第45話 迎撃装置
「して、何やら魔物を迎撃する為の設備を設置されると伺いましたが、どの様にされるのでしょうか。」
イザークさんには俺が迎撃装置を設置する際の、監督役、兼お目付け役で来て貰った訳だが、まぁ詳細を説明するよりは見て貰った方が早い。
「そうですね。まずは手近な城壁へ向かいましょう。説明を長々とするよりも実際に見て貰った方が早いかと思います。」
そのまま、城壁へと3人で向かう。フランシーヌもイザークさんもこの町では有名人だからか、当然連れ立って歩けば目立つ事この上無い。遠目にちらちらと様子を窺う視線は数多く感じるが、さすがに騎士団長を呼び止めて誰何する様な奴は居なかった。
衛兵と思しき一団や冒険者ともすれ違ったが、目があっても軽く会釈をする程度で、面倒事を避ける様に足早に立ち去る。これ以上の虫除けは無いんじゃなかろうか。
城壁へ向かう間は、俺の後ろでフランシーヌとイザークさんが世間話に興じていた。イザークさんも俺の事は気にはなるのだろうが、余り詮索する素振りはない。そうこうしている内に程なくして城壁へと辿り着く。
町をぐるりと囲む城壁の内側は、ある程度のスペースが確保されている。壁は高さが5m程、厚さも3mは有り、壁の上には歩哨が歩くスペースも確保されている。
魔物を迎撃する為には壁の上にタレットを置いた方が簡単だが、そうすると壁の上の移動に支障をきたしてしまうのでそれは避けたい。
そこで、まずはレンガブロックを4×4の10段積み上げ、土台を作る。タレットは直径2m、高さは3m有る。積み上げたブロックは1辺50cmの立方体だから、これで一辺2m、高さ5mの土台が完成する。その上にタレットを設置して上部に迎撃用クロスボウを設置すれば完成だ。その間、僅か5分程。土台を積み上げるのは、ものの30秒程なので、大半はタレットと迎撃装置のクラフト時間だ。
「はい、完成しました!」
出来上がった所で、振り返りつつ腕を大きく広げる。心の中で、ジャーンと効果音を付けつつ、イザークさんに向き直って声を掛ける。そこには、顎が落ちんばかりに口を大きく開いて、唖然とした表情を浮かべたイザークさんが居た。驚いた時のリアクションは人それぞれだが、最近はこうして驚いてくれると安心する俺が居る。
「城壁より3mは高く設置したんだけど、高さは足りるかな?」
「卓也さん、敵が城壁の近くだとは射線が通り難いので、もう少し高い方が良い気がします。」
「だよね。これ以上高くしようと思ったら足場がいるんだけど、仕方が無いか。」
どれ位高くすればいいだろうか。5mの壁に対して迎撃装置が10mで、城壁の前7mは死角になってしまう。まぁそこまで近付く前にある程度は減らせるだろうから、一旦は10mにしておこう。その為には高さ4段の足場を積まなければならない。積むのは、まぁ簡単だから良いのだが、いちいち積んだ足場をピッケルでは壊すのが手間だなぁと思った。タレット1つ2つなら良いのだが、町全域をカバーしようと思えばかなりの数だ。その都度足場を積んで壊してを繰り返すとなると、流石に結構な手間になる。
「はい。これって、城壁の外ではダメなんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?四方を壁でぐるりと囲んだ内側だけが拠点と見做されるから、外に設置しちゃうと面倒なんだよ。魔物から優先的に狙われるから、すぐ壊されちゃうしね。」
「面倒、ですか?」
「そそ。拠点内なら何処からでも矢の補充が可能になるんだけど、外に設置するとそれぞれの5m範囲内に、補充用の収納箱を設置しないといけなくてさ。」
「それは確かに面倒ですね。」
俺は話しながらも迎撃装置とタレットを解体。設置物なら解体はボタン一つなので簡単なんだけどな。対象へ意識を集中してメニューを呼び出して解体を選択すれば一瞬で素材に還元される。手早く階段状に足場を組み、土台の高さを4段増やしてタレットと迎撃装置を改めて設置する。
話しながら作業を続けていると、ようやくイザークさんが再起動を果たす。余り動揺をしなかったギルドマスターやモーリスさんは、やっぱり結構凄い人な気がする。でも、この人も騎士団長なので、人によるか。それとも冒険者との付き合いが多いと、イレギュラーな自体に直面する経験が多くて慣れているのかも知れないな。
「タ、タクヤ殿、一体これは何事ですか?何故突然、こんなものが出来上がるのですか!?」
