第35話 家畜とアメリーの話し

移動手段についてだが、町で馬と馬車を買っても良いが、町では荷車を引く人は多かったが馬車の類は余り見かけなかった。それに仮に馬を購入したとしても、リアルではどんな風に面倒を見るのかが解らない。


エターナルクラフトならニンジンやリンゴを食べさせる事が出来る。なんなら飼い葉代わりに植物から採取出来る繊維を食べさせる事も出来る。

野生の馬は、柵で囲って一定期間好みの餌を食べさせれば家畜化する事が出来る。家畜化出来れば鞍を付けて乗る事も馬車を引かせることも可能だ。

家畜と言えば鶏や牛も家畜化が可能で、家畜化出来れば卵や牛乳を継続して入手出来る様になる。町では見かけなかったがチーズを使った料理はあったので、どこかのタイミングで探してみるのも有りだろう。


そもそも、町で家畜の飼育はしているんだろうか。


「そう言えば、家畜って何処かで飼育とかしているの?」


「家畜ですか?鶏や豚でしょうか。」


「そうそう、町では余り見掛けなかった気がするから。」


「家畜を育てている方もいらっしゃいますが、どうしても町の外で飼育をすると魔獣に狙われてしまいますので、飼育が出来るのは十分な防衛が可能で広い敷地を確保出来る場所に限られてしまいます。基本的には貴族がご自身で飼育されて消費される程度ですね。他の町ですとぐるりと町の周辺ごと囲って、その中で家畜を飼育している所もあったかと思います。」


「それじゃ、肉の調達とかどうしているの?」


「狩りが主ですね。魔獣の肉は食用に適した物が多いので、この辺りですと狼肉が主になります。」


「ああ、そうだよね。狼の魔獣なら結構な数居るしね。冒険者って、そうした肉の調達も仕事になるの?」


「はい。食料は幾らあっても困る事は有りませんし、ギルドでも常時買取をしています。冒険者が最初に学ぶのは討伐した魔物をどの様に処理して捌くかですので、基本的には冒険者なら誰でも捌く事が可能です。」


「なるほど、魔獣を狩って必要なだけの肉を確保出来るなら、確かに家畜は余り必要では無いのかもだね。」


「それでも、食用に飼育された家畜の肉は非常に美味しいと聞きますよ。狼肉はどうしても臭みが有りますし。でもご主人様に用意して頂く狼肉のステーキは別格だと思います。」


町で食べた料理は香辛料が効いてて結構美味しかったが、肉の臭みが全く気にならないと言えば嘘になる。その粗野な味が意外とエールに合うので、俺は余り気にはならなかった。ただ好みはあるだろうから、ダメな人はダメかも知れない。

その点クラフトした料理は、全く臭みが気にならず別物だった。味は鶏肉に近いから流石に牛肉のステーキと比べれば別物だが、美味しい地鶏を謳った店で食べる地鶏のステーキとなら甲乙付け難い。


「馬車はあんまり見かけなかったけど、利用はされてないの?」


「町の外はどうしても魔獣から身を守る必要が有りますからね。馬も余程訓練されていないと魔獣の襲撃の際に怯えたり暴れたりするので。魔獣相手でも怯まない様に訓練された馬は非常に高価ですので、余り一般的では有りません。」


「一般的では無いって事は、飼育自体はされているんだ?」


「モンペリエではそこまで多くは有りませんが交易商人が隊商を組む際に利用をしたり、後は基本的に騎士が飼育をしています。後、モンペリエで多いのは畑を耕す為の農耕馬ですね。」


「商人が利用する事はあるんだ。その割には余り見かけなかった気がするけど。」


「それは、そもそも町から町へ移動する交易商人の数が少ないからでしょう。後は訓練された馬を購入して維持するよりも、人足や冒険者を雇った方が訓練要らずで安上がりだからだと思います。軽量化の魔法は比較的習得が容易なので、魔術士を雇う事も多いです。」


