第74話 夕方の打ち合わせ。今後の話
町の体制は、ある程度人材が揃った事で整いつつある。
オデットが卓也の臣下として領主の業務を代行し、必要に応じて卓也の裁可を得る。
町の行政については、今後はここに居る人々をそれぞれの代表として組織する事を目指す。当面の目標は、生活基盤を確立する事だ。
明日には畑の作物が実る。速やかに採取を行い、可能であれば畑に種を植えて貰う必要が有る。肥料は不要なので、軽く耕して畝を作り、種を植えれば問題は無い筈だ。
出来れば採取から種まき迄はその日の内に完了をしてしまいたかった。畑は種さえ植えれば5日後には収穫が出来るからだ。最短で収穫が出来れば、恐らくは保存の利く小麦等は十分な備蓄が出来る筈だ。今は多少無理をしてでも収穫を早めて備蓄に回して欲しい。
種を植える為には種を採取する必要が有るが、俺自身はどうやって種を採取するのかは知識が無い。例えばトマトのゼリー状の果肉には種があるが、そのまま植えても芽が出るの? と言った感じだ。
エターナルクラフトでは、そうした知識が無くとも採取を行えば勝手に種が付いてくる。種はオブジェクトアイテムとしての指定が無いから、アイテムボックスから取り出して設置をしてもドロップアイテム扱いになる為に受け渡しをする事が出来ない。どうしても何らかの手段で現物を確保する必要があった。
簡単に説明を聞いてみると、ナスやトマトは収穫した野菜から種を採取するのだが、少々手間をかけるそうだ。トマトなら追熟させてからゼリー状の果肉に包まれた種を取り出して、しばらく乾燥をさせる。ナスやキュウリなら追熟をさせて種を取り出せばオッケー。
追熟とは、食べ頃の野菜を更に放置して種に栄養を行き渡らせる事らしい。そうする事で発芽する確率が上がり、しっかりとした芽が出るのだそうだ。
いっそ実った作物から取り出した種をそのまま植えてみてはどうだろうか。ゲームでは種の品質を問われないので行けるんじゃないだろうか。ダメならダメで通常の手段による種の確保も並行して行って貰えば良いので、明日は試して貰う事にした。
それで1日2日収穫が伸びるのは仕方が無い。念のため本命の町の建造を進めて、そちらに新しい畑をクラフトする事にしよう。
家畜の世話についても改めて確認をする。本来であれば糞便や厩舎の掃除、餌やりは必要不可欠だ。だが俺が設置した牧場設備は当然ゲーム仕様なので、何時でも綺麗なままだし、餌も何時食べたのかは解らないが設置した飼料箱から自動で供出されている。それでも、これまで家畜の世話を仕事にしていた人も多いので、完全に仕事を奪ってしまうのは避けたいとの事なので、おいおい仕事は割り当てて貰う事にした。そのあたりの差配は俺には無理なのでお任せだ。
因みに、家畜毎に2頭、2羽ずつ、譲り受ける事をお願いした。拠点の家畜小屋で全て自動化して育てたいからだ。自動採卵装置も自動搾乳装置も恐らく明日にはクラフト出来るので、全て自動化してしまえば後は定期的に卵と牛乳を確保する事が出来る。
それに同じ牧場の中に最低2頭を放しておけば一定確率で子供が生まれるから、その内数も増えるだろう。それはこの町でも同じだが、果たしてその点はどの様に作用するのか。多分、気が付いたら子供が増えているんだろうなと思う。
次の問題だが、本来であれば町の防衛に人を割かなければいけないのだが、迎撃装置を配置しているので基本的には何もしなくても問題は無い。とは言え手放しにと言う訳にもいかないので、衛士隊を組織して貰う事にする。町の防壁を巡回して警邏に当たると共に、迎撃装置が仕留めた魔物を解体するのが当面は主な仕事になる筈だ。
そう言えばニコラさんは、もう少し落ち着いたら旅立つとの事。急ぐ旅では無いが、出来れば報告の為に正教会の本部に帰還をしたいそうだ。ただニコラさんからは、正教会の建物を建築して欲しいと希望を頂いたので二つ返事で了承をした。
当面足りない資材は、ブルゴーニの廃材を再利用する事が考えられている。俺からは2日もすれば町の直ぐ傍に巨大ツリーが育つので、伐採して役立てて欲しいとお願いをした。
城壁の外に植えた巨大ツリーが大きくなれば、そこから資源を獲得する事も出来るだろうが、ブルゴーニの住民には巨大ツリーを伐採するノウハウが無い。そこでモーリスさんに技術者と伐採に必要な道具を融通して貰える様にお願いをした。
改めて思うが、モーリスさんやガストンさんを始めとしたモンペリエから派遣されて来た人々には感謝が尽きない。当面の山は越えたと思うので、モンペリエに帰還をして貰う様にお願いをした。今回働いてくれた冒険者や商会の皆さんには、報酬を増額する事を約束している。
モーリスさんには面倒だが報酬の計算をお願いすると共に、色を付けてくれるように頼んだ。モンペリエの襲撃に伴う報奨金はさすがにもう受け取れる筈なので資金にはまだ余裕がある筈だ。
