第52話 Second Wave
戦況を説明して貰うと言っても、今の所大きな動きは無い。
魔物の襲撃は予定通り北、南、西の城門に敵の軍勢が集中しており、東側はまばら。
街道沿いに敵の進撃を確認する為の篝火を設置。各所に設置されている櫓にて敵の接近を感知した場合は狼煙が上がる。それに呼応する形で篝火に魔物を寄せ付ける香木を投げ入れる。これにより魔物の流れはある程度操作をする事が可能になる。
事前の想定通り、街道沿いに魔物の流れは集中し、城門にて迎え撃つことに成功する。だが、ある意味想定外だったのは俺が設置した迎撃装置だ。
大抵の弓手や魔法使いよりも長い射程を誇っており、城門越しでも先んじて魔物に攻撃をする事に成功。瞬く間に敵を殲滅する事が出来た。
城門以外も魔物の襲撃は確認されているが、密度は低いとは言え等間隔に設置した迎撃装置により、これらも殲滅に成功している。
現在は第2陣を同様に誘導する為、破壊された篝火の再設置が大至急進められている。また体力を温存した戦力は城門前に折り重なっている魔物の死骸を撤去する事に注力をしているとの事。
壁に辿り着いた魔物は確認されていないが、それでもそのままにしていると敵に取ってもバリケードになってしまい、接近を容易にしてしまう。その為、折り重なった死骸を多少離れた場所へ運んで、城門前にスペースを確保する。
魔獣の死骸は、大半が貴重な食糧になるが、流石に次の襲撃を間近に控える状況では、どかす以上の処置を取る事は出来ない。
第2ウェーブには大型の魔物が混じるが、総数自体は大幅に減少するから十分な火力が有れば脅威にはならない。
「第2陣の撃退に成功した場合は、大型魔獣の死骸を貰い受ける事は可能でしょうか?」
大型魔獣の出現率は低く、通常なら一晩で討伐出来る数は恐らくは5体にも満たない。それが結構まとまった数を確保出来るので、現時点では貴重な大型魔獣の素材を確保できるチャンスだ。
「終わった後にか。タクヤ殿の申し出を断る様な者は居ないと思うが。」
「いえ、第2陣の迎撃が完了して直ぐでお願い出来ないかと。どうせ死骸はスペースを確保する為にどかすんですよね。大型魔獣を運ぶのは骨が折れるでしょうし、俺が採取してしまえばその手間が省けますので。」
「手間が省けるのですか?」
とはイザークさん。採取をすれば跡形も無く死骸が無くなる事を説明する。
「それ程簡単に撤去出来るのであれば、むしろお願いをしたいですな。話は通しておきましょう。」
第1ウェーブから第2ウェーブ及び第2ウェーブから第3ウェーブの開始時間は、その間隔は1時間半と決まっている。これは迎撃にどれだけ時間が掛かっても変わらないので、迎撃に手間取れば十分な体制を整える前に次の襲撃を迎撃しなければならなくなる。
今の所そこまで時間を要していないから、このペースで次のウェーブも凌げれば、頑張れば2カ所で大型魔獣の採取が出来そうな気がする。次の襲撃時は南門で状況を見つつ、終わり次第採取を行う事にした。
南門に移動して後、次の襲撃迄は大きな変化は無い。3カ所でほぼ同時に魔物の襲来を発見し、町に警鐘が鳴り響く。城門に魔物の軍勢が辿り着くと、大型クロスボウから一斉に矢が放たれ迎撃を開始する。
大型魔獣は耐久力に優れる為、十分な火力が無ければ城壁への接近を許してしまい、拠点にダメージが入る事になる。だが、流石にこれだけの火力を集中運用しているので、第2ウェーブも問題無く撃退をする事に成功した。
俺は城門脇の通用口からいち早く外へと飛び出し、手早く大型魔獣の採取を行う。使用するのは勿論ダマスカスのピッケルだ。レア素材に加え、魔石中を次々と採取する事に成功する。
大型魔獣が混じるから、全体の総数としては第1ウェーブよりも少ない。1つの城壁辺り、1000を上回る位の数が確認されている。だが、第2ウェーブは大型魔獣が凡そ100に通常の魔獣が500程。明らかに数が少ない。流石に100体近い魔獣の採取には骨が折れた。まぁ実際には近くによってピッケルを突き立てるだけなのだが。1体当たりの採取回数は5~7回。1日匹当たり10秒程度で採取を済ませ、約100匹の採取を15分程で完了する。そこからは小走りで西門へと移動し、そこでも採取を行う。北門まで移動する事は断念したが、これだけの短時間で実に200体分の採取が出来た訳だ。これで、レジェンド等級の装備品に手を出す事も可能になる。
