第79話 オデットさんの報告とデザートと砂糖の話

「では私から報告を申し上げます。本日、モンペリエの領主へのご挨拶、及び伯爵へ報告を致しました。内容としては、リュック殿にはブルゴーニの状況を説明し、今後はタクヤ様を主として仰ぐと通告を致しました。また伯爵家はこの一帯を治める上級貴族ですので、同様の報告と今後の国の支援の調整を含めお願いを致しております」


「確か、伯爵はオデットさんの兄なんだっけ?」


「左様で御座います」


「具体的にはどんな事をお願いしてるのか聞いても?」


「モンペリエとブルゴーニは元々隣町ですから、多少なりとも交流が御座いました。またモンペリエから見るとブルゴーニは伯爵領や王都へ抜けるための街道に側して居ましたので、ブルゴーニで宿を取ったり補給を行う事も御座いましたが、今後は望めません。その為、移動の際には十分な備えを取る様にお伝えしました。あわせてこの町は、地勢的に今までよりもモンペリエに近くなりますので、今後何某かのいざこざもあるやも知れまえせん。その為、この地は今後タクヤ様が治めると通告を致しました」


「何か問題はありそう?」


「タクヤ様は既に8等級への昇級を内諾されているとの事。相手が王族でも無ければ問題にはなりませんので儀礼的な意味合いが強いですね。それに、既に騎士団長のイザーク殿から話は聞かれていたとの事で、特に問題は御座いませんでした。むしろ我々ブルゴーニの民が難民としてモンペリエに流入をすればあちらも困った事になりますからね。共倒れにならない様に協力をしましょう、と言った感じです」


特にトラブルが無くて何より。リュックさんも癖のある人だったけど、オデットさんの方が一枚も二枚も上手に思える。今後も交渉ごとはお任せをしても問題は無いだろう。


「その後はリュック殿にお願いをして、伯爵へ仔細の報告を致しました。これまでは現状の報告もままなりませんでしたので。本来、大規模な魔物の襲撃があった場合は、寄り親や王国から支援を受けるのですが、王国としては襲撃が広範に及んでおりなかなか手が回らない様です。伯爵が直接治める領都も少なからず被害が出ているとの事。また被害が出ているのは大半が伯爵領ですので、救援が間に合っていない状況です。幸い我々はタクヤ様のお陰で喫緊の問題を解決しておりますので緊急の支援は必要有りません。その為、王国との調整も含め幾つかの要望を出しております」


本来領主は、寄り親と貴族を束ねる王都の貴族院との間に、通信が可能な魔道具が用意されている。ゲームの仕様故か、魔物は町へ侵入すると中心部、領主の館や行政区を狙う傾向が高い。その為、少なからず被害を受けていて、領主屋敷は3分の1位は深刻な被害を被っている。件の魔道具も倒壊に巻き込まれていて壊れているか、探し出すにしても時間が掛かる見通しだ。

その為、モンペリエの領主にお願いをして、リュックさんが所有している魔道具を利用して伯爵家へ連絡を取ったと言う事だ。


「1つは物資の援助、1つは資金の援助、1つは税金の免除願い。王国との調整を伯爵にお願いしておりますが、調整に当たって現地視察を行いたいとの事で、近く騎士団が派遣されるとの事です」


「歓迎の準備とか、した方がいいかな?」


「不要かと存じますが、タクヤ様にはご挨拶だけ頂けますと幸いです。後の雑事は私に委細お任せください」


「心強いなぁ。頼んだよ、オデット」


貴族の作法やしきたりは解らないから、俺が下手に対応をして難癖を付けられても面倒なだけだ。オデットさんなら上手くやってくれるだろうから、お任せだ。


「報告は以上かな。では今日の所はお開きにしよう。皆もこの町の為に色々と知恵を出し合ってくれていると思うが、しっかりとご飯を食べて休む事」


釘を刺しておかないと、何時までも会議をやってそうな雰囲気だからね。幾ら緊急事態とは言え、サビ残は好ましくない。今は払える給金も無い状況だから今更だとは思うけど、だからこそ夜はちゃんと休んで欲しいものだ。


解散をして俺とフランシーヌは拠点へと引き上げる。オデットさんはもう少し皆と協議をするそうだ。食事の準備は済ませておくので、早めに切り上げて拠点へ戻るように伝えた。


オデットさんには、今後もうちの客間として用意した部屋で生活をして貰う事にした。その内ちゃんと家を建てようと思うけど、オデットさんとしては俺に騎士として仕えるだけでは無く、家宰やメイドとしての仕事もこなすつもりだから、家の一画か拠点の隅にでも部屋があればと言っていた。

仮にも領主の奥さんだったんだから、そんな事までしなくてもと思わなくも無いが、先の戦いで旦那も息子も亡くしているから、むしろ忙しくしている方が気も紛れるのだろうとは思う。実際助かっている事も多いので、せめて快適な住環境と食事位はこちらから提供をと思って住み込みをお願いしている状況だ。


