第53話 Third → Fifth そして、最悪の知らせ

町に3度目の警鐘が鳴り響き始める。第3ウェーブの開始だ。


第3ウェーブは、大型魔獣が混じらないから比較的対処は用意だ。だが、混じる魔物の種類によっては被害が拡大する恐れがある。厄介なのはやはり沼や火山だろうか。


沼は、毒を巻き散らす大毒蛙や、空を飛ぶ大蜻蛉がいる。大毒蛙は平原モンスターより体力に勝るから一度目の斉射では射殺せない場合が有る。そうなると城壁に近づける事になる。しかも遠距離から毒液を吐いて飛ばしてくるので一度に攻め寄せてくる数によっては被害は免れなくなるだろう。それに大蜻蛉は飛行しているのでクロスボウの射程外から一気に強襲をしてくる。しかも大蜻蛉の様な飛翔能力がある魔物は迎撃装置では無くその他の拠点施設を優先して攻撃してくるので厄介だ。


火山は更に面倒だ。通常の魔物はそれ程でも無いが、大型魔獣枠にワイバーンが居る。飛行能力があり耐久力も段違いだから、それがまとまった数になれば対処も容易では無い。


そんな事を考えていると伝令が走って来た。


「報告します。第3陣の魔物の襲撃を確認。これ迄の魔獣に加え、スケルトンが確認されました。」


その時、俺は気持ちを落ち着ける為に乾いた喉をお茶で潤していた。だが、その報告を聞いた時、思わず手に持ったコップを取り落としてしまう。


「ス、スケルトンだって?最悪だ・・・」


「大丈夫ですか、卓也さん。顔が真っ青ですよ?」


「あ、ああ。ちょっと待って。」


スケルトンだって、よりによって?


その可能性は極力考えないようにしていた。何故なら、技術ツリーを開放していない今の段階だと、対処をする方法が無いからだ。


バイオーム、地下墳墓。地下に掘り進めると稀にぶち当たる事がある特殊なバイオームだ。地下には巨大な空洞があり、過去に栄えた王都が丸々廃墟になっている。

廃墟になった王都には至る所に死者の亡霊が彷徨っていて、魔物としてはスケルトンやレイスが出現する。

そしてフィールドボスはデミリッチ。町の中央にある王城を根城としていて、完全な物理無効能力を有している。そう、こいつを倒すには最低でも属性攻撃が可能な武器が必要なのだ。そして、現時点では属性攻撃が可能な武器を作る手段が無い。


初期段階の襲撃イベントにおける、究極の外れ枠。それがデミリッチだ。


「ダメだ、どうやっても勝てる気がしない。そんな...」


「卓也さん、しっかりして下さい。まずは情報を共有しましょう。」


「あ、ああ、そうだな。」


何とか気持ちを奮い立たせて、皆に説明をする。


「スケルトンが出たと言う事は、もう1つは地下墳墓で確定だ。通常枠はスケルトンなので、こいつはまぁ大した問題では無い。第4ウェーブになると大型魔獣枠としてレイスが出現する。王に使える宮廷魔術師の亡霊で、物理攻撃が効かず、そして魔法を撃ってくる。」


「レイスですね、解りました。対処はどうにかします。」


フランシーヌがそう言って、ギルドマスターと視線を交わした事に俺は気付かなかった。


「そしてフィールドボスがデミリッチ、出来損ないのリッチだ。不死を目指した王の慣れの果てで、国1つを生贄にして滅ぼしたが完全な不死になりきれなかった出来損ないの不死の王ノーライフキングだ。」


「何故、出来損ないなのですか?」


「一応エンドコンテンツでは出来損ないでは無い本当のリッチが出てくるんだが、性能が段違いなんだ。それと比較をすれば出来損ないと呼ばれるのも不思議ではない。デミリッチは序盤に出てくるだけあって属性武器があれば討伐出来ない事は無いんだが、さすがに現時点で用意するのは無理だ。今の手段では、倒す方法が無い。」


「他に何か特徴は有りますか?何でも情報があれば教えてください。」


「そうだな、リッチが使う魔法は着弾した場所で爆発するファイアボール、広範囲を焼き払うファイアストーム、時間差で襲ってくるアイススピアかな。レイスは物理攻撃が無効な位で、魔法自体はそこまで強力じゃ無かった筈だ。レイスは空を飛べるんだけどデミリッチは空を飛べないから、属性武器さえあれば近付いて攻撃をする事が出来る。」


「デミリッチは空を飛べないんですか?」


「そう。何より出来損ないって言われる由縁だね。多分バランス調整の為だと思うけど、浮いている様に見えるけど浮かべる高さは精々は1m位なものなので、十分に届く範囲。ただ、属性武器を手に入れるのが兎に角面倒なんだよ。」


大分テンパってるからか、フランシーヌの質問に素のまま答えている事には気付かなかった。普段ならゲーム知識やゲーム用語がそのまま通じる訳では無いので、表現や言い回しを多少也とも気をつけている。エンドコンテンツ何て伝わる筈も無い。

