第30話 フランシーヌの実力

森についた後は、少しずつ森の奥を目指す。昼ならジャイアントスパイダーが一気に攻撃してくる事は無い。装備も整ったのでジャイアントスパイダーに早々遅れも取らない。と言うか、フランシーヌが余りにも強すぎた。


俺よりも素早くジャイアントスパイダーの接近を感知し、視界に入ると同時にまずは先制で弓を一射。剣に持ち替えるとそのままジャイアントスパイダーに駆け寄り、剣を一閃する。

フランシーヌは最初セオリー通りに足の関節を狙って切り落とし機動力を奪おうとしたのだが、エターナルクラフトではその様な表現は無く、俺と一緒だと足を切り落とす事が出来なかった。

それどころか、俺の目にはダメージ表記がポップアップし、足への攻撃でもダメージが致死量に至れば絶命させる事が出来た。フランシーヌにして見れば足への攻撃で致死に至るなど異常に他ならない。いや、それこそが神の奇跡か。

自身の手で神の奇跡を体現できる。それはフランシーヌにとっては何よりの喜びだった。結果、ジャイアントスパイダーを発見すれば嬉々と飛び込む事になる。俺はフランシーヌのそんな感情を知る由も無いので、恍惚とした表情で剣を突き立てるフランシーヌにちょっと引いた。だがそれ以上に頼もしく、無駄を極限迄削ぎ落とし洗練されたその動きは、とても美しかった。


幾度かの戦闘を経ると、フランシーヌは迷わずジャイアントスパイダーの頭に、目にも止まらぬ速さで剣を突き立てる様になった。ダメージは赤く縁取られたクリティカル表示。毎回クリティカルの一撃で絶命するから、先制の弓も放たなくなった。


恐らく現時点で最大の火力を誇るのは設置型の迎撃用大型クロスボウのレジェンド等級だ。クリティカルが発生すれば一撃だが、クリティカルは早々出る物では無く、通常は2〜3発必要だ。それと比較をすればどれ程フランシーヌの攻撃力がずば抜けているかが解る。

クリティカルが出れば理論上は1撃だが、それが毎回ともなれば少々話は違う。少なくとも俺に再現は無理だ。


そんなこんなで、男としては正直フランシーヌにジャイアントスパイダーの対処を任せてしまうのは情け無い気持ちもあるが、かと言って落ち込んでいても仕方は無い。

出来ればボスフィールドの近くに拠点を設置してしまいたいので、可能な限り森の中心を目指す様にした。


クイーンジャイアントスパイダーが生息する森の中央部は、目立った変化があるので直ぐにそれと判断をする事が出来る。


ボスの寝床は丘の上にあり、中央に向かう程に緩やかな傾斜が続くので、より高い所を目指して坂を上り続けるだけ目的地へと至る事が出来る。それにボスフィールドを囲う様にジャイアントスパイダーが巣を張っている。巣を見かければボスフィールドは目前だ。


森をどれ程進んだだろう。日も大分傾いた頃、遠目にジャイアントスパイダーの巣が見える所迄、辿り着く事が出来た。拠点設営に必要なスペースを確保する為に大木を伐採し、整地して平らな土地を確保する。この辺りにまで来れば日中でもそこそこの頻度でジャイアントスパイダーが襲ってくるが、今のフランシーヌには敵では無かった。


木を伐採し、地面を均し、合間にジャイアントスパイダーを解体しつつ拠点の設営を行う。クラフトモードだから疲れを感じないが、これがもしリアルならとゾッとする。クラフトモードだからこそだが、まぁ気が付けば朝から晩まで穴掘りに精を出す事も多いので今更だな。


拠点の設営を完了すると、ジャイアントスパイダーの対処は自動の迎撃装置に任せて、後はのんびりと過ごす事にした。明日はボス討伐の為の仕込みだが、他にもやりたい事がある。それは、畑の整備だ。

現時点で食用になるのは蜘蛛の足身と狼肉のステーキだけだ。味は全く問題無いが、さすがにそれだけでは飽きてしまう。野菜を収穫出来ればレパートリーも増えるから、食卓が賑やかになるはずだ。

普通なら種を植えて収穫までには早くても数週間の時間が掛かる。だがエターナルクラフトならどうか。最短なら5日だ!植えて翌日には芽が出る。3日目には一気に成長して4日目には花が咲く。そして5日目には収穫をする事が可能になる。


町で買った種を植えてみて、ゲームと同じ仕様で育つのか。それともリアルと同じ仕様なのか検証をして見る必要があるだろう。それに畑を試すついでに、ボスモンスターのリポップについても確認をしておきたい。


通常ならボスは10日起きにリポップする。エターナルワールドでは、リポップ間隔は大体10日起きで設定されていて、伐採した木も10日後には元通り。採掘で地下に巨大な空洞や隧道を掘っても、入り口を完全に封鎖した穴は10日で埋まって資源は再配置されるし、ボスモンスターは10日で復活して再度挑戦する事が可能になる。


ボスモンスターに限って言うと、即座に再戦可能な手段もあるにはある。フィールドボスであれば中ボスのドレイクを討伐する事で祭壇のクラフトが可能になる。そこに各フィールドボスに対応する素材を納めれば即座に再戦が可能だ。祭壇の設置は今直ぐには無理なので、まずは10日待ってみようと思う。


通常モンスターに至っては何処からかやってくるので、例えば大木バイオーム内のモンスターを全滅させたからと言って居なくなる事は無い。


「フランシーヌ、この世界ではモンスターってどうやって増えるの?」


「モンスターと呼ばれる物たちは、生殖による増加は確認されて居ません。実際に目撃された事例は有りませんが、この世界に満ちる魔素が凝縮して、モンスターは産み出されるのだと言われています。」


「それってボスモンスターも一緒?」


「討伐記録のあるタイラントボアやストレイシープも、気がつくと復活していたそうですので、同じかも知れません。」


細かい点では違いがあるのかも知れないが、やはり再出現はする様だ。


「なら、木はどうやって生えてくるの?」


「この森の木々ならば、伐採をしても1ヶ月もすればまた生えてきます。恐らく他かよりも魔素が満ちていて、生育に影響をしているからと考えられています。」


魔素って何だろう。まぁ魔法が普通にある世界なので魔力とかそう言う物なんだうな。


「普通の森なら、木が成長するのは10年単位なので、ここは特別ですね。」


全部が全部、エターナルクラフトの影響を受けている訳では無いと言う事か。正直なところ、検証は余り趣味では無いからそれほど興味は無い。だが喫緊の問題として食生活に変化は欲しいので、今後の食生活の為にも野菜が5日で育つ事を期待して試してみよう。


明日以降の予定はこんな感じ。


⚫︎ボスフィールド周辺の間引きと伐採。迎撃装置を設置する為の足場作り。

⚫︎拠点の拡張。畑の作成。井戸をクラフトして石の配管を設置して接続すれば散水装置の配置が可能になる、水やりは自動でオッケーだ。

⚫︎明後日はクイーンジャイアントスパイダーの討伐。レシピが解放されるので家具をクラフトして住環境の改善。

⚫︎以降は畑の手入れをしつつ採掘等素材の採取。畑の生育サイクルの確認と10日後のボスのリポップを確認。


その後は火山を目指して旅立つ予定だ。


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