第81話 報酬の打ち合わせ
ブルゴーニで作業を終えた後、ざっと風呂で汚れを落として身綺麗にした。病原菌が心配ではあるが、そこはフランシーヌの浄化があるので多分大丈夫だろう。それでも、纏わりついた臭いが落ちない気がする。
諦めて服を着直して、モンペリエに移動する。
今回の打ち合わせは、テオドール商会では無くギルドで行う。先だっての襲撃の際の報酬を精算する必要があるが、何より今回の打ち合わせの大半は冒険者の報酬の支払いについてだからだ。
テオドール商会に諸々の手配をお願いしたが、冒険者の雇用は俺が依頼主となっているから、実際にはギルドを通して報酬を支払う必要がある。
ギルドにつくとベアトリスさんに挨拶をしてギルド長室へと案内される。
「タクヤ様、ご足労くださり誠に御座います」
ギルド長と何日かぶりにあったら、すっかり口調が固くなってしまっている。元から丁寧な口調だった気がするが、今日は手ずから部屋の中に案内してくれて、椅子を引いてくれてる徹底ぶりだ。
「いやいや、マスターもそこまで畏まらないでください。さすがに話がしづらいですよ」
「そ、そうかね。タクヤ様も今では領主様だろう? あんまり砕けた話し方や態度では下の者に示しが付かないからな」
「まぁ解りますけどね。うーん、仕方ないですね、まぁお任せしますよ。でも俺も冒険者ですから、そこまで畏まらなくても」
「うむ。まぁそう言って貰えるなら。ところで避難民の様子はどうかね?」
「そうですね、一番厳しかった峠は越えたかなと思います。まだまだこれからですけどね」
「そうか。出来る事なら協力をするから、何時でも言ってくれ。勿論報酬は頂くがね」
「それでしたら、1つお願いをしたい事が御座います」
とはオデットさん。
「ご挨拶が遅くなりました。オデット様、お久しぶりで御座います」
「あれ、マスターとオデットさんって面識あるんですか?」
「ああ、ブルゴーニは隣町だからな。数回程度だが、ご挨拶をさせて頂く事位はな。それで、お願いとはどの様な事でしょう?」
「直ぐにでは無くても構いませんので、タクヤ様の町へギルドを新しく設けて欲しいのです」
「ギルドとしては勿論お願いしたい所だが、タクヤ様は問題は無いでしょうか?」
「あれ、何か問題ってあるんですか?」
ギルドを設置するにあたって何か問題があるのだろうか。考えて見るが直ぐには思い当たらない。
「国とギルドの間で契約が結ばれており、各都市では国を通じ契約に基づいてギルドの支部を設置しております。ですので、タクヤ様の町にギルドを開こうとするなら、国に届け出をした上で契約に従って頂く必要が御座います」
「特に問題は無いように思えますが?」
「その場合、タクヤ様が正式に国に従う事になりますが問題は御座いませんか?」
「いえ、特に問題は感じませんが?」
はて、何を問題視しているのかがちょっと理解が出来ない。
「タクヤ様、それは客観的にはタクヤ様が一地方領主として王国に従う。軍門に降ると見做されるかと。英雄を目指す高位の冒険者には何時か自分の国を興す事を目標にする方も多いので、王国貴族として地方の領主に納まる事を好ましく思わない方も一定数居ます」
ああ、なるほど。そう言う見方も出来るのか。
「まぁそこはオデットさんにも言ったけど、国を興すなんて面倒だから考えてないです。ブルゴーニの皆が暮らしやすくなればそれで良いので、是非進めてください」
「畏まりました。でしたら、本部との調整はお任せください」
オデットさんが申し出てくれたのは、多分俺の意を汲んでくれての事だろう。町の領主でも手に余るのに国の盟主なんてお願いされてもお断りだから、むしろギルドを設置する事で俺にその気がないと思われるなら、そっちの方がありがたい。
そんな話をしているとドアがノックされて、ベアトリスさんに案内されてモーリスさんが到着した。
その後は報酬についての打ち合わせだ。
冒険者の派遣は緊急事態だったので、報酬額の規定だとか契約書の取り交わしは後回しにしている。本来であれば規定に基づいた報酬に従って、予め供託金、依頼金としてギルドに一定額を預けなければならない。今回はそれを省いた形だが、報酬の原資には俺の金貨7万5千枚を当て込んでいて、足りない事は絶対に無いので早期の契約が実現した。いわゆる信用取引だな。
モーリスさんには必要経費を取り纏めて貰い、加えてマスターにギルドの規定に従って報酬額の算定を行って貰っている。
依頼主が依頼の達成度を評価して報酬を増加する事が出来るが、俺が依頼者なので今回は最高評価として報酬を算出して貰うようにお願いをしておいた。
