第28話 報酬の確定と旅立ち

「では、私からはタクヤ様にはこちらを。」


ようやく報酬と俺の冒険者登録が終わって話が一段落したと思ったら、モーリスさんがすかさずそう言って、手のひらに納まる位のサイズ、名刺サイズの黒い金属製のプレートを取り出した。鉄だろうか、かなり硬質で重厚な感じがする。


「こんな事もあろうかと用意をしておきました。我が商会で利用が可能なお得意様向けの紹介状になります。これを我が商会のものにお見せ頂けましたら優先的に対応をさせて頂きます。行かれる予定の隣国にも我が商会の支店は数多く御座いますので、何かお売り頂ける際は是非我が商会をご利用下さいませ。」


表にはテオドール商会の看板になっている麦の穂と竜をあしらった意匠が施されており、裏にはモンペリエ支店、モーリスとサインが刻印されている。


意匠の意味だが、元々テオドール商会は麦の行商からスタートしたそうだ。その後商いを拡大してついには様々な品を手広く扱う総合商会として王都への進出を果たした。

その際にスタート地点の麦と、取り扱いの可能性がある商品の内最も希少なものを考えた時に、伝説にうたわれる竜の素材が思いついたのだそうだ。


竜と言っても、恐らくは中ボスのドレイクの事だろう。様々な属性を帯びた翼なき亜竜。ドレイクであれば過去の英雄が討伐した記録も残っていた。因みに大型アップデート前のエンドコンテンツとして、ドラゴンも用意されている。こちらは残念ながら存在を示唆する資料はあるものの討伐記録は残っていない。


この紹介状、実は結構な代物だった。素材はファンタジー金属のアダマンタイト製。アダマンタイトに彫金する技術はかなり高度で、早々偽造が出来る物では無い。支店長だからとおいそれと発行出来る物でも無く、商会の会長に連なる血族で、商会長の許可があって始めて許されるのだそうだ。なので出会って2日で渡されるのは異例中の異例との事。それ程モーリスさんは俺との商いを重要視してくれたのだと解る。

まぁ詳細について教えて貰ったのはずっと後の事だが。


「モーリスさん、ありがとう御座います。是非利用をさせて貰いますね。」


「無事話がまとまった様で良かった。500金貨についてはきっちりと取り立てておくから、お前さん達の出発前には預かり証を合わせて用意しておく。お前達は後の事は気にせずに旅立ってくれ。」


一時はどうなる事かと心配したが、丸くまとまりそうで安心した。結局報酬の見通しは次の通りだ。


指名依頼料 金貨100枚 白金の鷹で等分して、フランシーヌが金貨20枚の収入

素材の売却報酬 金貨300枚 6等分で俺とフランシーヌが金貨50枚ずつ。実際には俺が先の金貨50枚を白金の鷹のパーティー資金から前払いして貰ってるので俺の取り分は無し。


追加指名依頼の報酬 金貨500枚。6等分して1人当たり金貨83枚。端数の2枚は俺の取り分になったのでフランシーヌと合わせて金貨168枚


それとは別途、報酬の2割をパーティー資金として積み立てており、残金を分配することになった。先程の前払い金を戻した残金が金貨で310枚。5人で頭割りして1人あたり金貨62枚。

彼らはパーティーとして活動した5年間で、凡そ金貨3000枚を稼いだのだそうだ。直ぐには想像の出来ない金額だが、とんでもない稼ぎなんじゃないだろうか。


因みにフランシーヌはこれ迄の報酬をほぼ全額教会に寄付している。手元に残しているのは緊急用の金貨10枚のみ。今回の報酬は全て俺が管理する事になっている。

今回の報酬は俺とフランシーヌのトータルで20+50+168+62でなんと金貨400枚!


