第80話 禁制品と蒸留酒

サトウキビから砂糖を作る工程自体はそれ程難しくは無い。社員旅行で沖縄に行った際に砂糖作り体験をした事があるが、サトウキビを煮込めば黒糖が作れる。ただし、そこから白糖にしようと思えばかなりの手間になる。

とは言え黒糖でも栄養価が高く甘味になるので、交易資源になる。それに酒の材料にもなるしね。


「これを町で育てて、将来的に交易で外貨を得られないかと思うんだけど、どうかな?」


「砂糖を交易で、ですか。それは...」


「何か問題でも?」


「砂糖は禁制品ですので、栽培や交易には王国の許可が必要になります。許可を取るのは中々難しいかも知れませんね。いっそタクヤ様が国を興された方が簡単な気もします」


「国を興す?さすがにそこまでするつもりは無いから、それじゃ砂糖は一旦保留で。自分達で楽しむ位は良いよね?」


「そうですね。町で大々的に栽培しなければ大丈夫だと思います」


うん、わざわざ国を敵に回す必要は無いから、砂糖は目の付かない所で必要な分だけ育てる事にしよう。

まぁ禁制品と言っても製造も流通も全面的に禁止と言うよりも、許可制で許可を取るのはかなり難しいと言う話らしい。税金も高く、地方領主が軽々しく扱えるものでは無いとの事。一次流通は王家から認可を受けた商会のみが行っており、砂糖、塩、酒類全般は禁制品にあたる。製造は主に王家の直轄地で行われる。あとタバコだな。

因みに大麻と言った薬物類は文字通りの禁制品で、こちらは更に厳しく処罰される対象だ。


「砂糖がダメなら、これはどうかと思うんだけど」


と言って綿の糸をテーブルの上に設置する。


「これは、綿ですか?」


「そそ。食糧と水と住環境は最低限用意出来たから、次は服だと思うんだよね。皆ぼろぼろの服をそのまま着まわしてるでしょ? どうしても気になってさ。綿を育てて布を供給出来ないかと思って」


「それは良い考えだと思います。生産が安定すれば交易品としても優秀ですし、糸や布の加工はどうしても人手が要りますから、逆に将来的な雇用の創出にも繋がるかと思います」


「そう言えば羊から羊毛の採取も出来るから、今居る羊から羊毛を刈り取れないか確認して貰える? その内数も増えるだろうから、将来的には毛糸も交易品になると思うんだ」


「かしこまりました」


エターナルクラフトなら、羊から鋏で羊毛が採取出来る。羊毛を採取すると、羊はちゃんと毛が刈られたグラフィックになるが、ゲーム内なら3日で元通り。リアルなら結構な時間が掛かるが、恐らくはゲームの仕様通りに3日待てば毛が生え揃うと思う。3日でまた刈れるなら羊毛の量を揃えるのもかなり容易になる筈だ。


「暑いこの時期に毛糸で服を作っても、と思うんだけど、使い道が無いかもあわせて考えてくれると嬉しいかな」


「かしこまりました。染色してカーペットにすれば高級品ですから通年で需要もあるかと存じます。加工が可能か確認をしてみましょう。必要であれば技術者の招聘も交渉してみますね」


何にしても、環境を整えたり改善したりしつつ、将来の事も考えて色々と試してみるしか無い。何が産業として定着出来るかは解らないが、思いつくままに都度試してみようと思う。


「それじゃ、これも身内で楽しむ位かな」


そう言って、ラム酒を取り出してグラスに注ぎ分ける。

サトウキビから砂糖を作ると、砂糖と一緒に糖蜜がクラフト出来る。糖蜜を醸造蔵でクラフトすると糖蜜酒が、糖蜜酒を新たにクラフトした蒸留装置を使用してクラフトするとラム酒の出来上がりだ。

糖蜜酒は色んな穀物からクラフトする事が可能で、原料となる穀物によって色んな蒸留酒をクラフトする事が出来る。


「どう?」


「独特の臭いがしますが、すっきりとして飲みやすいですね」


「まぁ作りたてだからね。熟成させると、また違った味わいになると思うよ。色々と仕込んだので出来上がりが楽しみだ」


糖蜜酒に限らず、蒸留酒は原料がアルコールであれば良いので、ワインを原料に蒸留したブランデー、エールからウィスキーをあわせて仕込んでいる。蒸留器で造れる酒の種類が多いのは、保存が利くからだろうか。

出来立てを飲んでも良いが、今日は砂糖の話のついでにラム酒だけ味見。クラフトした蒸留酒は樽に詰めて醸造蔵に放り込んでいるので、いずれも熟成により時間が経てば等級が上がるので楽しみだ。


その後は、ちびちびとラム酒を飲みながら今後の町の運営に関する相談をする。ただラム酒は割らずにそのまま飲んでいるので、度数が高く酔いが回るのが早い。早々に切り上げて、その後は風呂で疲れをゆっくりと解してフランシーヌと就寝した。

壁が防音では無いので俺は気になるが、フランシーヌは余り気にしない様だ。何がとは言わないが。その内オデットさんの家もちゃんと用意するか、拠点を拡張して気にしなくて良い間取りにしようと決意をした。


翌朝、拠点で朝の日課を済ませると、朝議で今日の予定を確認する。

まずは鉄の供給と昨晩頼まれた穴掘り。その後はモンペリエに移動して、ギルドとテオドール商会に行く。主に雇った冒険者の報酬の打ち合わせだ。それが終われば俺は新拠点の予定地へと移動。物資の調達の打ち合わせはフランシーヌとオデットの2人に任せる。


