第29話 森への移動、新たなツールと素材

大蜘蛛の森は町からそれ程離れては居ない。徒歩でも半日程度の距離だ。

フランシーヌの美貌が損なわれるのは残念だが、移動中は魔物に何時でも対処できる様に常時クラフトモードにしておく。


移動中、ボス戦の準備や立ち回り方についてフランシーヌに説明をしていく。フランシーヌは一緒に直接戦う事を希望したが、フィールドボスともなれば攻撃力はそれなりなので下手に攻撃を喰らおうものなら死ぬ可能性だってある。それは勿論他のモンスターも同じなのだが、危険性は段違いなので今回は我慢して貰う事にした。とは言えもう少し上位の装備に更新すれば、恐らく問題は無い気もする。

ついでに、この世界のリスポーンサイクルがどうなっているのかは興味があるから、クイーンジャイアントスパイダー討伐後はしばらく様子を見てみようと思う。


連携を確認するために、道中出現したモンスターの討伐は手伝って貰う事にした。

フランシーヌにはクロスボウよりも弓の方が扱い易いそうで、強化型複合弓を持たせて見た。因みに矢の補充はどんな感じになるのかが疑問だったが、弦に指を掛ければ矢が勝手に装填される仕様だった。

ゲーム中NPCが弓矢を使用する事もあるが、NPCの矢弾については補充をした記憶が無い。自動装填と言う訳でも無く、装備した射撃武器の矢弾については勝手に補充される仕組みになっていた。

装備は付け替えでは無く上書きされるのが面倒ではあったが、それこそ後々クラフトが出来る様になる属性矢を渡せば、装備して以降は勝手に使用してくれるのでかなりコスパが良かった。自分で使おうと思うと、属性魔法石が結構な量必要になるので、正直とても実用的とは言えない代物だ。因みにNPCは近接武器と射撃武器を別枠として装備させる事が出来る。


もっともNPCが実装されるのは文明レベル2以降なので、実際に持たせるのは殆どライフルや散弾銃と言った火器だ。文明レベル2は近未来を想定した装備も結構あるので、レーザー銃とかポジトロンライフルとか、エネルギーシールドなんて物もある。


フランシーヌに装備を渡す要領で矢も装備させる事が可能だったので、現状一番火力のある鉄の矢を渡してみた。すると、ゲームと同じく自動で装填されるのは鉄の矢になった。今後、矢の更新は最優先にしよう。


因みに教会では刃の付いた武器は忌避されていて、出会った時は先端に鉄製の突起が付いたメイスを装備していた。今は片手剣に弓だが問題は無いのか聞いてみたが、俺に下賜された装備を何故拒む必要があるのかと逆に問いただされた。

フランシーヌの中では信仰を捧げる神と俺はイコールなので、教義よりも優先されるのは当然の事らしい。


さて、道中出現した狼はフランシーヌが剣で一瞬で切り伏せてしまった。敵を視認した瞬間駆け出し、すれ違い様に剣を一閃。話には聞いていたが、無茶苦茶強い。いや、弓はどうした!と思わなくも無いので次は弓も試して貰うようにお願いする。


気を取り直してフランシーヌが仕留めた狼は、今回は剥ぎ取りでは無く解体を行う。肉切り包丁を使用して行う採取を剥ぎ取り、ピッケルを使用して行う採取を解体と言い、獲得出来る素材が異なっている。解体では食料になる肉を得られない代わりに低確率で骨が獲得出来る。他にも、


【魔石小を1個獲得】


システムメッセージが目当ての素材の獲得を告げる。今回の目当てはこれだ。


俺が手に持つのは例の30時間を掛けて作成したダマスカスのピッケル。文明レベル2で実装された採取ツールだ。

魔石の採取自体は大型アップデート前でもミスリル製以降の採取ツールで可能になる。解体でも剥ぎ取りでも魔石の獲得自体は可能だ。


ダマスカスのピッケルは、本来はレシピ解放に必要な技術レベルが100を超えるだけあって、現時点で採取出来ない鉱石や素材も獲得する事が可能だ。

こうして鉄のピッケルでは採取出来ない魔石が採取出来る事からも、仕様通りで問題が無い事が解る。


そしてこの魔石だが、ゲーム内での扱いは高純度のエネルギー結晶で、なんと専用の発電装置をクラフトすればエネルギー源としての利用が可能になる。ぶっちゃけこれがあれば電気や原子力をすっ飛ばして近未来兵兵器群の運用が可能になる。当然電気の代わりにもなる。魔石1個で小規模な発電所と同等のエネルギー効率を叩き出す。

木材なら優に1000個分。ジャイアントスパイダーなら魔石中をドロップするから、更に効率はアップする。


魔石自体は稼働当初から実装されていて、様々な魔道具の動力や素材として必要になる。主な用途は、魔導炉、拠点自動化の為の動力ユニット等である。ミスリル以降の希少鉱石をインゴット化する為の魔導炉の燃料として必要だ。

文明レベル1はファンタジー寄りなので使い道が多い。文明レベル2になると設備が近代化するし、最終的には原子力発電所により電力設備が大型化するので、用途は非常に少なくなる。

ところが文明レベル3が適用される大型アップデートで環境が激変する。魔導リアクターが実装された事で、原子炉よりも小型で大規模なエネルギーを低コストで利用が出来る様になったのだ。