等級に応じて一律で計算がされている。6等級なら報酬が幾ら。5等級なら幾ら、と言った感じだ。動員された冒険者の数は97名。1名の脱落者も出なかったのは幸いで目立った怪我を負った者も居ない。その為、あれ程の過酷な環境への派遣だったにも関わらず結果としては危険度が低く評価されているそうだ。
物資の調達や必要経費、冒険者の報酬は全部で凡そ金貨800枚になった。これにギルドへの依頼手数料とテオドール商会の仲介手数料を全て込み込みで金貨1000枚の支払いとする。
纏めてある資料はオデットさんにチェックをして貰い、太鼓判を押して貰った。長らく領地経営の補佐をされていて、むしろ経理関係については殆どオデットさんが管理をされていたそうなので、こうした資料のチェックはお手のものだ。オデットさんが優秀すぎて怖い。
物資調達用にと預けた資金もあるので、足りない分を精算して、残りの預かり証をギルドに発行して貰う。金貨1000枚が先の経費として高いか安いかは判断が付かないが、凡そ1億。冒険者100名をあんな場所に派遣して2週間拘束したのだから、1人100万と言えばむしろ安い気もする。
それに金貨1000枚の支払いをしても、未だ金貨7万枚以上が残ったままだ。この資金の使い道は投資と既に割り切っているので、今後もどんどん使っていく予定だ。
後の細かい打ち合わせはオデットさんに任せて、俺はモンペリエを後にした。何せやらなければいけない事は山積みだ。早く造成装置の設置を終わらせて、海を目指したいのでその為の準備も合わせてモーリスさんにお願いをしてある。
さて、町へ戻れば後はクラフトの続きだ。まずは壁の設置。その前準備の為の整地だ。
昨日引いたガイドラインのカウントを再度確認しながら、直ぐ横を並行に掘り進めていく。500m毎に造成装置を設置して、防衛用にタレットを設置する。
造成装置は超便利装置で、なんと設置は1ブロックに納まる。これでどうやって整地を行っているかなんて解る筈も無い。この装置を見ると、きっと運営も色々と考えるのを諦めたんだろうなーと思わざるを得ない。
自動採掘施設なら採掘坑にベルトコンベア、伐採装置なら木材を収める倉庫に加工台と丸鋸と、まだ理解が出来る。だが、造成装置はただの箱だ。ただのと言うか、寄せ木細工というか、モザイク模様というか、幾何学的な模様のした箱だ。多少はとんでも感を演出しようとした意図は見て取れるが、どこからどう見ても箱だ。
まぁ、整地作業自体は楽しいとは言え、設備や拠点は大型化の一途を辿るので、その全てを手作業で行うのは限度がある。非常に有り難い装置だ。
さて、設置した装置へ意識を向けると自分を中心とした俯瞰図が表示される。ここから造成の範囲を1ブロック単位で設定する事が出来る。造成と言っても設置面に合わせて平らにならすだけなので、許容される範囲が決まっている。平面上は装置を中心として1000ブロック×1000ブロック。つまり500m四方だ。この範囲内で装置にいずれかの面が接している長方形の範囲内であれば指定が出来る。次に許容される高さは上下10mずつ、20段まで。それより高い、もしくは低い場所は均す事が出来ない。
あと、クラフトで既に何某かの設置物がある場合は、そこも均されない。
そして、壁は10m四方の平均的な高さを設置面として判定する。傾斜地に壁を設置する場合は、そこそこの高さが必要になるのと高さの管理が面倒なので、整地をして壁を設置するのが一般的だ。
それに、壁の外側に高い傾斜があると、魔物によっては壁を飛び越えてくる事があるので、魔物の侵入を防ぐ為と迎撃用の十分な射界を確保するためにある程度のスペースを確保する。
壁の設置予定ラインにそって、200m毎に造成装置を設置。これは射程を考慮して設置する迎撃装置の設置間隔に合わせている。ラインの外側に100m、内側には5m。比較的平坦な地形なので、起伏があっても均せば1段位か。
仮に起伏が2段程度として400(長さ200m)×210(幅105m)×2(上下2段、1m)で168,000ブロック。毎秒4ブロックなので42,000秒≒12時間。明日迄には終わっているだろう。
今日は夕方に予定があるので、少し早めに作業を切り上げる。流石に造成装置の設置は今日1日では全部終わらなかった。全体で見ると4分の3。町側の1辺が残っている。
明日の午前中は残りの造成装置を設置して、午後は外堀に造成装置を設置する為のガイドラインを設置する事にしよう。
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