第78話 新たな町の建造。ガイドラインの設置


今日やる事は、まずは家畜の移送。メニューから追尾を選択すれば、放っておいても俺の後をついてくる。さすがに一度に移動させるのは無理があるので、種類ごとに2匹ずつ、順に拠点へと移動させる。


それが終わると、次は本格的な町の建造に着手する。


自動造成装置は、起動させる時に範囲を指定する事が出来る。今想定している5km四方だと、ブロック数は1万×1万。装置は1秒当たりブロックを4個設置、もしくは採取してくれる。なので、例えば土地を少し盛り上げて造成しようと思った場合、平均1m上昇なら2億ブロック、延べ500日ちょっと掛かる事になる。


この辺りは雨期に川が氾濫する事もあるそうなので、出来れば3mは盛り土をして造成をしたい。それだけの規模になると掛かる時間もそうだが、盛り上げる為の土ブロックを確保する事も非常に難しい。

その為、町の周囲を逆に掘り下げる事で、盛り上げる為に必要な土ブロックを確保する事にした。


ざっと計算をすると、町の広さを5km四方にするなら、その周囲に幅1km位を同程度掘り下げれば盛り土に必要な量がある程度は確保出来る筈だ。日本でも石垣の周囲を外堀で囲った城を見る事があるが、想定した規模になると、もう堀と言うか、完全に湖だな。


でも、湖の中に浮かぶ町か。想像してみると何となく出来上がった時の景観は美しくなる気がする。非常に手間だとは思うが、どうせなら拘って建造をしてみる事にした。何せゲームの中でも、それだけの規模で造成をした事は記憶に無い。エターナルクラフトで建造する建築物としては、俺にとっては最大規模になると思う。必要な工数を考えると眩暈がしそうになるが、でも楽しみなのも事実だった。


平原と言っても、それだけの広さになれば全てがなだらかな地形と言う訳では無い。小さな川が流れていたり池があったり、丘があったり、林があったり。


今日は予定地をざっと回ってみる。丘があれば造成装置を設置して均しておく。林があれば伐採装置を設置する。川や池は、いったんそのまま放置する。造成する際に埋めるか、より深く掘り下げるかするからだ。道すがら採取をしつつ、どんな手順で進めるかを考える。


広さを考えると、結構な数の造成装置を設置する必要がある。堀と呼ぶには大きいが湖と呼ぶにはまだ小さい気もするな。いったんは堀としよう。堀を掘り下げつつ町の地盤は盛り上げるので、掘り下げた土を取り出して盛り上げ用に造成装置にストックする手間が生じる。それを広範囲で1つ1つ行うのは流石に時間が掛かりすぎるので、まずは自動拠点化する事が優先だな。


午前中一杯である程度下見をしたら、次は大枠を決める為にガイドラインを設置する事にした。


壁と判定される為には、設置面に対して最低2mの高さが必要になる。外周部分も多少の高低差がある。ガイドラインとして土ブロックをライン上に置き、一定数をカウントしながら石ブロックをマーカーがわりに設置する。それを1辺7㎞。


最初はガイドランの高さを揃えようと思ったが、さすがにこの広さだとそこそこの起伏があり、それを手作業でするのはとても手間だと解った。でもどうせなら、全体を美しく統一したい。その為、まずはガイドラインを引いて、次にガイドラインにそって壁を建造するための整地をする所から始める事にした。


とは言え、ぐるっと1周で28km。ガイドラインを引き終わるだけでも日が沈む位の時間になってしまった。さすがに手間だなと思いつつも、きっとこれが一番の近道だと信じて1つ1つ作業を進めるしかない。


町へと戻る頃には、辺りは段々と暗くなっていく。町を遠目に見ると、篝火でぼんやりと浮き上がって見える。なんだか幻想的な光景だ。


会議室、例の部屋だが、に戻ると既に皆が顔を揃えていた。


「待たせてすまない」


「とんでもないです。領主様こそ本日もご苦労様です。それでは、報告会を始めさせて頂きます」


そう取り仕切るのはフィリップだ。長机の上には色々と書き殴った紙が散乱していて、皆で町の運営について意見を交わしていたのだろう事が解る。頼もしい限りだ。


「まずは畑についてですが、収穫は概ね完了しており、食事情については劇的に改善をしております。農具の数が足りないので畑の整備や播種は完了しておりませんが、明日中には完了出来る見通しです」


「まぁ、あれだけの広さだからね。農具は大丈夫?足りない物は無い?」


「ブルゴーニから回収した農具を手直ししているから最低限の数は確保出来ると思う。思います。ただ、鉄が不足しているのでテオドール商会がどれ程確保出来るか次第だと思います」


俺の質問に答えてくれたのは、職人たちの調整をお願いしているマティスだ。気さくで人当たりが良いが、敬語は若干不慣れらしい。


「ああ、喋りにくかったら普段通りの言葉使いでいいよ。鉄は多少は俺から提供しよう」


「ありがとう御座います。次に家畜についてですが、幾つかご相談したい事が御座います。今の所領主様のお力で、厩舎や家畜は全く手入れを行う必要が御座いません。ブルゴーニでは餌の確保も思うようにいかず痩せ細っておりましたが、驚く事にこの1日で健康な状態を取り戻しております」


