第61話 支援の相談。隣町の現状
「卓也さん、今日も1日お疲れ様です」
「ありがとうフランシーヌ。俺の方こそ何時もありがとう」
その日の晩御飯はフランシーヌが腕によりをかけてくれた。炒め物と煮込み、そしてオーブン料理だ。色彩豊かな野菜が食卓を鮮やかに彩っている。
「拠点では不自由は無い?」
「はい。ここはとても快適ですから」
「それは良かった。町の様子はどう?」
転移門は問題無く使用出来たし、ロックを掛けている扉もフランシーヌは俺と契約状態にあるNPCだから、自勢力扱いなので出入りが自由だ。
今のところ俺は日中クラフトや採取に掛かり切りなので、町へは自由に行き来をしても問題は無いと伝えている。ついでに町の情報収集もお願いをしていた。
「モンペリエは被害が少ないですからね。紅の月以前の生活をほぼ取り戻しています。ただ、周辺の町では壊滅にこそ至っていませんが、かなりの被害が出ている様です」
フィールドボスの襲撃はモンペリエの町だけだったが、紅の月の影響は広範囲に及んでいる。人的な損害だけでは無く、建築物へのダメージもかなり深刻な状況だ。
日本でも大地震に襲われれば復興には何か月も掛かってしまう。それこそ輸送能力に秀でる日本でもそうなのだから、平時でも魔物の襲撃に備えなければならないこの世界では、復興もままならず、日を追う毎に事態は深刻になる可能性が高い。
「そうか。何か俺に出来る事があれば良いんだけど」
「そうですね。卓也さんにお力添えを頂けるのであれば非常に助かる事と思います」
だが、俺に何が出来るだろうか。
「出来る事はあるとは思うんだけど、何せこの世界の事は知らない事ばかりだからね。誰かに相談出来ると良いのだけど」
「ご相談をされるとすれば、領主かギルドマスターか、それとも商会のモーリスさんでしょうか」
「そうだね。イザークさんは色々と良くしてくれたけど、領主の印象は余り良くは無いので領主への相談は除外するとして、後はギルドと商会か。ちょっと考えもあるし、まずはモーリスさんに相談をしてみようかな」
さすがに全てをどうにか出来る訳では無いが、出来る事なら何とかしたいと思うのも人情だろう。そこで、明日は町でモーリスさんに相談をしてみる事にした。
今の所考えているのは、何らかの形で物資を支援する事だ。その辺りの事は多分領主に相談すると簡単なんだろう。だが、あの領主を頼るのも、あの領主の手柄にするのもどちらも何となく嫌だ。ギルドは魔物狩りが主な仕事と言うから、領主を除けば商会への相談が一番良い知恵を貸してくれそうな気がする。
この思い付きが、後々とんでもない大事になろうとは、この時の俺は考えも付かなかった。
そう言えば折角作った指輪だったが、結局渡しそびれてしまった。色々と考えていてタイミングを逸した事もあるが、どうせなら仕込んだワインが完成してからにしようと思ったからだ。
お酒の出来上がりは全く心配をしていない。クラフトした食べ物はどれも最上級の味だったから、きっとどのお酒も飲み慣れていたお酒と同等か、もしかするとそれよりも上等な物に違いが無い。どうせなら美味しいお酒を祝杯にしたかった。
翌日も朝から日課を終えると、早速町へと移動してモーリスさんを訪ねる事にした。
モンペリエでは、既に俺の顔を知らない人は殆ど居ない。それがモーリスさんのテオドール商会なら尚更だ。店に着くと下にも置かない扱いで応接室へと真っ直ぐ通された。
「タクヤ様。本日は我がテオドール商会へお越し下さり誠にありがとう御座います」
大切な商談に使用する応接室と言うだけあって、家具も調度品も洒落た物が揃えられている。色調も穏やかな色で統一されていた。
「突然訪問をしてすいません。実はちょっと相談したい事が有りまして」
「タクヤ様がご相談ですか。はい、お話をお伺いしても?」
「実は、周辺の町でも魔物の襲撃で大きな被害があったと聞きまして。何か支援出来ないかと」
「失礼ながら、何故我がテオドール商会へ?」
俺は、ざっと自分の考えを説明する。領主は信用が置けない事。俺の力で何某かの物資であれば提供出来るのではと考えている事。物資により復興の支援が出来れば良いが、そうした資材の流通に関しては商会が一番適しているだろう事を伝える。
「なるほど、タクヤ様のお考えは解りました。我々も憂慮しておりますので、お力になれるのであれば是非お役に立たせて頂きたい。しかし、状況は恐らくタクヤ様の想像よりも深刻な状況でして」
「周辺の町では、かなり深刻な被害が出ているとはお聞きしましたが」
