第26話 査定の報告

翌日、朝の情報交換では特に大きな変化は無し。ただ予定ではそろそろ結果が出る筈だ。ポールもこの後どうするかを決めかねていて、判断を保留にしている。ギルドマスターからは是非うちの職員として働いて欲しいと請われているそうだ。


戦力として見ればポールは剣の実力が高く、アメリーの魔法使いとしての実力もトップクラス。それに遠征隊を組織する時の隊長経験が大きい。今後もギルド職員として隊長を務めて欲しいと言われているとの事。ただそうなると危険は避けられない為、悩んでいる様だ。


俺たちは変わらず家で過ごす為、何かあれば連絡を貰う事になった。フィールドボスについては目処が立ったので、フランシーヌは家で待機をお願いした。連絡が来た時の対応を任せておけば、それまでの間は安心して採掘作業が出来る。


昼手前に完了報告があった。俺は1時間に1回程度の頻度で確認の為に上に戻っていたから、そんなに待たせないだろうからと皆ギルドで待っているとの事。早速向かう事にした。



受付でベアトリスさんに声を掛けてギルド長室に行くと、既に皆が待っていた。面子としてはギルド長、モーリスさんにベアトリス、直ぐに工房長のバンジャマンさんも駆け付けて同席してくれた。


これだけ人数が揃うと、ギルド長室はちょっと手狭に感じる。ギルド長が奥の椅子に、その両隣にはバンジャマンさんとベアトリスさんが控え、右手にポールとアメリー。左手にモーリスさん、手前には俺が座り後方にフランシーヌ。ジェロームとアンヌはポールの後ろに立った。


「さて、待たせたな。査定と買取が終わったので報告を行いたいと思う。まず1匹丸ごとと追加で提供をしてくれた甲殻については、状態の良い部分を組み合わせて剥製にして領主屋敷に飾られる事になった。合わせて、鮮度が高かった足4本と合わせて、領主が金貨300枚で買い取る事になった。残りの甲殻については予定通り防具の素材として依頼主に納める為、モーリスが引き取る。指名依頼の完了と認め、買取費用とは別途追加として契約通り金貨100枚を報酬として支払う。最後に糸だが、残念ながら衣装を仕立てるには若干足りない為、オークションは断念した。領主が買取を希望しているが、条件として追加で同程度の糸をもう1組、もしくは素材の採取方法について開示をすれば合わせて金貨500枚を支払う用意があるとの事だ。これは領主からの指名依頼となる。期限は2週間。」


「え、俺達は解散を申請してますよね?」


「勿論だ。ただ現時点では正式に解散をしていないので、斟酌出来る余程の事情が無い限りは指名依頼を断れない。そもそも慣例として領主からの依頼については断る事が出来ない。再三領主には解散を予定している事を伝えたが、その場合は採取方法を開示すれば良いとの一点張りでな。恐らくは方法が解れば領軍を動員してでも確保をするつもりなのだろう。あれ程の逸品だからな、国王陛下にドレスか礼服でも仕立てて献上すれば、さぞかし領主殿の覚えも目出たくなると言うものだ。」


「あの野郎、性懲りも無く。」


ポールが苦々しげに悪態をつく。確かに解散を予定しているパーティーにこのタイミングで強制依頼とは、無理筋に思える。採取方法についても、今まで入手された事の無い純白の糸だから、特別な方法があると考えるのもまぁおかしくは無い。その方法を取り上げてしまえば、継続して自分で入手する事が出来、利益を独占出来る。


「それって受けなくちゃならないんですか?それに、そもそも提供したのは俺ですからポール達には関係の無い話ですよね。」


「そこも少々話をややこしくしててな。タクヤ殿はまだ正式にギルドに所属をしていないので、矢面に立たせるのは憚られる。ポール達はギルドの所属だから、まだ俺たちが間に入る事が出来るが、お前さんが矢面に立てばそう言う訳にもいかないからな。」


「そうですね、俺達が提供した事になっているのは承知の上ですので、そこは問題は有りません。無理難題を吹っかけてくるのも、今回が初めてでは無いので100歩譲ってよしとしましょう。ただ、依頼内容についてはどちらも俺達には達成出来ませんからね。」