成る程。獣ならまだしも魔獣が居るこの世界は、町から町へ荷を運ぶのは危険度が遥かに高いのだろう。確かに狼の群れに襲われた時に馬が暴れれば手が付けられないのは容易に想像が出来る。小さな集落を見かけなかったが、基本的に魔獣の脅威から身を守る為に、人は集まって生活圏を構築しているそうだ。


しかし、軽量化は習得が容易なんだな。結構難しいのかと思っていた。町では有数の魔法使いと聞いたが、意外とアメリーみたいな魔法使いが一杯いたりするだろうか。そもそもアメリーは18歳とまだ若い。


「アメリー位の魔法使いが結構いるの?」


「アメリーは別格だと思いますよ。王都の学院出で次席だったそうですし、高名な魔術士に師事してますからね。」


「学院なんてあるんだ。」


「はい。主に貴族向けでは有りますが、才があれば平民でも学ぶ事が出来ます。高等科では士官学科、剣術学科、魔術学科、神学学科があって、アメリーは魔術学科の次席ですね。」


「あれ、アメリーって貴族なの?」


「いえ、子供の頃は神童と呼ばれたそうで、才を買われて貴族の推薦で入学をされたそうです。」


貴族が推薦って、確かに優秀なんだろうな。それに平民が貴族に混じって優秀な成績を納めるのは、結構面倒事も多いんじゃないだろうか。俺が高校、大学の時も、家格による差別は少なからずあった。


「でも貴族に推薦されたのなら、卒業後はその貴族の元で働くものじゃないの?」


「そうですね。その貴族様はそこまでアメリーを拘束されなかった様です。後見であれば後ろ盾として色々と便宜を図ってくれますので、卒業後はそのまま召し抱えられる事が多いのだと思いますが、アメリーの場合は入学に必要な推薦状を書いてくれた位ですので。それに在学中に学院の教授に直接師事されていたので、貴族の影響もそこまで及ばなかったのでしょう。」


凄いな。確かに貴族の後ろ盾があれば多少の面倒事は避けられる気がするが、推薦状だけと言う事は学院に入ってからは自分の力だけで優秀な成績を勝ち取ったのだろう。


「でも、それだけ優秀なら、こう言っちゃなんだがなんでポール達と冒険者なんてやってたんだ?」


「アメリーの一目惚れ、ですね。学院を卒業して直ぐ、たまたま同行した隊商の護衛を私達が請け負ってまして、そこでポールに一目惚れしたアメリーが頼み込んでパーティーに加わったのが切っ掛けです。」


なるほど、アメリーがポールの事を好きだったのは一目瞭然だったが、そもそも最初からポールが好きでパーティーに加わったのだな。


「ん?このパーティーって5年前から活動してたんだよね。アメリーは18歳だから、学院卒業したのって13年前?学院ってそんなに若くして卒業するものなの?」


「高等科は通常12歳から15歳の3年ですね。アメリーは相当優秀だったので飛び級だそうですよ。それに師事をした魔術師は王国でもかなりの重鎮だそうでして。」


「それだけ優秀なのに次席なの?」


「そこは貴族のしがらみかと。アメリーは平民ですので、さすがに平民に首席は与えられらなかったのだと思います。」


「なるほど、平民なのに飛び級で次席と言う事は、余程優秀だったんだな。だとすれば、幾ら一目惚れと言ってもやっぱり冒険者として活動をしているのは不思議な気がするな。」


それ程優秀なら、普通に国で召し抱えられててもおかしくは無い。


「そこは師匠の方針なのだそうです。元々冒険者として名を馳せた方で、8等級まで昇格をされた方で、実地で腕を磨く方針だそうで。アメリーも師匠の教えもあってか、いずれかのパーティーに所属するつもりではあったみたいですよ。」


アメリーが何を目指していたのかは解らないが、それ程優秀ならもっと上も目指せた気もする。それでもポールと結婚する事を選んだのだから、余程ポールの事が好きだったのだろう。


考えて見れば、会社でも営業トップを走り続けていた女性の先輩が、あっさり結婚して専業主婦を選んだ事もあったので、そう言うものなのかも知れない。今頃2人はどうしているだろうか。改めて二人の幸せを願うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る