第27話 報酬と冒険者登録とギルドの話


「そ、それで、この大蜘蛛の糸はどの様にすれば良いのかね?」


「お任せします。とりあえず1つ渡せば金貨500枚にはなるんでしょ?期限が2週間なら猶予は有りますし、ギルドに迷惑が掛からないのであれば、その間にポール達は町を離れれば良いかと思います。それに作った衣装を献上して陛下の歓心を買おうって事でしょ。領主に政敵でも居るなら先にこっそり流してしまうとか、商会から先んじて献上すると、嫌がらせにはなるかなと思って。」


「うーむ、確かに溜飲は下がるかも知れぬな。ポール達がこの町を去るのは、ギルドとしては問題では無い。勿論可能であれば是非ギルド職員として残って欲しいが、あんまり厄介ごとに巻き込むのもな。毎度の事で申し訳無いが、今回も我々で断りきれなかったのが問題だからな。」


「糸をどの様に扱うかはお任せします。好きにして貰って大丈夫ですよ。ポール達に迷惑が掛からない範囲で、ギルドとモーリスさんとで上手くやって頂ければ。」


領主の行動は厄介ではあるが、ギルドの規約に従って正式に依頼を行なっており、依頼内容を達成すれば報酬はきちんと支払われる。依頼の内容が少々面倒だったりするだけで、相手は貴族でましてや領主だ。ギルドとしても事を荒立てるのは得策では無いのだろう。まぁ金払いは良いが厄介な客と言うのは何処にでも居るものだ。


「そうですね。ここで足止めされるのは勘弁願いたいので、名目を表向きは変更しつつ明日の宴会はそのまま催して、ジェロームとアンヌにはそのまま旅立って貰おうかと思います。俺とアメリーもこの町に残るか悩んではいたんですが、領主が悩みの種だったんですよね。やっぱり俺達も、ひとまずは王都を目指そうかと思います。アメリーの師匠に結婚の報告をって話もしてたので。」


ポールは、状況を見て方針を固めた様だ。元々この町に残るか、王都に戻るかで悩んでいた。この町への愛着もあるだろうが、この町にいる限り今後も面倒ごとに巻き込まれるのであれば離れる事も吝かではないのだろう。その判断の要因に俺の影響がある事は少なからず申し訳なく思う。追加の報酬がポール達白金の鷹のメンバーに少しでも足しになるなら幸いだ。


「了解した。ならばギルドが責任をもってお預かりして、クエストが滞り無く完了できる様にしよう。残りの4つはそのままタクヤ殿が預かってて貰えぬかね。大蜘蛛素材の出所はここしか無いのでな、どうやっても疑いは掛かる。わざわざ立たぬ波風を立てる必要は無かろう。」


「わかりました。」


ギルド長の判断には特に異論は無い。そもそも俺が領主の目に留まらない様に配慮してくれているのだ。テーブルの上に置いた大蜘蛛の糸を、手に取りつつアイテムボックスに収納する。


「それに俺達も明後日にはこの町を出ようかと思ってました。目的地がはっきりしたんですが、結構距離があるもので。」


「それは残念だが、差し支えが無ければ何処へ向かうのか伺っても?」


「カベルネ火山を目指そうと思ってます。」


「それはまた、随分と遠いな。」


火山はこの王国内には無く、一番近くて隣国のカベルネ火山だった。通常の旅程だと1ヶ月は掛かるそうだ。もっと近くに居るフィールドボスも居るが、出来るなら火山で入手出来る専用素材を早めに採取してしまいたかった。


「一番近い火山がそこだったもので。ところで報酬の分配ですが、ポールは希望は有りますか?」


「ん?俺たちは指名依頼の追加報酬だけで問題ないよ。それ以外の買取報酬も、追加の金貨500枚も、全てタクヤが提供してくれたものだからな。俺達に権利はないだろ?」


「そんな事は有りませんよ。マスター、6等分の頭割りでお願い出来ますか?ポールは権利が無いとおっしゃいますが、町まで案内してくれたのもギルドを紹介してくれたのもポール達です。それにフランシーヌの事で追い目も有ります。でも、何より結婚するポール達へのお礼とお祝いをさせて下さい。」


