第14話 工房にて。大蜘蛛の素材

流石にこの部屋は素材を取り出すには狭いので、工房に場所を移す事になった。

移動中、簡単に俺の事を説明する。


「俺にもどうやってと説明をするのは難しいのですが、どうやら神様から特別なスキルを授かった様なんです。例えば素材なんかをアイテムボックスと呼ばれる収納に出し入れ出来る能力や、様々なアイテムをクラフト出来る能力。そしてクラフトによって制作した兵器を自動で運用する能力が有ります。」


「偉大なる神の思し召しですわ。」


すかさずフランシーヌさんがフォローを入れてくれる。何でも国教の正式な神官様で、それなりの立場なのだとか。実際にはそれなりどころでは無く、そんな人が神の思し召しと言えばお墨付きにも等しいと後々知った。そんな人が何故冒険者をやっているのかは謎だ。


「兵器を自動で?つまりその能力でジャイアントスパイダーを仕留めたと言う事かね。」


「端的に言えばそうです。」


「凄かったですよ。俺達もその現場を見ていたのですが、10匹を越えるジャイアントスパイダーを次々と撃ち抜いて倒してしまいました。あんな事、タクヤさん以外なら誰にも出来ませんよ。」


ポールが手放しに誉めてくれるのでくすぐったくも感じるが、まぁ悪い気はしない。


「さすがにそのまま信じる事は出来ないが、凄まじいな。10匹を越えるジャイアントスパイダーを次々と、か。」


「まぁ俄かには信じられませんが、少なくとも小僧達は嘘をつくとも思えませんな。」


「そこは私もそれなりの付き合いだからね。疑っている訳では無いさ。」


そんな話をしている間に工房に辿り着く。工房はギルドに併設されており、受付カウンターの横から抜けてギルドの裏手からそのまま工房棟へと繋がって居る。中に入ると先程ポール達が持ち込んだジャイアントスパイダーの処理が進めれていたが、バンジャマンさんが声を掛けると、作業を行っていた人達がさっと距離を取って場所を空けてくれる。


工房には結構な人数が居て、壁の方には他にもいろんな獲物が並んでいて、そちらは今も解体作業を行っている。工房には結構な人数が勤めていて作業に従事している様だ。


「んじゃ、タクヤ殿。こちらに獲物をお願い出来ますか?」


ここへの移動中に、アイテムボックスから素材を自由に出し入れが出来る事は伝えていた。


早速、真ん中の既にジャイアントスパイダーが置いてある隣の空間に、甲殻、足と順に並べていく。

甲殻はとりあえず1個、足は幾つあれば足りるだろうか。通常は茹で足に使う調理用の素材なのだが、リアルなら普通に加工が出来そうな事は確認済みだ。4本もあれば足りるだろうか。一応彼らがどう使うか解らないので牙も1本、蜘蛛の糸も1個並べて置いた。うまく買取をして貰えれば今後の取引の指標にもなるし御の字だ。


「本当に、何もないところからいきなり取り出すんだな。確かに、これは話を聞いただけでは理解しようも無い。」


「でしょ。説明するのも難しいので、マスターに直接話をした方が早いと思いまして。」


「たまげたなぁこりゃ。ちょっと見せて貰ってもいいかい?」


ポール達は初めて見た時はしばらくは驚いて声も出せなかったが、驚きはしたものの慌てた様子も無く反応を返す二人は、経験の差だろうか。


「はい、是非お願いします。私もどの程度の価格で買い取って貰えるかを確認したくて。今後の活動資金にもなりますので。」


「おう、任せな。最終的な金額は商会のモーリスさんに話を通してだが、悪い様にはしねぇ。しかし、綺麗に処理してあるんだな。傷も1つもねぇ。」


バンジャマンは手近にあった足台を持ってくると、早速甲殻に取り掛かり調べ始めた。

物の5分程で他の素材にも目を通して、鑑定結果について説明をしてくれる。


「んじゃこんな場所で何だが、まずはこの甲殻。内蔵は綺麗に処理されていて、ガワの部分だけ。傷1つ無いから、加工すれば何にでも利用が可能だ。逸品だな。逆に足の部分は中身はそのまんま。少なくとも全く腐敗臭がしないから、もしかしたらそのまま調理が出来るかもしれね。許可が貰えるなら至急モーリスさんに話を通させて貰う。なにせ、ジャイアントスパイダーの足身は高級品だからな。」


「足はやっぱり食用なんですか?」


「ああ。貴族様には好んで食べる方も要るから依頼が入る事もあるが、なにせ足が早いから入手しようと思えば専用の輸送隊を用意しなくちゃいけねぇ。これだけ新鮮なら多分町のお偉いさんが直ぐに買い取ってくれる筈だ。」


