第62話 新たな町のクラフト
俺に何が出来るのかを改めて考えて見る。一時的にであれば食糧の支援は可能だろう。建材の提供も可能だ。
「例えば、俺がお金と資源を提供したとして、どうにかなりますか?」
「そうですなぁ。一時しのぎにはなるかも知れませんが、正直難しいと思います。ブルゴーニでは働き手の大半が亡くなっております。生き残った人々も深手を負っている者が多く、動ける者は遺体の埋葬を優先している状況ですが、既に皆疲れ切っているそうです。モンペリエから人を派遣するとしても限度が有りますからな。食料や資源の枯渇もそうですが、人的資源の枯渇もまた大きな問題だと思います」
例えば大規模な災害が起きた時に、一番何が必要だろうか。支援物資の提供、インフラの整備。町の住民が難民と化した時の事も想像してみる。難民と言えば例えば戦争で被災した難民のキャンプだろうか。さすがに戦地の難民キャンプがどう言った場所かを想像する事は難しいか。
それこそ日本は近年大規模な自然災害が度々起こっている。そうした報道を見た時に何を感じたのかを懸命に思い出して見る。
結果思い至ったのはそうした日本の報道では無く、災害の後に速やかに避難所が設置され、快適な住環境が整備されていた海外の報道を思い出す。余りにも日本の避難所とは違う光景だった。そうだな、結局一番必要な物は清潔な住環境では無いだろうか。
「避難場所を用意しましょう。恐らく町の環境を速やかに改善する事は難しい。でも全く違う場所に仮の住環境を構築して、そちらに移って貰えれば、少なくとも衛生環境は改善する筈です」
「避難場所、ですか?」
さすがにモーリスさんも俺が何を言っているのかは想像が出来ない様だ。クラフターである俺なら、他の誰よりも迅速に最低限の環境を整える事が出来る。
「はい、避難場所です。そうですね、城壁で囲った拠点を作りましょう。そこに最低限雨露を凌げる家を作ります。そこに避難をして貰いましょう。避難場所は俺が作ります。ただ、俺が仮とは言え町を作る事に問題は無いでしょうか」
「その点は問題ありません。雑事は全て私が請け負います。卓也さんは好きな様になさって下さい」
フランシーヌは俺が作った拠点を知っているから、イメージが出来るのだろう。直ぐにフォローをしてくれる。こういう時のフランシーヌは本当に心強い。人命優先だから、その辺りの事は丸投げをして俺は出来る事をしよう。
「面倒を掛ける事になるかも知れないけど、その時は宜しく頼むね、フランシーヌ」
「はい、お任せください!」
「モーリスさん、この周辺の地図は有りませんか?」
「直ぐにお持ちします!」
疑問もあるだろうが、直ぐに動いてくれるのは機に聡い商人だからか。
モーリスさんが用意してくれた地図をテーブルの上に広げる。モンペリエ、ブルゴーニ他、周辺の町や街道が網羅されていた。こうして地図を見ると、いかに人の住む領域が狭いかが良く解る。広大な地図の中に、人の住む生存権が点在しており、細い街道が結んでいる。
モンペリエの町でも5㎞×5㎞を城壁が囲んでおり、地図で見てもそこそこの大きさだと解るのだが、それでも地図の大半は魔物の領域だ。
裏を返せば手つかずの資源が山ほど放置されていると言う事でもある。しかし魔物の襲撃を凌ぎながら新たな街を建造したり、資源を確保したりする事は非常に難しいだろう事も理解出来る。
俺が開拓して拠点を作ろうと思うなら、正直幾らでも土地は余っている様に思える。モンペリエとブルゴーニを結ぶ街道はブルゴーニの更に先まで繋がって居るが、北に目を向けると巨大な山脈が横たわっており、その方面には街道は伸びておらず町も建造されていない。
「この辺りはどうでしょう」
モンペリエに近すぎない程度、町の東側を流れる川を北に20㎞程遡った辺り。その辺りも平原が広がっており手を入れ易そうだ。
「問題は無いと思います。ですが、移動はどうしますか? 恐らく傷病者も多く、移動も一苦労だと思います。必要であればギルドに護送の依頼を出しますが?」
「その点については俺に考えがあるので、任せて下さい。モーリスさんにお願いをしたいのですが」
「はい。何なりとお申し付け下さい」
