第17話 予想だにしなかった出来事

「あら、まだお酒が残ってらっしゃいましたか?」


からかう様な口調でフランシーヌが俺に声を掛ける。何でこんな事になったのか、順に思い出してみよう。


酒場では非常に楽しく過ごして、最初は聞き役に回ってポール達の話を楽しく聞いていた筈だ。ポールは人付き合いが上手で話し上手でもあった。ジェロームとアンヌは寡黙だが付き合っていると言うだけあって隣同士で時々視線を交わしながら、時にはポールの会話に加わりながら楽しく酒を飲んでいた。

アメリーはポールの隣に陣取って、ポールと会話を交わしている。かなり距離が近い気もするが、ポールが自分で言ってた様に余り女性としては意識をしていない様だ。


残るは俺とフランシーヌ。結果俺の隣にはフランシーヌが座って、せっせとお酌をしてくれる。フランシーヌは俺の眼から見ても掛け値なしの美人だ。

森からの道中は気付かなかったが、こうしてリアルで、しかも普段着の格好を見るとまるで印象が違う。

道中は金属製の胸当てを装備していたから、多分胸を押し込んでいたのだろう。今はゆったりとした服装をしていて、胸の自己主張が凄まじい。

身長は俺 の方が20cm位は高いから、座っても俺の方が目線が高い。長椅子で隣同士。しかも胸元も結構ゆったり目で、何より下着を着けていないので嫌でも胸の谷間に目線が行ってしまう。

プラチナブロンドで透き通った碧眼。顔立ちも非常に整っていて、女性らしいふんわりとした雰囲気を纏っている。そんな美女に隣でお酌をして貰えば鼻の下も伸びるしお酒が進むのも無理からぬ事だった。


そうだ、大分酒が回って皆出来上がってくると、フランシーヌと会話をする頻度が増えて来た。話すつもりは無かったが、俺の事を話した気がする。今思えばフランシーヌが聞き上手だから、と言う訳でも無い気がする。


俺がエターナルクラフトと言うゲームをしていて、気が付けばこの世界に居た事。ゲームで出来た事がそのままここでも可能で、様々なクラフトが可能な事。研究を進めて行けば宇宙にだって行ける事。

なんでそんな事まで話したんだろうな。きっと何処か心細かったのだろうと思う。なにせ大好きなエターナルクラフトの世界と良く似ているとはいえ、ここは全く知らない場所なのだ。そんな所に一人、訳も分からず放り出されれば不安になるのだって仕方がないだろ?


だからと言う訳では無いがお開きになって宿に戻ると、足取りが覚束ない俺を支えて部屋までフランシーヌが連れて来てくれた。断る事も出来たのだろうが、腕から伝わるフランシーヌの温もりを離し難かったのだ。

酒場を出た後は、気が付けばジェロームとアンヌは何処かに姿を消していたし、ポールと言えば同じ様にアメリーが引っ付いて部屋へと送って行くのを見た覚えがある。

そう言う訳で、部屋に戻った筈だ。てっきりそのままお別れと思ったのだが、フランシーヌはそのまま俺をベッドまで運ぶと、俺を座らせ、俺の頭を優しく抱きしめた。


「神よ、この者を蝕む穢れをお祓い下さい。浄化。」


フランシーヌの腕を伝って、光が一瞬俺を包み込む。酒が回って鈍った思考が、ゆっくりと明瞭になっていく。


目の前からするっと衣擦れの音がする。そして頭を上げた俺の目の前に、一糸纏わぬフランシーヌの姿があった、と言う訳だ。


「えっとフランシーヌさん?これは一体どういう事でしょう?」


「あなた様は神が遣わした偉大なるクラフター様。そのお力は世界を創造せし偉大なる創造神様の御力に相違ありません。我らが神の現し身たる御方に、私の信仰を、身も心も捧げたく存じます。」


彼女は熱に浮かされた様な表情をしていた。ああ、知ってる、これはやばい奴だ。俺のトラウマがフラッシュバックする。俺がまだ学生だった頃、初めて出来た彼女が所謂メンヘラで、依存が酷くて別れた後はストーカーと化して大変だった。包丁を握ってあなたを殺して私も死ぬと言った彼女の目がこんな感じだった。

