第66話 5日目、拠点の拡張。フランシーヌの帰還

今日は、大型自動採掘施設の設置、入浴施設の設置、巨大ツリーを植えて1日の作業を終えた。


次の日は、早速採掘施設から大量の資源を回収する。次にダマスカスのピッケルのクラフトをありったけ行う。鉄の確保が容易になったから今上げられる技術レベルの上限、40レベルまで一気に上げてしまう為だ。そうすれば造成装置をクラフト出来る様になる。


造成装置は、設置した高さを基準として自動で整地をしてくれる超便利装置だ。

土地が高ければ勝手に採取してくれるし、高さが足りなければ指定枠に入れたブロックを勝手に敷き詰めてくれる。今作った拠点が仮なのは、造成装置が作れるようになれば更に簡単に広範囲を整地出来る様になるからだ。


それに十分な時間が有れば石も大量に確保出来るので、高さも厚さも今よりも立派な城壁にする事だって出来る。何だったら鋼鉄製でも良い。まぁそこまで拘るとさすがに時間が幾らあっても足りないので、どちらかと言うと迎撃装置の密度を高めて城壁は最小限にしようとは考えているが。


自動伐採装置と、大型自動採掘施設がクラフト出来るようになったので、今後を見越してさらに採取範囲を広げる事にした。今の5×5を更に拡張して6×6にした。


昼過ぎに作業を完了して拠点に戻ると、卓也さーんと俺を呼ぶ声が聞こえた。フランシーヌが恋しすぎて、ついには幻聴が聞こえるようになったのかも知れない。だが、もう一度卓也さーんと呼ぶ声が聞こえる。あれ、幻聴じゃ無い?


「フランシーヌ!」


力いっぱい叫ぶ。フランシーヌと別れてからは殆ど声を出していなかったから、思った以上に上手く声が出せずにむせてしまった。


「卓也さん!」


家の中からフランシーヌが飛び出してきて駆けてくる。思えず俺も走り出して、そのままの勢いで思いっきりフランシーヌを抱きしめた。


「あぁ、フランシーヌだ。寂しかった」


思わず弱音がこぼれる。仕方が無い、本当に寂しかったんだ。思いっきり深呼吸をしてフランシーヌの臭いを思いっきり吸い込む。うん、これダメな奴だ。

抱きしめてフランシーヌをそっと離すとくすっと笑っていた。嫌われなかったなら、よしとしよう。


「戻って来るのはもう少し後だと思ってた。何かあったの?」


「実は、ブルゴーニの代表を務めている方をお連れしたんです。是非ご挨拶をしたいとの事で。卓也さんが建造中の町に伺ったんですがいらっしゃらなかったので、探してました」


「あ、そうか。今日はこっちで作業してたからね。結構探したんじゃない? 待たせちゃったんじゃないかな、ごめんね」


「いえ、それ程お待ちはしていませんでしたから。大丈夫ですよ」


「それなら良かった。それじゃ、早速移動しようか」


フランシーヌと離れて数日なのに、何だか随分とフランシーヌと離れ離れになっていた気がする。もっとゆっくり過ごしたいけれど、その代表とやらを待たせているだろうから早速移動をする事にした。


転移門を潜って仮設の町へと移動をする。拠点と通じている転移門は一応出入りを制限するつもりなので、モンペリエと同様、鋼鉄の壁と扉で囲っているので、そう簡単には出入りが出来ない様になっている。


転移部屋を出ると、一人の人物が立って居た。ブルゴーニの代表と言うからどんな人物だろうと思ったら、まさかの見知った人だった。


「ニコラさん、お久しぶりです」


誰あろう、義父のニコラ枢機卿猊下だ。


「お久しぶりです、タクヤ様。お邪魔をして申し訳御座いません」


「いえ、とんでもない。お待たせしたでしょう、拠点にご案内します」


ニコラさんなら拠点に案内をしても問題は無いだろう。今出て来た扉を開いて、中へと案内する。何せここは暑い。日が傾いて来たとは言え遮る物等何も無い場所だから、こんな所に立っていたら、あっと言う間に熱中症になりそうだった。


