第57話 報奨金

魔物襲撃の後始末が概ね終わって、俺たちは改めてギルドマスターの執務室に居た。


「タクヤ様、今回は大変お世話になりました。ギルドを代表して改めてお礼を申し上げる」


「いえ、デミリッチ相手には何も出来ませんでしたからね。フランシーヌのお陰ですよ」


「全ては卓也さんのお力あってこそです」


皆に褒めて貰うが、第3ウェーブでスケルトン出現の報告を受けてデミリッチが出現すると解った時の俺と来たら、びっくりする位に取り乱して、思い出すと恥ずかしいばかりなのでどうしても素直に誇る事が出来ない。


ここ何日かは、誰とあっても終始こんな調子だ。褒めてくれるのは有り難いのだが。

言葉でありがとう、タクヤ様と声を掛けてくれるのはまだマシな方で、そこかしこで俺を見ると教会で神にそうする様に手を合わせて祈るので、そろそろ勘弁して欲しいなと思っていた。何と言うか、恥ずかしさで居た堪れない気持ちになるのだ。

しかしそんな気持ちを無碍に出来る筈も無いので、必死で笑顔を作って、軽く手を振って応えたりする。ファンに愛嬌を振り撒くアイドルって凄いよね、何て思ったりもする。まさか別世界に来てアイドルに感心するとは思わなかった。


「さて、タクヤ様にはこれを」


そう言って、ギルドマスターが金色に光る標識を2つ、テーブルの上に置く。

ギルドに所属する冒険者は、自分の所属と等級を明らかにする為に、ギルドから発行される標識を所持している。

5等級として登録された俺も当然所持をしているが、それは銀をベースに作られた物だ。


「2つと言う事は、俺とフランシーヌの分ですか?」


「はい。タクヤ様の戦果は言う迄も無い事ですが、フランシーヌ様もデミリッチを単独で撃破しています。戦果は国に報告を行い、既にお二人の8等級への昇級について国王陛下より承認の裁可を頂いております。残念ながら8等級の標識はここでは発行が出来ませんので、今回の標識は7等級になります。王都へ立ち寄って頂ければ直ぐにでも8等級の標識を発行致しますので、機会があれば是非お立ち寄りください」


ベアトリスさんが説明をしてくれる。でも、前にクイーンジャイアントスパイダーの討伐について聞いた時は7等級と聞いた気がする。


「フィールドボスの討伐は、8等級になるんでしたっけ?」


「1匹で、しかもボス単独であれば恐らくは領軍で対処が可能です。ですが、今回の襲撃規模は領軍では対処できなかったと判断をされました。さすがにあれだけの数の魔物に加えてボス級が2体では、どうやってもモンペリエの壊滅は免れなかったでしょう」


「国王へ報告を行ったところ、早々に8等級の認可がおりましたが、過去に例の無い異例の早さですな」


とはギルドマスター。襲撃をしのいでから僅か3日しか経っていないにも関わらず国のトップから承認が得られるなんて、信じがたい早さだ。


「そうですよね、まだ襲撃から3日ですしね。そんなに早く承認って下りるものなんですか?」


「タクヤ様にご教示を頂きました真紅の月、それが実例として確認できた事。恐らくは、聖女様の存在も大きいのだと思います。神託の聖女様がかねてより神より授かりし啓示、そこに語られた神の現身がタクヤ様であると聖女自ら宣言を為されたのですから、それは大変な騒ぎですよ。正教会も公式に認める発言をしております」


「あれ、マスターとベアトリスさんって神託の中身は知っていたんでしたっけ?」


確か領主も知らなかった筈だ。


「存じておりませんでしたが、正教会から公式に発表があった事により、ギルド上層部と各国へは通達が出ている。なので、このギルドで知っているのは私とベアトリス位だな。俺も知ったのは昨日の事だ」


「そうなんですね、もう一つ疑問に思ったんですが、情報が広まるの早くないですか?」


ギルドマスターがあれ?っといった感じでフランシーヌと俺を交互に見る。


「卓也さん、遠距離との通話が可能になる技術は確立されているので、主要な施設同士は連絡を取る事が可能です。ギルドなら、どの支部でも王都と本部とは通信が可能ですね。王都や本部で情報を集約して、各ギルドへ連絡する方式を採っています。領主も何処と繋がっているかは存じませんが、恐らくは通信手段がある筈ですよ」


俺がこの世界の常識に疎い事を知っているフランシーヌが、教えてくれる。


「そうなんだ。だから、3日前の事が国王の耳に届いているんだね」


「そうです。それでも8等級の認可がこの早さで降りるのは異例中の異例ですよ。少なくとも記憶には有りません」


とはベアトリスさん。


現代の感覚では当たり前だったが、考えてみれば不思議な話だ。遠い王都とやりとりをしたり、正教会の話が伝わったりしているのは、手紙等では到底不可能な伝達速度だ。

何でも、前に話を聞いたギルドマスターとベアトリスが連絡を取る手段がある様に、遠距離との双方向で会話が出来る技術はあるらしい。ただし非常にコストが掛かる。魔物から稀に取れる魔石が必要なんだと。