テオドール商会には今後も物資の調達をお願いしたいが、何が必要かは俺には判断が付かない。追加で手配が必要な物資の相談はオデットさんに取りまとめを任せる事にした。
さて、彼らがモンペリエに帰還する方法だが、転移門を設置する事も考えたが反対をされた。転移門は非常に便利だが、逆に便利すぎると言うのだ。下手にモンペリエと繋いでしまえば、今後モンペリエの経済圏にどの様な影響が出るかは判断が付かない為、設置は留意すべきだと言うのだ。
モーリスさんの意見としても、移動自体は商人である以上は惜しむべき手間では無いので、むしろ物資の移送や護衛を雇う費用を是非出して欲しいとお願いをされた。今後ブルゴーニの冒険者に護衛の仕事を斡旋すれば雇用の創出にもなるだろう。
さて、打ち合わせの席で、町の皆のオデットさんに対する態度を見ていれば、ブルゴーニの皆から敬われている事は容易に理解が出来た。クレマンやラザールをのさばらせていた領主では有ったが、基本的には真面目で実直な方で、どちらかと言うと町の統治は堅実で慕われていたそうだ。オデットさんも良き妻として夫である領主を支えていたので、町の人々からの信任は厚い。それでもその信が揺らいだのは、魔物の襲撃後にクレマンの専横が余りにも目に付いたからだろう。だから俺が聞いた領主の噂は余り良くは無かったのだ。
オデットさんの起用はフランシーヌの薦めも有ったが、今後の町の運営には欠かせない人物だと思う。特に政治面では俺の代理として色々とお願いをする事も多いだろう。そこで、正式に契約を行う事にした。勿論本人の意思確認は必要だ。
ある程度打ち合わせが終わったタイミングで解散をすると、ニコラさんとオデットさんには残って貰った。拠点で夕食を一緒にしたいと思ったからだし、その上で契約について切り出す事にしたからだ。
ニコラさんは俺にとっては義父なので契約関係になる事には何となく抵抗が有ったが、よくよく考えればフランシーヌとも契約をしているのだから今更だ。
そう言えばニコラさんとの契約は、前にフランシーヌに相談をした事が有った。その時には是非にとお願いをされた経緯もある。ニコラさんは俺を神の現身として敬ってくれているし、教会を代表して仕える事を望んでいるからだ。
相談をしたのはニコラさんを見送った後の事で、その時はニコラさんとの再会はずっと先の事だと思っていたから、再会したらその時に考えれば良いと考えていた。まさかこんなに早く再会をするとは思っても見なかった。
2人を伴って拠点へと移動をする。まずは交代でゆっくりと風呂に浸かって貰った。服は、とりあえず布の服を用意しておく。もし契約について承諾を貰えれば、適当なスキンに変更するつもりだ。
余談だが、町の入浴施設もそうだが、高級家具シリーズは結構現代的な仕様になっている。初期の頃には実装されていなかったレシピで、後から結構大規模なアップデートの時に追加されたレシピだからだろう。
トイレならウォッシュレットはさすがに付いていないが、トイレットペーパーが完備されているし、調理竈には一通り調理器具が備え付けられている。それこそ高級食器棚なら食器が各種取り揃えられている。前に使ったワイングラスもそうだし、カトラリーも充実している。
高級家具シリーズの入浴設備の場合、何と温泉施設に置いてある様な感じでボディーソープとシャンプーにコンディショナー。風呂桶に椅子まで用意がされている充実っぷりだ。
何が言いたいかと言うと、風呂から上がったオデットさんはボディーソープやシャンプーで汚れを落としたから、最初に見た時の印象とは大きく異なっていた。歳は最初の見た目の印象とそう変わらず50を少し過ぎた位と聞いたが、風呂上りのオデットさんは、とてもその年には見えなかった。
体型はスリムだが、痩せていると言うよりかはその歳でも鍛えられていて引き締まった身体をしている。髪は先程までは汚れと脂でぎとついてくすんだ色をしていたが、備え付けのシャンプーとコンディショナーを使って貰ったから、シルバーブロンドの髪が部屋の照明に照らされて、今は美しい光彩を放っている。顔には年齢を感じさせる皺が殆ど無く、ぱっと見は40台前半位に見える。
俺の年齢は元々30台半ばだったから、40台前半ならそれ程歳の差を感じるものでは無い。そして用意した布の服は、麻で作った貫頭衣を腰紐で縛っただけの簡素な物なので、意外と露出が多く身体のラインも良く見える。つまり、風呂上がりのオデットさんを見て、俺は不覚にもドキッとしてしまった訳だ。
交代で入ったニコラさんが風呂から上がってくる迄の間、俺はと言えば、そう言えば元高級娼婦のジゼットさんとオデットさんは、名前が似ているなぁなんて益体も無い事を考えていた。
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