第13話 ギルドマスターと親方
アンヌとフランシーヌは左手の椅子に、ジェロームはそのまま立っているみたいなので、右手側奥にポールが、その手前に俺が座った。
「では、改めて話を聞こうか。」
「はい。まず要件を先にお話しすると、この方タクヤさんの冒険者登録をお願いしたいのです。」
「ふむ、登録だけならベアトリスに声を掛けてくれれば済む話だと思うのだが。君たちの口利きなら、信用は置ける方なのだろう?」
「まぁ、信用は出来る方だと思います。ただ、ちょっと先にヘクターさんの耳に入れて置いた方が良いかと思いまして。改めて説明すると、この方とお会いしたのは大蜘蛛の森です。」
「ん、先ほどもそう言ったな。待てよ、大蜘蛛の森?こちらのタクヤ殿が一人で?」
「はい。森の傍とか、森への道中とかでは無く。この方とはジャイアントスパイダーの領域にいらっしゃった所を偶然お会いしまして。納品したジャイアントスパイダーもこの方が討伐したものを譲って頂きました。」
ポールの言葉を噛み砕くようにギルドマスターがしばらく思案をする。
「すまないが、俄かには信じがたい話だな。」
「ええ。ただどうやってと言うのを説明するのは難しいのですが、この方はジャイアントスパイダーを単独で撃破出来る手段をお持ちです。それも1匹ではなく、多数を相手取ってです。」
「そうか、ちょっと待ってくれ。私一人では判断が難しいかも知れん。ベアトリスとバンジャマンを同席させても良いかね。」
「そうですね、後々の2人への説明が省けるのでそうして貰えると助かります。」
ギルドマスターは席を立つと、執務机に戻り何かを始めた。ブーっと言う音が鳴ると、少し待って先ほどのベアトリスさんの声が聞こえる。
「はい、マスター。如何なされましたか?」
「すまないがバンジャマンに来る様に伝えてくれ。あとベアトリス、君も同席をして欲しい。」
「かしこまりました。直ぐにお伺い致しますので少々お待ち下さい。」
どこかと通話出来る何かがある様だ。電話だろうか?何にしても想像以上に技術は発展している様に思える。ポールが小声で説明をしてくれる。
「ベアトリスさんは先程の方で受付の責任者をされてます。バンジャマンさんは、素材の解体、査定を行うギルド工房の責任者です。」
「工房があるんですか、それは興味が有ります。さっきのベアトリスさんと話をしていたのは何ですか?」
「先程のは遠方と会話が出来る魔道具だよ。」
テーブルに戻って来たギルドマスターが、会話に割って入って説明をしてくれた。
セットになった魔道具が有り、双方向で会話が可能なのだそうだ。ベアトリスはギルドマスターの秘書的な立場でもあり、ああやって何時でも会話が出来る様になっているらしい。
どんな作りになっているのか興味が尽きないが、それ程待たずにベアトリスがやって来る。
「マスター、バンジャマンをお連れしました。」
「おう、何か用事だって?小僧じゃないか、さっきぶりだな。」
「小僧はそろそろやめて下さいよ、親方。」
ポールは今のパーティーを結成する以前から、早くからここモンペリエで冒険者として活動をしており、その頃から親しくしているバンジャマンからは未だに小僧呼びをされているそうだ。
バンジャマンは、ザ・技術者な出で立ちだ。タンクトップの上に、色んなシミのあるすっかり着古した繋ぎを着ていて、腰にはツールベルトが巻いてあり、様々な工具が刺さっている。
身長は180半ば。白金の鷹で一番体格の良いジェロームと並んでも引けを取らない偉丈夫だ。頭はスキンヘッドで、手拭いを捻じって頭に巻いている。
急ぎと言う事で、恐らく作業中にそのまま駆けつけてくれたのだろう。
「作業中だったかな、すまないな呼び立てて。」
「小僧が大物を持ち込んでくれたのでね、工房は大忙しですよ。」
ガハハと豪快に笑う。ポールを小僧呼びなあたり、かなり親しい間柄なのだろう。ポールもかなり親し気に親方と呼んでいるしな。
「うむ、その獲物の事で聞きたい事があってな。実はその獲物はこちらのタクヤ殿が仕留められたそうなのだが、何か変わった所は無かったかな?」
「変わった所ですか。そうですね、まず驚く程綺麗です。殆ど傷が有りません。ありゃぁ、凄まじい値段が付くと思いますぜ。ばらして装備にするのが勿体無い位でさ。」
殆ど傷が無い?針山宜しくクロスボウのボルトが突き刺さっていたので、結構傷だらけだった気がするのだが。
「そうですね、俺達がやるなら、少なくともあれ程綺麗な状態で討伐する事は不可能です。」
そう言って、ポールが通常の狩りについて説明をしてくれた。
ポール達なら、ジェロームが盾役で敵の注意を引き付けつつ、その間に足を2~3本まずは落とす。最初に機動力を奪うのと足の関節が一番脆いからだ。
その間もアメリーが魔術で攻撃を行う。アメリーは火を扱う魔術が得意でどうしても全体が焼け焦げてしまう。それにジャイアントスパイダーは非常にしぶとい。息の根を止める迄にはかなりの攻撃を加える必要があり、通常であれば魔法と剣による傷でボロボロになるそうだ。
因みにアンヌとフランシーヌは補助的な立ち回りが主になる。牽制をしたり、アメリーに攻撃が行かない様に守ったり。
そこからはバンジャマンさんが会話を引き継いで、今回の獲物の状態について説明をしてくれた。
「今回の獲物は、頭と甲殻にしか傷が有りません。それもこれ位の穴が幾つか空いているだけです。足は1つも欠損が無く、それ以外の目立った傷は1つもありませんぜ。」
これ位と、親指と人指し指で丸を作って示して見せる。
「今の話を聞いた限りだと、少なくともポール達が仕留めた訳では無いのは、間違いが無いようだな。」
「ですな、さすがに小僧達でも無理でしょう。これだけ綺麗なら、そのまま剥製にでもして飾った方が、町の名物になると思いますぜ。王様に献上しても遜色は無いかと。」
「それ程かね。うーん。」
「まぁ、小僧。査定は多分最高評価になると思う。そこはモーリスさんと相談をしてみるから、ちょっと待ってくれ。しかし勿体ねぇ、急ぎ仕事で装備を揃えなくちゃいけないからばらさなきゃならないが、他で素材さえあればそのまま使えるものを。」
「素材なら有りますよ?」
思わず言ってしまった。あ、あちゃーとポール達が頭を抱える。
「ん、どう言う事かね?」
「いえ、素材が必要なら提供は可能ですよ。どの程度必要でしょうか。買取を頂けるのであればお出しする事は吝かでは有りません。」
「いいんですか、タクヤさん。」
「まぁ後々都度説明するのも面倒ですし、その方が話も早いかと思って。」
「それはそうですね。」
ポール達は早々に諦めている様で苦笑いを浮かべている。
ギルドマスターとバンジャマンさんが、話を理解できずお互いに顔を見合わせて疑問符を浮かべていた。
元々俺のエターナルクラフトに関する様々な仕様について、ある程度は説明をしようと思っていたのだ。アイテムボックスの素材を多少提供する位は問題は無いように思える。
それに、どうせ説明をするなら一番上の人に話を通してしまった方が、後々色々と便宜を図って貰える可能性がある。それが目的でポール達に口利きをお願いしたのだから、丁度良い機会だろうと思った。
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