「ん?もう1つあれば良いんですよね?それならどうにでもなりますよ?」


話が簡単に済む様に、俺はテーブルの上に大蜘蛛の糸を取り敢えず5個取り出す。数が多いのは、これだけあれば何か方策も講じられるかもと思ったからだ。


突然テーブルの上に出現した糸に気付いたモーリスさんが、言葉にならない悲鳴をあげる。他のメンバーは既に経験済みだから多少驚いただけだ。


「こ、これは、大蜘蛛の糸じゃ有りませんか。え、今いきなりここに出ませんでしたか?さっきまで何も無かったですよね?」


モーリスさんは同意を得る為に周囲を見渡すが、どうやら酷く動揺をしていたのは自分だけだと気付く。


「えー、ごほん。すいません、取り乱しました。どうやら皆さんはご事情をご存知の様子。申し訳ありませんが説明をして頂けませんでしょうか。頂けますよね?」


やり手の営業マンか、凄腕の社長かと言った第一印象だったが、意外と感情表現の豊かな方だった様だ。もの凄い迫力でギルドマスターへと詰め寄る。


「あー、すまない。無闇に出来る話では無くてな。実はこちらのタクヤ殿は神から特別な能力を授かった方でな。何でもアイテムボックスと言う見えない箱から、自由に物を取り出せる力を持っていらっしゃるんだ。」


出し入れでは無く取り出す能力と説明をしているのは、前回の説明でほぼ正確に理解をしてくれたからだな。アイテムボックスに入れるには手に触れる必要があるので、自由にと言うほど融通は利かない。取り出す方は、設置、もしくはドロップ場所を指定するだけだからもっと簡単だ。


「神からですか。そうですね、稀に特別なスキルをお持ちの方がいらっしゃるとは聞いた事があります。確かにそれは無闇に公言出来る話では御座いませんね。ですが、そこは教えて頂いても良かったのでは有りませんか?」


「まぁ、お互い色々とゴタゴタがあったろう。説明をするタイミングがなくてなぁ。」


「しかし、成る程。神託の聖女様が教会を辞して男について行ったと耳にした時はなんの冗談かと思いましたが、得心がいきました。」


そう言ってフランシーヌをちらっと見やる。さすが大店の支店長を任されるだけの事はある。フランシーヌの事情や噂についてもご存知の様だ。


「まぁ概ね、ご想像通りかと思いますよ。」


そこについてはあえて言及はしない。どんな想像をしても構わないと思う。


「ところで、その領主ってどんな人何ですか?」


「うむ、前の領主様が5年前に亡くなられてな、その跡を継がれたのが現領主のマティス殿だ。仕事は出来る方ではあるのだが、1人息子で甘やかされて育ったのか少々わがままでな。無理難題をおっしゃられる事がままあるのだよ。」


「仕事は出来る方なんですね。」


「そうなんだよな、仕事は割と出来るんだよな、あのおっさん。町の治安も悪くないし、そこそこ栄えてるし。そうじゃ無ければわざわざ依頼なんて受けないんだが。それに報酬に関してはきっちりとしてるから、まぁ止むなくって感じだな。」


ポールがそういうと、そうだそうだとアメリーが囃し立てる。


「解りました。では、あまりギルドやモーリスさんに迷惑が掛からないようにした方が良さそうですね。」


「因みに迷惑が掛かる方法だとどうなるんだ?」


「最悪は戦争でもふっかけて滅ぼしてしまおうかと。」


ギルド長ににっこりと微笑んで、そう答える。これでもトップクランの主力を張ってたのだ。PvPで他のプレイヤーと争った事は幾らでもある。そしてその全てに勝利してきた。そもそもクイーンジャイアントスパイダーの討伐は果たされていないのだから、領主とは言えフィールドボスよりも戦力が劣ると言う事だ。多少戦力評価を上方修正したとしても対処は可能な範囲だろう。今の段階でもそうなのだから、時間を掛ければどうにでもなる。


「まぁ冗談ですけどね。」


「そんな話はここだけにしてくれよ。先程言ったように面倒ではあるが無能では無いのだ。それにタクヤ殿なら冗談には聞こえぬからな。」


「ご主人様のお好きな様になされれば宜しいのです。」


領主を蔑む様なトーンでフランシーヌが言う。

フランシーヌさん?ぼそっとその様な事をおっしゃるのは勘弁して下さい。フランシーヌの発言に皆がドン引きをしていた。

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