「それではお願いします。」


「おい、直ぐにモーリスさんに使いを出せ。」


近くに居た若い作業員に声を掛けると、直ぐに走って出て行った。


「次にこいつだが、こいつはやべぇな。大蜘蛛の牙だが、所謂魔力持ちの素材だ。何10匹に1匹の確率で採取する事が出来るもので、各種魔道具や武器の素材になる。」


「魔力持ちですか?」


「ん、そこからか。そうだな、魔物には極稀に他の身体と比較しても濃く魔力を帯びる部位がある。魔獣なら一般的には牙だな。通常の物よりも鋭く大きい。そして魔力を帯びているからうまく処理をすれば良質な武器や防具の素材になるし、魔道具の材料にもなる。っていうか、よく見りゃお前さんが首に巻いてるそれは、魔狼の牙じゃねぇか。」


言われてみれば、この牙も大狼の牙で作った装飾品だった。レア個体の素材なら解らなくも無いが、通常個体のジャイアントスパイダーから採取出来る牙でもそうした特別な力があるとは思わなかった。

でも、確かジャイアントスパイダーは大型魔獣枠だった筈なので、同じと言えば同じかも知れない。


「そうですね。これは大狼の牙を繋いで装飾品にした物ですが、魔力を帯びてるとは知りませんでした。」


「タクヤさんは、これ迄魔法を見た事が無かったそうですよ。」


「お前さん、何処の人間だよ。。まぁ良い、話を続けるが、とにかくこれも良い値がつく。だが一番の問題は多分これだな。なんでジャイアントスパイダーの糸がこんだけ綺麗な状態であるんだ?」


「なんでと言われましても、普通にジャイアントスパイダーから採取したものですが。」


バンジャマンさんの視線が、ポール達に向かう。ポールが肩をすくめる。


「この人は、神様から授かったスキルで、モンスターから素材を採取出来るんだそうです。採取する所は確かに見ましたが、正直何がどうなっているのかはさっぱりですよ。説明しろと言われても俺らも困ります。」


さて、何故この糸がこれだけ問題になるのかと言うと、簡単に言えば採取の難易度が他の素材に比べて遥かに高いからだそうだ。


ジャイアントスパイダーは普通の蜘蛛と同じ様に巣を作る。ただし獲物を捕らえる為では無い。恐らくは寝床を作る為だ。獲物は網を利用しなくても自分自身で捕らえる事が出来る。そうして捕らえた獲物は糸でぐるぐる巻きにされて、巣に吊るされる。そうした獲物は、自分達で食べるのでは無くクイーンへと捧げられるのだ。だから、彼らの巣は基本的にクイーンジャイアントスパイダーの領域にほど近い所しか無い。


クイーンジャイアントスパイダーは、ボスフィールドである自分の巣からは出てこないが、その塒は当然森の中央、一番深い場所にあるので、周囲にはジャイアントスパイダーがわんさかいる。そんな場所へと出向いて、糸を採取するなどそれは至難の技なんだそうだ。


獲物をぐるぐる巻きにしている状態を運よく見つける事が出来れば、ましてやそれが外周部に近い場所で有れば、そこから糸を採取出来る可能性も有る。

ただし、蜘蛛が吐く糸には2種類あって、獲物を捕らえる為の粘着性の高い糸と、移動の際に足場に使う粘着性が無い代わりに強度の高い糸とがある。当然後者の方が遥かに価値が高い。

そして獲物を捕らえる為の糸は2つが混ざっているが前者の割合が多く、そこから選り分けてスパイダーシルクを紡ぐのは非常に高度な技術が必要になるし、粘着質の糸の影響の為、結構な割合で不純物が付着している。


因みに遠征隊を組む時は、あえて餌になる家畜を連れて行って放置し、ジャイアントスパイダーがぐるぐる巻きにした所を討伐して糸を採取する方法があるのだそうだ。

餌になる家畜が大きい程糸も大量に獲得出来るので、その場合は年老いた、それでも貴重な馬や牛が利用されるので、それだけでも結構な元手が掛かる事になる。


まぁグルグル巻きにされた獲物は運が良ければ生きているらしいが。だが、大蜘蛛は獲物を捉える際、保存の為に麻痺毒を注入する。年老いた家畜ではそのまま死んでしまう事が殆どなのだそうだ。


さて、なら俺が取り出した糸はどうだろうか。粘着物がついて居ない、強度の高い糸が純度100%で不純物が全くない。光に翳すと透き通っているかの様に純白の光沢を放っている。最高級品なのだそうだ。


バンジャマンさんがこの糸の素晴らしさを力説してくれた。バンジャマンさんの余りの勢いに、俺はそうですねとひたすら相槌を返す事しか出来なかった。


「すいません、急ぎとの事でお伺いしましたが、どうなさいましたか。」


話がひと段落する頃、件のモーリスさんが息を切らしながら駆け付けて来た。

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