第20話 教会と町で買い物
俺はフランシーヌを嫁に貰う位のつもりでいる。
多分嫁にくださいと言っても断られない気はするが、出来ればちゃんとフランシーヌと付き合って、お互いの事をもっと知り合ってから関係を深めたい。
何より今のフランシーヌは俺に対して友好的ではあるが、出会ってから日は浅く恋愛感情としての好意があるとは思えない。出来れば関係を深めて、フランシーヌから恋愛感情的な意味で慕われたいと思う
だから教会長には、フランシーヌの事はお任せください、フランシーヌさんは大事にします!と後から考えればちょっと意味不明な宣言をしてから教会を辞した。俺なりの決意表明だ。
教会で皆が皆フランシーヌの事を敬うのは、別にフランシーヌが聖女な事を皆が知っているからでは無いらしい。
フランシーヌは冒険以外の時はずっと教会で神に祈りを捧げている。その敬虔な姿は誰もが知るところだ。また治癒魔術の腕も秀でていて、これ迄にフランシーヌに命を救って貰った事がある人も多いらしい。
そんなフランシーヌが冒険者稼業をしている事は疑問では有ったが、神の導きと言えば誰も疑う余地は無い。こうして俺と出会ったのは正に神の導きと言う事なのだろう。
教会を出た時間は昼頃。フランシーヌは宣言通り還俗して教会の所属から外れて、今後はずっと俺について来てくれるのだそうだ。いっそこのまま宿に戻ってフランシーヌと一日中ベッドで過ごしたい欲求もあるが、欲に溺れるだらしない所は見せたくないから思い留まる事が出来た。
ポール達とは特に時間は決めてはいないが、夕方頃ギルドで落ち合う約束になっている。それまでに結構時間があるから、これからどうして過ごそうか。
折角町に来たので、色々と仕入れもしたい。直接素材としてアイテムボックスに収納できる物も多分有ると思っている。市場に行けば色んな物が取り扱われているだろうから、中にはクラフトで利用出来る物も見つかるのでは無いだろうか。
と言う訳で、昼からはまずは町へと繰り出す事にした。
町をぶらぶらと歩きながら露店や商店を覗き見る。そう言えばフランシーヌは、服はどうするのだろう。
エターナルクラフトにはスキンの着せ替えが出来る機能がある。スキンとはキャラクターの外見の事だ。武器や防具には固有のグラフィックが用意されているが、装備を身に付けていない時のグラフィックについては結構自由度が高い。
俺はと言えば、有料で購入が出来るスキンやイベント限定で入手できるスキン等、ゲーム内に存在するスキンについてはほぼコンプリートしている筈だ。その為メニューを開いてスキン変更を選べば、選択可能なスキンがずらっと表示される。服装のレパートリーも多い。中には宇宙服なんてものもある。
ここからスキンを選択すれば簡単に服装を変更する事が可能だ。今は余り違和感が無い様に上は無地のTシャツ。下はグレーのチノパンを選択している。スキン選択画面で見て想像した質感やデザインと、リアルでは殆ど差異は無く違和感は感じなかった。
ゲーム中は解像度が低いとは言え、ある程度はディテールや柄は確認が可能だから、それをそのままリアルに持ってきてもそこまで大きな差異は生じない様だ。
だがフランシーヌはそう言う訳にはいかないから、ちゃんと服を用意する必要があるだろう。因みにレシピには服関係は用意されていないのでクラフトで用意する事は出来ない。
フランシーヌに聞くと、基本は法衣で過ごすので服は殆ど持って居ないらしい。よく考えたら教会を辞去したのだから今更私物を取りに行くと言う事も無い筈だが、今のフランシーヌは手ぶらだった。その点について聞くと、宿の部屋にある物が全てだと言う。確かに今着ている服は昨晩の服と変わりが無かった。
フランシーヌが着ているのは赤色で染色された綿のワンピース。肩から紐でぶら下げているだけなので、肩から紐を滑らせればするっと脱ぐ事が出来る。この世界は女性が下着を着ける事は一般的では無く、だから昨日は服を1枚脱いでしまえば後は全裸だったと言う訳だ。防具を装備する時は麻で造られた少し厚めの服を当て着替わりに着るらしい。鎧がすれて傷つかない様にする為だ。
俺とフランシーヌは20cm位身長差が有るので、一緒に歩けば隣から見下ろす形になる。自然と豊かな胸がほぼほぼ視界に飛び込んでくる。眼福だった。
だが、ふと周囲の視線が気になった。周りを見渡せば一般的なデザインの様で色こそ違うが似た様な服を着た人は多い。しかも下着を身につけていないから、なるべく視線で追わない様にしていたが、一度意識をして見れば胸の谷間が目立つ体型の女性も少なく無かった。
それが普通だからか誰も気にする様子は無いが、だがその中でもフランシーヌは別格の美人だ。贔屓目抜きでも人目を引く。そうと気づいて見れば、すれ違う男の何割かは確実にフランシーヌを目で追っている気がする。何だか無性に腹が立った。
と言う訳でまずはフランシーヌの服を揃える為に仕立屋へ行く。古着を購入する事が一般的らしいがお金ならある。折角なら新品で揃えたかった。
俺はこの町の土地勘も無ければ買い物についての勝手も解らないから、フランシーヌに案内を任せるしかない。こんな物が買いたいと言えばこちらですと案内をしてくれる出来た嫁だ。いや、まだ嫁じゃないけど。
仕立屋へ着くと、店の人にフランシーヌの服装について、あれこれ相談をしながら色んな服の注文をする。
生地は色とりどりな綿、麻。皮を鞣したスエードにビロード、非常に高価だがシルクもあった。スパイダーシルクも布地が少し現物であるとの事なので折角なので見せて貰った。