拠点の家へ案内すると、ニコラさんに椅子を勧める。何を好まれるかが解らないので、井戸から冷たい水を水差しに注いで、コップを用意すると水を注いでニコラさんの前に差し出した。時間があるなら夕飯でも一緒に食べて貰いたいが、まずは要件を伺ってからだ。


「町の代表がニコラさんだなんて、びっくりしましたよ。何があったんですか?」


「お気遣い感謝します」


そう言ってまずは水を一口。俺とフランシーヌも同じ様に水で喉を潤した。


「そうですな、最初からお話をしましょうか。私は町を出てから一路王都を目指しました。とは言っても次の日、隣町のブルゴーニで足を止めた時の事です。教会で病気の者を診ているとギルド経由で連絡が入りました。何でも紅の月が昇ると言うでは無いですか。通常ならとても信じられる事では有りませんが、その話の出所が神託の聖女と言うでは有りませんか」


ニコラさんはモンペリエを旅立ってからの話をしてくれた。


「ニコラ様は、立ち寄った町々で、人々の救済をお努めされております」


「そう言えば、フランシーヌともそうやって出会ったんだっけ」


フランシーヌとニコラさんの話は前に聞いた通りだ。

ニコラさんも高位の神聖魔術が使えるとの事で、癒やしの魔法が使えるのだそうだ。何でも癒やせる訳では無いが、比較的治療の難しい病気や怪我でも症状を軽くしたり治したりする事が出来るそうで、立ち寄った町には何日か滞在してそうした治療を行い、人々の言葉に耳を傾けるのだそうだ。


「情報の出所がフランシーヌと言うなら、疑う余地は御座いません。ギルドに警告を出し、領主にも備える様にお伝え致しました。その日の夜、空が紅く染まった事はご存じの通りかと思います」


月が紅く染まるのは、一時的に高まった魔力の影響の為、月そのものが紅くなると言うよりも、魔力が高まった地域から見上げる月が紅く見える事が原因だ。

今回は恐らく中心点、一番魔力が高まった場所がモンペリエの辺りで、その周辺も少なからず影響を受けている。当然中心に近い程影響が大きいので、モンペリエにはフィールドボスの襲撃が有ったのだろう。隣町ならボスの襲撃こそ無かったものの、襲撃の規模自体はかなり大きかった事も頷ける。


街道を南に下った隣町もかなりの被害が出たが、そちらは比較的守り易い地形である事と領軍が精強である事が知られていて、評判通りの働きもあってか町への侵入を許したのは僅かだったそうだ。ただし、領軍や冒険者の被害は甚大だったとの事。


真紅の月の影響下に有ったのはモンペリエと隣町の3カ所。それよりも更に広い範囲で、規模は劣るが紅の月が観測されている。


「日暮れ頃、東の空に昇る紅き月は記憶にあるものと比較をしてみても、より鮮やかな光彩を放っておりました。モーリス殿やフランシーヌから話を伺いましたが、あれは過去の記録に散見される真紅の月だったのですな。その日、ブルゴーニを襲った魔物の襲撃は、体を言葉で表すのなら苛烈の一言で御座いました」


事前の警告も有り、幸いな事に万全の態勢で魔物の群れを迎え撃ったとの事。なだらかな丘陵地帯の中ほどに町は建造されており、魔物の襲撃のルートはほぼ平原方面からに限定されていた。ただ想定外だったのは、魔物の数が遥かに多かった事だろう。


それでも多大な犠牲を払いつつも第三ウェーブまでは何とか撃退に成功した。だが、第4ウェーブで出現したレイスには為す術がなく町への侵入を許してしまう。

防衛線は崩壊し、ついには城壁も破られ、後は被害が拡大する一途だったとの事。


一部の商家や貴族軍は戦力を温存していて、最終的にはそれらの戦力が合流した事もあって辛くも撃退に成功したが、魔物の殲滅に成功した訳では無く、どちらかと言うと夜が明けた事によりレイスやスケルトンの姿が消え失せた事が一番大きな要因だったそうだ。後を追うように、残った魔物も退いたとの事。


夜が明けた事により紅き月の魔力が失せ、魔物の凶暴化が収まった為と考えられているが、ゲームの仕様通りの可能性も否定が出来ない。

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