「そうか、解った。素直に甘えさせて貰うよ。」


「問題は無さそうだな、それでは後で報酬は用意しておこう。現金と預かり証、どちらにするかね?」


金額が大きいので、皆預かり証を選択した。


ギルドは銀行業務に近い事もしている。大物の買取等、即金で報酬の支払いが難しい場合、ギルドが報酬を一時預かった証文を発行する。これがあれば全国何処のギルドでも払い出しが可能。銀行の様に都度都度出し入れが出来る訳では無いが、現金を持ち運ばなくて良いのでかなり便利だ。


当然偽造防止は幾重にも施されていて、払い出しに当たっては本人のギルドの鑑札表も必要になる。また拇印も必要になるのでなりすまして払い出しをする事はほぼ不可能との事だ。


「俺はギルドの登録が済んでないので、フランシーヌ名義でお願いします。」


「その事なんだが、こちらで先に登録を済ませて置いた。本来は先に記入をして貰うのだが、こちらの登録申請書に後ほど記入をお願いしたい。特例ではあるが、今回は実績を考慮して5等級で登録をする事にした。現状における最高ランクだ。」


等級はギルド内のランクの事だ。1等級から始まり実績を積み上げる事で順に2等級、3等級と昇級していく。


1等級は駆け出し。2等級は半人前。3等級で1人前と見なされる。4等級はベテラン、5等級は達人。

ポール達は6等級。6等級は町や領に多大な貢献をした者に与えられる。

昇給の為にはギルドが所属する地域を領有する領主から正式に認可を受ける必要がある。ギルド長権限で与えられる等級の最高位が5等級なので、俺の5等級はかなりの当別待遇だと解る。


等級の認可は戦力把握に必須なので、ちゃんと管理されているらしい。領主としても貴重な戦力を囲い込みたいので、実力と機会があれば通常は認可される。7等級になれば侯爵以上の上位貴族の認可が必要で国王への届出が必須となる。一代貴族としても認められ、子爵待遇。8等級は国王の認可が必要。8等級ともなればなんと伯爵待遇となる。9等級は更に厳しく、ギルドが置かれている加盟国の国主3名以上の承認が必要。待遇としては王族に準じる。10等級に至っては、ギルド加盟国の国主が招集され、国主会議が開催される。加盟国の最低3分の2以上の出席が必要で、かつ半数以上の承認が必要となっている。過去に10等級に至ったのは僅か3人しか居ない。

10等級ともなれば国主をも凌ぎ、その発言は国王でも蔑ろに出来ない。


それ程にギルドは影響力があり、高位の冒険者、もとい英雄は尊ばれるのだ。


ギルドの歴史は非常に古く、500年は遡る。モンスターの脅威に対抗する為に国家の垣根を越えて組織された、国家間に跨るほぼ唯一の組織だ。フランシーヌが所属していた教会も国家間に跨ってはいるが、なにせ崇める神は同じでも色んな教義やお題目を唱えた教派が無数にあるので、一概には一括りに出来ない。その中でも一番歴史と権威があるのは、フランシーヌが所属をしていた正教会と言われている。これは過去に聖女を輩出した影響が大きいからだ。


後から知ったが、過去に10等級へと至った英雄は皆聖女絡みなんだそうだ。そう言う意味で、聖女もまたこの世界では重要視されている。


ギルドは独立性を担保されている。またギルド加盟の条件も厳しく、新しく加盟するには先ほどの条件と同じ国主会議による認可を受けなくてはならない。かつ、貨幣制度を整備する必要がある。なんと、ギルド加盟国では金貨、銀貨、銅貨の品質が定められており、加盟国であればどの国でも貨幣を使用する事が出来る。証券会社に勤めていた俺としては複数国家に跨る共通貨幣制度の難易度がどれ程高いかを知っているので、素直に驚いた。


物価については当然差異があるが、あまり阿漕な事をしていれば冒険者が国を離れて結局魔物の脅威へ対抗する手段を失ってしまう。その為、物価についてもそこまで大きな差異は無く、ここで受け取った報酬もギルド加盟国であれば何処でも払い出しが出来るし、何ならこの国の貨幣を持ち出しても加盟国であればそのまま使用する事が出来る。今後は他の国へ行く予定があるから両替の手間を心配しなくても良いのは非常に助かる話だった。


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