です。ましてや領内に大蜘蛛の森を抱える伯爵家の息子である騎士団長が、見紛う筈も御座いません。見縊られる事は無いでしょう」


とはオデットさん。


デザインはともかく、見る者が見れば直ぐにジャイアントスパイダーの糸だと解るので、侮る者は居ないとの事。まぁそこまで言うならこれで問題ないのだと思う事にした。それにしても派手だと思うんだけどな。なにせ見た目には淡い光沢を放つ純白のタキシードだ。


会議室へと移動すると、今日はまずは騎士団との面会、俺が格上なので形式としては謁見なのだそうだ。テーブルの周囲に皆が立って並んで、俺は扉から向かって正面の椅子に腰かける。


見た目に派手な椅子は無いか聞かれたので、一番派手目な椅子をクラフトしてみた。金のインゴットと高級木材を使用する金の豪奢な椅子。フレーム部分が金で作られていて、何と言うか玉座と呼ぶに相応しいデザインだった。どう見ても派手すぎるので違うものにしようとしたら、皆には好評でこのまま使用する事になった。座り心地は良いけど、居心地は何だかとっても悪い。


フィリップに案内されて、騎士団総勢20名が会議室へとやって来た。ちょっと手狭に感じるが、ある程度余裕を持って建造しているので20人並べない事も無い。


一斉に膝を突き礼を取る。基本的な受け答えはオデットさんとフランシーヌに任せてある。


「タクヤ様、伯爵麾下の騎士団を束ねる騎士団長のサンソン殿と、その配下の者達で御座います」


「タクヤ様に拝謁を賜り誠にありがとう御座います。この度はブルゴーニの民をお救い頂きました事、アデマール伯爵にかわりお礼申し上げます」


「うむ、遠くから良くぞお越しくださった。何もおもてなしは出来ないが、町の現状を伯爵様に宜しくお伝え頂きたい」


「ははっ。つきましては、2〜3日ほど町に留まり調査を致したく存じます。許可を頂きますれば」


「許可する。仔細はオデットと調整をしてくれ。オデット、万事任せる」


「畏まりました」


何とも仰々しいが、形式は大事だ。まぁ致し方無い。その後、騎士団が会議室から退室したので、後はいつも通り朝議を行う。


「オデット、あれで大丈夫だったかな?」


「はい、ご立派で御座いました。後は委細お任せください」


騎士団が町を調査するからと言って、俺のやる事に変わりは無い。今日は綿畑を作って、ガイドラインの設置が待っている。


まずは不足がちな鉄のインゴットを職人達に提供する。

綿花については前にオデットさんに相談をしたが、あの後色々と調査をした結果、糸の加工は目処が付きそうとの事。

元々畜産が盛んだった事から毛糸の加工技術を持った者が多く、綿の加工も問題が無さそうだとの事。しかも、綿花から糸を紡ぐのは子供でも出来る作業だ。手すきの子供達に与える仕事があるのは大賛成との事だった。

勉強を教えるにしても、現時点では全く手つかずなので今後の課題にはなるが今すぐどうにかなるものでは無さそうだ。


新しい町を囲う城壁は既に完成している。

トウカの町の、西側の城壁。その両端それぞれの角から、新たな町に向かって城壁を伸ばして行く。2つの拠点の間に線を足して新たな拠点を構築する作業は、何と無く昔遊んだ陣取りゲームを思い出した。

トウカと新たな町の城壁同士の間は余裕を持って距離を空けているので2km位はある。だが川に近く勾配はなだらかなので、余裕を持って3mの高さの城壁を設置すれば整地せずとも直ぐに拠点化が可能だった。2kmの城壁を2本敷くだけなら大した手間では無いので、防衛用のタレットを設置する手間を入れても1時間程で完了する。あっという間に2km×1kmの拠点の完成だ。


こうして囲ってしまえば安全に作業が出来る。半分は俺が畑を設置して綿畑に。残りの半分は皆に耕作を任せる事にした。時間は掛かるだろうが来年の春を目標に用水路を掘り、耕して耕作地にする予定だそうだ。


引き続き昼過ぎまでには畑の設置と種蒔きを終える。勿論井戸の設置に散水装置の設置まで完了済み。これで今日を入れて5日で立派な綿花が実るだろう。因みにこの拠点内に植えた巨大ツリーは、景観にめりはりを付ける為にそのまま残す事にした。昨日埋めたばかりだが、既に腰位の高さに成長をしている。