それがトラウマになって、結局あれ以来女性とは距離を取って深い関係にならない様にしてきた。それにそもそもフランシーヌはポールの思い人でもある。


だが、それが何だと言うのだろうか。正直な話、俺のストライクゾーンど真ん中。これだけの美人を前にして、据え膳喰わねば男ではない!とは言え、その真意は気になる。


「ごめん、何を言っているのか解らないけど、多分俺はあんたの言う様な神様なんかじゃ無いと思うよ?それに俺に何をさせたいの?」


「あなた様がお使いになられるお力は神の御業以外の何物でも有りません。神の意向を私が推し量る事など出来ませぬ。どうか、貴方様がお望みのままにお心のままにお過ごしください。」


「うーん、じゃあこのまま君を抱いちゃってもいいの?」


「元より私めは神へ身も心も捧げた身。日頃よりあなた様へお仕えする為に修行を積んで参りました。私ではお眼鏡に叶いませんでしたでしょうか。」


頬をほんのりと染め、少しだけ憂いを帯びた表情でそう言う彼女はまた美しい。これは卑怯なんじゃなかろうか。この状況で断れる奴が居るなら、教えて貰いたいものだ。心の中でポールに済まぬと謝罪をしながら、彼女の前に行くと手を取った。


「とんでもない、フランシーヌさんはとても美しい。」


彼女と見つめあうとゆっくりと唇を重ねた。そのままベッドに押し倒す。


その夜はむちゃくちゃ頑張った。控えめに言って、最高だった。



翌日の朝、少し遅い時間に目が覚める。昨晩の事を思い出して夢だったのかと思うが、隣には変わらず裸のフランシーヌが寝ていた。あれやこれやを思い出す。

まぁ地雷でも構わない。ポールには謝るとして、昨日のフランシーヌの言葉では無いが、ここは全く知らない世界だ。どうせなら人に迷惑を掛けない範囲で好きに生きようと誓うのだった。


しばらくしてフランシーヌが目を覚ましたので、さっと汗を拭って身支度を整えると下の食堂で食事を取る事にした。


因みに部屋を出ると、2つ隣の部屋で泊っていたポールが丁度部屋から出て来る所だった。俺の後ろから続いて出て来るフランシーヌ。ポールはと言えば、腕にアメリーがしがみ付いていた。ポールと2人してあっと声をあげる。気まずい、むちゃくちゃ気まずい。ただ状況を見ればポールとアメリーが一夜を共に過ごした事は明白だ。

昨晩はアメリーが無茶苦茶アピールをしてたから、きっと酒の勢いに任せて押し切られたのだろう。


案外これまでは5人でバランスを保っていたのが、俺と言う異分子が紛れ込んでバランスが崩れたのかも知れない。


その後は食堂に場所を移して今後の話をする。アメリーはフランシーヌを警戒してか、見せびらかすかの様にずっとポールの腕から離れなかった。さすがに食堂に着くと腕からは離れたが、椅子をポールの隣に寄せてべったりだ。

蒸し風呂で聞いた通り前々からポールに好意を寄せて居たらしいので、念願叶って嬉しいのだろう。憚る事無くポールに熱い視線を向けていた。


さて、誰も言葉を発する事なく4人でテーブルに着く。雰囲気を察してか、給仕も注文を取りに来る気配が無い。まぁ傍から見れば修羅場の真っただ中だから少しでも空気を読めるなら近寄る事は無いだろう。


口火を切ったのは、何とフランシーヌだった。


「ポール、申し訳有りませんが、私はパーティーを脱退してタクヤ様と行動を共にしたいと思います。」


「それって、フランシーヌさんとタクヤさんが付き合うって事ですか?」


アメリーの遠慮が無い。ポールがフランシーヌに好意を寄せている事もばればれだったので、牽制の意味合いが強いのかも知れない。


「いえ、タクヤ様は私がお仕えする神の現身たるお方です。神に仕える者の端くれとしてタクヤ様にお仕えいたしたく存じます。」


「ああ、そう言う。。。」


フランシーヌの言葉には全く迷いが無い。神を信望する者が神を語る言葉には、何とも言えない危うさがある。こんな人の前では、決して神を否定してはいけない。触れてもいけない。フランシーヌの神を信じる姿勢には迷いが全く感じられない。この町の神殿で比較的高い地位にあると言うのも頷けると言う物だった。

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