確保できた動物は全て家畜化してあるから、エターナルクラフトの仕様に従っているのだと想像出来る。


「ただ、鶏の卵は採取出来ているのですが、牝牛から搾乳が出来ない状況です。あと、何匹か子供が生まれている事が確認されました。何時産まれたのかが解らず、皆不思議がっている状況です」


鶏は自動採卵装置を設置しなければ、そのあたりに転がっているのを拾う必要があるので、まぁ想定内だ。だが牝牛が乳を出さないのは想定外だった。そう言えば牝牛の乳を搾るのは、搾乳装置が無いと無理なんだっけか。ゲームの仕様上、手で搾る事は想定されていないので、そもそも乳を出さない可能性もある。と言う事は、家畜化を解除する必要があるのだろうか。


子供はゲームの仕様のまんまだな。鶏は卵からかえる訳では無いし、その他の動物も妊娠期間を経ずにランダムに産まれるのだから、リアルに見れば異常でしか無い。


「子供は、不定期だが勝手に増える。恐らく、生まれた子供も5日後には生育する筈だ。神の力だと納得して貰うしかないな」


「5日で、ですか。すさまじいですな。そこでご相談なのですが、ブルゴーニでは畜産が産業の一画を担っており、家畜の世話を仕事として生業にしていた者達が非常に多くおります。当面はブルゴーニの解体と畑の世話とで人手が必要となりますが、将来的には家畜の世話を我々にお任せ頂けないでしょうか」


「今すぐじゃなくて良いのか?」


「はい。喫緊はやるべき事が山積しておりますので優先度は若干下がります。ただ今後の雇用の創出は非常に大きな課題となります。どの様に行うかは我々で協議をしてご提案させて頂きますので、改めてご裁可を頂けますと幸いです」


「解った。鶏の卵は好きに分配して貰って構わない。牛乳が取れないのは問題は無いか?」


「誠にありがとう御座います。卵は高級品ですから、どの様に取り扱うかも改めて協議致します。牛乳は一旦は問題無いかと。家畜は新たな領主様であらせられるタクヤ様の資産となりますので、どの様な扱いであっても異論は御座いません。不敬を申す者がいれば、厳しく取り締まりを致します」


うーん、そんなものか。不満が出ないなら俺としては異論は無いんだけど。隣に控えるオデットさんに視線を向けると、察したのか目が合うと小さく頷く。


「解った。家畜の世話を皆の手に委ねる事は問題無いから、タイミングはそちらで協議してくれ。まぁこのまま俺に任せて貰えれば少しずつでも数が増えるだろうから、しばらくは様子見で」


家畜化を解除すれば多分大丈夫じゃないかなと思う。ゲームの仕様に沿うのは何処までの範囲か、詳細な条件はまだ解らないから、それだけじゃダメな可能性はある。

例えば家畜が増える条件なら、柵で囲う、飼料箱と家畜小屋もしくは厩舎を設置する、その中で2体以上の同じ種類の家畜を飼う事。1つずつ条件を減らしていけば、何処かのタイミングでエターナルクラフトのくびきから外れるだろう。多分何とかなるんじゃないかなと思う。


今時点だと、家畜の餌を確保するのも苦労するだろうから、しばらくは様子見だな。


「かしこまりました。次にブルゴーニの解体を順次進めております。領主屋敷、および行政府の調査を先行して行っており、行政に必要な資材については順次運び出している状況です。ただ危険もありますので、主要な施設から優先する予定ですが、非常にお時間を要する見通しです」


「解った。時間は掛かっても良いから、怪我をしないように注意してね」


「は、かしこまりました。それともう1つ、領主様へのお願いがあります。昨日死亡を確認した者達の遺体が多数あります。出来れば腐敗する前に何某かの対処を行いたいと思いますが、火葬にするには薪が足りません。そこで、亡くなった方々を埋葬する為に穴を掘っては頂けないでしょうか」


襲撃当時に亡くなられた住民の遺体は、この湿気と暑さで大半が腐り落ちていて手の施し様が無い。病気や衰弱、飢えでなくなった方も多く、そうした人たちの亡骸は低調に街道沿いに並べられている。その遺体の数は1000体以上。人間の身体は水分を多く含んでいて、仮に燃やそうとするなら大量の薪が必要になる。


「亡くなった方の遺体は通常はどの様にしているんだっけ?」


「普通は土葬ですね」


一番簡単な方法は、俺がゴミ箱機能を使用する事だ。だが、クレマン達の死体ならまだしも、罪なき町の人々をゴミ箱に放り込むのは抵抗がある。


「解った。何処に穴を掘ったら良い?」


「後で決めておきますので、明日改めてお願いを致します」


「じゃぁ明日の朝議が終わったら早速やってしまおう」


「は、かしこまりました。私共からのご報告は以上です。最後にオゼット様、お願い致します」


最後の報告はオゼットさん。今日はモンペリエに出向いて領主に面会をすると言ってたが、どうなったのだろう。

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