宇宙船の推進装置も大型の魔導リアクターが組み込まれている。宇宙に船を飛ばすには流石に結構な量の魔石が必要になるので、宇宙を飛ぶ為にボスモンスターを狩ると言う何とも矛盾が生じそうな不思議な光景が繰り広げられていた。


ここでレシピについて少々ふれよう。技術ツリーの解放に伴い素材や製品のランクを上げて行く場合は、前提となる設備を作る必要がある。


例えば鋼鉄なら、まずは溶鉱炉の上位レシピである改良された溶鉱炉をクラフトする。

次に改良された溶鉱炉で耐熱煉瓦をクラフトする。次に高級木材を燃料に石炭を原料として改良された溶鉱炉でコークスをクラフトする。次に改良された溶鉱炉と耐熱煉瓦を材料に高炉をクラフトする。

最終的に高炉で大量の鉄鉱石とコークスを原料にして、始めて鋼鉄がクラフト出来る。改良された溶鉱炉及び高炉はフィールドボスを3体撃破してツリーをアンロックする必要がある。

改良された溶鉱炉では他にも鉄インゴットの作成速度が上昇し、かつ金鉱石と銀鉱石がそれぞれインゴットに出来る様になる。


この様にほぼ全てのレシピには何某かの前提となる技術やレシピ、設備が必要となるのだ。

そして先程使用したダマスカス製品のクラフトには大量の鉄鉱石と木炭を必要とするし、本来は高炉の先の電気高炉が必要になる。電気高炉には動かす為の動力として発電所への接続が必要だ。現時点では当然レシピはアンロックされておらずクラフト出来ない。


さて、有料レシピは大別すると2つに分類する事が出来る。

有料でしかクラフト出来無い特殊なレシピ類。これらは同系統の製品と同程度の前提技術や設備が必要になる。特別な機能を有したもの。おしゃれアイテムと言った類だ。


もう1つが、初心者救済の時間短縮レシピだ。

文明が進むほど後発組はそこに辿り着く為の膨大な時間を要求され、先行組との差を埋める事が難しくなる。特に文明レベル2のアップデートは対人戦を意識した仕様が多い為、新規組が敬遠しがちだった。その為、少しでも差を埋める為にテコ入れがされており、スタートダッシュの為の時短レシピが数多く存在する。


特徴は、中間素材や必要設備の軽減、必要素材の緩和、等級による採取効率の向上だ。レア等級にも関わらずコモン等級、ノーマル品と同程度の素材でクラフトする事が可能になっている。

ダマスカスのピッケルなら、本来なら先程述べた通り発電施設と電気高炉でダマスカスのインゴットをクラフトする必要があるが、有料レシピなら鉄鉱石と木炭からダイレクトにクラフトが可能な上にレア等級と言う破格の性能を有している。


例えばピッケルだと、各等級の性能と必要素材の相関関係は概ね次の通りだ。


コモン等級 (通常品)

アンコモン等級 (高級品) 採取回数+1、必要素材5倍(希少素材2倍)

レア等級 (希少品) 採取回数+1〜2、必要素材25倍(希少素材5倍)

ユニーク等級 (銘品、逸品) 採取回数+1〜3、必要素材100倍(希少素材10倍)

レジェンド等級 (国宝級) 採取回数+1〜5、必要素材200倍(希少素材20倍)


これが有料レシピだと、コモン等級の素材数でレア等級と同程度の性能のツールがクラフト出来る。

通常のダマスカスのピッケルを作ろうと思ったら、技術レベルが100以上が必要だし、設備も色々と揃える必要がある。それが時間が掛かるとは言え現時点でクラフト出来るのだから課金レシピ万々歳だ。


ダマスカスは日本刀に使われる玉鋼の事で、鍛え方と鉄と炭素のバランスが重要で、素材に希少鉱石を要求されない。必要な素材自体は鉄鉱石と木炭だけ。今ある素材だけでクラフト出来るバランスブレイカーだ。まぁ元々後発組の為の救済アイテムの意味合いが強いので、この性能も当然と言えば当然か。


攻略サイトだと、後発組の為に効率の良い素材の回し方とか、どの設備から作るべきか、効率のよい技術レベルの上げ方とか色々と纏めてあった筈だが、残念ながら俺はその手の情報を見る事がほぼ無かったので手探りで考える必要がある。

課金レシピは直ぐに購入してたし、新しいレシピが追加されれば直ぐに飛びついていた。それ以外の時間と言えばひたすら採取とクラフトだったので、攻略サイトの情報は余り必要性が無かったからだ。たまに情報をチェックするのはイベントの時に欲しいレシピが中々手に入らなかった時位だ。


対人戦もエターナルクラフトでは物量が物を言う。結局どれ程の時間を掛けて素材を集めたかがダイレクトに戦力に直結するから、少しでも暇が有れば採取をしていた。


フルダイブ型のVRゲームは、健康面への配慮からプレイ時間が国の法律により規制されている。その為、仕事をしながらでも制限時間ぎりぎりまでプレイ出来たから、プレイ時間による差は出にくかった。そこに課金ブーストで採取量アップを常時行っていたので、俺もトップランクで主力を張れたのだろう。


でも、別に急ぐ必要も無い。俺はここで何をすべきなのかは解らないが、フランシーヌとのんびり幸せに暮らせれば、何もいらない気がしたからだ。

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