第25話 新たな気付き

今日は色々と発見の多い1日だったが、フランシーヌが帰宅した際の何気ないやりとりで、もう1つの気づきを得る事が出来た。


「フランシーヌ、煙たいだろ?ごめんね。」


「煙たい?ですか?いえ、そんな事は有りませんが。」


「あれ、この部屋って煙が充満してない?」


「すいません、私にはいつも通りに感じます。」


何時もならフランシーヌに合えば直ぐにリアルモードに切り替える。だがこの日はフランシーヌが帰宅した時、たまたまレシピのチェック中でしばらくはクラフトモードのままだった。ちょっと待って貰っている間のない気無い一言。


何故煙を気にしたのかと言えば、俺は勝手にリアルモードの住人であるフランシーヌには、リアルの物理法則が適用されると思い込んで居たからだ。階段の下には夥しい数の松明が設置してあり、当然その煙が上がって来てこの部屋に充満している筈。そう思い込んで居た。


フランシーヌを誘って階段を少し下ると、壁に取り付けている松明を指差して尋ねた。


「この松明から、煙が出ていない?」


「いえ、出ていません、何故でしょう。凄いですね、これもご主人様のお力でしょうか。松明の炎は揺らめいて見えますが、色が一定ですし煙も全く出ていません。まるで炎も作り物の様です。でも、ちゃんと熱いですね。」


フランシーヌが松明の炎に手を近付けてそう答える。つまりどう言う事だ?


「フランシーヌ、ちょっと見てて。フランシーヌから見てどう見えるのかを教えて欲しい。」


思いついた事を確認するべく、部屋に戻ると考えた事を試してみる。


「これは砂でしょうか。四角に固めた砂の塊が積み上がっていきます。」


そう、俺は砂ブロックを積み上げて見た。当然ブロック状なので、本来は流れ落ちる筈の砂がブロック状になって積み上げられる。次にリアルモードに切り替えると、物理法則に従い、ざぁーっと砂ブロックの塔は崩れて流れ落ちる。

次にクラフトモードに切り替えると、そこには2*2で広がった砂ブロックがあった。先程積んだ砂ブロックは4ブロックなので数は合う。それをピッケルで採取する。あっという間に砂ブロックが4つ、アイテムボックスに納まった。


「あ、砂の山が崩れました。散乱した砂がどんどん消えていきます。あ、綺麗に無くなりました。」


フランシーヌの説明も俺が観測した事象を裏付けてくれる。


これ、多分観測者としては俺が優先されているんだ。

あらゆる事象は観測者が居る事で事象として確定する。本来世界が存在し得るのは、上位の存在が世界を観測しているからだ。


俺が観測した事象が、直ちにリアルに作用する訳では無い。先程の例だと、俺が積んだ砂ブロックはその時点ではフランシーヌから見てもブロックとして認識されていた。だが崩れた砂は、おれがクラフトモードで見た時に砂ブロックと認識をしても、フランシーヌから見たそれには変化が無かった。仮説としてだが、俺がアイテムボックスから出し入れをした時、採取をした時、始めてリアルでも事象が観測されるのでは無いだろうか。法則やタイミングについては検証が必要ではあるが、少なくとも観測者としての立ち位置はフランシーヌよりも俺の方が高い事が解る。


この認識が後々どの様な影響を齎すかは今時点では謎だ。だが、その観測者の事を一般には神と呼称する。観測者の視点はいわゆる神の視点だ。そうなると、リアルを睥睨する俺と言う存在は、フランシーヌの言う通りに神なのかも知れなかった。


。。。そう思う事でフランシーヌに相応しい男になれたらいいなと思ってるだけかも知れない。


まぁ俺が勝手にそう思っているだけなので、本当の所は解らない。観測者云々はネット情報の聞きかじりだし、実際にどうなのかなんて確認する方法はないしね。


「フランシーヌありがとう。まぁあんまり悩んでもこれ以上の事は解らないし、後は宿で一息着こうか。」


「ご協力を出来たのなら良かったのですが。かしこまりました、ご主人様。」


詳細については余り気にしない様にして、宿へと移動した。


宿で夕食を終えた後は蒸し風呂に入る。食堂はそれなりに賑わっていて、食後に蒸し風呂を利用する宿泊客も多い。蒸し風呂では他の客とも一緒になる。何せ狭い空間で裸の付き合いだから、世間話位はするし、そうなると自然とフランシーヌの事が話題になった。


思ったよりもフランシーヌが教会から退会して還俗した事は知られていた。

フランシーヌは冒険に出ていない時は、大半の時間は教会で祈りを捧げていて、そんな彼女目当に教会へ行く奴らも結構居るらしい。そんな人達が教会でフランシーヌの事を聞きつけ、そこからどうやらフランシーヌは退会したらしいとの情報が瞬く間に広がった様だ。フランシーヌの人気振りが伺える。


フランシーヌの事を色々と聞かれた。それこそ夜の事も聞かれたが、そこは完全にノーコメントだ。なぜフランシーヌが俺と一緒に行動する様になったのかはおいそれと語れる事でも無いから、のらりくらりとかわすしか無かった。毎日これでは少々面倒なので、時間をずらすか、いっそ風呂をクラフトする事を考えなくてはならない。風呂を含むレシピがアンロックされるのは、一番早いタイミングはやはりクイーンジャイアントスパイダーを討伐して実績解除したタイミングだ。




蒸し風呂を出た後は家に帰って2人の時間を過ごす。調べて貰った情報を共有して確認したり、俺が気付いた事を話して聞かせたり。幸い、ボスフィールドについてはある程度目処が付いた。

距離はかなりあるが火山や凍土もあるし、ギガントトードやストレイシープの目撃情報もあった。ただ普通に移動をしようと思えばかなりの時間が掛かる。どうせなら移動手段を確保しておきたい。


そう言えば土間にある地下への入り口は、採掘をしない間は基本的に塞いである。リアルモードで煙が上がってこない為の次善策だし、何かの弾みで入り口を誰かに見られない為でもある。そしてもう1つの理由が、入り口を封鎖すると10日経過すれば環境がリセットされるからだ。平原と巨木バイオームに掘った穴はその内綺麗さっぱり無くなる筈だ。


そんな話をしながら話題が尽きる頃には、自然とフランシーヌに愛の言葉を囁く。そして2人の時間をおおいに楽しんだ。


勿論予定していたスキン変更も色々と試してみた。その中にはメイド服やボンテージファッション、艶やかな下着姿など、昼は自重したスキンも色々と試した。これだけのスキンを用意してくれた運営には、感謝しかない。


フランシーヌにひかれるかもと思ったが、フランシーヌは神に仕える身であったからこれまでは清貧を尊び、服を楽しむ機会など基本的には無い。それでも年頃の女性なので興味が全く無かった訳では無いらしい。趣向を凝らしたデザインの服の数々は、興味や喜びが勝るそうだ。


流石に下着姿は恥ずかしがっていたが、その後はどうなったかは想像にお任せする。



◆Memo


観測者云々はストーリー上そこまで重要な意味を持つ訳では有りません。リアルモードとクラフトモードが相互に作用、干渉する場合にどの様な優先順位で決定されるかについては原則として次の通りです。


クラフトモードのエターナルクラフトの仕様>物理法則に干渉しないリアルモードでのエターナルクラフトの仕様>物理法則


ただし現実(リアルモード)においても基本的にはエターナルクラフトの仕様を優先しますが、構造物の耐久性については物理法則を無視します。梁や柱の無い建造物や、大きく掘った穴も、倒壊、崩落はしません。

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