シルクはかなり離れた国から少数輸入されており、買えない訳では無いが非常に高い。服1着仕立てるのに、金貨で10枚と言われた。俺の知っている純白と言う程では無く、光沢はあるがややくすんだ色をしている。
スパイダーシルクに至ってはシルク以上にくすんだ色をしている。既に何着かは仕立てをお願いした後で店の人が上得意と見てか、スパイダーシルクの素晴らしさを力説してくれる。曰く、通常の布地に比べて格段に強靭で耐火性も高い。通気性も良く、吸水性・揮発性にも優れているから着心地が非常に良いとの事。シルク以上に高く、シャツ1枚仕立てる程度の布地で金貨20枚だった。
なら、俺が持ち込んだ蜘蛛の糸はどれ程の値段になるんだろうな。俄然期待が高まる。
とは言え、どうせスパイダーシルクで洋服を仕立てるなら、クイーンジャイアントスパイダー討伐後に自分で持ち込んだ方が断然良い。染料は色々と有る様で生地も色とりどりだったがどうしても発色の悪さが気になる。
持ち込みでの対応が可能かを尋ねたら、布でも糸からでも金額と時間次第だが請け負う事は可能との事。今後フランシーヌとも相談をして、持ち込みで仕立てをお願いする事にしよう。
フランシーヌに助言を貰いながら、都合10着の仕立てをお願いした。ついでに直ぐに着れる胸元が余り目立たない服もお願いした。そちらは直ぐに用意をしてくれたので早速フランシーヌに着替えて貰った。これで一安心だ。
服を注文する際に何となくフランシーヌの人となりが解ったが、基本的に俺がしたい事に対して否定的な態度を取ったり、拒否をしたりしない。
俺の意図をくみ取って、足りない所をさりげなく補ってくれる。言い方は悪いが、上司に誘われて行った銀座の高級クラブのホステスがこんな感じだった。
その人は知識の幅が広く、こちらがどんな会話を振っても広げてくれる。話題が尽きそうになれば、それとなく話題を提供してくれる。過ぎれば鼻に付きそうなものだが、こちらの自尊心を一切傷つけず、絶妙な距離感を保ってくれる。自然体のままで何と言うか精神的に気持ち良くしてくれるのだ。
その女性を凄いと思った反面、こんな女性と付き合う人はどんな人なんだろうと思った事を覚えている。因みにその女性は、後々有名なIT会社の社長さんと結婚をされた。ニュースでちらっと見ただけだったが、恐らく彼女で間違い無い筈だ。
俺には高嶺の花だと思った。フランシーヌも俺にとっては明らかに高嶺の花だ。それでも少しでも期待に応えたいと思うし、もっと自然体で付き合える仲になりたいとも思う。
その後も、買い物を夕方まで楽しんだ。
穀物屋では、色んな種を入手する事が出来た。この世界では食事は基本朝と夕方の2回、小腹が空いたらそこかしこにある露店で買った物を食べた。大抵のものは銅貨で購入が出来るし、意外と美味しい。気分は縁日の屋台で食べる感じだ。フランシーヌと一緒に分け合いながら食べるのはとても楽しかった。
因みに種は直接アイテムボックスに入れる事は出来ない。
例えばゲーム中、アイテムをボックスから取り出して外に置いてみても大半のアイテムには固有のグラフィックは無く、ドロップアイテムとして袋に入った状態で表示される。一定期間はドロップ品扱いで表示されるのでいつでも拾い直す事が可能だが、規定の時間を経過すると消滅してしまう。
ドロップ品を置いた状態でクラフトモードからリアルモードへ切り替えるとどうなるのか確認したが、袋で表示されたアイテムは切り替えた瞬間に消滅してしまった。
店に並んでいる商品をクラフトモードに切り替えてみると、視認は出来るが獲得する事は出来なかった。
採取可能なアイテムは意識をすればアイテム名が表示されるので確認が出来る。町の外にある畑に植って実を付けている野菜はクラフトモードでも野菜として視認する事が出来たから採取は出来る筈だ。採取を経てアイテムを獲得する事は可能だが、ゲームで入手方法が無いアイテムは、恐らくはオブジェクトアイテムとして認識されているのだと思う。そうしたアイテムは獲得が出来ない。
これらの種も普通に畑に埋めれば育つ筈なので、そこから育てて実を付ければ採取が出来る筈だ。時間がある時に試してみようと思う。
武器屋も覗いてみた。鋳物、鍛造品等色々と有ったし、形状や大きさも様々だった。興味深いのは、魔法の付与がされた魔法武具だ。聞くと切れ味が増したり、強度が増したりするらしい。ただ話を聞く限りでは俺の持っている等級の高い武具には劣る様に思える。
クラフト製は等級が上がれば攻撃力、強度、耐久性、攻撃速度まで補正が掛かるからだ。そもそも鉄製の剣とは言えレジェンド級にもなれば、ジャイアントスパイダー程度なら3回も切れば倒す事が出来る。ダメージにはバラツキが有るから、アクセサリーで攻撃力を底上げすれば当たりどころが良ければ1撃な事も。フランシーヌに聞く限りではそれ程の威力も持つ武器は伝説に謳われる神剣位だと言われた。
色々な発見があったり、買い物を通じてフランシーヌとの仲を深めた気がしたりしながら気がつけばあっという間に日が暮れる頃になった。ギルドで落ち合って解散の報告を行い、その後は宿に戻ると食事をして汗を流し、その夜も2人仲良く過ごした。詳細については今更述べる迄も無いだろう。
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