後々物価等を考慮して貨幣価値を円に置き換えてみたが、凡そ銅貨1枚が10円。銀貨1枚が1000円。金貨なら10万円。日雇いの日当が2〜3千円、農家の1年の収入が10万円と考えれば物価を考慮すれば妥当に思える。物価はかなり安いので都市部になれば3〜4倍位にはなる。物価の影響は馬鹿にできない。例えば日本なら海外で1000万で豪邸が立つ、みたいな話だ。まぁそれも過去の話。20年位前に起きた日本の通貨危機を経て、今ではすっかり円の価値は低くなってしまっている。


何にしても金貨400枚ならざっと4000万円相当だから破格の報酬な事が解る。今回はポール達と頭割りしたのでこれ位な訳で、今後直接取引を行えば報酬はもっと増える。しかも素材はまだまだ唸るほどアイテムボックスにあるのだ。少なくとも資金については全く心配が無くて安心をした。これなら何処かに引き篭もって、ひたすら素材採取とクラフトに専念しても良い気がする。フランシーヌには、いつか宇宙から見たこの星の姿を見せてあげたい。だが、果たしてこの星はちゃんと球の形をしているのだろうか、後で聞いてみる事にした。


これで話し合いは完了した。俺達は早速旅支度を整える事にする。明日の夜予定していた宴会はクエスト完了を祝う宴席として予定通り行われる。慌ただしいが明後日の朝には皆で町を旅立つ事にした。


翌日の夕方までは今日とやる事は変わらない。フランシーヌが暇を持て余すのが心配だったが、基本的に冒険に出ている時以外は神に祈りを捧げるか教会で奉仕活動に従事するかなので、家の掃除をしたり、神へと祈りを捧げていた。特に不満はないどころか、むしろ楽しそうだ。


翌日の夜には皆で宴会だ。いざとなればフランシーヌに浄化して貰えるので、浴びる程に酒を飲んだ。とにかく楽しかった。


フランシーヌの浄化の奇跡は、身体を蝕むあらゆる物を清めてくれる。アルコールに限らず、病や呪いでさえも。宴会の最中、ふと思い出したのでフランシーヌと初めて夜を共にした時、俺に浄化を掛けてくれたのは何故か聞いて見た。


恥ずかしがりながら、身も心も捧げたいと思ったが、俺が酒に酔った状態では嫌だったからだそうだ。酒に酔って記憶が無いなんて話は幾らでも聞く。ちゃんと俺の目で見て、俺の記憶に残って欲しいと願ったとの事。恥ずかしそうに目を伏せる。なにそれ、フランシーヌが無茶苦茶可愛いんだけど。宴会中にも関わらず、人目も憚らずにフランシーヌを抱きしめた。

皆からはやし立てられたがフランシーヌは俺のものだ、精々羨むがいい!


翌日の朝には家と宿を引き払って、町を旅立つ事にした。領主の耳に入って疑われない様に、表向きは大蜘蛛の森を目指す体裁になっている。


町を離れてしばらく歩いた後は、皆バラバラの方向に旅立つ事になる。ポールとアメリー、ジェロームとアンヌ、そして俺とフランシーヌ。くしくも丁度三者三様、方向が違っていた。


「ポール、みんなも、短い間だったけど本当にありがとう。皆の旅路が幸いに満ちたものである事を願っている。」


それぞれが別れの言葉を発し、別れを惜しむ。これが今生の別れになる可能性もある。生死を共にした仲間との別れだから思うところもあるだろう。だが皆一様に晴れ晴れとした表情をしていた。


新たなる旅立ちに辛気臭い表情も涙もいらない。そんな事を感傷的に考えた。まぁこの世界の住人は俺よりももっと割り切っているのだろうが、それでも5年共に過ごした仲間との別れだ。思うところはあるんじゃないかなと思う。


さぁ旅立ちだ。目指すは大蜘蛛の森、クイーンジャイアントスパイダーの討伐だ!



◆Memo


神官が使う魔法は信仰魔法と呼ばれるが、聖女と呼ばれるフランシーヌは特別に強力な魔法を使う事ができ、それらの魔法は他の魔法と区別して公式に奇跡と呼ばれている。

信仰魔法には解毒、病魔退散、解呪があるが、まとめて清める浄化が使えるのはフランシーヌだけ。


他には先の神託に四肢再生、完全治癒、身体強化の上位互換である滅魔の加護といった奇跡が使える。ぶっちゃけ主人公を除いたらぶっちぎりでチートキャラ。

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