だが、フランシーヌは努めて優しい声音で、俺に語り掛ける様に質問をしてくれる。

俺はと言えば、聞かれるままに応える事しか出来ず、その後はしばらく頭を抱えて唸る事しか出来なかった。


「卓也さん、大丈夫です。後は私が何とかします。マスター、教会に連絡を。イザークさんは卓也さんの護衛をお願いします。」


「聖女様は如何されますか?」


「デミリッチは私が対処します。」


「そうですな。委細お任せ下さい。何、これだけタクヤ様にはご尽力を頂いたのです。今なお我々は1人の犠牲者も出しておりません。相手と対処方法が解っているのであれば、後は我々が対応を致します故。」


「教会へ使いを出せ。正教会以外もだ。引き籠っている神官が居れば引き摺り出してこい!魔法が使える者を中心に再編成をさせるんだ。他のメンバーは魔法使いに絶対攻撃を届かせるな。」


俺が塞ぎ混んでいる間もギルドマスターから次々と指示が出され、ギルドが騒がしくなる。


だが、その頃には俺には周囲の音が届かなくなっていた。考える、他に手段は無かったか。使えるレシピは?抜け道は無かったか?ダメだ、どうやっても倒せるビジョンが見えない。


しばらくすると、フランシーヌが俺の頭を優しく抱きしめている事に気が付いた。俺が気が付いた事を察したのか、フランシーヌが抱きしめた腕をゆっくりと解く。


「卓也さん、落ち着かれましたか。」


「あ、ああ。取り乱して済まない。あれからどうなった?」


「皆で対処をしています。後は安心して私達にお任せ下さい。」


あれから、結構時間が経っていた様だ。さっき迄とは異なる警鐘の音が鳴り響いている。町の中から、時々、ドーンと何かが爆発する音が聞こえてくる。


「報告、デミリッチの出現を確認しました。ストレイシープも一緒です。方向は西門!」


「卓也さん、行って来ますね。」


「え、待って。行くって何処へ?」


「大丈夫ですよ、デミリッチは私がどうにかします。」


既にデミリッチが出現したと言うのであれば、あれから2時間は経っている事になる。そんなに時間が経っているのに気が付かないなんて。


「ダメだ、フランシーヌ。君を行かせる訳にはいかない!」


その時俺は、抗えない死の恐怖に捕らわれて酷く怯えていた様に思える。フランシーヌを死なせる訳にはいかない。せめて2人だけでも、デミリッチの手が届かない所へ逃げられないだろうか。朝日が上れば撤退をする筈だ。夜明けは何時だ?拠点壊滅は免れないかも知れないが、2人で地下に籠ればやり過ごす事も出来るんじゃないか。


だが、そんな俺の考えを見透かしたかの様に、フランシーヌは俺の目を見つめる。


「大丈夫ですよ、卓也さん。私を信じて下さい。貴方は私が守ります。」


「違う、そうじゃない。俺が、君を守るんだ。」


迷いの無いフランシーヌの瞳を覗き込むと、そこに映る怯えた顔をした俺が映った様な気がした。ダメだ、誓ったじゃないか、俺がフランシーヌを守るって。なけなしの勇気を振り絞る。


「本当に済まない。解った。でも、俺も一緒に行くよ。何か方法があるんだろう?」


「私は神に仕える神官ですよ?神の定めた死者の法に背く輩が相手なら、私は負けません。」


そこには死地へ向かう悲壮さとか、決意とか、そんな感情はまるで感じられなかった。当たり前の事を当たり前に言う、そんな気軽さと言うか。それは信じるに足る言葉だった。いや、フランシーヌの言葉を俺が疑ってどうする!


「解った。奴は魔法を使うから、これを。」


そう言って、装備を上質なスパイダーシルクでクラフトした礼装に変更した。そしてアクセサリーとして、先ほどクラフトしたばかりのレジェンド等級の大狼の牙のネックレスに変更する。


礼装はウエストを絞ったマーメイド型のドレスだ。裾はそれ程長くはなく膝下位まで。美しく有りながらも動きを阻害しないデザインになっている。

色は、淡い輝きを放つ乳白色のシルク。控えめのフリルがあしらってあって、フリルには精緻な刺繍が施されていた。


「フランシーヌ、綺麗だ。まるで花嫁衣裳の様だよ。」


「ありがとう御座います、卓也さん。」


そう、見た目にはどう見ても花嫁衣裳だ。単純な防御力なら、レジェンド等級の大型魔獣素材の防具の方が上だから変更をしていなかったが、各種属性への耐性を考慮すると、この装備は破格の防御性能を誇る。


「こんな事なら、ニコラさんにこの衣装を見せてあげたかったな。」


「そうですね、機会があれば是非披露を致しましょう。きっとお喜びになられる筈です。」


「イザークさん、ギルドマスター、不甲斐無くてすいませんでした。」


「タクヤ殿は十二分に働いてくれていた。気に病まれる必要は有りませんよ。」


とはギルドマスター。


「して、行かれるのですかな。」


イザークさんはずっと一緒に居てくれた様だ。こんな状況でも落ち着いていて、今も隣に座って見守ってくれていた様だ。


「行きましょう、卓也さん。もうじきデミリッチが城壁に着く筈です。」


出現の報告があったのだから、じきに城門を守る迎撃部隊と接触をする筈だ。俺には何も出来る事は無いが、フランシーヌが行くと言うのなら、見届けなくてはならない。


「行こう!」


これが最後の戦いになる筈だ!

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