「可能な限りで良いので、物資をブルゴーニに提供して欲しい。その上でブルゴーニの人々に全く違う場所へ移っても良いか、町の人々の意思を確認して貰えないでしょうか。移動する先がどの様な場所かの説明も難しい状況で納得するかは疑問ですが、少なくとも城壁に囲まれた安全な場所と、綺麗な水、雨露を凌げる家は用意をします。食料も何とかなると思います」
「俄には信じ難いお話ですが、タクヤ様がそうおっしゃるのでしたら、多分ご用意されるのでしょうな。解りました。その話は御受け致します」
「当座の資金は、これを自由に使って貰って構いません」
そう言って、金貨400枚の預かり証を取り出して渡す。使い道に困っていたお金だから、使って貰う事に問題は無い。
「金貨400枚ですか? 宜しいのですか?」
「はい。それは直ぐに使い切って貰って大丈夫です。何日か後には、先日の報奨金として金貨7万5千枚が支払われると聞いてます。本当はそちらも運用について相談をしようと思っていたのですが」
元々資金を腐らせるつもりは無かったので、何か良い投資話は無いか相談をしようと思っては居たのだ。別に金に困っている訳でも無いので、金で解決出来るなら任せてしまいたかった。
「かしこまりました。お預かり致します。ところで、移動を促すとして、日程はどれ位先とお伝えをすれば宜しいでしょうか」
「そうですね、一週間下さい」
「い、一週間ですか??? いえ、タクヤ様なら、それ位あればどうにかしてしまうのでしょうね。解りました。早々に資材と人材を手配してブルゴーニに向かいます」
「フランシーヌはどうする?」
質問の意図が解らない様で、フランシーヌが首を傾げる。
「恐らくブルゴーニには傷ついた人や病気の人が沢山居るんだろう? フランシーヌなら助けられる人も居るんじゃ無いか?」
「宜しいのですか?」
「フランシーヌと離れるのは寂しいけど、フランシーヌは何時も俺に好きな様にすれば良いと言ってくれるだろう。フランシーヌもやりたい事があるなら、俺の事は気にせずに好きにして貰って構わないよ」
「そうですね。確かにブルゴーニの人々を卓也さんが受け入れるのであれば、一足先に行って少しでも手助けをした方が、良い気がします。モーリスさん、私もご一緒しても宜しいでしょうか?」
「勿論です! 聖女様がご一緒されるのであれば、心強い!」
フランシーヌと一緒に過ごせないのはとても心細い。でも、彼女がブルゴーニに行けば救える人も一杯居る筈だ。そこに考えが至らず、また手を差し伸べなければ、後々後悔する事が目に見えていた。
「出発は何時頃になりますか?」
「さすがに今日は無理でしょうが、明日早々には出発出来る様に急ぎ準備を進めます」
「では、フランシーヌは明日合流で。早速俺も行動に移す事にします」
席を立ち、モーリスさんと固く握手を交わす。
テオドール商会を出ると、俺は真っ直ぐに北へと向かった。そのまま城門を抜けて、道なき道を真っ直ぐ北へと進む。北には町が存在しない為、街道が引かれていない。程無くして蛇行している川に当たったので、そこからは川沿いを遡っていく。
移動を最優先にしたので採取は最小限にしたが、クラフトモードなら通常では採取出来ない素材も採取する事が出来る。誤算だったのは、川伝いに移動した際に市場でも見る事が出来なかった植物を幾つか採取出来た事だろう。特にこれからの生活を劇的に変化させるであろう作物を獲得する事が出来た。後で拠点に戻った時に、植えてみようと思う。
日が傾き始めた頃に目的地に着いたので、後は拠点の建造を始める。
最初に移動手段の確保だ。100m四方を囲った拠点を作り、転移門を設置する。そこから大蜘蛛の森の拠点に戻ると、家から少し離れた拠点の端っこに鋼鉄の壁で覆った転移部屋を作る。開けた場所に転移門を設置すると、万が一にでも誰かが転移門を通ってこの拠点に辿り着く可能性がある。その場合、拠点を荒らされない様に予め隔離しておくのだ。
それに俺一人なら使用する度に目的地を設定すれば良いのだが、フランシーヌが利用する事を考えれば、転移門は2つセットで運用した方が利便性は増すだろう。
先程入手した作物の種を新たに設置した畑に植えて、その後は日が暮れる迄整地を行った。
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