「イザークさん、これが神の御業です。」
フランシーヌがニコニコと笑みを浮かべながら、一言で説明を済ませてしまう。まぁ細かい説明をと言われても無理だし、神の力と言って納得して貰えるなら、その方が手っ取り早い。
「神の、ですか。いえ、確かにこれはそうとしか説明は出来ませぬな。いやはや、何とも。噂では聞いておりましたが、さすがに眉唾物だと思っておりました。」
「噂ですか?」
「ご存知では御座いませなんだか。聖女と謳われしフランシーヌ嬢の心を射止めた御仁が居て、その御仁は神の奇跡を行使する男だと。何でも、何処からともなく物を呼び出す事が出来ると。聞いた時には何を馬鹿な事をと思っておりましたが、実際に目にしてみると、確かに神の奇跡としか表現が出来ませんな。」
ギルドでの一件は緘口令が出されては居るが、密室での出来事と言う訳でも無く、当然目にした者も多い。あれからそこそこ日も経って居るので、そうした噂が広がっているのも無理からぬ事だ。
「しかし、上に据え付けてあるのは大型のクロスボウですかな。砲座も有りませんし、さすがにあの高さでは矢を装填するのは難しそうですが。」
「これは、射手も装填も不要ですよ。敵が近付けば勝手に攻撃をしてくれて、矢の補充も自動でしてくれます。」
「え、どうやって?」
イザークさん頭上に疑問符が幾つも浮かんでいるのが見える様だ。答えを求める様にフランシーヌへと視線を移すが、フランシーヌはにっこりと微笑みを返す。
「まぁ、神の奇跡?魔法みたいなものですよ。」
「神の奇跡ですか?」
「はい。神の御業です。」
誰よりも神を敬うフランシーヌにそう言われてしまえば、誰がそれを否定出来るだろうか。フランシーヌの言葉を疑うと言う事は、彼女の信仰を、ひいては神の存在を否定する事に繋がる。彼女が行使する奇跡により奥方の病を癒して貰った事があるイザークにとっては、フランシーヌが神を持ち出すのであれば、それは真実以外には有り得なかった。
フランシーヌを知る人達がフランシーヌが神の御業と言うと納得するのは、フランシーヌの日頃の行い故だ。それ程に彼女の信仰は篤い。
「成る程、まさか噂の方が過小な表現であったとは驚きですな。これは何処からか物を出すとかそう言う話では無いですな。まさに神の御業だ。」
「そう、ご理解を頂けると助かります。さぁ、先は長いですからどんどんいきましょう。」
「どんどんですか?」
「ええ、どんどんです。」
そこからは、ひたすらに同じ作業の繰り返しだ。25m間隔を目途にタレットを設置していく。それだけの密度で配置をすれば、早々取りこぼす事は無い筈だ。
モンペリエの町の外には広大な耕作地が広がっているが、城塞都市として町の中である程度の生活が完結する様に設計をされている。町のそこかしこに水路が張り巡らされていて、中心部は比較的住居が密集しているが、外周に近い場所には倉庫が並んでいたり、家畜を育てる為の空間も確保されていて、ゆったりとした造りをしている。
2万人が住む町だが、円形状の町の直径は凡そ3㎞。外周は約10㎞にもなる。25m間隔で設置しても、タレットの設置数は400基だ。本当は5m置き位に設置したかったが、流石に素材が足りなければ時間も足りない。射程自体は150mあるので、それでもある程度はカバー出来る筈だ。
最初はタレットのクラフト完了を待って大型クロスボウの設置まで行っていたが、とてもじゃないが時間が足りない気がしたので、タレットのクラフトを開始すると次のタレットの設置へ向かう事にした。これだけで大幅に時間が短縮出来る。クロスボウの設置は後回しだ。作業を進める内に段々と集中していく。周りの雑音が徐々に遠のいていき自分の世界へと入っていく感覚。俺はこの感覚が好きだ。この瞬間は何もかも忘れて、ただ只管に作業に没頭出来る。
気が付けば作業も極限まで効率的に行えるようになっていた。30秒で土台を組み、足場を組み、タレットの設置を指定してクラフトを開始して25m離れた場所へ移動して次のタレットを設置する。足場の撤去も後回しにする事にした。どうせ後でクロスボウを設置する必要が有る。
そんな作業を黙々と、延々と繰り返して行く。予定していた全てのタレットが設置を完了したのは、もう日が沈もうとしているそんな時間だった。
日が沈む頃には、沈む太陽と反対側の空が徐々に紅く染まり始める。
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