フランシーヌを伴って拠点へ引き上げる。しかし、疲れた。そもそも先ほどの報告会の俺の口調は、俺本来のものでは無い。もっと丁寧な口調が俺の素だが、領主としてもっと威厳のある話し方をとオデットさんに言われたので、俺なりに工夫した結果があれだ。正直疲れる。


拠点に引き上げた後は食事の準備。肉を取り出しておけばフランシーヌが野菜とあわせて調理をしてくれるので、俺は折角なのでデザートを作る事にした。


牛乳、卵、砂糖、小麦粉があるので、結構作れるデザートの種類は多い。

でもどうせなので何か自分で作ってみたいと思ったので、記憶を掘り起こしてプリンに挑戦をしてみた。


牛乳と卵と砂糖を良くかき混ぜる。漉すための笊が無いので、しばらく放置。15分ほどして少し落ち着いたら、器に入れて鍋を利用して軽く蒸し上げる。鍋に薄く水を張って、適当な木の枝を鍋底に並べて器をその上に置けば、一応蒸す事は出来る。竹が入手出来れば蒸し器やせいろが作れるんだけどな。

温度調節なんて上手く出来ないから、まぁ火が通れば良いかなって感じだ。案の定すが入ってしまうが、俺にしては上出来では無いだろうか。

最後にフライパンで砂糖を炒めてカラメルにして、上にかければ完成だ。


しばらくするとオデットさんが戻ったので皆でご飯を食べる。


「これは何ですか?」


「デザートだから、ご飯の最後に食べてみてね。プリンって言うんだけど」


と言う訳で一通り食事をしてお腹が満ちた最後に、俺が用意したプリンを皆で食べる。


「とても美味しいです!」


うーん、やっぱり何とも言えない舌触りだ。手作りだから仕方が無いとは言え残念な気持ちはあるが、久々の甘味な事とフランシーヌの笑顔で俺も満たされたので全く問題は無い。


「おいしいですね。これは砂糖ですか?」


「ああ、サトウキビが手に入ったので畑に植えてみたんだ」


前にブルゴーニから川に沿って町の建造予定地まで移動した際に採取した作物だ。畑で増えるし、調理鍋があればクラフトで簡単に砂糖を作る事が出来る。


「これほど上品な砂糖は滅多に手に入りませんよ?」


とはオデットさん。何でも貴族と言えども砂糖を口にする機会はそう多くは無いそうだ。

この辺りでは栽培されていないが、高冷地などではテンサイの栽培が盛んで、テンサイ糖は広く流通しているらしい。これだけ暑いならサトウキビの栽培をやっててもおかしくはなさそうだが一般的では無い様だ。

流通しているとは言っても交易はコストが高いので交易に頼る製品は基本的に非常に高い。


「砂糖の他には何が入っているんですか?」


「結構シンプルで、材料は卵と牛乳と砂糖だけなんだ。口にあったら良いんだけど」


「それは、とても贅沢ですね」


「え、そうなの?」


「卵なんて、余程の事が無ければ食べる機会はありませんよ?」


家畜が居るなら卵と牛乳は結構簡単に手に入ると思うんだけどな。モンペリエは家畜は少ないって言ってたから、手に入り難いのかな?


「家畜がいるなら結構簡単に手に入ると思うんだけど?」


「ブルゴーニでも卵は滅多に食べる事は有りませんね」


詳しく聞いてみると、どうも俺が想像している鶏とは全く違うらしい。家畜用の鶏とは言っても、卵を良く産む鶏でも2~3日で1個位。それも卵を産むのは繁殖期に限られるので年間でも10個~20個位なのだとか。孵化に掛かる日数は20日前後。大体1年で5~6匹位は孵るのだそうだ。

卵には無精卵も含まれていて、何故だか親鳥は無精卵と有精卵の違いは解る様で、巣から弾かれた無精卵であれば流通する事もある。ただし、兎に角高い。


卵は滋養強壮に良いとされているので、病人食として好まれたり、貴族が強壮剤として食したり。なので余り一般的とは言えず、ましてやデザートに使われる事は皆無と言える。


牛乳も生乳を飲む事は余り一般的では無いらしい。どちらかと言うと保存用にチーズに加工される事が多い。もしくは加熱して料理に使うか。麦を牛乳で煮てリゾットにしたり、野菜を煮込んでシチューにしたり。こちらもデザートに使われる事はまず無いとの事。


と言う訳で、俺の御手製プリンは2人に非常に好評だった。さすがに手作りが難しいレシピもクラフトなら簡単に作れるしデザートレシピのレパートリーも多いので、今後は色々と試してみたい。何より俺が甘味を欲していた。やっぱり酒と甘味は正義だろう。

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