コストは掛かるが、手紙や人を使った伝達は、そもそも魔物が居るこの世界ではコストが高いし、情報の価値を考えればそれでも利用をせざるを得ないのだとか。


「成る程、そんな技術があるんですね。魔石が取れるのは稀にって事ですが、どれ程珍しいんですか?」


「この王国には無いんだが、他国には迷宮があってな。そこに出現する魔物から稀に魔石を採取する事が可能だ」


「迷宮なんてものがあるんですか?」


エターナルワールドには迷宮は無かった。この世界独自のものだろう。やっぱり細かい所では違いがあるんだな。ちょっと興味がある。エターナルワールドに無い場所なら俺が知らない素材が採取出来るかも知れないからだ。


「一番近くても間に1つ国を挟むからな、行こうと思ったら大変だぞ。まぁ迷宮で算出された魔石は基本的に国かギルドが買い上げて流通させている。通信装置には魔石が必要不可欠だから、どうしてもコストは高くなる。それでも他に代替出来る手段は無いから魔石の流通は、国やギルドで厳しく管理されているのさ」


「そうなんですね。勉強になりました、ありがとう御座います」


成る程、魔石は希少なんだな。今回採取を行った数は相当なものだったので、アイテムボックスには魔石も結構な数が納まっている。お金には全く困って居ないので、無理に売る必要性も感じないから、ここは黙っておく事にした。


「さて、今回タクヤ様の活躍についての報酬だが、実は査定が難航している」


「そうなんですか?」


「ああ、何せ貢献の割合が大きすぎてな。もう少しお時間を頂ければ助かるんだが、どうだろう」


「急ぎませんので大丈夫ですよ。因みにどんな感じで算出されるんですか?」


「ざっくりと説明をすると、まずは今回の襲撃の脅威度を算定し基本報酬を決定する。これはギルドが払うと言うよりも、ギルドと国の契約に基づいて国から支払われるものだ。次に、損害に応じて復興費用の割り当てを決定する。次に戦死者、傷病者に対する補償金の割り当てを決定する。次に貢献度に応じた報酬割合の決定だな。最後に魔物素材の買い取り金額の算出を行い、最終的な割り当てを決定し報酬の支払いを行う」


「それは、色々と大変そうですね」


「大変ではあるが、それを行う事こそがギルドの本分だからな。皆睡眠時間を削って仕事をしてくれているよ。大規模な襲撃の場合は、原則魔物の素材はギルドが買い取る事になる。その後の始末も大変だから、その費用と相殺するので微々たる物になるのが通例だな」


「それじゃ、俺が殆ど採取をしてしまったのは問題になるのでは?」


「その点に関しては特に問題視はされていない。何せどちらかと言うと後処理に掛かる費用でギルドの持ち出しの方が多い事が普通なのでな。今回はタクヤ様のお陰で殆ど問題が起きていないから、ギルドとしてはむしろ助かっている。ただ、今回はタクヤ様の貢献度が大きすぎてな。他の冒険者達の報酬を算定するのが難航しているんだ」


「何が問題になっているんですか?」


「国からの予算は復興予算や死傷者や傷病者の補償を多めに盛り込んでいるんだが、今回はむしろ想定よりも損害が少ない。だから総じて見れば生き残った人達に分配する報酬が多くなる。かと言って迎撃に参加した者達がどれ程活躍出来たかが問題になっている。何せ大半の魔物はタクヤ様が設置したクロスボウが仕留めてしまったのでな。ただでさえ、想定よりも冒険者への報酬が多くなりそうだから、タクヤ様への割り当てを増やすべきでは無いか。今揉めてるのはそんな所だな」


「俺への報酬で悩んでる位なら、復興の予算や皆さんの報酬を多めにして貰って大丈夫ですよ。俺は魔物の採取をさせて貰っただけでもかなり有り難いので」


「そう言って貰えると助かるよ。まぁ早めに決定するので、もう少しだけ待ってくれ」


結果、報酬の確定はその2日後になった。俺とフランシーヌは2人で金貨7万5千枚。俺が5万枚でフランシーヌが2万5千枚。フランシーヌは、デミリッチの単独撃破が高く評価された


日本円換算だと、ざっと70億って事か。仕事柄それ以上の金額を扱った事は勿論あるが、自分の資金となれば意味が違う。お金は回してこそだが、これだけの金額ともなればどうやって使うか、それが問題だな。

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