成木になれば日差しを遮ったり雨を凌いだりも出来るから作業もし易くなるんじゃ無いかなと思う。


残りの時間で新たな町の堀や町の基礎を造成する為に、改めてガイドラインを設ける。どうしても目算で数えながらだと1つや2つはカウント間違いが生じる。後で微調整をするのは性に合わないので、手間がかかっても予めカウントしながら先にマス目上にガイドラインを引いてしまうのだ。外縁部に城壁を建造する際にガイドラインは設置済みなので、あとはカウントにズレが無いかを確認してマス目上に線を引いて行くだけなので、時間はそれほど掛からない。


作業の手順は次の通り。城壁の角から250mを起点として城壁から内側に向けて真っ直ぐに歩く。高低差に差異が生じない様に、高ければ採掘して、低ければブロックを設置して水平だけは取る。城壁に設置しているタレットを横目に目印として当たりをつけ、ブロックを前後10m位設置する。クラフトモードで駆け足気味に行えば1時間でライン1本、7kmはこなせる作業だ。そして縦と横のラインが交差するポイントが造成装置の設置箇所だ。


多分ここが形になってくれば、町の名前をリクエストされるんだろうな。先んじて何か良い名前を考えて置こう。そんな事を考えながら作業をした。


今日は日が大分傾いたタイミングで作業を終えた。モーリスさんが来る予定になっていたから、ちゃんと礼を言っておきたかったからだ。


町に戻るとテオドール商会が大量の荷物を携えて既に到着をしていた。護衛の冒険者も多い。彼らは魔物が居ない間は荷車を引く役割も担ったりする。そして職人も多数帯同していた。


モンペリエからトウカは荷物を引いても半日程度の距離なので、昼過ぎには到着したらしい。既に職人の指導の元、急ピッチで木材加工に必要な道具が組み立てられている。ここにあるのは木から木材を切り出す為の道具なのだそうだ。


他にも、色んな道具が並べられている。重要な作業の大半は、伐採をしたその場で行われるのだそうだ。なにせ通常なら、伐採作業は大蜘蛛の森の端で行わなければならない。


ジャイアントスパイダーの襲撃に対処しつつ、手早く木を切り倒し、護衛を除いた人員総出で木をジャイアントスパイダーの活動エリアから引っ張り出す。そこまで完了すれば危険度はぐっと下がるので、後は1日かけて適当な大きさに切り分けてから街まで輸送をするのだ。


巨大ツリーはl本あたりの重量が凄まじい。職人さん曰く、水と殆ど重さが変わらないそうだ。

巨大ツリーは、先端が多少は細くなっているとは言え下方と上方では幹の太さはそれ程変わらない。水と同程度の重さと仮定してざっと試算をしてみると、直径3mで高さが15m、円柱の体積は底面積×高さなので半径1.5m×半径1.5m×3.14×高さ15m≒106㎥。

1㎥=1tなので、とんでも無い重さだと解る。軽量化の魔法は熟練者なら5分の1位には軽減出来るらしい。それでも約20t。まぁ実際には上の方は多少細くなるのでもう少しは軽いと思うが5分の1に軽減しても10tは下るまい。


因みに少し前までは、モンペリエで最も軽量化の魔法に秀でていたのはアメリーだったそうだ。今頃、白金の鷹の皆は元気にしているだろうか。


伐採の手順としては、伐採して倒す方向の地面に予め引き手となるロープを置く。

伐採して木を切り倒すと素早く枝を切り落とす。枝と言っても主幹は結構な太さだし、比較的細めの枝も貴重な燃料になるので余す事無く回収される。

そしてロープを幹にぐるっと回すと固定する為の鋲を打ち込み、魔術士総出で軽量化を掛けて一気に引いて移動をさせる。木を切り倒して移動を完了するまで、僅か30分余り。


狙った方向に正確に木を切り倒す事が熟練した職人の腕の見せ所なのだそうだ。

因みにロープはそのまま木を引きずると簡単に擦れて千切れてしまうので、ある程度は持ち上げる必要がある。その為に必要な人足の数は300人程度になる。


大蜘蛛の森へ巨大ツリーを切り出す為の遠征隊は、1000人規模になるのだそうだ。モンペリエの冒険者総出だし、騎士団や町の住人も多数駆り出される。


何と言うか、それだけの作業を自動伐採装置1個設置するだけでお手軽に出来てしまうのだから、説明を聞くと申し訳無さで一杯になった。

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