ブルゴーニでは俺が掘った穴に死体を埋葬する作業がある。その後は住民台帳の作成。今日中を目標として種まきを完了する。回収出来た資材で、様々な農具や生活用品の作成も始まっている。ブルゴーニの解体も進んでて、建材を再利用した建物もちらほらと見かけた。とは言っても流石にちゃんとした家と言う感じでは無く、主に物置だ。単に屋根があって日差しや雨露を凌げば良いだけなら、俺が建造した建物でも十分に事足りる。とは言え、プライバシーは全く無いのでこの状態が続けばどうしたって問題は出てくる。ちょっと前に植えた巨大ツリーが町を囲う様に成長しているので、伐採ができる様になれば木材についての問題はおいおい解決する見通しだ。


ついでに昨日オデットと話をした通り、鉄の鋏を5個取り出して渡しておく。これで羊の毛刈りを試して貰う予定だ。


今日の予定を確認した後は、昨日約束をした鉄の供給を行う。溶鉱炉を設置したスペースには様々な鍛治道具や木材を加工する為の器具がブルゴーニから運び込まれていて、朝も早くから槌を振る音が響き渡っている。


「領主様、おはよう御座います」と、方々から声を掛けられる。皆元気そうで何よりだ。職人の取りまとめはマティスに任せているが、周りを見渡すと明らかにマティスよりベテランに見える人達もいる。


「マティス、何か困っている事は無いか?」


「タクヤ様、道具もだいぶ揃って来ましたので問題は有りません。皆も良くしてくれてますし」


「そうか、困った事があったら何でも言ってくれよ?」


気にはなるが、細かいところにまで目を光らせるのは難しいから、上手くやって貰える様に祈るしか無い。まぁ多少は資源を融通する位なら出来るから、助けになればと思う。


スペースを確保して、アイアンインゴットを順に設置していく。それを皆に回収して貰う。銅も使い道は色々とあるそうなので、銅のインゴットも渡しておく。30分かけて鉄のインゴットを200、銅のインゴットを100。ストックはもっともっとあるが、受け渡しにはそれなりに時間が掛かるので、今日はこれ位にしよう。ついでに溶鉱炉の燃料を追加しておいた。


インゴットは結構大きい。鉄のインゴットで長さ30cm弱、幅は底辺が10cm弱の台型だ。結構重い。

混じり気無しの高品質な鉄で、皆から喜ばれた。これだけあれば色々と足りないものが作れるのだそうだ。

因みに銅のインゴットはもう1回り大きい。手に持って比べて見ると同じ位の重さなので、多分重さが基準になっているのだろう。


インゴットの受け渡しが終わるとブルゴーニへ移動する。

遺体は、町を南北に分ける西の街道へつながる一番広い通りに沿って並べられている。道の幅は10m以上あるので十分な広さだ。


町の外に遺体を運び出す事も検討はしたが、損害の大きなこの町を復旧する事は現状では難しい。モンペリエから見れば要衝なので、将来的には何らかの対処が必要だが、現時点でそれだけの作業を行うのも現実的では無いので、まずは目先の問題解決を優先して町中にそのまま埋葬する事になった。


埋葬の為の穴はあまり深くしすぎると落下した時の怪我が怖い。とは言え十分な深さが無ければ、さすがにこの数の遺体だ。埋めたからといって衛生状態の悪化が避けられるとは思えない。生活の拠点自体は町へ移しているのである程度は許容出来ると思うが、何が原因か分からない病気で亡くなった遺体も少なくは無い。遺体を苗床として病原菌が増えて、病気をまき散らす可能性も否定は出来ない。


そこで、状態の悪い遺体については、諦めて俺が処理をする事にした。俺が穴を掘る準備を進める間に、フランシーヌがそうした遺体の上に目印として木切れを置くので、追って俺が処理をする流れだ。埋葬は町の人々に行ってもらう。


道は真っすぐに伸びているので、実際の穴掘りは造成装置に任せる事にした。通りの中心に深さ2mの穴を掘って造成装置を設置する。造成の範囲指定は幅2.5m、長さは1㎞程。範囲を設定すれば、あとは一気に造成装置が穴を掘り始める。深さ4段、幅2.5mで長さ1㎞。ブロック数で言えば4(深さ2m)×5(幅2.5m)×2000(長さ1000m)=40,000ブロック。


結構な量だが、毎秒4ブロックなので僅か1万秒、3時間足らずで作業は完了する。俺が自分で掘るよりもかなり早い。


因みに、造成装置は指定した範囲が重複しなければ複数設置する事が可能だ。その為、実際には幅2.5m、5ブロックの1列に1つずつ、計5個の造成装置を設置して範囲指定を行う。そうすれば更に5分の1の時間で完了する。


皆が今日1日かけて遺体を穴の底に安置し、夕方、町の人総出で魂を鎮める為の祈りを捧げる予定だ。その際、皆で一掬いずつ土を被せていくので、穴に平行になるように1ブロック分だけ土を並べて置いた。勿論造成装置を使ってだ。


次に、フランシーヌが目印を置いた遺体を処分していく。ドラッグしてメニューのごみ箱に放り込む。どうしても遺体をゴミ箱に放り込むイメージが離れず、死者を冒涜している様に感じるが、だからと言ってこれの埋葬を町の人々に任せる訳にもいかない。


淡々と作業を進めて行く。この臭いも、目に映る光景も、大分慣れてしまって何処か麻痺している自分がふと嫌になった。



◆Memo

鉄のインゴットのサイズは長さ25cm、下底8cm、上底6.51cm、高さ7cmの台形の立方体。体積は25×(8×6.51)/2×7で約1270㎤。鉄の比重は7.87なのでインゴット一本で凡そ10kgになります。銅のインゴットも1本で凡そ10kgです。

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