「そうですな、一番被害が大きいのは隣町のブルゴーニでしょうな」
そう言ってモーリスさんは、丁寧に説明をしてくれた。
ブルゴーニの町は街道を西に30㎞程進んだ先に有る。丘陵地帯の中ほどに建造された町で、牧畜が盛んに行われているそうだ。
人口は5万程。元々この世界では、人は集まって生存権を構築しているので、町の人口は俺の感覚だと比較的多い。モンペリエも中々の規模だと思ったが、むしろモンペリエの町は規模としては小さい部類に入るそうだ。
そのブルゴーニだが、魔物の襲撃によりほぼ半壊をしているとの事。
魔物は辛くも撃退には成功したが、人口の半分ほどが失われており、町の建築物も大半が機能を失っている。
ギルドや行政府の機能も失われており、連絡も滞っている状況との事。何せ生き残っているのは戦えない女子供や傷病者が大半で、復興どころか襲撃の後始末も全く手つかずの状況が続いている。今確認出来る範囲でも領主、ギルドマスターのいずれも戦いで命を落としており、指揮系統も破綻している状況で一刻の猶予も無い状況らしい。
「モンペリエでは魔物の死骸はタクヤ様のご尽力もあり速やかな撤去が出来ましたが、ブルゴーニでは魔物の死骸だけでは無く、亡くなられた方々の埋葬も追いついていない状況なのだそうです」
何故それだけ詳細が解ったのかと言うと、ギルド経由の安否確認が出来なかった為、ギルド本部から調査依頼が有ったのだそうだ。モンペリエのギルドから既に調査隊が派遣されており、そこにテオドール商会からも何人か物資輸送で帯同をしたとの事。
その一団だ、昨日夜に帰って来たばかりだと言うのだ。成る程、昨日聞き込みをしたフランシーヌでは確認が出来なかったのも頷ける。
「衛生状態は日増しに悪化する一方ですので、早晩破綻する事は間違いが無いかと存じます。ブルゴーニ程では御座いませんが、この一帯は広く紅の月の魔力で狂暴化した魔物の襲撃に有っており、少なくは無い被害が出ている状況です。その中でモンペリエのみが殆ど被害を受けていない。恐らくは今後難民と化した人々がモンペリエに大量に流れ込むのでは無いかと予想をしております」
「難民ですか。仮に人が流れて来たとして何とかなるものなんですか?」
「どうにもならないでしょうな。モンペリエは元々小さな町ですので、それ程人を許容出来るものでは有りません。それにブルゴーニの人々が流れ込んで来るとしたら、今のモンペリエの人口を優に越えてしまいます。とてもでは有りませんが破綻する事は間違い有りません」
「国の支援はどうなっているんですか?」
「国からも物資の支援や軍隊の派遣などはされると思います。ですが、どれ程時間が掛かる事か。それにブルゴーニが深刻だったとは言え、少なく無い被害を生じた町は他にも無数に御座いますから、ブルゴーニだけにと言う訳にも行きますまい」
「モーリスさんの予想ですと、最悪はどうなりますか?」
「そうですな。ブルゴーニが破綻する事は確定事項でしょう。であれば、一縷の望みを掛けてモンペリエに流れて来る事も可能性は高いかと存じます。そうなれば、良くて共倒れです」
「共倒れ、ですか?」
「ええ。さすがに町の人口の2倍を支えるだけの基盤はこの町には有りませんからな。町の至る所に難民が溢れ、治安は悪化する事になるでしょう。食糧も早々に尽きてしまいます。そうなれば、飢餓がこの町を襲う事になる。衛生環境も悪化します。国からの支援がどうなるかは解りませんが、支援の手が届くよりもこの町も共倒れになるのが先では無いでしょうか」
難民に限らず例えば移民政策で治安が悪化した国の話は良く聞く。加えて食料もままならないとなれば、確かに深刻な結果になる事は想像に難くない。
「それに現在ブルゴーニは衛生状態も日増しに悪化しております。例えば質の悪い伝染病が発生した場合、そもそもブルゴーニからの難民受け入れを領主殿が禁じる可能性も御座いますな。自分の領地を守る為ですから止むを得ないかとは思いますが。せめてブルゴーニの領主が存命でしたら、政治的な駆け引きも出来るとは思うのですが、聞いた話ですとそれも難しいかと」
「成る程。思った以上に深刻な状況なんですね」
想像よりも遥かに厳しい状況だった。町の建物の大半が倒壊しており、2万人以上が亡くなった状況を想像してみる。そんな状況で、一体俺に何が出来るのだろう。
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