俺が採取をしている間に、第3ウェーブの迎撃準備が完了する。魔物の死骸を撤去する為に城門前に展開をしていた部隊が撤収し城門が閉じられるので、俺も一緒に町の中へと戻る。俺達は盛大な歓声に迎えられる事になった。
俺達は歓声を後に、ギルドへと取って返す。ギルドに戻って収納箱をチェックすると、矢が2000本程減っていた。拠点内の収納箱からは均等に消費される筈なので、第2ウェーブだけで4000本は消費した事になる。
総数は凡そ半分に減るとは言え、さすがは大型魔獣だ。各種ステータスが上がっているからか、通常の魔獣であれば1射で1殺。大型魔獣は4~5射で1体討伐している計算になる。
コモン等級の大型クロスボウの射撃間隔は2秒に1回。城門前なら2秒毎に60基の大型クロスボウから矢が放たれる事になる。大型魔獣の足が早いとは言え100mを2秒で駆け抜ける事は不可能だろう。それよりも足が遅ければ、最初の斉射を耐えたとしても、次の斉射を浴びせる事が出来る。
大型魔獣1匹当たり5射あれば良いのであれば、一度に大型魔獣が20匹位は押し寄せて来ても対処は出来る計算になる。1回のウェーブで一カ所当たり100匹程の大型魔獣が襲撃してくると言っても、一度に襲ってくる訳では無いから十分に対応が可能と言う訳だ。
各ウェーブの開始時間はタワーディフェンスなので決まっている。
紅の月の場合、第1ウェーブは23時、第2ウェーブは0時半、第3ウェーブは2時、第4ウェーブは4時。
真紅の月は若干変更になる。第1ウェーブは23時、第2ウェーブは0時半、第3ウェーブは2時、第4ウェーブは3時半、第5ウェーブは4時。
真紅の月では、第3と第4の感覚が短くなり、更に第4ウェーブから第5ウェーブは間が30分しかないから、ほぼ第4ウェーブの迎撃が完了する前にフィールドボスが乱入してくる事になる。
真紅の月は通常の紅の月と比較するとフィールドボスが出現するだけでは無く、個々のウェーブの密度も高くなる。冒険者は大型魔獣相当のジャイアントスパイダー1匹でも梃子摺るそうなので、総数500匹にもなる大型魔獣が相手では流石に分が悪いのでは無いだろうか。
「イザークさん、実際大型魔獣を500匹相手にした場合、何とかなるものなんですか。」
ギルドへ戻る途中、イザークさんに疑問をぶつけてみた。
「そうですな、正直厳しいかと存じます。過去の例を見ても、これ程の規模による魔獣の襲撃は記録には御座いませなんだ。タクヤ様がいらっしゃらなかったら、仮に撃退に成功したとしても甚大な被害があったでしょうな。」
その言葉には、誇張した様な感じは無かった。襲撃イベント中の魔物は狂暴化状態になっており、ステータスも通常時の1.5倍になっている。それだけの被害が出ると目されるのも当然と言えば当然か。
ギルドに戻ると、改めて報告。今後についてだが、第3ウェーブでどんな魔物が混じるのかを確認して欲しいと伝えた。
第3ウェーブでは抽選で選ばれた他のバイオームの魔物が混じる様になる。どんな魔物が混じるかによって、その後の難易度が大きく変動する事になる。
ボスの内1体はストレイシープで確定だろう。こいつが面倒なのは討伐に制限時間があって、制限時間内に討伐が出来なかった場合は確定で逃げ出す事だ。それがわざわざ向こうからやって来て、しかも逃げないので、対処自体は非常に簡単だ。
問題は、もう1体のボスが何になるかだ。ボスによっては、どうやっても詰んでしまう奴もいる。せめてそいつが出なければ良いのだが。
だが、フラグと言う奴なのかな。俺の期待は最悪の形で裏切られる事になるのだった。
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