第18話 アメリーの想い


「そ、そうか。神官としてと言うなら、それを拒む事は俺には出来ない。残念だけど。」


「いいでしょ、ポールには私が居るんだから。」


私はポールの腕を思いきり掴んで抱きしめる。ポールの気持ちを考えると複雑な心境だが、私にして見ればこれはチャンスだった。何せ今までポールはずっとフランシーヌへ想いを向けていて、そこに分け入る余地は無かったのだ。


ポールとフランシーヌは産まれた村が一緒で幼馴染だと聞いた。とは言ってもフランシーヌはその才を認められて5歳位の頃には教会へと引き取られたので、ポールが言うほど親しかった訳では無いそうだ。ただ、ポールにとっては初恋の相手で、その相手と5年前に偶然再会を果たしたのだから運命を感じるのも解らなくも無い。


この辺りの情報はアンヌから教えて貰った話だ。

アンヌは私の事を応援してくれていて、ポールの親友で有るジェロームと付き合っているから、ジェローム経由で聞いた話を色々と教えてくれる。

フランシーヌが誰よりも神様の事を大切に想っていて信仰に分け入る様な隙は一部も無いのは明白だったので、ジェロームも面と向かっては言葉にはしないが私の事を応援してくれていた。


それでも、ポールの目にはフランシーヌしか映っては居なかったし、私の事を嫌いでは無いにしても妹位にしか思っていない事も解っていた。


仕方が無いと思ってた。


だが、何時もなら適当な距離感を保っていたフランシーヌが昨日はタクヤの隣にべったりで、結果的に私はポールと非常に近しい距離で会話をする事が出来た。

何時もはすげなくあしらわれるのだが、ポールもフランシーヌの態度を見て思う所があったのかも知れない。何時もとは違って、私に好意的に接してくれた。

だから、これをチャンスと思い昨晩思い切ってアタックを仕掛けたのだ。勿論ポールが酔った隙に付け込んだとも言える。だが私はずっとポールの事を想っていたのだから後悔など全く無い。


パーティーの事を考えればフランシーヌが抜ける影響は非常に大きい。白金の鷹は非常にバランスの取れたパーティーで、アタッカーのポールに敵の攻撃を引き付ける盾役のジェロームに遊撃と斥候が出来るアンヌ。自身も戦えて回復もこなせるフランシーヌに自分で言うのも何だが、多彩な魔法を使いこなす天才魔法使いの私と、ほぼ理想形のパーティー構成だ。貴重なスペルキャスターを2人も要するパーティー自体稀で、ここモンペリエでは白金の鷹のみだった事からも私達の実力の高さが解る。


フランシーヌと言えば、高位の神官だ。早くから神の奇跡を行使し、神への信仰も厚く神殿での評価も高い。噂で聞いた事があるが聖女と呼ばれているそうだ。そんな彼女がこうしてパーティーの一員として活動をしている事については、正直疑問もあった。

ポールと幼馴染だから、その縁でポールがお願いして参加して貰っているとは聞いた事がある。だがそれだけが理由とも思えない。それ程までに彼女の神への信仰は揺るぎ無かった。


その彼女がタクヤと行動を共にすると言うのだから、多分神様絡みだろう。そこに異論を唱える事はポールでも無理だ。

それに事ある毎に、タクヤの力を神の御業だと言っていた。思い返せば、それは彼女が神への祈りを捧げる言葉と同じ熱を感じるものだった。


なら、これは千載一隅のチャンスだ。私自身は別に冒険者に拘りがある訳では無い。これまでの稼ぎの大半は貯金しているから生活には全く困らないし、これを機に引退してポールと家庭を築いても何ら差支えは無かった。


ジェロームとアンヌも堅実だから、多分このまま解散になっても困らない気がする。


朝目が覚めると、ポールは私に責任を取ると言ってくれた。ポールが私の事を妹の様に思っている事は知っている。例え昨晩の出来事が一夜の間違いだったとしても、ポールは真面目で決して裏切る様な性格じゃない。これからゆっくりと私の事を好きになって貰えば良いのだ。私は決意を新たにすると、ポールの腕を抱きしめる腕に力を込めた。


「私はこのまま、パーティーを解散してもいいよ?ポールが責任を取ってくれるって言うし。」


ちょっと卑怯な言い方だなと思うが、ここでこの腕を離す訳にはいかない。


「何か俺のせいですいません。」


タクヤも私達の恋愛事情を知っている節がある。昨日男だけで過ごした時間もあるし、何か聞いているのかも知れないな。部屋を出た時の気まずそうな感じも、単にフランシーヌと一緒に部屋から出て来たのを見られてって感じでも無かったし。


「はて、何の話でしょうか。」


そんな話をしていると、ジェロームとアンヌが部屋から下りて来て、話に加わった。フランシーヌが改めてタクヤと一緒に行きたいと2人に説明をする。私もこれを機にパーティーを解散しても良いと2人に伝える。

2人も私達の雰囲気で察したらしい。アンヌが私に優しく微笑んでくれた。


「そう言う事でしたら、私達も解散でも構いませんよ。そろそろこの人の子供を欲しいと思っていましたし。」


子供か、私もポールの子供が欲しいな。幼児体型だったから心配をしていたが、それでも昨晩ポールは私を抱いてくれた。どちらかと言うと押し倒したのは私の方だったし、ポールの好みはフランシーヌだから、流石にあの体型と比べると見劣りがするのは解っている。酒も入っていたし正直立たない可能性だってあった。でも、蓋を開けて見れば、ポールは一晩中優しく接してくれた。昨晩の事を思い出して一気に体温が上がってしまう。


「なんか随分とあっさりした感じだが、まぁ潮時かも知れないな。今回のクエスト報酬もかなり期待出来そうだし、良い機会かも知れない。なぁフランシーヌ、俺お前の事がずっと好きだったんだぜ。」


「勿論存じてますが、私は身も心を主に捧げておりますので。」


「まぁそうだよな。タクヤさんに付いて行くってのはまだ納得できない部分もあるが、タクヤさんの力が神の御業だって言うなら多分そうなんだろう。」


その点については同意しかない。どんなに偉大な魔法使いにだって、タクヤの真似は絶対に無理だ。


「アメリー。こんな俺だが、ついてきてくれるか?」


思わずポールを思いっきり見つめてしまう。さっきの余韻もあって体温は上がったままだし、今の一言で心臓が張り裂けそうな程ドキドキしている。言葉が出て来ず、何度も首を縦に振る。


「アメリー、俺と結婚してくれ。」


「。。。はい。」


その言葉の意味をちゃんと理解するには、しばし時間を要した。言葉の意味を理解すると共に、嬉しさの余りとめどなく涙が溢れて来る。ポールが今どんな表情をしているのか涙で見えない。

先程フランシーヌに掛けた言葉はポールなりのけじめなんだと思う。ポールは意外と不器用だから、ポール也の責任の取り方なんだろう。私への好意は身内のそれであって愛情未満である事も知っている。それでも良かった。私はこの人と結婚して、この人の子供を産むのだ。これ以上の幸せはあるだろうか。


タクヤは不思議な人だ。昨日あったばかりなのに、気が付けば沢山の幸運を私に運んでくれた。きっとこの人との出会いこそが白金の鷹の羽がもたらしてくれたものなのだろう。フランシーヌの言葉では無いが、私にとっても神様なのかも知れない。そう思うのだった。

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